ヘティ・グリーン

登録日:2016/5/10 (火) 16:12:00
更新日:2024/03/12 Tue 14:57:57
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ヘティ・グリーン(1834~1916)は、19世紀から20世紀初頭にかけてのアメリカの女性投資家・資産家であり、史上最も有名なドケチである。


その資産は1億2000万ドルとも言われる。
(現在の価値に換算すれば確実に0が一つは増える)

同時代の女性では最も資産を持っていた人物であり、まあ要するに、並みいるアニメや漫画の世界の金持ちキャラと同席しても遜色ない実在の人物である。
その凄まじい相場勘から、「ウォール街の魔女」と綽名された。


生家は代々続く資産家で、両親が没した時には100万ドルの財産と400万ドルの信託財産を相続した。
この時点で、すでに十分な金持ちキャラである。


だが南北戦争後、戦後の混乱の中で価値が暴落していたアメリカ国債を買い漁るという行動に出る。
その後、アメリカ経済は順調に回復。
彼女はさらなる富を得る。
(なおこのエピソードには異説があり、ヘティは南北戦争中にアメリカ国債を買い漁ったとも言われる。
その場合はもし南軍が勝てば無一文になっていたことになるが、工業生産力は北部が圧倒的だったため、それを知っていれば大穴どころか鉄板馬券のようなものと言える)


その後も鉄道業への投資などによって更に巨万の富を得る。
さらに1907年の恐慌の時、その勘により発生前に全ての銀行から預金を引き出して現金を確保していたため、全くの無傷で切り抜けた。
ちなみにこの時に100万ドルを現金で引き出された銀行は翌日潰れた。
お金は集まるところに集まるのである。

このようなエピソードから、決してただのケチではなく、才能と決断力を持った女性であったことがうかがえる。



ここまでであれば、彼女は自分の才覚で巨万の富を得た立派な人物である。
だが現在、彼女の名前は投資家・資産家としてではなく、伝説的ドケチとして知られている。



ドケチ伝説


いずれも、彼女が1億2000万ドル(現在の日本円に直せばざっと一兆円)という当時世界屈指の財産を持っていたことを念頭に置いて読んで欲しい


  • 若い頃の彼女はかなりの美人だった。声をかける男も絶えなかったが、「全ての男は自分の財産目当て」と固く信じていたため、自分と同等の資産を持つ男としか結婚しようとしなかった(前述のように、彼女はこの時点で相当な資産家である)

  • ようやく貿易商エドワード・グリーンと結婚するが、財産は別々に管理し、夫が破産するとさっさと離婚。でも商売上の必要から生涯グリーン姓を名乗った

  • 服を買うのが勿体ないので、一着の黒い服だけを持ち、ろくに洗濯もしなかった(黒なのは汚れが目立たないから、という理由)

  • ちなみに冬場は服の下に新聞紙を入れてしのいだ

  • 水や石鹸も惜しみ、風呂もロクに入らず、手すらロクに洗わなかった

  • 世界屈指の富豪なのに子供二人と粗末な安アパートに住んでいた。19世紀から20世紀初頭のことであり、快適さなどは推して知るべし

  • おまけに税金を払うのが嫌で、偽名を使って住居を転々としていた

  • 税金逃れにもいろいろな伝説があり、家の名義を犬にして「犬だから払えないよ」と言い張ったという伝説もある

  • なくなった「2セントの印鑑」を一晩中探し続けた(あんた、1億ドル持ってんだろ?)

  • もちろん食事も質素で、食べ物を温める光熱費が勿体ないため朝は冷たいオートミールを好んだ

  • 取引先に出かけて貧乏人に間違われたこともあったというが、はっきり言って当たり前である

  • 激痛で有名なヘルニアを、治療費を払うのが惜しくて我慢

  • ギネスブックに「世界一の女性資産家」ではなく「世界一のドケチ」で掲載


そして極め付けが息子ネッド・グリーンのエピソードである。
彼が足を脱臼した時、少しでも治療費をケチろうとまずはなんとか自分で直そうとする。
無理だとわかると、今度は貧困層向けの無料の診療所に担ぎ込む。
身元がばれると当然追い出されるが、そんなことをやっているうちに息子は手遅れになり、
結局足を切断する羽目になってしまった。

もっともヘティも流石にこの件では反省したらしく、その後息子に英才教育を施す際の資金は惜しまず、
息子の放蕩癖にもある程度目を瞑った。



そんなヘティの最期についてはおおむね二通りの伝説があり、友人の家の食事会に招待された際に、
出された料理があまりに豪勢だったために激怒して脳卒中を起こした、というものと、
脱脂粉乳が贅沢かどうかという点についてその家の料理人と口論をしていて脳卒中を起こしたというものがある。
どっちにしても、1億ドル持ってる人間のやることでは無い気がする。

なお息子ネッドは上記のような仕打ちを受けたにもかかわらず母を嫌ってはいなかったようで、看護師を雇って瀕死の母を看病させ、
さらに彼女たちに私服で看護してくれと頼んだ。
プロの看護師を雇ったと知ったらまた脳卒中を起こしかねないから、というのが理由である。


その後母の遺産を受け継いだ息子ネッドは、幼い頃の極貧(みたいな)生活の反動からかさらに放蕩にふけるようになり、
こちらは伝説的浪費家として名を残すことになった。

ヘティの娘でネッドの妹のシルビアは、やがて兄の遺産も受け継いだことによって母に続いて世界一資産のある女性になった。
人目を避けるように家の中に引きこもって生き、母と似たようなケチだったとも言われるが、一応慈善事業にも資金を出すなどした。
なんとも正反対の親子&正反対の兄妹である。


アメリカには他にも何人か伝説的ドケチがいる。
例えば浮浪者同然の生活をし、最後は暖房費をケチって凍死し、その後五十万ドルの資産をタンス預金していたことがわかったスティーブン・シニアー、
二十五万ドルという大金を相続しながら、「自分で稼いだわけじゃない金など使いたくない」と、浮浪者同然の極貧生活を送ったジェームズ・E・ハウ、
あるいは週に1ドル27セントで生活して八十万ドルを貯めたジョン・R・キーズなどである。
しかしヘティの財産は彼らと比べても文字通り桁違いであり、また若い頃貧乏で苦労したというわけでもなく、
そのドケチに賭けたモチベーションには呆れを通り越して畏怖すらも覚える。


まあ、もし彼女が二次元世界に来たら、中川圭一三千院ナギ御防茶魔といった辺りよりも、
両津勘吉摂津のきり丸、二次設定博麗霊夢といったあたりと意気投合するだろう。
あとスクルージ・マクダック(ディケンズのほうではなくディズニーのほう)とは仲が悪そうだ。



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最終更新:2024年03月12日 14:57