ホホジロザメ

登録日:2019/09/23 Mon 19:25:00
更新日:2025/08/12 Tue 12:51:35
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ホホジロザメとはネズミザメ目ネズミザメ科のサメである。
ネズミザメ目下ではあるが本種のみでホホジロザメ属を形成している一属一種の種である。

英語ではgreat white sharkといい、直訳すると「巨大な白いサメ」となる。
日本語での正式名称はホホジロザメだが、発音や語呂的な問題からかホオジロザメと表記されることも多い。

現生でも世界中の海に400種以上生息するサメ類の中でも抜群の知名度を誇り、サメと言えば大口を開けた同種が真っ先にイメージされるなど、
人間にとってはサメの代名詞にしてシンボル的な扱いを受けている種である。

なお、前述の通り、本種は「ホホジロザメ」が日本における正式名称になっているが、
「ホオジロザメ」という呼称の方が定着している為、当項目でも以降ホオジロザメと表記する。

概要

名前の通り頬を含めて体の下半分が真っ白であり、どっしりした筋肉質な体型とあわせ、他のサメとはまず間違えない外見をしているのが特徴*1
平均して4mほどの巨体に成長する大型のサメだが、総じてオスよりもメスの方が大きい*2

後述する理由から、数いるサメの中でもかなり知名度が高い本種だが、その生態は意外にも謎に包まれており、
例えば「何処で繁殖しているのか」は未だに明らかになっていない。
最近では魚類の中でも高い知能を持っている事が明らかになっており、
過去の成功と失敗を活かし、効率的な狩りを経験から学習していくという魚類としては他に類を見ない一面を持っている。

また、本種は「サメの中では」最大級の殺傷力を持つのだが、「魚類の中でも最強か」となると疑問符がつく。
そもそもサメというのは「生きた化石」と呼ばれるなど、魚類の中ではかなり古いタイプの生物である。
もちろんそれは幾多の環境変動に耐え生き残ってきた証ではあるが、「戦って強いかどうか」は話が別である。
最大の特徴は全身の骨が軟骨であるという点で、このためサメは体があまり頑丈ではない
(余談だが、サメの「歯」と呼ばれるものも骨ではない。鱗の進化したものである。何度も生え変わるのはそのため)

ホオジロザメはサメの中では最高クラスの遊泳能力を誇るが、それでも最高速度は35km/hで、
これは大型海洋生物としてはせいぜい中の下といったところである。
クジラ・イルカは50km/h、カツオは60km/h、マグロは80km/hとホホジロザメをはるかに凌ぐ。
アザラシやオットセイをよく食べる理由は、オットセイがホオジロザメよりも遅いからである。
また、スタミナにも乏しく、こうした硬骨魚類や海棲哺乳類をまともに追尾するのは困難のため、
捕食する際には獲物を待ち伏せし、海底から派手にジャンプして捕らえる戦法を多用する。
襲う際には海面から顔を出すが、その時は白目をむいて眼球を保護する*3

また、全身が軟骨であるということは、強固な肋骨や背骨などを持たないということでもあり、実際は打たれ弱い。
それこそ、より小柄で筋肉の塊であるバンドウイルカにタックルでもされれば、一撃で内臓破裂を引き起こして致命傷になる

人間に本種が「最強の魚」というイメージで語られ、恐れられた背景には、
人間を食べられるような巨大な口を持つ魚がサメぐらいしかいないこと、海中において人間が弱すぎること、
更には生息域が人間が遊泳する沿岸部でもあり、遭遇する機会が他の鮫と比べても多いことがかみ合った「誇張の産物」である。
確かに肉食ではあるが、そもそも海の生物はほぼ肉食である他*4、細部を見ると特別に優秀な能力があるわけではない

ホオジロザメが「最強の魚」と呼ばれたのは、その体格と「人間から見た危険度」に由来するもので、
その実態は必ずしも「海の王者」と呼べるようなものではなく、本種にとって天敵と呼べる生物も存在する。
むしろ「人間にとって最()の魚」と呼ぶべきだろう。


生息域

世界の熱帯~亜寒帯の地域と広く生息しており、恐ろしいことに日本近海にも生息している。
日本でも、必ずしも本種とは限らないが、「サメ(らしき魚影)が確認された」という理由で一時的に海水浴場が閉鎖されることもある。
海水温上昇により北に広がることが予測される。


被害

世界各地で被害が報告されている。
日本でも、ホホジロザメの襲撃によるとほぼ断定されている死亡事故が少なくとも2件確認されている。

1件目は1992年3月8日に愛媛県で発生し、いわゆる「瀬戸内海サメ騒動」の発端になった事故。
海面に浮かぶ漁船から空気を送ってもらいながら海底に潜ってタイラギ漁をしていた男性が「引き上げてくれ」と慌てて無線で漁船に伝えたがそのまま反応が途絶え、
引き上げるとズタズタに引き裂かれたダイバースーツとサメの歯だけが残されており、行方不明になった男性は後にサメによる襲撃が原因で死亡したものと断定された。
サメの専門家である仲谷一宏氏が遺品のダイバースーツを鑑定したところ、サメの歯型が確認されただけでなく、
ごく小さなサメの歯の欠片が発見されたが、この欠片にはホホジロザメなどのサメの歯の特徴であるノコギリ状の小さな歯があったことから、
全長約5mのホオジロザメによる襲撃事故と断定された。
この事故は日本で発生したサメによる死亡事故としては初めて、襲撃したサメの種類が科学的に特定された事例である。
この事故の前後にも現場近くの海域では巨大なサメによる襲撃事故が相次いでおり、
犠牲になったダイバーの弟も同様にタイラギ潜水漁の最中にヘルメットを噛み付かれる被害に遭っていた。
このように現場周辺の海域でサメによる襲撃が相次いだ要因として、事故前年の1991年秋ごろから瀬戸内海に黒潮が例年より強く流れ込む傾向にあったことから、
瀬戸内海の海水温が例年より高い傾向にあったこと、そしてサメやその餌となる生き物たちが黒潮に乗って多数瀬戸内海に流入していた可能性が指摘されている。
またサメがダイバーを狙って襲撃してきた理由については、潜水漁の際に装着するヘルメットに内蔵されている通信機から電磁波が発されていたことから、
水中で魚が筋肉を動かす時に発生する微弱な電磁波にも反応できるほど電磁波に敏感な生き物であるサメはそれにつられて接近してきたのではないかと考えられている。

2件目は、1995年4月9日に愛知県の渥美半島沖で発生した事故。
愛媛県の事故と同じく、海底に潜ってミル貝漁をしていた男性が襲われ、彼から連絡を受けた仲間たちが大急ぎで漁船に引き上げたものの、
男性は右腕は食い千切られていた上に腹部から右肩にかけて巨大なサメが食らいついており、即死状態であった。
男性の仲間たちは「仇討ち」として彼を噛み殺したサメを探し回ったが、結局それらしきサメを見つけることは出来なかった。
ただ、こちらも仲谷氏の鑑定により、被害者の遺品に残っていた歯型の大きさや目撃証言などから全長約5m程度のホオジロザメによる襲撃事故と断定されている。


映画とホオジロザメ

現在では数あるサメの中でもぶっちぎりの知名度を誇るホオジロザメだが、かつてはそこまで有名な存在ではなかった。
その生態も知られていなかったため、かつては実際に被害者が襲われているのが確認されるまで、
誰も何が人を襲っているのか分からなかった*5というホオジロザメによる獣害事件がアメリカで起こっている*6

そんなホオジロザメを一躍有名にしたのが、サメ映画の原点にして頂点と名高い『JAWS』である。
最早サメといえばジョーズ、或いはホオジロザメといえばジョーズと言っても過言ではないほど、ホオジロザメの存在を恐怖と共に世間に知らしめた。

ただし、この映画が与えた影響はいいものばかりではない。
映画のイメージから種類を問わず「サメは人を襲う凶悪な生物である」という間違った印象を持たれてしまい、
その印象に基づいて一時期駆除が横行した結果、元々繁殖力が低いことも相まって、サメは著しくその数を減らしてしまった
ホオジロザメとシロワニ*7に至っては絶滅危惧種に指定されている。
実際のところ、人を襲うサメの割合は少なく、寧ろジンベエザメやウバザメのように大人しいサメの方が多い

もちろんホオジロザメは人を襲う種の一つであり、実際に襲われてしまえばほぼ間違いなく死に至る怪我を負わされるため、危険度が高いのは事実である。
だが、『JAWS』などのサメ映画のイメージとは異なり、ホオジロザメが進んで人を襲うようなことはあまりない
サーフボードから手足を乗り出しているサーファーを主食であるアザラシなどと誤認した、怪我をするなどして海の中で流血している人間の血の臭いに引かれた等、
人間が襲われたケースは原因や理由が判明していることが多く、理由なく突然襲われたというものは少ない。
そもそも海に住んでいるサメからすれば、地上に住む人間など「見慣れない・得体の知れない動物」でしかなく、わざわざ食い気を出すような存在ではないのだ。

ただ、積極的には襲わないだけで下手にホオジロザメを刺激したり、相手が空腹時に出くわしたりすれば襲われる危険性はある。
他の野生動物と同じように、不用意に近付いたり接触したりすることなく、不測の事態に備えて警戒し、なるべく関わらないのがベターである。
少なくとも、泳いでいた海水浴場にホオジロザメが現れたという情報が入れば、すぐさま海から上がる、
ホオジロザメが生息している海域でダイビングなどをするならば自身が流血したりしていないか確認するなど、襲われない努力はしよう。


天敵

サメ類の中では最強クラスの捕食者であるホオジロザメだが、我々ヒトを含めて天敵は存在する。
その中でも有名なのがシャチである。

可愛らしい容姿には似つかぬ『海のギャング』『海の王者』という二つ名を冠するシャチの中には、ホオジロザメを積極的に餌にしている種などもいる。
高い知能を持つシャチはホオジロザメをひっくり返して擬死状態に陥らせてから襲うため、狙われればひとたまりもなく一方的に捕食されてしまう。
また沖合に住むシャチはホオジロザメを積極的に捕らえる個体が多いと言われている*8

近年の研究では、どれだけ餌が豊富な海域でも一度シャチが現れると姿を現さないというケースもあり、ホオジロザメは本能的にシャチを避けているという研究結果が出ている。
これはホオジロザメが魚類としては高い知能を持っているが故であり、シャチに対して恐怖を感じているのではないかという説もあるらしい。

他にも幼体や小型の個体であればイタチザメやオオメジロザメなどほかの大型種のサメに捕食されたり、時には共食いされてしまうこともあるという。

また、上述した通り軟骨魚という限界から「大柄」という以外は脆弱な点が目立つため、シャチ以外のイルカ類やクジラ類もことごとく天敵。
そもそもイルカやクジラは哺乳類なので、骨格の頑強さや筋肉のつき方が魚類とは根本的に異なり、パワー・スピード・防御力が段違いで、知能も極めて高い。
そのため、バンドウイルカはホホジロザメを見つけると(特に子供を守ろうと気が立っている場合などは)、
いきなり突撃をかけて、頭突きで内臓を破壊したり、鋭利な口吻で突き刺したりして殺してしまう。しかもサメの急所を的確に狙うという。

ちなみにイルカの仲間ではシャチに次いで大型で獰猛さもシャチに次ぐと言われるオキゴンドウも別種のサメを狩るところが観察されており、
今のところ成体を狩るところは観察されていないが、大型のクジラを襲う本種ならホオジロザメを狩ってたとしてもおかしい話ではない。

当然、マッコウクジラザトウクジラなど体格でもホオジロザメを上回る相手には手も足も出ない。

ホオジロザメがイルカを襲うこともないではないが、それは群れをはぐれた子供や老体ぐらいのようだ。


飼育

残念ながら現時点で展示をしている水族館は世界のどこにもない
最も大きな理由はホオジロザメを飼育するには膨大なスペースが必要だから
ホオジロザメは広い外洋を高速で泳いでおり、かつ常に泳ぎ続ける必要がある*9
水槽にぶつかり怪我をしてしまうなど
設備が整い、巨大な水槽のあるアメリカの水族館ですら結局衰弱させてしまってやむなく野生に返しており、
日本でも2016年に捕獲された個体が美ら海水族館の水槽で展示されたものの、わずか3日で死亡してしまっている*10

飼育は可能かもしれないが、展示は相当に難しいだろう。


食用?

一部地域では「ネズミザメ」や「アブラツノザメ」などといった食用のサメが食材として利用されており、一般的に流通していないホホジロザメも一応食べれるようである。


ホオジロザメをモチーフにしたキャラ

映画のモデルとなって以来、サメの中でも特に有名になったからか、国を問わず様々なキャラクターのモチーフとして使われる。
大抵は悪役か怖いキャラが多い。
キャラ名等 作品名等 備考
グラン・ブルース ビューティフルジョー
ホーディ・ジョーンズ ONE PIECE
シャーク マリンハンター
サメハダー ポケットモンスター
アビソドン 仮面ライダーディケイド サメ型モンスター二体が合体した姿。
グレート・ホワイト 遊戯王
トーシロザメ 妖怪ウォッチ
ホージロー マリオシリーズ
ブルース ファインディング・ニモ シュモクザメのアンカー、アオザメのチャムと組んで「魚食断ち」を行っている。
ホオジロ サメーズ
ガルベストン 九魂の久遠
レトロ アクアリウムは踊らない 物語の根幹に関わるネタバレのため伏字

余談

  • その知名度・危険性の両方の面からイタチザメ、オオメジロザメを含めて世界三大人食いザメと称されることもある。

  • あまり知られていないが、実は自力で水面から顔を出したりその状態のまま泳ぐ事ができる唯一のサメでもある。これは主な餌であるアザラシやアシカを狩る為に得た能力という説も。



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最終更新:2025年08月12日 12:51

*1 唯一同じネズミザメ目のウバザメとは似ている

*2 オスは最大でも4mほどにしかならないが、メスは6mとかなりの巨体に成長する。

*3 ネズミザメの仲間はメジロザメの仲間と違い、目に「瞬膜」というまぶたのような膜が無い

*4 サンゴ礁・岩礁に住む種には植物食もいるが、魚全体から見ると珍しい。もちろん肉食と言っても、動物プランクトンを食べているものが多く、人間を襲うサイズの魚自体が少数である。

*5 当時、ホオジロザメは北半球には生息していないと思われていたため

*6 下記の『JAWS』の元ネタとなった事件でもある

*7 こちらは見た目こそ恐ろしいが「巨大な子犬」と呼んだ学者もいるほど温厚な種で、映画のとばっちりで駆除されまくったと言っても過言ではない。

*8 サメの肝臓が非常に栄養価が高いので、肝臓のみ食べてあとは捨てるといったこともある

*9 マグロと同じように泳ぎ続けないと呼吸ができないため

*10 アメリカの例では大型水槽を特注。小型のホオジロザメに限定し、さらに綿密に輸送計画を立てる等しても半年ほどしか展示できていない