登録日:2015/05/27 (水) 19:54:25
更新日:2024/03/21 Thu 21:12:17
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エジレイ オプティカ(Edgley EA-7 Optica)とは、
ヘリコプターの代用品として
イギリスで開発された変な軽飛行機である。
概要
突然ですがお題です。
「ヘリコプターの代用品となる固定翼機のアイデア大募集!」
こんなお題を出されたら、どう答えればいいのだろうか?
ヘリの最大の特技である「垂直離着陸」を再現するために、V-22オスプレイやハリアーなどのようにVTOL機能をもたせるか?
それともヘリの業務の花型である「観測業務」に使えるように、地上観測をしやすい機体に仕上げるか?
英国紳士ジョン・エジレイが出した答えは後者である。
すなわち
「低速飛行が可能であり、なおかつ見晴らしのいい固定翼機」。ダメ押しでお値段は20万ポンドとお買得価格に。
それを
英国面全開で真面目に追求した結果の機体がこのEA-7「オプティカ」である。
英国はいつだって英国だということを実感させられる機体である。
ヘリじゃダメなんですか?
「そんなもん、フツーにヘリコプターでいいじゃねーか」と言われそうだが…ヘリはヘリで幾つか難点を抱えている。
ヘリコプターを含めたVTOL機は総じて燃費が悪い。
これは固定翼機のように「気流で揚力を生み出す」のではなく、「エンジンパワーやローターの回転で文字通り重力に逆らって浮上する」ことで浮き上がることに起因している。
揚力に頼らず機体を浮かせたければそれなりのパワーのエンジンが必要となる。具体的に言えば、エンジンのパワー>機体重量(最大離陸重量)にしなければいけない。
これには当然、それに見合う高出力のエンジンが必要になる。そんなエンジンは燃料食いまくるし重い。
エンジンを複数積んでパワーを確保しようとしても、エンジン複数ということはさらに燃料を食いまくる。
過去にもドルニエのVTOL輸送機、Do31という例があり、こいつはエンジンを合計10台積んで推力30tを叩きだした(ってかそうしないと浮上できない)にもかかわらず、最大離陸重量約27t・積載量に至ってはたった3.5tに留まり「割に合わねえ!」と判断されて開発中止となっている。
とにかくVTOL機というのは燃費が悪いのだ。
一方で固定翼機なら「前進して主翼で揚力を生み出す」ことにより浮上しているので、エンジンパワーなんて機体を前に進めるだけのパワーで十分なのである。
例として、前述のDo31とほぼ同じ推力(推力約13t×2=26t)を有する
ボーイング737の場合、最大離陸重量は約85t(Do31の3倍以上!)となっている。「前進させるだけ」なので最大離陸重量よりパワーが小さくても十分なのだ。
つまりヘリを含めたVTOL機よりも遥かに小さくて燃費の良いエンジンを使える。
またヘリは操縦が難しい。
これはヘリが「ローターの角度を変えて移動している」という方法を採っていることに起因する。
補助翼ではなくローターの角度を変えて移動するため、普通の飛行機より操縦が難しい。
大体、飛行機でいうステアリングホイールに相当する「操縦桿」だって、ヘリの場合は「サイクリック操縦桿」「コレクティブレバー」という特殊な操縦桿を2つを備えている。この2つを操作しなければ安定すらしない。
また飛行中にエンコかました日には、落下する際の風圧でローターを回して軟着陸する「オートローテーション」というテクニックが必要になるが、このオートローテーションを発動させるにはヒジョーに厳しい条件と繊細な操作が必要となってくる。
一方の固定翼機なら「エンジンで前進して主翼で揚力を発生させて浮き上がり、補助翼(舵)で旋回する」という理屈で動くため、ヘリより操縦は簡単である。
極端な話、「スロットル(
アクセル)でスピードを調節し、操縦桿とペダルで上下左右に動く」で何とかなってしまう。
またエンコしても失速したり対気速度が0にならない限りは主翼が自動的に揚力を発生させているので、滑空でなんとかなる。
操縦が簡単だということはミスも減らせるということである。
ヘリは「角度が変わるローター」があるなどの理由で複雑な構造となり、固定翼機よりだいぶお値段が高い。
要するに、ヘリなんて「とてもじゃないが素人におすすめできる飛行機ではない」のである。
機体
オプティカは固定翼機、それもいわゆる「軽飛行機」に相当する航空機である。
しかしその機体形状はセスナ機などの「常識的な」軽飛行機からは相当かけ離れたものである。
こら、そこ!変とかキショイとかいうな!これこそが 英 国 面 なんだ!
機体形状は主翼から伸びる2本の梁で尾翼を支持する双ブーム方式となっている。尾翼はアーチ型をしている。
主翼はシンプルな造りの直線翼。
オプティカの機体形状の異様さを倍増させる、キャビンとその後方に居座る推進器。
キャビンはOH-6などの小型ヘリコプターを思わせる、全面ガラス張りのタマゴ型をしている。その形状から「バグ・アイ(虫の眼)」の異名を持つ。全面ガラス張りだけあり、視界は良好である。
キャビン前方下部には前照灯とカメラを搭載している。またオプションで拡声器「スカイシャウト」を搭載することも可能。主に警察向けの機体で採用されている。
燃料タンクは座席の下に配置されている。
キャビン後方にある推進器。その形状から一見小型ターボファンエンジンと思ってしまいそうだが、こいつの正体はライカミング製の水平対向6気筒エンジンで駆動されるダクテッドファンである。
ダクテッドファンってのはよーするに、プロペラの周りにカバーを付けた推進器である。プロペラの回転面と平行に「飛び散ってしまう」気流もカバーで整流して後方に押し出せるために効率そのものはいいのだが、一方でカバーのお陰で重量が増えてしまうという弱点もある。しかし技術の進歩で軽くて丈夫な素材が誕生したため、実用的なダクテッドファン推進器が使えるようになった。
降着装置(車輪)は固定式となっている。
性能
性能的には、
- 巡航速度130km/h
- 失速速度108km/h
- 超過禁止速度(約)260km/h
と、超・低速向けの性能となっている。
数奇な運命をたどった機体
オプティカは結構数奇な運命をたどった機体である。
1979年12月、
試作機が初飛行を行う。この
試作機のエンジンは150馬力であった。
1983年、エンジン出力を200馬力に増強した
量産機が量産ラインに乗る。当時製造していたのはブルックランド・エアロスペース社である。
1985年2月に形式認証が通り、晴れて世にでることとなった。
しかし同年5月、
イギリス・ハンプシャー警察の保有するオプティカ(レジ番:G-KATY)が墜落事故を起こし、搭乗していた警官が殉職。
事故の原因としては「旋回中の速度不足」が疑われたが、どういうわけかその後に詳細な調査が行われることがなかった。
しかもこの事故が原因で設計者であるエジレイは破産してしまう。
…が、その後オプティカの生産を続けるためにエジレイはその名もズバリの「オプティカ・インダストリーズ」を設立する。これでようやく再生産ができると思ったが・・・。
今度はオプティカ・インダストリーズの工場が何者かの手により放火され、飛行試験中の一機を除き全機が消失してしまった。
その後同社は「ブルックランド・エアクラフト」として再建され、オプティカの再生産を行った。・・・1990年に破産するまで。
尚、ジョン・エジレイはオプティカをまたまた再生産する気満々だとか。
それにしてもどーしてここまで生産しようとするたびに変なことになるのかなあ・・・。
そりゃ「ヘリより安くて運転簡単」なんて普及されたらヘリ屋が商売上がったりだし、おっとお客さんかな?
諸作品への出演
オプティカはその
英国面・・・もとい近未来的なスタイルから、いくつかの作品に出演を果たしている。
1989年の映画。
本作の劇中に、
アムロの自家用機としてオプティカに似た軽飛行機が登場している。
追加・編集の際は妨害工作に気をつけてくださいね?
最終更新:2024年03月21日 21:12