登録日:2018/07/07 Sat 19:52:29
更新日:2023/09/02 Sat 08:01:14
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はらせぬ恨みをはらし
許せぬ人でなしを消す
いずれも人知れず
仕掛けて仕損じなし
人呼んで仕掛人
ただしこの稼業
江戸職業づくしには載っていない
『必殺仕掛人』は朝日放送と松竹撮影所が制作。
1972年9月から1973年4月までTBS系列で放映された日本の時代劇である。全33回。
時代小説家の大家である池波正太郎の『仕掛人 藤枝梅安』を原作とするが、ドラマの内容についてはオリジナル要素の方が強く、これについてはドラマ(『必殺』)と原作ファンの双方から、其々に疑問を呈されている。
ただし、同作の
実写化作品としても別格的な人気を誇るのが『必殺仕掛人』でもあり、後に原作小説の方も本作に近い設定や世界観を採用することになっていったのもまた事実である。
当初は、作品内容の過激さを危惧する声が内外から挙がったものの、いざ放映を開始すると、カメラマンの石原興のこだわりによる明暗のコントラストを活かした映像美術や、平尾昌晃によるマカロニウェスタン調の劇判等のビジュアル面でも斬新な要素が多く、ドラマの充実もあって、社会現象となる程の人気を得た。
尚、パイロット版となる第1、2話の監督はプロデューサーの山内久二の希望により深作欣二が務めており、以降の『必殺』シリーズの指針がここで決定されたと言っていい。
また、原作付きである為か他のシリーズに比べて扱いが難しい部分もあるようだが、本作こそが『必殺』シリーズの元祖として知られている。
【制作の経緯】
当時の土曜の夜10時台の視聴率は、同年の元日より放送が開始された
フジテレビ制作の『木枯らし紋次郎』(主演 中村敦夫)が独占していた。
これに対し、朝日放送はバラエティー番組をぶつけてみたりしたものの結果は芳しくなく、ならば
時代劇には時代劇をとして制作されたのが本作であった。
制作サイドはドラマとしても人気を得ていた『
鬼平犯科帳』の原作者として、お茶の間にも知られるようになってきていた池波正太郎作品から題材を取ることを決め、しかも従来の時代劇から型破りであったことが魅力となっていた『紋次郎』に対抗するべく、池波が執筆を開始したばかりの
金を貰い恨みを晴らす殺し屋達を描いた短編『殺しの掟』と『おんなごろし』を元にプロットを制作することとなった。
尚、これらの作品はシリーズ化を開始された『仕掛人 藤枝梅安』に繋がる世界線ながら、まだパイロット版に近く、前述の様に『必殺仕掛人』の人気を得て変化していったシリーズ化後の描写とは食い違う部分もある。
基本的には勧善懲悪として描かれつつも、殺し屋を主人公とする作風で、クライマックス部分が裁き等ではなく直接的な“殺し”であるというドラマの内容は物議を醸し、放送局であったTBSが放送反対を表明する等の内部からの反対意見もあったが、中村敦夫の怪我により放送中断となった『紋次郎』の隙を突いて放送開始された本作は、関係者としても予想外の高い支持率を得ることになった。
結果的に本作は、後に復活した『紋次郎』をも越える人気を獲得。
これについて新聞は「仕掛人に仕掛けられた紋次郎」といった、洒落た見出しを付けたという。
尚、原作ファンからは大幅に原作を変えたと言われることもある『必殺仕掛人』だが、実際には上記の様にドラマが始まったのは原作小説の方も始まったばかりの時期だったために、制作サイドも独自に話を膨らませる必要があったからであった。
ただし、池波としても折角膨らませていこうと思っていた物語が、影響力のあるテレビドラマという形で本人の意図や影響力を越えて大きくなっていくのを危惧したと思われる部分はあり、制作サイドに「人を殺しすぎている」を
言い訳に申し入れをすることとなった。
これを受け、大好評の中で『必殺仕掛人』は元の放送予定の26話から、僅かに2ヵ月=7話分の延長をしただけの33話で放映を終了することになってしまった。
……これに困った制作サイドは、本作のフォーマットを元に独自のシリーズを展開していくことを決定。
こうして制作されたのが、第2作『
必殺仕置人』であり、同作にて登場した
中村主水は、後々までの『必殺』のシリーズ化を牽引していく顔となっていったのである。
【主要登場人物】
演:緒形拳
世間で評判の鍼医者で、派手な格好の洒落者で口は悪いが面倒見がよく、患者達からも信頼が篤い。
年齢は三十代半ば位。
実は、裏稼業では自慢の鍼を殺しに使い晴らせぬ恨みを晴らす凄腕の仕掛人。
殺しは金の為にやっていると公言する享楽主義者であるが、外道仕事はやらないというポリシーは持っており、決して外道仕事を許さない音羽屋半右衛門を信頼し、彼の子飼いと呼んでも差し支えない程に音羽屋一派との関係が深い。
原作の梅安も手裏剣を使うが、本作では針自体を投げたり、
火縄銃による包囲を走り抜ける程の身体能力を持っていたりと、体格こそ普通だが大柄で怪力の持ち主として描かれている原作よりも超人的なキャラクターとなっている。
「おんな殺し」によれば、藤枝宿の出身で、藤枝姓はそこから取られている。
父を失った後で母親が妹だけを連れて梅安を捨てて流れの男と出奔。
師である鍼医者の津山悦堂に拾われて活殺自在の鍼の業を仕込まれたということになっている。
後に、母親と同じ淫蕩な魔性の悪女となっていた妹のお美乃(演:加賀まりこ)は仕掛の標的となり、梅安自らの手で始末することになった。
原作と同様に食道楽だが、それ以上に原作には無い女好きとして描かれており、遊郭通いも頻繁に行い、標的だった辰巳屋の妾だったおぎん(演:野川由美子)を接触序でに籠絡して関係を持ち、自分の恋人にしてしまったりもした。
女遊びの裏には若い時分に武家の奥方にほだされて裏切られたという経験もあり、心の奥底から相手を信頼出来ないという面もある。
このように、刹那的な生き方をして深く考え込まないように心掛けているのは悲劇的な生い立ちからくるコンプレックスからともとれる複雑な印象を受ける人物である。
本作の事実上の主人公であり、レギュラーでも唯一全話に登場するがクレジットでは基本的には二番手に置かれている。
このため、媒体によっては梅安が最初に紹介されているが実際の位置付けは準主人公であり、実は“誰がどう見ても主役なのに主役じゃない必殺キャラ”の元祖は主水ではなく梅安である。
演じた緒形拳の魅力もあり、梅安の名は時代劇のニューヒーローとなった。
『必殺』に於ける坊主キャラクターの雛型であり、この梅安人気を受けて次作で誕生したのが、シリーズでも屈指の人気キャラクターとなった
念仏の鉄である。
演:林与一
横暴な家老を斬って陰山藩を脱藩した妻子持ちの浪人で、乞食同然の困窮の果てに辻斬りまで行っていた。
年齢は梅安と同じ位か、少し若い位だと思われる。
剣豪 中根元十郎に仕込まれた剣の腕は達人級で、標的が被ったために排除にかかった梅安と互角の切り結び(梅安は投げ針だったが)を行い、その腕を報告された半右衛門が接触して心を開かせていた。
半右衛門が正体を明かし、また辻斬りの事実を知っていたことでは緊張が走ったものの、仕掛人の仕事内容に興味を持ったのと再会した梅安の腕を改めて確かめたこともあってか家族には決して秘密を明かさず、危険にも遇わせないということを条件に仕掛人となる。
仕掛人となってからは梅安とも親交を深めており、元が理想家で真面目なだけにノンポリで楽天家の梅安と議論を交わすことも。
また、仕掛で得た金は道場の稽古職で得たと嘯いていたが妻の美代(演:松本留美)には疑われたことも。
仕掛の前には草笛を吹きながら現れるなど、後の剣術遣いとも違うニヒルな魅力のあるキャラクターである。
最終回では仕掛人組織の独り占めを狙う敵との戦いの中で、自らが仕掛人であることを離縁を覚悟して美代に告げて決着の後に一人で江戸を去ろうとするが妻と子に許され、家族で何処かへと去っていった。
同じく浪人から仕掛人に誘われながら闇に堕ちた神谷兵十郎(演:田村高廣)は左内のダークサイドとも呼ぶべきキャラクターで、本作の中でも特に印象的なゲストである。
また、主人公が殺しを伴侶に告白しながらも受け入れられずに孤独に去っていくというパターンは、第5作『必殺必中仕事屋稼業』の知らぬ顔の半兵衛の末路として描かれており、左内との対比として例に挙げられている。
演:山村聡
人情的な口入屋(日雇い派遣斡旋業)として知られる「音羽屋」の主人だが、裏では仕掛人の仲介を取り仕切る元締の一人。年齢は五十六歳。
自身も元は仕掛人であり、その頃は現在は江戸の元締集を束ねる大元締の音蔵(演:三津田健)の世話になっていたらしい。
依頼人に裏切られて島流しになってしまったこともあるが、それでも音蔵譲りの仕掛人としての信念を失わず、理不尽な権力者や島帰りの者や弱者への差別意識といった物を強く嫌悪している。
年の離れた妻のおくら(演:中村玉緒)とは島で出会っており、夫婦共に力ない市民の心を知る者として表稼業でも裏稼業でも弱い者の味方という意識を持っている。
一度に数十両から数百両もの金が動く仕掛人稼業であるが、基本的に金を自分の懐に残すことはせずに、稼業の維持費や梅安達への報酬、更には才能がありながらも世に出る機会を持たない人間の為に遣う等、何処までも人情の人である。
趣味は釣りで、左内とは釣り仲間という名目で付き合っている。
元は仕掛人というだけあって、老齢ながら腕は立ち、仕込み竿を携帯していたり、見事な太刀筋を披露する回もある。
決して外道仕事は許さず、依頼人に嘘があった場合は自ら制裁に乗り出す厳格さから梅安達からの信頼も篤い。
こうした、主人公達の元締は外道仕事を嫌う義に篤い人物というのも、以降のシリーズのお約束である(当たり前と言えば当たり前だが)。
※左内と音羽の半右衛門は『殺しの掟』からの引用だが、小説とは大きくキャラクターが違っている。
しかし、小説ではかなり印象の悪い人物として描かれていた半右衛門が、後の『仕掛人 藤枝梅安』にて最も信頼の於ける元締として長く付き合っていくようになったのは本作の影響と言われる。
また、演じる山村は当時ホームドラマの善き父親役として有名で、山村が演じている=主人公側が殺し屋なんかやってるが正義である、という認識を視聴者に自然にさせるためのキャスティングであったという。
演:津坂匡章
半右衛門配下の手代で、裏稼業に於いても梅安達の仕事のバックアップや繋ぎを行う。
口も態度も軽く女好きだが、梅安とは気心の知れた友人として付き合ったり、左内への疑いを然り気無く払ったりといった気遣いも見せる。
第30話で音羽屋の財産を狙う悪党一味 四ツ玉の勘次一派の拷問を受けて殺されるが、梅安の鍼で蘇生している。
尤も、それが最後の登場回となったが、これは中の人が次作『必殺仕置人』でも続投した為、そちらの撮影に参加する為だと思われる。
演:太田博之
矢張り音羽屋配下の手代で、裏稼業のバックアップもこなす千蔵の弟分。
何処かしら間抜けで剽軽な雰囲気のある千蔵に対して、生真面目で血気盛んな所の多い若者である。
矢張り梅安や左内からも可愛がられ、物語の途中で梅安の手引きで男になっている。
【映画版】
人気作だった為に、放送終了後から直ぐ後に三作が制作されている。
しかし、タイトルこそ同じ『必殺仕掛人』で基本設定は引き継がれているがテレビシリーズとは別の独立した物語となっており、テレビで展開されてきた『必殺』シリーズの映画化作品としては見なされていない。
『必殺』シリーズとして、初の劇場公開化作品となったのは84年の『必殺! THE HISSATSU』で、第21作『必殺仕事人Ⅳ』にして初だった。
また、第1作『必殺仕掛人』では藤枝梅安を田宮二郎が、西村左内を高橋幸治が演じていたが、観客からの要望を受けて第2作『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』と第3作『必殺仕掛人 春雪仕掛針』では、テレビと同じく緒形拳と林与一がキャスティングされている。
しかし、林の役柄はほぼテレビシリーズの西村左内そのままなのだが、役名が原作の梅安の仲間の一人である浪人 小杉十五郎に変更されている。
【余談】
- 本作の主題歌「荒野の果てに」のインストバージョンが『必殺』シリーズを通じてのメインテーマとなる「必殺!」である。
パパパ~♪のアレであり、歌入りの「荒野の果てに」も、前述の『必殺! THE HISSATSU』や、舞台等で歌われている。
最低でも三十両、相場は五十両以上と、後のシリーズではスペシャルでも無ければ登場してこないような仕事料となっている。
これは、原作版の描写を元にした為で、それこそ鉄や主水が目にしたら大はしゃぎしていたことだろう。
- 原作付き作品で終了の仕方も一悶着……ということもあって、シリーズを振り返る機会等には外されたりしていたこともあった。
しかし、シリーズ累計200回目となった『
必殺仕業人』第24話では過去シリーズの出演者達が多数、豪華なカメオ出演を果たしており、緒形の演じる梅安らしき鍼医者の姿も確認出来る。
- 原作者が同じである『剣客商売』においても殺し屋の名称として仕掛人が登場している。
追記修正 仕損じ無し!
- タイトルの(時代劇)って要らないんじゃない?原作とタイトルが同じとかならともかく -- 名無しさん (2018-07-07 21:58:52)
- 仕事料が法外に高いってあるけどむしろいつものシリーズが安すぎるとも思うけどなぁ。高すぎると庶民が依頼できなくなるから仕方がないんだが。 -- 名無しさん (2018-07-08 08:14:46)
- 依頼料の高さは「裏稼業(必殺)」である仕置人以降と違って「本職の殺し屋」という点も大きいと思うけどねぇ。ところでWikipediaに並んで人物名の「お」が無い -- 名無しさん (2018-07-08 19:37:40)
- ↑世界線が同じだとすると、元は元締制だった裏稼業のシステムが潰れて、残党や噂を聞いた新規が同じことやり始めて商売敵が増えた結果、相場が下がったり、元は受けないような安い仕事も受けるようになったからかもしれない。 -- 名無しさん (2018-07-08 19:52:33)
- 彦次郎さんがいないなんて・・・・。 -- 名無しさん (2018-07-10 09:43:28)
- ↑彦造の名前でゲスト扱いだったみたいですね。演じたのはおやっさん(小林昭二) -- 名無しさん (2018-07-10 10:05:19)
- ↑そうなんだ・・貴重なコメントありがとう。 -- 名無しさん (2018-07-10 10:08:03)
- 厳密に言うと、『彦次郎』の名前は左内の息子、山犬浪人に妻子を奪われた一件が上記の彦造、そして梅安の旧知の凄腕としてはかの問題作『地獄へ送れ狂った血』(もっとも小説『梅安晦日蕎麦』のほぼ忠実な映像化なのだが)にて短刀使いの源次郎にと三分割されている。ちなみに演じたのは後年『仕事屋稼業』で緒形氏と名コンビを組んだ林隆三氏だった。 -- 名無しさん (2020-04-06 18:04:22)
最終更新:2023年09月02日 08:01