天草遊泳中女子中学生サメ襲撃事件

登録日:2016/07/26 (火) 14:44:44
更新日:2025/03/24 Mon 07:00:27
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※この項目では実際に起こった凄惨な獣害事件を明記しています。閲覧には注意してください。


概要

1982年8月29日午後1時40分頃、熊本県天草郡大矢野町(現在は上天草市大矢野町)の沖に浮かぶ羽干島近くの海で、熊本市の会社員Aさん一家がヨットを楽しんでいた。

長女B子さん(13歳)と弟2人が「泳ぎたい」と言い出したので、Aさんは3人に救命胴衣を着せてヨットの船尾に結んだロープと繋ぎ、ヨットを走らせながら引っ張っていった。
B子さんは扇形に泳いでいた3人の真ん中にいて、弟たちより1メートルほど長いロープを付けていた。

30分程たった頃、B子さんが「お父さん、(ロープを)引っ張って…」と声を上げた。
Aさんは引き上げようとしたが間に合わず、B子さんは悲鳴を上げて一瞬の内に海中へ沈んでしまった。

Aさんは力づくでロープを引っ張って救い出したが、B子さんは胸の下半分から下腹部にかけて喰いちぎられており、内臓もほとんど無い即死状態だった。
遺体には鋭利な刃物で切り取られたような歯型の痕も残っていたため、サメの仕業と断定されることになる。


解説

当時の読売新聞の紙面によれば、有明海を含む島原湾一帯はタイの好漁場であり、豊富な餌を求めて東シナ海からサメが回遊してくるため、サメ研究家の間で「サメ銀座」と呼ばれており、鯛釣り漁シーズン前の6月から7月にかけては地元漁協によるサメ駆除が行われていたという。
また朝日新聞西部版の記事でも、江戸時代から事故の約15年前までは天草周辺の海域でサメ漁が行われていたが、事故直前は北洋で水揚げされたタラの冷凍すり身が流通するようになったことからサメ肉の価値がなくなり、サメ漁も下火になっていたという。それでも地元の大矢野町漁協によるサメ駆除は行われていたが、体長70-80cm程度のシュモクザメが数匹かかる程度だったという。

なおインターネット上ではB子さんを襲ったサメの種類をシュモクザメと断言する記述が複数見受けられるが、事故当時の新聞報道でも、後年の2005年に海洋研究家の矢野和成氏が出版した著書『南の島の自然誌 沖縄と小笠原の海洋生物研究のフィールドから』でもサメの種類は断言されておらず、不明のままである。
AさんもB子さんの遺体に残っていた歯型からサメに襲われたことは間違いないが、サメの姿までは見ていないと証言している(朝日新聞西部版1982年8月30日朝刊より)。
同記事に掲載された熊本県水産試験場の資源調査部長のコメントによれば、有明海周辺には確かにシュモクザメは多いが、ホホジロザメ(ホオジロザメ)やアオザメ、ツマグロといったいわゆる人食いザメが迷い込むことも考えられるという。
一方で毎日新聞の取材を受けた「大分生態水族館・マリーンパレス」(現「うみたまご」)の館長・高松史朗氏は、出現海域などから見て襲ったサメの種類はヨシキリザメではないかと推測しているが、これも確証はなく、推測の域を出ない。

なお2001年8月16日付の毎日新聞西部版記事に掲載された国営沖縄記念公園水族館(現在の沖縄美ら海水族館)館長・内田詮三氏やサメ専門家の谷内透氏(日本大学資源科学部教授)のコメントによれば、シュモクザメは人間を全く襲わないわけではないが、襲撃例は稀とのこと。
内田氏によれば日本近海に生息するサメの中でも特に危険なサメはホホジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメ の3種類だが、後者2種類は奄美諸島以南にしか分布せず、この中で本土近海に分布するのはホホジロザメだけであるという。

ゆえに現状で確定できるのは、「B子さんを襲ったのはノコギリ状の歯を持つ体長4〜5メートルの大きなサメで、遺体には長さ30cm×幅20cmの噛み痕が残っていた」ということだけである。
いずれにせよ、事故から40年以上が経過した2024年12月現在ではその個体も既に寿命を迎えているだろうし、もはや調べようもないと思われるが。


サメの危険性

日本ではクマに次いでサメの獣害が多いとされている。
もっともクマと違って人的被害はほとんどなく、多くは漁場の食害被害や漁具の破壊などである。
水陸両用のワニも定着していないため、水辺での安心度は高いだろう。

なので一般的な海水浴場ならば問題無いが、日本は海洋獣害に遭いやすい島国である事を忘れてはいけない。
海に慣れた漁師やダイバーでも、これら被害に遭う事は往々にしてあり得る。
本事件の様なシャークフェンス*1の保護が及ばない外洋は、やはり素肌で泳ぐべきではないだろう。

そんなサメたちも高級食材フカヒレの材料とあって乱獲され、あのホホジロザメも近年は絶滅危惧種となっている。
海は海洋生物の生息域であって、人間はそのおこぼれを海産物として頂戴しているに過ぎないのだが…





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最終更新:2025年03月24日 07:00

*1 サメの侵入を防止するため漁場や海水浴場に設置する、ポリエチレン等で作られた網。別名シャークネット