スワロウテイルシリーズ(小説)

登録日:2014/07/29 (火曜日) 23:02:00
更新日:2025/01/20 Mon 20:28:50
所要時間:約 ? 分で読めます




「スワロウテイルシリーズ」とは2010年6月よりハヤカワ文庫から刊行が開始されたSF小説のシリーズである。全4巻。

著者は「Θ 11番ホームの妖精」で電撃文庫からデビューしたライトノベル・SF小説作家の籘真千歳氏。同氏のハヤカワ文庫における出版第一作目であり、これ以降同氏は活躍の場をハヤカワ文庫に移行している。
またカバーイラストを手がけるのは竹岡美穂氏。同氏は「Θ 11番ホームの妖精」がハヤカワ文庫から再販された時にもそのカバーイラストを手がけている。

■概要

ロボット三原則を題材とし、人間によく似た人工の存在である人工妖精(フィギュア)の生き様を描く作品。
全四巻であるが、作者がいわゆる叙述トリックの展開を好む傾向にあるためか、いくつかの話において叙述トリックを使用している。そのため、一読しただけでは物語の展開に混乱することもしばしば。また、作者の政治的嗜好が色濃く反映されている話も存在するため、その辺に嫌悪感を抱く人にはおすすめ出来ない。
「Θ 11番ホームの妖精」とは同一の世界観を持つ作品であるが、作者曰くパラレルワールド的な扱いであるとのこと

○あらすじ

<種のアポトーシス>の蔓延により、関東湾の男女別自治区に隔離された感染者は、人を模して造られた「人工妖精(フィギュア)」と生活している。
その一体である揚羽は死んだ人工妖精の心を読む能力を使い、自警団(イエロー)の曽田陽平と共に連続殺人犯”傘持ち(アンブレラ)”を追っていた。
被害者全員が子宮を持つ男性という不可解な事件は、自治区の存在を左右する陰謀へと進展し、その渦中で揚羽は身に余る決断を迫られる――苛烈なるヒューマノイド共生SF。
<「スワロウテイル人工少女販売所」より>

■登場人物

揚羽
主人公兼ヒロイン。通常は存在しないはずの五等級の人工妖精。水気質で羽の色は黒。
人工妖精の看護学園に通っていた頃は保護者の名字から「詩藤之揚羽」と呼ばれており、きっちり名乗りをあげる際は鏡子の正式家名も入れ「詩藤之峨東晒井之ヶ揚羽」と告げている。長い。

黒の五等級(フィフス)、”海底の魔女(アクアノート)”等の異名を持つ。人工妖精の治療をするための看護師資格を持っており、現在は詩藤鏡子の工房で看護師として働いている。

その正体は人倫によって創立された、人工妖精の五原則から外れた人工妖精を破棄するための極秘の組織である「青色機関(ブルー)」の構成員。最も現在は人倫自体が青色機関の存在を認めておらず、作中で彼女が青色機関として動いていてもその殆どは個人として動いているに過ぎない。
また、彼女が青色機関の構成員の役割を持ったのは人倫により青色機関の存在が抹消された後であるため、彼女自身、青色機関の構成員(元構成員)と接触したことも殆ど無い。

長い黒髪が特徴的な美少女であるが内罰的で自虐的な性格をしており、自らの容姿や性能に対する評価が著しく低い。そのため自らを馬鹿で醜い人工妖精だと(地の文で)言っている。
とはいえ普段、そういった面は表に出さず、いつもは飄々とした態度をとっている。

「青色機関」として活動するときは医療用のメスを主な武器として使用している他、死亡した人工妖精の再構成し情報を引き出す「口寄せ(サルベージ)」と呼ばれる能力を持つ。

また水気質の性格故か、愛が無茶苦茶重い。
実は、史上初の光気質(アイテール)。また第3巻での前日譚で左眼が金色の眼球に代わっており(その後ある理由で同巻エピローグから黒いコンタクトで隠すように)4巻ではあえて元の黒い右眼も技師に依頼してリミッター解除させ両方とも金の眼と化している。

曽田陽平
東京自治区の非公式警察機構である「自警団(イエロー)」の一員として働く人間。年齢は三十代後半で、自治区に移住させられた「第一世代」の人々が外部からの卵子提供によって生みだした「第二世代」の一人。
自治権闘争と呼ばれる、東京自治区が日本から半独立し、自治権を得るための闘争があった時代を最前線で経験している。その為、温室育ちな他の若い自治区民に比べ、タフな性格をしている。

揚羽とは非公式ながら人工妖精に関する事件で度々協力しているため、ある程度の信頼関係を築いている。が、初対面では(勘違いから)壮絶な殺し合いを繰り広げたらしい。
四等級の水気質の人工妖精”紫苑”を妻に持っていたが作品開始前に死亡している。

詩藤鏡子
男性側自治区で暮らす数少ない人間の女性で、マッド天才技術者達の血族たる日本の三大「技術流派」の一つで人工妖精を開発した「峨東」一族*1の分家筋の人間。
一級の精神原型師であり、人工妖精に関することならば随一。自分一人で人工妖精を作り上げる事も可能(通常は何人かの精神原型師が協力し合って作り上げる)。
<種のアポトーシス>と呼ばれる病の発症者。その影響として若返りが起きており、見た目は十代前半の幼女だが、本人の言に寄れば一世紀以上生きているらしい。ロリババア。
揚羽・真白姉妹の作り手(こっちも峨東一族)とは面識があり、作り手が行方不明な姉妹の保護者でもある。
現在は成長と若返りが均衡しており、これ以上年をとる事も若返る事も無い。

まためんどくさいとの理由から工房内では常に薄着。具体的には下着に白衣一枚だったり下着一枚だったり……。残念ながらその挿絵は無い。

多種多様の知識を有しており、本編中では主に説明役。主に揚羽(を通して読者)に対し罵倒と毒舌を交えながらも優しく教育してくれる。

真白
揚羽の妹。一等級認定予定の人工妖精。水気質で羽の色は白。

本来、全く同じ顔が作れないはずの人工妖精であるが、揚羽と全く同じ顔をしている、揚羽の双子の妹。
ある障害を抱えており、人工妖精としての等級認定を受けていないが、等級認定がされた場合史上二人目の一等級の人工妖精となることが確定している。
3巻~1巻では半覚醒状態で入院中で、見舞う姉に構われていたが、2巻で本格的に目覚めた後、様々な要因から姉への愛情と依存心が極端に増加。だが、4巻ラストでは…。
また、本来なら彼女も揚羽と同じく「峨東」の姓を冠するはずなのだが、様々な政治事情から公式には「西晒湖」の姓を冠する様にされている。


東京自治区全権委任総督。現在における史上唯一の一等級認定の人工妖精。火気質で羽の色は赤。
半独立の立場にある東京自治区の全権を時の日本の帝から委任された、「椛子」の尊称で呼ばれる東京自治区の支配者。支配者としてふさわしいカリスマを持ち、初登場時はオーラ全開であったがなかなかにお茶目な一面も持つ。
…実は、生みの親は鏡子だが、様々な考え方のズレから現在は決別している。


■用語

○<種のアポトーシス>
科学の発展したこの時代においてもなお不治とされる病。空気感染と性交による疾患の促進があると言われており、その為東京は東京自治区として隔離され、内部においても男性側自治区と女性側自治区に分割されている。
罹患した場合、時を経るごとに若返るという症状に陥り、最終的には胎児にまで退行することで死に至る。
なお罹患者達が子供を望んだ場合、役所から卵子or精子だけもらって人工子宮や人工妖精内に作った子宮に受胎させている。その子供達も当然<種のアポトーシス>キャリアなので外には出られないが。

○東京自治区
微細機械によって海中へと水没した関東平野の代わりとして造られた人工島。
<種のアポトーシス>の罹患者を隔離するための巨大な隔離施設という側面を持ち、一度入ったらほぼ海外へは出られない。
また、<種のアポトーシス>の拡散を防ぐため、男性側自治区と女性側自治区に分断されており、その断面には「大歯車」と呼ばれる巨大な歯車が存在する。その為、一部の例外を除き男性側自治区に人間の女性を存在しない。
自治権闘争を越て日本国からは独立し、人工妖精の存在や体外受精による自治区生まれの第二世代の誕生等で人口も増えているものの、代償として「エネルギー資源の自己調達の永久放棄」という枷が嵌められており、日本本国からのエネルギーの買取以外にエネルギーを得る手段がない。

○微細機械(マイクロマシン)
本作のキモ。細菌サイズの極小の機械であり、東京自治区における生活の多くを担っている。あらゆるものの構成要素となる機械であり、例としては微細機械によって造られた「食べても無くならない食料」である視肉は世界の食料問題を解決した他、人工妖精もその全てが微細機械によって作られている。
普段は「微細機械群(マイクロマシン・セル)」として東京自治区のあいだを蝶の姿を模りながら飛翔しており、東京自治区の大気の状態を完全な無塵無菌の状態に保っている。
電力で動いており、電力がなくなると蛹のような形のスリープモードとなる。但し蝶は電波を阻害するため、自治区内では電波通信が殆ど使えず独自の赤外線通信機器が発達している。

○人工妖精(フィギュア)
微細機械により造られる人造人間人造人間とはいうものの、微細機械で出来ている事、生殖機能を持たないこと(行為自体は可)、背部に放熱用の翅を持つことの三つを除けば人間となんら変わることはなく、自治区内においては人間と同等の権利を持つ。

とはいえ、人間を傷つけないよう、全ての人工妖精には人工妖精の五原則が適用されている。この五原則は、AIなども含む人工知性全てに適用される、ロボット三原則の変型である「倫理三原則」に、個々の人工妖精特有の「情緒二原則」を加えたものとなっている。
またその素質や教育による成長によって独り立ち時に4つの等級に区分されており、最下層の四等級は地味な色の服しか着れない等等級によって制限がある模様(詳細は不明)。

人工妖精の作成は精神原型師が手がけており、造られる人工妖精の性格は”気質”と呼ばれるもので大まかに四つに分けられる。即ち

  • 火気質(ヘリオドール)
 苛烈で直情的。きっとこのタイプにはツンデレが多いであろう。
  • 水気質(アクアマリン)
 従順で穏やか。純潔を重んじ、今や絶滅した大和撫子を連想させる性格。愛が重く、感情を内に溜めやすいタイプであるため、その愛ゆえに暴走することもしばしば。きっとこのタイプにはヤンデレが多いであろう。
  • 風気質(マカライト)
 無邪気で暴走気味。一秒後に何をしでかすか解らないような性格。新しいものを好み、熱しやすく冷めやすいため、独自の流行を作る性質がある。
  • 土気質(トパーズ)
 厳格で物静か。おそらく人間が人造人間やロボットを想像したとき、最もイメージに近いタイプ。四つの気質で最初に発見された。きっとこのタイプにはクーデレが多いであろう。

である。

<種のアポトーシス>罹患者が殆どで、男女が分断された東京自治区においては、異性といえば異性の人間の異性ではなく人工妖精の異性である。

ちなみに、ある程度のダメージまでなら普通の人間と同じような治療や別パーツによる置き換えが出来るが、致命傷を負って死ぬと遺体は微細機械群の蝶になって散る。


■備考

○揚羽ちゃんウザかわいい。
○一巻はある意味三章以降が本番。一気にSF臭が増す。
○三巻に当たる「スワロウテイル人口処女受胎」は過去にSFマガジンに掲載された短編を収録した、揚羽の学生時代を描く短編集になっている。そのためか唯一この巻のみ本編中に挿絵が挿入されている。
○揚羽ちゃん健気かわいい。
○最終巻のあとがき曰く、作品のライトモチーフの中には同人サークル「Alstroemeria Records」が制作した歌『Bad Apple!! feat. nomico』があるそうで、実際に最終巻の本編では区切りごとに同曲の歌詞がランダムに引用されている。
また東京自治区の物語「は」これでひと段落であるが、あの子とかこの子のその後に関しては応援があれば書くとのこと。






追記修正よろしくお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • SF
  • ライトノベル
  • 小説
  • 籘真千歳
  • ロボット三原則
  • 人造人間
  • シリーズ項目
  • ハヤカワ文庫
  • スワロウテイル
  • 人工妖精
  • Bad Apple!! feat. nomico
最終更新:2025年01月20日 20:28

*1 他の2つは「水淵」と『Θ 11番ホームの妖精』に登場した「西晒湖」。