量産機

登録日:2011/05/09 Mon 00:56:03
更新日:2024/12/22 Sun 14:54:07
所要時間:約 45 分で読めます






主役ロボは様々な敵と戦い、苦戦しながらも勝利を掴む。


……しかしその影には、苦戦するどころかたった一撃で吹っ飛ばされてしまうロボット達が居る。
それらの大半がこの項目で紹介する『量産機』である。



概要

量産機とは大される(された)機器の総称である。
対義語は用途によって少数生産、ワンオフ、試作機などがある。
全てが当てはまるわけではないが、概ね材料や部品の調達が容易で、生産にかかる工数が少なく、量産のための生産方法が完全に確立している…といった特徴を持つ。

現実には一般流通品や制式採用品は全て量産可能なものであるため、この単語はフィクションでよく使われる。
また、大量生産の略であるために「少数量産」という表現は本来誤りである。
(より多く量産された類似品と比較してあえて「少数」とつけている場合もある)



フィクションにおける量産機

量産の名前が示す通り、機械が重要ポジになりやすいSFジャンル作品に登場する用語。
中でも戦争兵器やマシンが用途の大半を占めていると言っても過言ではない。
また、大量に生産・配備されているという理由からスーパーロボット系よりもリアルロボット系の創作物に出演する事が多い。


さて、そのフィクションでの量産機であるが… ご想像の通り所謂モブキャラ的存在としての役割を担うのが大半 である。
その扱いたるや…

  • 主役級ロボに破壊される
  • 敵のエースに切り刻まれる
  • エースでも何でもない奴に爆殺される
  • 極太ビームで蒸発
  • 新兵器の実験台になり木っ端微塵に
  • 味方の攻撃に巻き込まれて死ぬ
  • 敵の機体にジャックされて味方同士で同士討ち
  • 敵軍に捕獲される→元の陣営の機体に破壊される
  • 画面に映った瞬間あるいは数秒後に撃墜される、酷いと撃墜されたシーンすら描かれずいつの間にかいなくなる
  • モノアイかゴーグルアイ
  • 厳密にはロボットではないが、S2機関を搭載しロンギヌスの槍(複製)をもって視聴者にトラウマを植え付ける
  • 生身の人間にフルボッコされる
  • 搭乗者に自爆させられる
  • 爆弾代わりにされ撃たれる。
  • 圧倒的物量で襲いかかる→エースに次々落とされる(稀にエースを追い詰める場合もあり)

……等、挙げるとキリがない位散々な物がある。



■役割

上述した通り 大抵はやられ役 で、扱いは散々なことが多い。
同じような顔ぶれが並ぶという意味では、人間キャラに例えてもモブ・個性なし・背景…とまあそっくりである。
主人公機が主人公足り得る「その世界観における特異性や独自性」を見せるための特殊な性能をしている事を示すために、その世界での「普通」を見せる引き立て役としてどうしてもこうなってしまいがち。

が。
それはあくまで物語の主役の視点から見た場合。
SFの戦争はあまりに広大な戦域において何よりもまず物量が必要となり、量産機はそれを担う立派な戦力なのだ。
兵器がなければまともな戦闘が成立しないのだから。
量産機は数多くの作戦で我らがエースパイロット達と共に戦線で活躍している、まさに「縁の下の力持ち」なのである。

確かに主役級達の機体よりも性能は劣っているが、性能の低さをカバーする戦い方や量産機故に出来る戦い方を披露する事もあるし、
主役が行うような画面映えのする目まぐるしい高速機動戦や、真正面からの力と力のぶつかり合い等の派手な戦いはあまりせず、
地の利を生かした戦い方やフォーメーションの他、コストの低さを生かした物量責め等の泥臭い戦いで魅せる事もある。

それゆえ、これら量産機が勝つ瞬間のカタルシスは下手をすれば主役を上回る。

量産機は存在そのものが指標となる場合も多い。
量産機を最低限操縦できないようではパイロット適性はないし、新たに開発した機体が既存の量産機に勝てないようでは意味がない。
やられ役、引き立て役とは言うものの、そこには「パイロットの腕を示す指標」という大事な役割もあるのだ。
機体性能に頼り切っていた主人公機のパイロットが、百戦錬磨のパイロットに圧倒されたり、新型機の登場で性能の優位性が失われる展開で苦戦し、機体ではなく乗り手である自分自身を見つめ直す、という展開は王道パターンの一つだろう。
舞台装置としても決して軽んじてはいけない存在なのである。



■量産機の種類

ここまではザコ同然呼ばわりのような風に記したが、もちろん量産機の全てがそれで終わるわけではない。

そもそもフィクションにおいてはしばしば 大量生産=量産≒量産機 なケースが見られる。
現実と異なり、量産のためのプロセスを踏める段階で量産機扱いされるといった方が正しいか。


  • 量産用に設計した (量産するとは言っていない)
最初からそのように設計したり、特殊機や試験機を量産のために設計し直した。
なのでコストが異常だろうと生産工程が確立してなかろうと材料調達が難しかろうと、計画上は量産機である。

  • 量産が決定した (量産できるとは言っていない)
主に資金難で多数配備できなかった。
結果的に限定生産・少数生産であり大量生産していないわけだが、生産ラインや計画工程の目途は立っているので「やろうと思えば量産できた」という事で量産機である。
戦記ジャンルでは戦争末期に登場した兵器でよく当てはまる。

  • 量産の目途は立った (扱える人材がいるとは言っていない)
資金もラインも問題なく大量生産に向けて動けるものの、肝心の運用に特殊な技能や能力を必要とする。
使える人材が少ないのでは作り過ぎても意味がないので生産は少数に留まるのだが、やはりこれも(量産自体はできるのだから)量産機である。


…というわけで、実際に量産された量産機量産されなかった量産機には隔たりがあるし、
後者の場合は 異常に高性能 というケースもある。


「簡易版・廉価版・普及型としての量産機」の他にも、
「エースパイロットや指揮官クラスが乗る事を前提とした、普及型を上回るスペックを持つもの」
「主役等が乗るワンオフ機に匹敵ないし上回るスペックを持ちながら量産した(してしまった)もの」
といった所謂高級量産機と呼ばれるものが存在する。

通常の量産機と同様にこちらもその在り方はまちまちで、現実の「ハイ・ローミックス構想」の「ハイ」に相当するもの、
「試作機」からそのままor改良されて量産されたがやはり高コストで数が少ないもの、単に最新鋭機であるなど従来機や現主力機と比べた相対的なもの、
何らかの理由やブレイクスルーにより(高コストは承知で)ワンオフ機並みの高性能機を纏まった数揃える必要に迫られたorそれが可能になったもの等がある。

これらは量産機の工業製品らしさとワンオフ機の外連味を併せ持つ、もしくはその中間に当たる独特の造形を持つものも多く、
「並の量産機とは一味違う、しかしワンオフ機程派手でない」として一定の人気を集めている。

現実で言う所のF-15やF-22、B-2もこの「高級量産機」に当たると言えるだろう。
「ハイ・ローミックス構想」もF-15を調達中の空軍に安価な機体*1を売り込む為に考案された面があり、
敢えて露悪的に言ってしまえば安くてドッグファイト偏重の戦闘機を通すための「口八丁」「出まかせ」の類である。
なお、この時採用された安価な戦闘機―――F-16は能力向上改修を繰り返して高性能化が図られ、同時に高価格化していったというオチがある。*2



とはいえ、基本的には量産機は「大量生産されたもの」を指すことが普通で、「結局は量産予定がキャンセルされた」(例えば先行試作機がロスト、重要部分に携わっている技術者を喪失、ついでに終戦して不要になったと不運が続いたV2ガンダム)とかは量産機としない*3のが普通である。



■性質と特徴

フィクションにおける量産機は概ね以下のような特性を持つ。

  • 生産性・整備性・安全性に優れる
量産機に求められるのは主に性能と低コストと信頼性である。
性能に関しては比較対象がその時点での敵勢力の一般兵器なので、主役機にやられてしまう点は目を瞑ろう。

低コストとは材料費や生産ライン設備はもちろん整備コストまで全て含めた諸々のコストを指す。
 整備性が良い=整備にかかる時間が少なく、スタッフに要求される技術力も低く、負担をかけにくい
 生産性が良い=短期生産が可能というだけでなく、修繕のためのパーツの調達も容易
という事である。
つまり生産と運用の両面で数を送り出せるという事なのだ。
安全性については言うまでもないだろう。すぐオーバーロードしたり不審な挙動やバグが起こるようなものは量産機として論外である。

  • 改修しやすい
既に屋台骨がしっかり組まれているため、少し弄るだけでバリエーションを作る事ができる。新規開発するのが面倒とも言える。
完成度が高ければ、たとえ旧式化してもパーツ単位で最新のものに換装する事で長年使い続ける事も期待できる。

特にバリエーションの多さは量産機の特徴であり、空戦に特化したものも居れば水中戦仕様、寒冷地仕様に隊長機、実験機や個人の専用機等、様々なものを作りやすい。
実験機と専用機は、アニメや漫画で主役級のキャラの愛機だったり外伝作品の主人公機だったりと扱いがいい事もしばしば。
つまり勝ち組である。

  • 性能の指標になる
量産機はその時点の技術水準の指標であり、更なる発展の土台にもなる。
また、次期主力製品の開発時には既製の量産機を上回る事は必須事項と言っていい。
低コスト品を追求した製品が既に存在するなら、対比的に多少のコスト高騰を飲んで高性能に向けて開発される例もある。



■フィクションでの量産機の強さ

かように量産機は作品ごとに随分と立ち位置が変わる。扱いはまちまちであり、どれが正しい、正しくないという論説は埒外である。
ここでは特徴的な例を挙げていく。


新世紀エヴァンゲリオン』はエヴァ弐号機を屠るほどに異常な強さを誇るエヴァ量産機が徒党を組んで襲ってくる。

蒼き流星SPTレイズナー』のスカルガンナーは敵味方問わず周囲の人間を抹殺する無人機で、対SPT戦では戦闘力に不備があるもののトリッキーな動きでエイジたちを翻弄させた。

勇者特急マイトガイン』では終盤に例え木っ端微塵に粉砕しても無限に完全再生する量産機というロボットアニメ史上トップクラスの凶悪な機体が登場し、大量に湧いて数の暴力で主人公らを苦しめた。

新機動戦記ガンダムW』では「高威力の主兵装」と「頑強なバリア」を同時に装備した「無人で稼働する」量産機ビルゴが登場。
一体一体がかなり手強い上にパイロット不要なので、戦う程に疲労が溜まって行く人間側に対して無人機である事を良い事に延々と雲霞の如く押し寄せ続けるという様が描かれ、『ガンダムシリーズで最も量産機が強そう/恐ろしいシーン』の一つに挙げられる。


聖戦士ダンバイン』では目標に対し3機のドラムロがフレイ・ボムを同時に発射し一つの巨大な火球として放つ「トリオ・コンビネーション」*4で第44話では、グラン・ガランから先発したナの国のオーラ・バトラー部隊をこの戦法で全滅させ、最終決戦ではニー・ギブンを討ち取った。
上記5例は、ここまで来ると量産機というより「大量破壊兵器」と呼んだ方が正しい気もするが…。


ドラグナーは量産型のドラグーンの方が性能が上であるが、ガンダムはその高すぎるコストから、コストと性能のバランスがとれたジムが開発されている。
トールギスリーオーも「殺人的な加速のために常人には扱いきれない」というトールギス最大の弱点が、リーオーでは加速力の大幅低下によって「改善」されている。
変わったところでは、テスト・改修・生産を並行して進めたために、試作機と量産機に全く差がないゲルググの例がある。
この様な方法も現実で行われることがあり、生産ライン構築がスムースに進み素早く生産可能になるが、
その代償として開発時に無駄が多かったり、混乱を招きやすいため、難しい。

また、軍事的に単機の活躍というものはあまり意味が無い。
軍隊は基本的に集団行動であり囮、チープトラップ、整備・休養中の奇襲、破壊工作、消耗戦などに対する抵抗力など、量産体制を整えることは必須である。
現実で単機で行動して戦果を挙げるシチュエーションは大量破壊兵器を投下するときぐらいだろう。


先程挙げたガンダムでは高コストであることに加え、早期の量産を行うために正式量産機を後回しにしてジムの生産を優先したという設定がある。
(どこまで考えられているかはわからないが、正式量産機ジーラインよりジムのほうがガンダムとラインが近く、設計をすぐに流用できたと思われる)。
ガンダム自身も未知の存在であったMSを研究し、当時の技術でできる限り最高の機体として作ったというのが主流の設定である。
また、後期の活躍はどちらかというとパイロットの腕のほうが理由。前述のように事情があれば現実でも量産機のほうが性能が劣ることはある。
そもそもガンダムとパイロットの腕前も戦争に勝った要因にはなっているものの、この作品ですら戦争終了の決め手は量産機の頑張りによるものが大きい。

ジムの優位性がわかりやすい作品として、ゲームデザインの時点で「パイロットの部隊長としての腕前+ジオン側量産機に勝っている部分の合わせ技」で勝っていく形になっていた『コロニーの落ちた地で…』が存在する。
もちろんザクやグフに対するジムの優秀さもちゃん描写されているのだが、このゲームでは…少なくとも原典となるドリキャス版では…「それを部隊のMS員全員に配れることが最大の強み」「プレイヤー=レイヤー隊長の指揮でそれを押し付けられるシチュエーションに持っていくことで勝つ」バランスになっており、量産できるから量産機は優秀なんだよ、というメッセージを含んだ作品でもあったと言えるだろう。
つってもジムの強いポイントでまっさきに挙がるだろう「簡易版とはいえビームライフル(ビームスプレーガン)が使える」はなかば隠し要素or高級モデル限定装備だったんだが。


更に補足するなら、ガンダムシリーズに出てくる量産機のうち作品後半に出てくる「ガンダムのデータを基にした・ガンダムに対抗すべく作られた量産機」はそのほとんどが参考にしたガンダムとほぼ同等以上のスペックである。
もちろん尖った所を量産の際に均一化する等の変更はあるが、スペックが劣っているとハッキリ明言されているのはジムとストライクダガーくらいである。(そのストライクダガーも前身に105ダガーというG兵器とほぼ互換と言える性能を持つ上、ストライクダガーでは省略されたパック換装機能まで備えている量産試作機が存在する)

先に挙げたリーオー、というか『W』世界観に至っては演出上も「ガンダムタイプとタイマンできるレベルの性能はないだけで十分に兵器として高性能」と描写されることが多く、現在でも「いろんな事情からいつもの機体を持ち込めないGチームメンバーが「これでも十分強いから」でリーオーを現地調達する*5」のは定番ネタと見なされている。
前作・『Gガン』とは別の意味で中の人補正が極めて強い世界観、とネタにされる遠因ではあるが。


■量産化

量産のためにはあらゆる意味での試作品・試験品が必ず存在する。
単に試作と言った場合、動作はおろか生産テストまで広く含まれてしまうので、ここでは基礎部分と最低限の動作試験を終えた試作機を例に挙げる。

  • 小型化
試作機は搭載した機能の試験運用のため外装には頓着していない。
機器の内部構造やケーブルが剥き出しになっていたり、雑にあつらえたケースに無理矢理セットされていたりする。
ただのネジ一本が巨大な箱に収まっているようなイメージをしてもらえれば分かるだろう。とにかく無駄に大きいのである。
もちろん無駄を排するだけでなく、機器そのものの小型化が図れないか同時に検討する事となる。

  • 部品点数の低減
試作機はその機能の実現のために使用部品にも頓着しないのが普通である。従ってそのまま生産ラインに乗せる事は到底できない。
もちろん量産機に合わせたラインの増設や設備強化は有り得るが、よほど単一か後の流用を考えていない限り、生産ラインの能力限界を見越した(量産機開発依頼に対して予め許可されている)最終部品点数の上限を示唆する方が、フィクションのリアリティは増すと言える。
そうでなくとも、コストダウンや早期量産のためには部品点数は少なければ少ないほど良い。

  • コストダウン
部品数は上述した通りだが、他にも使用する材料、組み立ての工程、メンテナンス工程などの見直しを行ってコストダウンを図る。
安価で調達しやすい材料で作れるのは重要である。
組み立ての工程が簡素であればそれだけ量産スピードが向上する。
メンテナンスが楽であれば楽であるほど、運用や整備に割く人件費の低減につながる。
これらは技術者に求められるスキルとも連動しており、当然ながら求められるスキルが低いほど多くの人材を確保しやすく、更なる生産向上が見込める。
無論、コストダウンは本来の性能とバーターとなる事も多く、どこまで削るかが完成品に大きな影響を及ぼす事になる。

  • 量産検討中の試作機
上記の追求をしながら「量産のための試作機」を何度も試作し、最終的な諸性能を満たした量産機へとブラッシュアップを繰り返す。
工数簡略化やコストダウンを図っている最中なので機体としては中途半端なイメージを持つかもしれないが、いわゆる「量産を断念した高性能な試作機」はこれの派生であるためフィクションで出番がない訳ではない。
開発段階の試作機と異なり、検討を経た段階で外見・外装がしっかり整っている可能性も高い。


量産検討機を経て、生産上の問題なども全てクリアすると、晴れて量産機の仲間入りである。
……もちろんここから本当に量産されるかどうかは神のみぞ知る、であるが。



■余談

上記のそれと似ているが、量産体制の整ったプランをそうでないものと区別するための 「量産型」 という語句もある。
量産機が条件的な総称であるのに対し、こちらは個別の製品名称に付けられる。語源は「機動戦士ガンダム」の 量産型ザクII

量産機と同様、現実の設計・開発の場ではあまり一般的ではない。
類語に「生産型」「正式採用型」「制式」などがある。
これらは少量または一品ものの実用機に対し生産数に関係なく使える。

ロボットものにおいて「生産型」「量産型」が使い分けられた例として、
「生産型」エヴァンゲリオン弐~四号機と「量産型」エヴァンゲリオン5~13号機などが挙げられる。





現実の量産機

…といっても、広範に見渡せば現実とフィクションにそれほど差はない。
結論から言うと、現実に活躍した実績がある兵器は ほぼ全て量産機 である。
違うのは量産機ではなく試作機のほうで、現実には「ワンオフ機」「試作機」が戦場に出て来る事はほとんど無い*6
量産機よりも小規模な生産かつ単体で活躍できるものとなれば、それは大量破壊兵器くらいのものであろう。

フィクションでは「質より量」「性能の低さを数で補う」的なイメージを持たれやすい量産機だが、
それはあくまでワンオフ機や試作機が超高性能に描写されているため相対的にそう見えるに過ぎないのだ。


■試作機から量産機へ

そもそも量産機とは生産体制を確立したものを指す総称であり、質や数はあまり関係しない語句である。
試作機が量産機となるまでのプロセスにはいくつかタイプがあり、現実で車を例にすると、

  1. 「車A」のプロトタイプを作り試運転
  2. そこから得たデータから欠点や不具合をなくす
  3. 「車A」改良型を作り試運転
  4. そこから得たデータを(ry

……というように、徐々に欠点をなくし性能を上げながら作っていく。
この場合は試作機より量産機の方が性能が良くなる。
一方、アニメや漫画の量産機は、

  1. 超性能のロボット作ったよ!
  2. (コスト高い、性能高過ぎてパイロットがついていけない、元々が少数生産の予定)
  3. 作りやすい部品や素材で代替して安く大量に作ろう
  4. (上の例と同じく、量産機を更に改良・発展させることもある)

といった感じで作られている事が多い(例として新機動戦記ガンダムWトールギスリーオーがある)。
同じく現実の車で考えるとF1で培った機能や技術を一般車両にフィードバックするようなものである。

というか研究段階では実際に車にレーダー(自動ブレーキ)やHUDなどを搭載した試作機は既に20年以上前にあるし、
この例は当時の基準で考えれば量産機より試作機の方が遥かに性能は高い。
当然扱いやすいわけではないので、その意味では現実もフィクションも変わらないのだ。


■鉄道
鉄道の業界でも「強い試作機」はそこそこ居る。
例えば新幹線500系は試作車の500系900番台『WIN350』では350km/h運転すら目指した性能が与えられていたり、
同じくE5系とE6系の事実上の「試作車」であるE954形『FASTECH360S』及びE955形『FASTECH360Z』は360km/h運転を目指した設計のため、
「量産型」のE5、E6系よりも均衡速度(性能的に限界となる謂わば『真の最高速度』)は高くなっている。

また営業運転すら考えない『ゲテモノ』としては、175km/hの記録を持つクモヤ93や、ガスタービン気動車実証用に改造されたキハ07 901などもあげられる。

鉄道の場合、公共交通機関という特性上「あってはならないもしものことを起こしてはならない」という点もあり、
そのためには最高速度などの目標値を余裕を持って出せる性能が必要であり、言い方を変えれば限界値は高めに取る必要があるため、
「どこまで出せるかチャレンジ」や、或いは「安定して目標値を出せるかどうか」を実証する必要があるので「限界に挑む性能を有する"強い試作機"」が出やすいものと思われる。
現にキハ07 901は「無視できないほどエンジン音がうるさい」という欠点が判明し*7、結局ガスタービンエンジン載せようという計画そのものがこの理由から失敗したと扱われる結果となった。
もちろん鉄道事故とは言えないが、これはわかりやすい「あってはならない現象を起こすのが発覚した」…公共交通であることを考えると採用できない理由が潜んでいたがゆえの試作失敗と言えるだろう。

これらはどちらかと言えば「技術実証機」寄りなのだが、それは多くのロボアニメに於ける試作機も同様である。

他にも陸上交通の分野では正式採用を視野に試験採用された仕様が事業者側の事情で翌年に仕様を再変更したり、メーカー側の規格変更などで後発機に採用されなかったりして、結果的に「現場に投入される試験機」のようなものが出てくることもある。
「性能上の大きな違いを生じるものではないが、厳密に比較すると見た目や仕様に差異が出る」といったレベルである。
ワンオフ機に相当するものは遊覧列車「ななつ星in九州」のような極めて用途が特化された車両のみ存在する。これの機関車に関しては明確な大量生産モデルを改修したもの(DF200系7000番台。元は北海道や中京圏で貨物列車を牽いてる機関車)*8で、「量産機を元に再度ワンオフ機材を仕立てた」と言えるだろう。

■艦船
艦船の分野では、ある程度の大型艦になると大量に建造する訳には行かなくなる事もあり、
実験的に建造された艦が実戦投入されたり、少数のみ建造された艦級や試作的な艦が活躍したりする事もままある。
極めて極端な事例ではあるが、英国面でも言及されている「ジャンルとしての航空母艦」が好例。世界初の本格的な空母・HMSフューリアス、世界で初めて最初から空母として設計されたIJN鳳翔やHMSハーミーズ*9は「試作艦」「実戦を前提とする実験艦」の色も強かったが、結局はWWⅡの時点ですでに「空母を動かせるかどうかで広域的な戦略にまで影響する」レベルにまで有用性が認められることになったというか「あったけど大半を喪失した」日本のみならず、結局ペーパープランに終わったドイツやイタリアがこれで苦戦するハメになった*10
今でこそ航空母艦は「ある程度以上の規模がある海軍にはいて当たり前」ではあるが*11、このWWⅡあたりまでは「試作的な艦」と見なせなくはないだろう。


つまり現実でもフィクションでも試作機の方が性能が高い事はあるし、当然その逆もあるわけで、
一概に「~~だからアニメの量産機はおかしい」「試作機より量産機の方が性能が高いはず」と断ずるのは間違いである。



■求められる要件

世のベストセラーとされる量産機は 「品質と生産性の両立を目指した成果」 である。
もちろん「性能を数で補っている」というのは間違いではないが、その性能の基準は相対的であって質が悪い事を示すものではない。
さらに言えば単に質が悪い、バラつきがある製品は「粗悪品」「粗製乱造」であって量産機とは呼ばれない。

ティーガー系戦車やF-22、B-2の様な性能と引き換えの生産性の悪さや高価過ぎて大量生産できなかったものもあるにはあるが、
基本的には品質と生産性を両立したからこそ大量生産されたのである。

性能を落としてデチューンする、という方法も文面だけでは弱体化に見えてしまうが、
ロケットエンジン積んだ車を想像してもらえれば「いくら速度が出たってそんなもん誰が制御できるんだ死ぬわ」となるだろう。
数値上のスペックだけが優れていてもそれらを使いこなせる人間がいなければ意味がないのである。
それより現実的なレベルに性能を多少落として操作性などを向上させる事の方が重要なのだ。
実際に上で触れたWIN350は「スペック上はたぶん350km/hが出る」「実際の試験でも320km/h運転に成功」と予定通りではなくとも画期的な最高速度を達成したが、結局500系の決定設計では最高300km/hに抑えることになり、現在最新の後継車種となるN700S系でも最高300km/hで、E5系ですら最高は320km/hで設計されている。これは300km/hや320km/hを超える速度でダイヤを作れる路線区間がすべてではないのが大きく*12、まさに「十分使いこなせる範囲に切り詰めればそれでいい、実用的であるからこそ試作機と同等のスペックまで要求されるとは限らない」の実例となっている。
…創作物だとマッハ1出る編成も制作されたことになっているが。


散々書いてきたが、現実の量産機に必要なのはなによりも生産性である。
調達の難しい部品や素材、育成の難しい技術者が必要なのでは量産はすぐに頭打ちになってしまう。
こうした課題をクリアした結果によるため、不測の事態は起き辛く、タフな機器になる事も多い。
また、コストダウンは『改良』要素でもあるため、後期ロットではコストダウンの為に一部性能が落ちていたり、機能が一部削除されていることは珍しくない。
無論、利益を出すためのコストダウンの為に採用した低品質な部品や関わるメーカーが増えたりして不安定になることもある。



■量産機は無個性?

量産機は多くの場合「その他大勢」が乗る機体であるため、「個性のない存在」と考えられることが多い。

だが、実際には各機ごとに個性が存在している。
同じサラリーマンでも仕事においては一人ひとりが異なった技能を持ち、
異なった役割が与えられるように、戦場においては兵士一人ひとりに異なった役割が与えられるためである。

具体的には、指揮官機なら通信機能が強化(例:ブレードアンテナ増設)され、
火力支援を行う機体には大型、長射程の火器(例:ザクバズーカ、マゼラトップ砲)が搭載され、
敵に最も近づく機体には取り回しを重視した比較的短い火器や格闘用装備(例:ザクマシンガンヒートホーク)が搭載される。
実際にザクⅡは一体一体が異なった武装を持っていることが多々あり、役割分担がなされていることを窺わせていた。
また単純に「製造工程でのばらつきにより"製品"によってクセが異なる」という場合もある。
そりゃ流石に「パーツや部品をⅠ㎜の誤差も無くそして、分子一つ一つのレベルで完全に同一のものを作る」というのは今の技術で言えば困難を通り越して不可能だし、
或いは工業製品ってものには「クリアランス」とか「遊び」とか呼ばれるもの、つまり余裕が設定されている。

工業製品には工作機械の違いや或いは製造時の環境、
更には素材自体の特性などでどうしても大小の誤差が出てしまうのでそれを吸収するための「余裕」であるが、
この誤差が原因でクセが出てしまうということである。
これが無いと同一の製品でも製造工場毎に微妙に癖があるせいで部品の互換性がない、同じ工場で作られた部品同士で組まないと不具合が起こるという整備運用面での致命的な欠陥が発生する。
現実だと自動拳銃のルガーP08なんかは、職人が一つ一つ手作業で精密に仕上げたために高性能だがクリアランス0で同じ製作所の部品同士でしか組み合わせられなかったそうな。
逆に言えばこれを設ける事で別々の製作所で作った部品同士でも融通がきくようになるため飛躍的に量産性が高まる。
また多少の汚損程度なら影響が出ない耐久性、多少粗い部品でも動作できる優れた整備性にも繋がる。
これらの良い面が重なり、「生産性に優れ、かつ堅実で故障が少ない」、かつ「現場の人間でも扱いやすく整備も容易」という工業製品としても兵器としても理想的な条件を備える事に成功したのがかのAK-47である。

逆にクリアランスがあるということは部品一つ一つの精度自体は劣るという事であり、あまりいい加減すぎるとそれはそれで性能面での劣化に繋がる。
この辺りでエライ目に遭ったものの代表格はショーシャ軽機関銃(フランス)や言うこと聞かん銃62式機関銃(日本)、辺りであろう。
いずれも部品の精度の問題で弾詰まりに悩まされ続けた。

変わったところでは、機体を構成する各ブロックは紛れもない量産品であるにもかかわらず、組み上げて誕生する機体には個性が出る、
専用機と量産機のいいとこどりとも言えるアーマード・コアやフロントミッションのような例も存在する。

また製造時こそ全て同じ仕様で無個性さが際立つ量産機も、時代を経ていくと様々な事情で改修や新装備の追加、壊れた部分の補修などが施され、独自の個性を得てゆくこともある。
数十年に渡って運用された古豪と呼ばれる部類の機体ともなると、近代化改修プログラムの違いや配備地域に合わせた改造、ありもののパーツでの補修などによって、独自の個性を得ている機体も多い。共通性の高さが量産機の良さなので、個性があるのが必ずしも良いことかと言われると微妙なのだが、ある意味では型式の汎用性・拡張性の高さを証明していることにもなる
特に数十年に渡って運用されることも多い艦船や鉄道車両などでは、古豪クラスのものでは同じ型式でも全く外観も中身も異なるなんてこともザラである。
現役末期のアイオワ級戦艦金剛型戦艦、「國鐵廣島」などと呼ばれていた頃を中心としたJR西日本広島支社の車両*13*14などはその特に顕著な例であろう。


量産機の立体造形物

ガンプラなどに代表されるように、ロボットアニメ等のメカがフィギュアやプラモデルとして販売される例はよくあるが、
そのなかでも量産機は主役機やワンオフ機とはまた違った魅力を見せている。

というのも、元々が量産機なので同じ機体を何度・何体手に入れて、
飾ったり、ジオラマに入れてしまっても設定面での問題はほぼない。

例えばワンオフ機などだと仮に複数の同じ機体があったとしてもプレイバリューは限られる。
しかし量産機であれば何体もいるのが設定的には普通であるため数を集めても何の問題もないし、むしろ買った数だけ幅が広がる。
また改造・塗装などでキャラ付けした場合でも上記のように量産機にも個性はつけられるため何も問題ない点もプレイの幅を広げてくれる要因となっている。
更に言えばワンオフ機は、デザインが独特であまり流用が効かないのが多い(勿論クロスボーン・ガンダムやVガンダム等の例外もある)のに対し量産機は、大体似ているのが多いため、バリエーション機が出る確率も高い。

好きな作品を支持するために関連商品を多々買う大量に購入する場合も、上述の事情から量産機は人気である。



主な量産機


アニメ・漫画

ゲーム

特撮


●番外編



またここでいう量産型とは少し毛色は違うが、勇者王ガオガイガーに登場するジェイアーク/キングジェイダー
主人公機ガオガイガーを素のスペックで越える機体だが実は量産型である。
公式外伝漫画「超弩級戦艦ジェイアーク 光と闇の翼」および「キングジェイダー -灼熱の不死鳥-」では同型機兼指揮官用の主力艦・ジェイバトラー/キングバトラーが登場、キングジェイダーと死闘を繰り広げた。


余談だが、格ゲー等でWikiや攻略本の通りにしか動かずオリジナリティのない動きをする者を量産型◯◯(キャラ名)と表現することがある。


尚、人数は少ないが量産機にしか乗らない主人公もいる。
最低野郎のキリコ・キュービィーとか。
仲間思いのロディ・シャッフルとか。

相良宗介ヒイロ・ユイは量産機にしか乗らないわけではないが、
サベージやリーオーを支持するのも(この二人の場合、別の愛着もありそうだが)前述したように量産機には信頼性や拡張性、互換性などが重視されていることが理由である。

そしてそれをある意味究極にまで突き詰めた量産機といえるのが、STAR WARSシリーズ(映画)に登場する帝国軍戦闘機TIEファイターであろう。
TIEファイターは全機体が完全に同一仕様で製造されており、どの機体に搭乗しても同じように動かせる。
このため帝国軍パイロットは「空母に格納されているTIEファイターに空いてる機体から順番に搭乗していく」ようになっている*15
どれ乗っても同じだからね。
現実的・理想的ではあるが、全機体が完全に同一仕様というのは技術開発・競争・改修など諸々の事情からかえって非現実的な運用だったりする。

ちなみに当のSTARWARSではファンの間で「stormtrooper effect」「Imperial Stormtrooper Marksmanship Academy」などと言われ、
「主役の弾は当たりやすく、敵の弾は当たりにくい」「主役が少ないほど敵は外しやすい」
「不可能であるほど当たりやすい」「拳と武器なら拳の方が勝つ」などと言われることが多い。


似た例に「忍者反比例の法則(少ないと強く、多いと弱い)」「ニンジュツ保存則(ニンジャの数に関わらずニンジュツは一定)」という、
「The Law of Inverse Ninja Strength」「Law of Conservation of Ninjutsu」などという言葉もあり、
どうやら創作物において「多いと弱い」などのイメージは洋の東西を問わないようである。





Wiki篭りが量産された暁には、この項目などあっという間に追記・修正してくれるわ!

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • ロボット
  • リアルロボット
  • 鉄道
  • 量産機
  • 背景
  • 引立て役
  • 雑魚
  • 質より量
  • 量産=高性能
  • ザク
  • ジム
  • 量産型
  • ロボット項目
  • 忍者反比例の法則
  • やられ役
  • 戦いは数だよ、兄貴!
最終更新:2024年12月22日 14:54

*1 LWF計画。YF-16とYF-17が候補に上がった。

*2 それでも戦闘機全体から見れば機体規模が小さいので安い方ではあり、技術的機密性の低さから輸出しやすいと言うメリットはあった。実際にこのへんの理由から「F-15の導入は価格面で見送ったが、F-16後期型は16初期型より高くなってもなお低コスト高能力のほうだったため導入した」という空軍はけっこう存在する。

*3 一応V2についてはガンダム公式文献では「リガ・ミリティアの内部書類上は量産機ということにはなっている」であったり「アニメーション作品としての扱いは置いておいて、作中設定では具体的な量産計画自体はある」などとフォローを入れる場合はある

*4 通常のフレイ・ボムに比べ射程は2倍に伸び、破壊力もオーラ・シップに搭載されたオーラ・キャノンに匹敵。

*5 モブに厳しい回だと文字通りMS強盗で調達のことすら珍しくない

*6 2022年のロシアによるウクライナ侵攻にて、ウクライナ軍が試作歩兵戦闘車を運用している事が確認されるなど、全く例が無いわけでは無い

*7 事後軍師的なことを言っていいのなら、だが、旅客機のジェットエンジンに近い構造の高出力エンジンなのでそもそもこの問題を避けられない面はあった

*8 客車部分は完全に新規設計。

*9 設計開始はハーミーズが、就役は鳳翔が先

*10 独・伊の絡む戦線で連合国側代表だったイギリスが空母の実用化・量産化に成功していたといたのが大きい。レンドリースでアメリカの艦載機が多数イギリスにわたっているのもこの「そもそも空母がいっぱいいる」も理由のひとつ…複葉機の時代じゃなくなってきたので至急新型の雷撃機・艦爆がいるとかもあったけど。

*11 挙げたイタリアも現在はVTOL機のみ運用可能なものであれば持っている

*12 特にN700S系は単純計算で半分近くある東京~新大阪が300km/h運転自体が不可となっている。これは200km/h台前半が最高の0系前提の設計で線路が敷かれたため

*13 現在主力の227系は「広島エリア内では」何両編成なのかが線区によって違うだけで全部同一設計だが、これもJR西日本全体でならさまざまなバリエーションが存在する。これも第一陣の広島地区投入から時間がたったことにより改造型(厳密には図面段階での変更なので改良型)が追加されたことによる。

*14 ただし国鉄型車両については「労組と揉めるのの回避のために、本来なら書類上新型となる車種を無理やり「似てるからこの既存車種の派生」とすることが極めて多かった・それが広島地区では長らく残存するケースが結構あったという理由もある。115系2ドア車とかがこの例

*15 実はこれ、専用機の項目でも紹介されているように、本邦の航空自衛隊が同じ機材管理・パイロットと機体の対応システムを導入している。さすがに特定機体に対する責任者(整備機付長)はいるが。