晴嵐(水上機)

登録日:2014/06/23 Mon 05:04:00
更新日:2024/01/26 Fri 14:45:41
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晴嵐は大日本帝国海軍が運用した複座水上攻撃機。設計生産は変態的水上機開発に定評のある愛知航空機。
潜水艦に搭載して超々長距離戦略攻撃が可能という、概念的には早すぎ、開発時期的には遅すぎた超兵器。
項目名は晴嵐としたが、たぶん制式採用は間に合っていない。


性能諸元

全長:10.64m
全幅:12.26m
全高:4.58m
主翼面積:27.0㎡
エンジン:アツタ32型 水冷V12エンジン 1,400馬力
全備重量:4,250kg
最大速度:474 km/h(フロート投棄時560km/h)
航続距離:1,540km
実用上昇限度:9,640m
上昇率:5,000m/8'00"
固定武装:13.0mm後方旋回機銃1門
爆装:最大1tまたは45cm航空魚雷


開発経緯と機体性能

伊四〇〇型潜水艦を母艦とし、カタパルト射出で展開して戦略攻撃を行うために計画された特殊攻撃機。
専任運用部隊である第六三一海軍航空隊(1944年12月15日編成)で運用された。
元々は漸減作戦の一環として、アメリカの租借要衝であるパナマ運河攻撃を主任務として計画されたとされている。
当初は艦上爆撃機「彗星」の改装機を使う予定だったが、潜水艦への搭載が無理だったので新規開発が決まったという。
地球一周半余裕な超絶的航続距離を誇る『潜水空母』とともに開発がスタートし、試作初号機の完成と初飛行は43年11月。

ちなみに伊四〇〇型だが、V2ロケットの概念を組み合わせると動力以外は戦略ミサイル原潜の雛形になっちゃうという、時代を先取りしすぎの超兵器だったりする。
というか、本機をミサイルに、爆装を弾頭に見立てるとまんま戦略原潜。
母艦完成が44年12月という末期も末期、本機自体その頃になっても実験飛行の段階という体たらくだったため、実戦投入どころの話ではなかった。
一応ウルシー環礁奇襲に出撃はしたが途中で終戦を迎え、国際法違反承知で米軍仕様に塗装されていた晴嵐は機密保持のために格納形態のまま射出、洋上廃棄された。
この時、パイロットたっての希望で機体を帝国海軍仕様に再塗装したという。まさに死化粧。

800kg爆弾1発ないし250kg爆弾4発を懸架可能という小型水上機としては破格(というか不要なレベル)の爆装能力が売り。
おまけに航空魚雷を懸架して雷撃可能という、当時はまだA-1と流星ぐらいしかまともにいなかった艦攻と艦爆の統合に成功してるという水上機のくせに恐ろしい機体。お前のような水上機がいるか。
とは言っても、800kgないし航空魚雷使用時にはフロートを取り外さなければならず、緊急時の不時着水が不可能というデメリットもあった。
そのため、これらの使用時には機体を帰投ポイント付近で破棄し、乗員のみを回収するものとされた。

アツタエンジンの恩恵で機動性も水上機としては破格で最大474km/h、双フロート投棄時には560km/hという無茶苦茶な仕様。
これは零戦五二型と同等という破格の数値であり、軍用水上機としては文句なしの最高峰。
偵察もできる戦闘爆撃機とは別ベクトルにトチ狂った高性能だったりする。お前のような水上機がry

大型とはいえ潜水艦への格納を実現するため、主翼はピン1本引っこ抜くと鳥の翼のように胴体に密着する形で畳むことができた。艦載機数は予備機込で3機。
同じように水平尾翼は下方、垂直尾翼上端は右横に折り畳める。取り外したフロートは機体横に配置して短時間で装着可能。
折り畳まれた機体は現地付近で浮上して組み上げ、発進させるというプロセスを採っていた。
当初は発艦に時間がかかっていたが、暖機の代わりに母艦側で温めた潤滑油と冷却水を注入するなどして2番機までは各機3分にまで準備時間短縮に成功している。
まあ、熟練兵の技量によるところも大きかったし、3番機は分解されてる予備機を無理やり稼動状態まで持っていくので時間がかかったというが。

潜水艦に搭載可能かつ高性能を両立させ、さらに世界中あらゆる場所での任務遂行のためにジャイロコンパスまで装備するという凝りに凝った設計、
しかもいろいろな理由で生産機数が50機程度と非常に少ないこともあって、1機あたりの生産コストは零戦50機相当と非常に高額。
そのため訓練機調達にも難航し、当初は零式小型水偵(性能差がありすぎて訓練機としては不適当にも程がある)が訓練機に宛てられたが、「オモチャで訓練とかふざけてんのか
と不満が噴き出したため、しかたなく第六三四航空隊から瑞雲を借り受けて訓練を行ったそうな。
まあ大量生産されたとしても、帝国軍にとっては不慣れな水冷エンジン&末期の熟練工員欠乏による壊滅的な部品精度で評価ダダ下がり待ったなしだっただろうし、
ロマン性のアホ高いプロトタイプとしての地位を確立してる今のほうが待遇としてはいいんじゃなかろうか。
そもそも生産拠点が諸事情で壊滅待ったなしというのは密に、密に。

ちなみに陸上運用型として翼を再設計し、フロートの代わりに引込脚を持つ「南山(晴嵐改とも)」という機体が存在した。
高速性能で勝る代わりに滑走距離が長かったらしい。そら(空力特性で勝ってるんだから)そうなるよ。
写真も残っているがなかなかにスマートでかっこいい。

愛知県の海軍工廠に残されていた1機が米軍に回収され、完璧な補修を施された状態でスミソニアン博物館に保存されている。
なお、修復の際にスポンサーとなっていたのはタミヤ。なんてことをしてくれたんだGJ、いいぞもっとやれ。


アニヲタ視点の晴嵐

有名どころでは提督の決断Ⅳや鋼鉄の咆哮シリーズに参戦しているが、これらの作品中で潜水艦と晴嵐を複合運用できるのは鋼鉄3くらい。
他は潜水艦が使えないか使えても水上機搭載不可だったりで、航空戦艦か巡洋艦が必須だったりする。
晴嵐使いたいだけならウォーシップガンナー2が一番手っ取り早いだろう。水上機だけに序盤から運用可能だし。

最近では艦これに「試製晴嵐」の名で参戦しており、水上機でありながら他の艦攻・艦爆を差し置いて爆装値最強をひた走るオーパーツ。
航空戦艦に搭載して砲撃力を維持しつつ開幕爆撃という、複数種火力の複合有機運用が可能な玄人向けの装備だった
直近のアプデで弾着観測射撃にも対応し、あらゆる意味で価値が急上昇。まさに世は航空火力艦の時代と化した。日向さん大歓喜。
開発不可なのは多分に史実準拠&性能の問題だと思われる。


アズールレーンとコラボした「World of Warships」では、(航空)戦艦「Ise」、
(航空)巡洋艦「Tone」の搭載機となっている。潜水艦搭載機じゃないんですか?



追記・修正はパナマ運河攻撃成功後にお願いします。

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最終更新:2024年01月26日 14:45