伊四〇〇型潜水艦

登録日:2014/07/07 (月) 22:35:00
更新日:2018/08/16 Thu 14:18:25
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伊四〇〇型潜水艦は、大日本帝国海軍が開発した超大型通常動力潜水艦である。通称『潜水空母』。
第二次大戦期に開発された艦でありながら、2012年に竣工した中国海軍の某潜水艦に抜かれるまで世界最大の座を守り続けた。



性能諸元

全長:122m
全幅:12.0m
吃水:7.02m
排水量:基準3,530t、常備5,223t、水中6,560t
機関:艦本式22号10型ディーゼル4基2軸(水上出力7,700馬力)、1,200馬力モーター2基
速力:水上18.7kt、水中6.5kt
航続距離:水上37,500海里(14ノット時)、水中60海里(3ノット時)
燃料:重油最大1,750t
最大連続行動時間:約4ヶ月
乗員:157名
兵装:40口径14cm単装砲1門、25mm3連装機銃3基、同単装1基、53cm魚雷発射管艦首8門(53.3cm九五式酸素魚雷20発)
電探:22号電探、13号電探各1基
艦載機:特殊攻撃機「晴嵐」3機(四式一号一〇型射出機一基)



開発経緯と性能

艦隊決戦絶対偏重主義の帝国海軍において、潜水艦という艦種に求められたのはやはり漸減邀撃だった。
長大な航続距離で深く静かに潜行し敵艦隊を偵察、隙あらば魚雷をブチ込んで漸減というのが主任務である。
帝国潜水艦の潜行能力や静粛性がお察しだったというのは密に、密に

しかし、伊四〇〇型は違った。彼女らの主任務はアメリカ本土やその近隣の要衝(例えばパナマ運河)への打撃である。
そのために彼女に与えられた最大の武器こそ、地球を一周半することさえ可能な反則じみた航続能力だった。
理論上は地球上のどこへでも無補給往還が可能なマジもんの怪物である。
そして、その任を完遂するためには『潜水艦に搭載可能でなおかつ従来の艦上機と同等の爆撃能力を持った水上機』が必要とされ、
そのためだけに開発されたのが晴嵐である。
ちなみにそれまで帝国海軍にあった潜水艦用水上機は、エンジン出力340馬力程度で「本当に偵察以外何もできやしない」零式小型水偵だけだった。

艦体上部に設けられた格納庫などをひとつのフネにまとめるべく、通常一つである耐圧内殻を二つつなげるという荒業で転覆などの諸問題をクリア。
そのため本級の断面は通常では二重丸になるのと違い、内殻が眼鏡のようになっている。
また、艦体大型化に伴う敵索敵網への位置露見を考慮してか、巡洋艦並みの火砲と潜水艦としては強力な防空能力を備え、
さらに既存艦よりもさらに増強された雷撃能力を有するなど、多くの能力で当時最高峰に位置する強力な艦だった。
それだけの能力を維持するために、本級は全長122mという巨大艦となっている。具体的には天龍田や夕張よりデカい
戦後世界最高峰の通常動力潜水艦と言われるそうりゅう型潜水艦が全長84m、排水量2,900tであるのと比べれば、どれだけ規格外かがわかるだろうか。
ただし静粛技術が低く図体も大きいため、隠密性は非常に悪い。見つかる=死ぬ、な潜水艦にとってこれは致命的であり、商船ならまだしも警戒中の水上艦にとっては通常の潜水艦よりも遥かにカモである。本艦の有用性は「潜水艦から爆撃機を発進させられる」という点にほぼ全てがあるということに留意すべきだろう。

ちなみに、純粋に攻撃用艦載機として水上機を搭載した潜水艦は本級が最初で最後。
潜水艦運用の常識を覆し得たかもしれない戦術攻撃艦である本級だったが、完成の遅さや聯合艦隊壊滅で敗戦秒読み待ったなしな戦局から実戦を経験することはなく、
完成した全艦が自沈ないし拿捕の後撃沈処分されている。


ここで当時(今もだが)のパナマ運河の重要性についてしばし語ろう。
元来広大な国土を持つアメリカでは、鉄道網のような大規模交通輸送網が未整備だった。
二度の大戦特需で加速度的かつ過剰に整備が進んでいたとはいえ、それこそ血管レベルで張り巡らされた日本に比べればお笑いレベルといえる。
さらに言えばあちらの鉄道自体が自動車と航空機の進化とともに徐々に衰退している分野であり、戦後は車体以外発展してないとさえ言われるほど。
元々海運国家にとって水上輸送は最重要輸送経路、大容量の輸送船団による一括大量輸送が最強なのはアメリカも変わらない。
なにせ、五大湖周辺や東海岸で製造した物資を西海岸に海運輸送して色々作るのがアメリカ流である。
そのための航路短縮に必須であるパナマ運河を破壊されたとしたら、どうなるか……
端的に言えば、太平洋―大西洋間の主要連絡路が寸断される。これがもたらす影響は甚大だ。

輸送経路自体はまだある。簡単な話で、南米大陸を大回りしていけばいい。
しかしそんなことをすれば輸送時間は大幅に増大し、その間通商破壊に曝される危険性は跳ね上がる。
なにせパナマを破壊した敵艦がその辺を彷徨いてるのだ。海運業やそれに対応する保険業へのダメージも深刻となる。
ついでに輸送完了までの間東海岸では貯蔵物資のみでやりくりせねばならず、アメリカそのものの継戦能力を大幅に減殺することさえできる。
仮に開戦当初の段階でこれを帝国海軍が成し遂げていたらとしたら、というのは仮想戦記の領域だが、
アメリカに甚大な軍事的経済的損害を与えられるであろうことだけは確かだ。
もっとも、それにキレたむこうさんが100%中の100%本気を出して、マッハでフルボッコにされる可能性もまた極めて高かったりするわけだが。

ただし戦力化までに相当な期間と資材を要する事や就役時には防衛体制の充実で成算が立たないとする慎重な意見もあり、建造自体を全面中止する提案も上っている。
だが、計画変更検討時には既に一部が発注済みの段階で全廃は難しく、また上記の期待から導入を支持する意見も根強く、18隻から9隻に縮小する折衷案が採られた
(※戦力の悪化に伴う計画の見直しで更に隻数が減少して、起工された艦も一部は未完成に終わっている)。
この影響で、後に巡潜甲型の一部が晴嵐搭載母艦へ設計変更されている(伊一三型)。

閑話休題。ともかく、そんな半ば戦略面に足を突っ込んだ戦術攻撃潜水艦が彼女ら伊四〇〇型である。
ちなみに海軍さんでは彼女と晴嵐を使って米本土に生物兵器を散布し、バイオハザードをかます超外道作戦「PX作戦」も立案してたが、
陸軍に協力打診したところで梅津美治郎陸軍大将から「んなことやってみろ、全世界が敵に回るわ」とツッコミを食らい廃案となっている。


伊四〇〇型姉妹

○伊号第四〇〇潜水艦
長女。1944年12月30日に呉海軍工廠にて竣工。ウルシー泊地攻撃に備え洋上待機中に作戦中止・停戦命令を受信。
搭載機と魚雷投棄後に内地帰投途上の45年8月29日、アメリカ駆逐艦「ブルー」に拿捕・接収された。
除籍後米本土に回航されて解析された後、ソ連諜報員の解析を恐れた米海軍の手により46年6月4日、オアフ島近海で標的艦として撃沈処分。
2013年8月にハワイ海底研究所の調査中にオアフ島南西の海底で発見され、米国務省と日本政府への確認の後12月2日に公表された。
奇しくも姉妹艦をモデルとしたキャラがヒロインの「蒼き鋼のアルペジオ」連載・アニメ放映の真っ最中であり、
長女による時を超えたステマとして一部で話題となった。


○伊号第四〇一潜水艦
45年1月8日に佐世保海軍工廠にて竣工、伊四〇〇ともども第一潜水隊に配属される。
ウルシー泊地攻撃に出撃するも、姉と合流できぬまま終戦を迎える。
自沈か降伏命令を無視しての攻撃かで艦内は荒れるが、艦長命令で帰還に決まり、晴嵐を海没処分した後に帰国を開始。
帰還途上で姉と同日に米軍潜水艦「セグンド」に捕捉され、翌日に同艦クルーを抽出した陸戦隊に拿捕・接収された。
座乗していた潜水隊司令有泉龍之介大佐は自決。その後辿った末路は姉と同様で、46年5月末日にハワイ近海で撃沈処分された。
2005年3月にハワイ大学の研究チームの手で船体が発見され、沈没地点が特定された。
蒼き鋼のアルペジオの存在から、一部では「最も萌える潜水艦」として有名……だったが、艦これで各種潜水艦が擬人化されたことで唯一無二の存在ではなくなった。


○伊号第四〇二潜水艦
45年7月24日に佐世保海軍工廠で竣工。姉ともども第一潜水隊に配属されるが、8月11日に呉で爆撃され、補修整備中に終戦。
翌年のエイプリルフールに五島列島沖で米海軍の標的艦(大小23隻の僚艦含む)として撃沈処分された。
近年に日米合同調査で沈没地点が特定されており、ディスカバリーチャンネルで調査内容が放映された。
そして2015年8月、戦後70年経って四〇二と思われる潜水艦が長崎県沖海底200Mの所で発見された。


○伊号第四〇三潜水艦
呉海軍工廠で起工するも、直後の空襲により損傷。以後、竣工期未定により工事は中断されたまま終戦を迎え、戦後に復興資材として解体された。
さる噂によれば実は完成していて、終戦時に艦長の神宮寺大佐以下のさる任務を帯びた部隊がある決戦兵器の設計図を持って脱走、行方を晦ませたとか。


○伊号第四〇四潜水艦
44年七夕に進水。翌年8月末を竣工予定としていたが、全工程の95%を完了したところで7月28の呉軍港空襲により大破。
戦後の接収を恐れ、技術隠匿を期し自沈処分される。51年12月に浮揚、資材として解体された。


○伊号第四〇五潜水艦
43年9月27日に川崎重工で起工するが、直後に建造中止され解体。


○伊406から417
戦局の悪化と計画推進者の山本五十六海軍大将戦死に伴い、43年10月までに計画中止。



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