映像の世紀

登録日:2015/01/22 Thu 14:13:16
更新日:2025/02/23 Sun 22:10:03
所要時間:約 5 分で読めます








20世紀は人類がその歴史を初めて「動く映像」として見ることができた最初の世紀だった。

「映像は20世紀をいかに記録してきたのか。そして、それは歴史とどのようにかかわっていたのか。」

『映像の世紀』シリーズは、世界中の保存されている映像記録を発掘、収集して時代順に構成。
有名、無名の人物が書き残した回想録や日記、手記、演説を紹介しながら、
活字情報では体験できないような迫力と臨場感で、20世紀の世界を描き出す。




映像の世紀』とは、NHKとアメリカABCの国際共同取材により制作・放送された、20世紀の歴史(正確に言えば19世紀終盤も含める)を紹介するドキュメンタリー番組である。
1995年3月から1996年2月にかけ、毎月第3土曜日(第1集を除く)にNHK総合テレビの『NHKスペシャル』にて放映されていた。

本項では後年制作された続編やデジタルリマスター版など、シリーズ全般について述べる。


概要

NHKの放送開始70周年に加え、近代映画の父とも呼ばれるフランスのリュミエール兄弟らが、現在の映写技術を確立した1895年から数えて100周年になることから両方を記念して企画・制作され、5年以上にわたって映像の収集や編集などの準備が行われた。

ドキュメンタリーでは珍しく、再現映像や当事者のインタビューを一切挟まない虚飾の無い演出が人気を博し、頻繁に再放送が行われた。
2015年には続編である『新・映像の世紀』が放送を開始。2016年からは『新-』と本作のデジタルリマスター版を再構成した『映像の世紀プレミアム』が放送を開始した。
そして2022年からはさらなる続編として『映像の世紀 バタフライエフェクト』が放送を開始した。

ナレーターは山根基世。新シリーズからは伊東敏恵、糸井羊司、そして俳優の山田孝之が加わっている(山田以外はNHKアナウンサー)。

番組の内容

この番組を一言でまとめると『NHKの本気』と言うべき名作である。

番組の冒頭にもちろんではあるがOPが流されるが、このOPのシーンから力が入っている。

加古隆の手がけた神曲『パリは燃えているか』がさっそく流れて、重厚にして悲壮なる雰囲気が演出される。
そして、映像で流れていく暗い背景の前で動く人々の映像や歴史上の人物や出来事の文字……この時点で、視聴者の気持ちを高揚させる。

さて、歴史的な出来事が動く映像として記録されるようになった20世紀を『映像』の世紀と題しているだけあって、本番組では豊富な映像が番組内で流される。
世界30か国以上のアーカイブから収集した、貴重な映像と回想録や証言等が織り成していくのである。

しかしその中では、視聴者を暗くさせる様な映像が多く流される。無差別爆撃の光景や収容所の死体、大量の頭蓋骨(勿論本物)さらには処刑や射殺のその瞬間など……歴史的に貴重な資料ながら、残酷なシーンである。心臓の弱い方は避けたほうが良いかもしれない。結構唐突に出てきたりするので難しいが

このような胸の苦しくなるシーンに、加古隆の手がけた音楽や回想録が流される。
回想録は、当時の人々の証言が朗読される。例えば独ソ戦の映像の際の回顧録は、


スターリングラードはもはや街ではない。
日中は火と煙がもうもうと立込め、一寸先も見えない。
炎に照らし出された巨大な炉のようだ。
それは焼けつくように熱く、殺伐として耐えられないので、
犬でさえヴォルガ河へ飛び込み、必死で対岸にたどり着こうとした。
動物はこの地獄から逃げ出す。
どんなに硬い意思でも、いつまでも我慢していられない。
人間だけが耐えるのだ。神よ、なぜ我等を見捨てたもうたのか。
――ドイツ軍将校の手記より


と言った感じの暗い証言が朗読され、当時の歴史の状態を鮮明にするのに一役買っている。
なお、回想録や証言を朗読する声の出演は青二プロダクション*1所属声優が担当。
その映像に乗せて、山根基世の淡々としたナレーションが出来事を語りながら番組は進行していく。


全話のタイトル

集数 タイトル名 放送日
第一集 20世紀の幕開け カメラは歴史の断片をとらえ始めた 1995年3月25日
第二集 大量殺戮の完成 塹壕の兵士たちは凄まじい兵器の出現を見た 1995年4月15日
第三集 それはマンハッタンから始まった 噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした 1995年5月20日
第四集 ヒトラーの野望 人々は民族の復興を掲げたナチス・ドイツに未来を託した 1995年6月17日
第五集 世界は地獄を見た 無差別爆撃、ホロコースト、そして原爆 1995年7月15日
第六集 独立の旗の下に 祖国統一に向けて、アジアは苦難の道を歩んだ 1995年9月16日
第七集 勝者の世界分割 東西の冷戦はヤルタ会談から始まった 1995年10月21日
第八集 恐怖の中の平和 東西の首脳は最終兵器・核を背負って対峙した 1995年11月18日
第九集 ベトナムの衝撃 アメリカ社会が揺らぎ始めた 1995年12月16日
第十集 民族の悲劇果てしなく 絶え間ない戦火、さまよう民の慟哭があった 1996年1月20日
第十一集 JAPAN 世界が見た明治・大正・昭和 1996年2月24日/最終話
別巻 - 歴史の舞台を廻る - OV販売


視聴方法

『映像の世紀』は、その完成度や資料価値の高さからファンも多いため、視聴方法も難しくはない……
という訳にはいかなかった。
現時点で視聴するには、本放送の録画以外だと多少苦労が伴うこととなる。

まず、本番組はDVDボックスが発売されている。
ところがこのDVDボックスの値段はなんと84,240円(税込)。
その値段を払っても高くはない内容だが、それでも財布を苦しめる値段。
しかしデジタルリマスター後のDVD、ブルーレイボックスが3万円以下で購入できるようになった。

でも諦める必要はない。
図書館などではレンタルされていることもあるので、借りることも出来るだろう。
ただし、やはり貸出し中になっている場合も多いらしい。

それに、DVD以外の視聴方法もある。
インターネットのNHKオンデマンドの「特選ライブラリー」で有料配信されている。
少々面倒臭いが、DVDよりは低額で視聴することが可能である。
NHKオンデマンドに登録している人は、是非とも視聴してみよう。
※ただし配信版では権利関係によって一部の映像がカットされているので注意。

また、任天堂のゲーム機『Wii』の、Wiiの間のシアターの間にて、1回の放送分につき200円で有料レンタルされていた。
しかし、2012年4月30日にサービスを終了してしまったため2020年代の今となっては参考情報だが。

学生などは、世界史の授業の際に視聴させてくれる先生もいるので、視聴の機会はあるだろう。


『パリは燃えているか』

前述の通り、加古隆氏が手掛けた当番組のメインテーマ曲。

番組内では主に戦争・紛争時の映像が多く使用されているが、それを象徴するかのように終始重い曲調。
視聴しているこちらをも否応なく暗い雰囲気にさせてくれる。
そこに山根基世氏の静かな、淡々としたナレーションが加わることで、カメラに映された時代がいかに悲惨な物であったかを強く印象付けている。

また、複数のアレンジバージョンも作曲・使用されているが、
これらもそれぞれ印象的な場面で使用されており映像と共に我々の脳裏に刻み付けられる。
『映像の世紀』を名作たらしめているのは、この『パリは燃えているか』に代表される加古氏の音楽の功績も大きいと言っても過言ではないだろう。
実際、放送当時も反響は大きく、番組放送後に音楽に関する問い合わせがNHKに殺到したという。

新シリーズである『新・映像の世紀』『映像の世紀プレミアム』でも加古氏が音楽を手掛け、
この『パリは燃えているか』も新たに撮り直して使用された。

「映像の世紀」以外では、スタジオジブリの「もののけ姫はこうして生まれた」にも使用された。
変わった所では、フジテレビのコント番組「笑う犬」のコントである「アヤカ」にも使われたことも。悲壮感溢れる曲とコントの内容のギャップからかなりシュールな映像である。


曲名の元ネタは、第二次世界大戦末期にアドルフ・ヒトラーが発したとされている言葉。
ノルマンディー上陸作戦に端を発する連合軍の反攻により劣勢となったドイツ軍は、占領していたパリから撤退することとなった。が、その際にヒトラーはパリを徹底的に焦土化することを命じており、破壊命令が実行されたかを尋ねたセリフだという。

なお、命令は現地の指揮官に握り潰され実行されなかった。
歴史ある都市であるパリを破壊するのが忍びなかったとも、戦後を見据えた保身のためだとも、実行するつもりで時間と物資が足りなかっただけだ……とも言われているが、理由はどうあれ、彼の判断により、花の都パリは戦火を免れることになったのである。

アメリカ・フランス合作で、この「パリの解放」を描いた映画『パリは燃えているか』が1966年に公開されているが、こちらと加古氏の曲とは直接の関係はない。

曲について加古氏は「人間の持つ『罪と勇気』『愚かさと素晴らしさ』といった二面性を表現したかった」という。
20世紀は戦争の連続である一方で、文化や文明が発展した時代でもある。
そんな文化・文明の象徴であるパリを題材とし、上記のヒトラーの言葉を用いることでコンセプトである人類の二面性を表現している。





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それはつまり時間や食事や人付き合いをぶち壊す、てことだ。
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最終更新:2025年02月23日 22:10

*1 新シリーズからは81プロデュースに交代。同事務所は前々からNHKと関係が深い。