大空魔竜ガイキング(松本めぐむ版)

登録日:2018/04/01 Sun 23:32:21
更新日:2024/04/19 Fri 17:43:55
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本項目では、『大空魔竜ガイキング』の数ある漫画版……その内の一つ、松本めぐむ氏によるコミカライズ版を紹介する。


概要

アニメ版放送に併せて『テレビランド』誌で連載された作品で、著者は松本めぐむ(現:尾瀬あきら)。
本作でも『鋼鉄ジーグ』等で見せた著者の持ち味は相変わらず、同作でもピックアップされた「人間的な弱さのあるヒーローらしくないヒーロー」という主題のもと、
TVシリーズにおいてもテーマとして提示されていた、「侵略者の側も母星の喪失という危機に瀕している」という要素を大々的に取り扱い、
敵対勢力のゼーラ星人をTVシリーズ以上に故郷を失いつつある難民としての側面をより大きく描写し、
果ては『鋼鉄ジーグ』同様の「主人公メカのパワーアップイベントに対する懐疑」という展開にまで及んでいる。

……が、流石にやり過ぎて怒られてしまったのかは定かではないが、終盤戦を前に路線変更
ラスト直前の連載数話はそれまでのハード路線が何だったのかと言いたくなるくらいのコミカル路線に舵を切り、
ヤマガタケやハチローといったコメディリリーフを主役としたギャグ編を展開。
最終話についてもゼーラ星人侵略軍との決着を描いているのだが、中盤までのテーマ性の深い内容と比較して普通に激闘の末に敵を撃破するという、
良くも悪くもあっさりしたものになってしまった感は否めず、総じて終盤の展開については読者間でも少々賛否が分かれているのが実情である。
とは言え、結末については簡潔ながらもそれまでのシリアス編で積み重ねた描写を踏まえれば不思議な余韻を持ったものとなっており、そういう意味ではテーマを一貫できたとも言える。

尾瀬氏は本作を持ってして、自身のヒーロー像を描き切ったと感じ、コミカライズの仕事を絶ったと後年述懐している。

単行本は、70年代当時に傑作選形式のものが刊行された他、1998年8月に同著者の『鋼鉄ジーグ』ともども双葉社のアクションコミックスより完全版が刊行された。


物語

地球を離れること六千光年の彼方に存在するゼーラ星は、今ブラックホールに呑まれ、消滅しようとしていた。
生き残ったゼーラ星人たちは、マザーコンピュータ「ダリウス大帝」のもと地下都市でギリギリ生き永らえていたが、残された時間はあと僅か200日……
彼らはゼーラ星によく似た環境の惑星・地球への移住を計画していたが、ダリウス大帝はそれを更に強硬に推し進め、地球人類を抹殺した上での侵略を強硬する。

一方、地球ではゼーラ星人の侵略に対抗するため、大空魔竜戦隊が発足。
大文字洋三博士を救ったことでゼーラ星人の逆恨みを買い、投手人生を絶たれてしまったツワブキ・サンシローは
大空魔竜戦隊が保有する機動兵器・ガイキングの操縦士として、戦いの日々に赴くことに。
チームのクルー達は時に反発し、時に悩みながら、戦いの過酷な日々を過ごしながらも、
やがてゼーラ星人の中にも平和的に地球移住を望む者達がいることを知り、共存の道を模索するが……


登場人物


大空魔竜戦隊

  • ツワブキ・サンシロー
主人公。ガイキングの操縦士。
野球チーム・パイレーツの新人投手であり、連続81イニングス無失点の新人王候補という逸材であったが、
大文字洋三博士をゼーラ星人の魔の手から救ったことで、ゼーラ星人の報復を受けてしまい負傷。
腕の怪我で投手人生を絶たれてしまい、自身の未来を奪った敵への復讐心から大空魔竜戦隊に加入する。
元々大文字博士からガイキングの搭乗員としても目にかけられていた程の逸材であり、
結果的にサンシローの不幸は、地球にとっては幸運とも言える結果となったと言える。

こういった経緯故か、ゼーラ星人に対する戦意も旺盛で、捕虜にしたゼーラ星人の私刑行為には否定的な立場を取ったものの、
ゼーラ星の寿命が残すところあと200日と聞いた時には「ゼーラ星なんかさっさと吸い込まれてしまえってんだ」とのたまったことも。
そんな彼も、ゼーラ星人もまたダリウス大帝の圧政下に置かれた被害者であることを戦いの中で理解してゆき、地球がゼーラ星人達を救う事を信じるようになっていったが……

  • ピート・リチャードソン
大空魔竜戦隊のリーダー。
当初はリーダーとしての重責故か、高いところから他社を見下ろしがちな側面が目立ち、
捕虜にしたゼーラ星人を独断で私刑にしようと提言するなどの行動が見られ、それ故他のメンバーとの衝突も絶えなかったが、
暗黒ホラー軍団の使者・ブラックフォッグとの邂逅を経て、彼もまたゼーラ星人を救うべく国際連合に呼びかけるまでになった。

父親のトニー・リチャードソンは軍需産業の人間、所謂「死の商人」であり、それ故に弟のデビッドを失ってしまった事から、「兵器」に対して深い嫌悪を抱いている。
TVシリーズではアメリカ海兵隊出身のトップガンであったが漫画ではその設定もなく、むしろ上述した出自故に「軍人」という職業に対してもかなりの反感を持っている模様。

  • フジワラ・ミドリ
大空魔竜戦隊の紅一点にして、大文字博士の養娘。
正規の訓練を受けた立派な戦士だが、一方その性格ゆえに非情さを捨てられない弱点も持っており、
捕虜にしたゼーラ星人を(ピートが私刑を仄めかしたとはいえ)混乱に乗じて逃がそうとする愚挙に及んだことも。
出自はTVシリーズ同様に異星人で、それ故に亡国の住民達であるゼーラ星人達に無意識の内に同情している節があったが、
ゼーラ星人の難民誘導装置を破壊するか否かを迫られた際には、葛藤の末に地球の未来のため装置を破壊する決断をした。

  • サコン・ゲン
大空魔竜戦隊の頭脳というべき人物で、実質的なチームのまとめ役。
色々と反発しがちなメンバーの扱いに苦慮しながらも、彼らを一致団結させるべく日々奮闘するチームの苦労人。
ガイキングに対しては単なる一兵器以上の感情を抱いているようで、大文字博士からガイキングの強化を提案された際には、
激化する戦いの中でガイキングがただゼーラ星人に殺戮を振りまくだけの「死の機械」になることを恐れ、固辞していたが、
結局暗黒怪獣の猛攻に立ち向かうべく自身の発明した各種兵装をガイキングに搭載。その後の戦いぶりを見て力なく崩れ落ちてしまった……
が、路線変更後は心境の変化があったのか、新メカを欲しがるハチローに対してガチ兵器を作る行為に及んでいる。

  • ヤマガタケ
剣竜バゾラー操縦士。元相撲取りで、怪力の持ち主。普段からふんどしや腰布一丁で過ごすことも多い。
路線変更後のエピソードでは一度彼を主役に添えた話がある。

  • ファン・リー
翼竜スカイラー操縦士。鋭い運動神経の持ち主。ほぼモブ。

  • ハヤミ・ブンタ
魚竜ネッサー操縦士。イノシシのような行動力の持ち主。ほぼモブ。

  • ハチロー
大空魔竜戦隊所属の少年メンバー。
大文字博士や麻子からは大空魔竜戦隊の「フロク」だの「おまけ」だの散々な言われようだったが、
路線変更後には彼が主役のエピソードが2本作られ、サコンの発明した「ハチローマシン」を駆って、サンシローの弟分としてゼーラ星人相手に中々の活躍を見せている。

  • 大文字洋三
大空魔竜戦隊司令官にして、ゼーラ星人による抹殺対象とされた地球の科学者350名唯一の生き残り。
時には温かく、時には厳しく大空魔竜戦隊のメンバーを指揮する、チームの大黒柱とも言える人物。


ゼーラ星人(暗黒ホラー軍団)

  • ダリウス大帝
ゼーラ星人達が母星の危機から逃れるために作り上げた全能のコンピューターにして、ゼーラ星の支配者。
ダリウス大帝の手により荒廃したゼーラ星に地下都市が建造され、大勢のゼーラ星人達が生き永らえているが、
次第に暴走を始め、四天王達が進めていた地球への平和的な移住計画を、地球人類を奴隷にする侵略作戦へと切り替えさせ、
地球の名だたる科学者の暗殺命令を出すなど手段を選ばなくなってしまった。

作中では一貫してゼーラ星人に圧制を強いる「諸悪の根源」としての扱いであり、地球とゼーラ星人の闘争の原因となった存在であるが、
TVシリーズとは異なり、漫画作中で大空魔竜戦隊とダリウスの決着が描かれることは終ぞ無かった。

  • アシモフ将軍
四天王・西の王。昆虫を思わせる様なデザインの仮面を被っている。
ゼーラ星滅亡に際しての地球移住に際して、当初は地球人に自分達の事を理解させての共存を考えていた。
またダリウスの事も、あくまで「プログラムだけで構成された全能のコンピューター」として考えており、
それ故ダリウスが独断で地球への強硬な侵略作戦を提示した際には流石に唖然とし、
地球侵略が決行された後も、地球の先住民たちの皆殺し命令に対しては未だ懐疑的な態度を抱いていた。

ちなみにアシモフ以下、デスクロス四天王はTVシリーズではガイキングと同等の背丈のロボットであるが、漫画では等身大の純粋なゼーラ星人という設定となっている。

  • ダンケル博士
四天王・南の王。
ゼーラ星が切羽詰まっている状況だというのに、全能の神・ダリウスの心が分からない事に苦悩していた。

  • キラー将軍
四天王・北の王。いつもガツガツ肉を食っているのがチャームポイント。
地球人との共存には懐疑的で、「野蛮人など支配して奴隷にしてしまえばいい」と豪語し、ダリウスの侵略作戦に対してもノリノリで従順していた。
アシモフ将軍からは「単純なゴリラ」と侮蔑されている。

  • デスモント将軍
四天王・東の王。
ダリウスに忠実な部下であり、彼の命令のもと地球の名だたる科学者350人を暗殺する凶行を行った。
が、サンシローの妨害で大文字博士ただ一人を殺し損ねてしまった事が、物語を大きく動かすことに……

  • ブラックフォッグ
本作中盤のキーパーソン。
四天王の配下として南極圏基地の指揮を執る黒覆面の人物で、南極の氷を誘拐させて地球を水没させる「ノア作戦」を任されていた。

その正体は死んだと思われたピートの弟・デビッド
かつて父親の秘密工場を爆破しようとして失敗、落命したと思われていたが、
実際は世間の評を気にした父の意向で死んだことにされ、本人は重い放射線障害を負いながらも生き延びていた。
その後南極の核ミサイル基地建設の報を聞き、病の身ながらも南極に単身赴くも、強大な基地の存在感を前に圧倒されてしまい、
自分一人がどう足掻こうと基地をどうする事などできないという事実に打ちひしがれ、絶望の中行倒れたところをゼーラ星人に拾われ、彼らの尖兵となった。
だが、ブラックフォッグ自身の真意は、滅びゆくゼーラ星人を地球側に受け入れてもらうよう手配することであり、
今わの際には大空魔竜戦隊に善良なゼーラ星人の命運を託して息を引き取った。

基地の指揮官であるが、地球人かつ重病人という事もあって他のゼーラ星人からはほぼ見下されており、
ブラックフォッグ自身がゼーラ星人のために裏切者の汚名を被った事を踏まえるとあまりにも悲壮な身の上とも言える。

  • ゼーラ星人/暗黒鳥人
暗黒ホラー軍団の指揮のもと活動する戦闘員。
TVシリーズ以上に「亡国の住民たち」という側面が強調されており、物語序盤で大空魔竜戦隊に捕虜にされた一兵士は
自分達の指導者ダリウスの恐ろしさや、地球移住を穏便に助力を申し込んだところで受け入れられないだろうと愚痴ったりしていた。
後に、ダリウスを打倒して平和的に地球へ移住しようと考える一派のゼーラ星人も登場、大空魔竜戦隊と協力関係を結んだが、
その直後に四天王による地球の主要都市へのミサイルによる無差別攻撃が敢行されるという事態に陥ってしまい、
結果、地球側からそれを口実に「ゼーラ星人を受け入れたところで、差別や対立は避けられないだろう」という事実上の門前払いを受けるという結末を迎えてしまう。
路線変更後はその煽りを受け、最終回を除いてほぼ「単なる悪役」になってしまった。


その他

  • ウィリアム・B・ブラッドフォード
南極の核ミサイル基地に所属するアメリカ海軍中佐。
決して悪人とは言い難いが、(ピートも軍人に対する暴言が過ぎたとはいえ)自分達の仕事を非難されて声を荒げたり、
大空魔竜戦隊がサコンとヤマガタケを人質に取られて基地の破壊を命令された際には彼らがそれに従うだろうと判断して大文字博士以下の面々を拘束しようとしたりと、
小物的な一面が目立つ人物。
直後にサコン達が脱出したと聞いて手のひらをあっさり反すも、当然ながら大文字博士からは厳しい言葉を返される羽目に。

  • 斉門博士
大空魔竜戦隊が各種兵装に用いるゾルマニウム鋼の開発者。
強化ゾルマニウム鋼の開発のためにコンバットフォースの元を訪れたが、暗黒ホラー軍団に娘共々拉致されてしまう。

  • 斉門麻子
斉門博士の一人娘。ハチローから想いを寄せられている。
ガイキングの操縦士・サンシローに憧れており、ハチローの事は大空魔竜戦隊の「おまけ」と辛辣に評していたがあながち間違いでもない
彼がハチローマシンで自分達親子を助けに来た事で関係が少し進展する事に。


登場メカ

  • ガイキング
大空魔竜戦隊の要とも言えるスーパーロボット。
作中では初期こそサンシローの未熟さから危機に陥る事もあったが、その後は最後までコンバットフォースの主力として在り続けた。
物語中盤で渋るサコンの手により強化改造を受け(TVシリーズと異なり外見上の変化はなし)、さらに強力な兵装を搭載。
スパロボなどで『大空魔竜ガイキング』を知った読者の中でも語り草となっている「フェースオープン」もしっかり描かれており、
作中におけるガイキングの強化に対する懐疑も相まって凄まじいまでの禍々しい演出で発動するに至っている。

  • 大空魔竜
大空魔竜戦隊の移動要塞にして本拠地。
TVシリーズ同様ガイキングと並ぶ主役メカとしての扱いであり、ガイキングを出撃させずに大空魔竜だけで暗黒怪獣を蹴散らすこともしばしば。

  • ハチローマシン
本作の路線変更後に登場した、サコンの開発したハチロー専用のメカニック。
見た目はテントウムシをデフォルメした玩具のような外観だが、戦闘メカとしての機能はガチ
斉門博士の開発した強化ゾルマニウム鋼で製作された、いわばガイキングの弟分とも言うべき機体であり、
翅をパタパタさせて空を飛ぶことができ、ミサイルに小型爆弾、笑いガスや泣き虫ガスを兵装として搭載、
必要とあらば本体に繋がった小型テントウムシメカを切り離し、基地一つを吹き飛ばす爆弾として運用する事も可能。
とてもガイキングの強化に葛藤していた人物が子供用に作ったメカとは思えない。






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最終更新:2024年04月19日 17:43