SCP-3396

登録日:2019/04/09 (火) 22:16:48
更新日:2025/03/10 Mon 23:57:40
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終わり、始まり、そしてその間の、忘れられることの多い苦難の物語。




SCP-3396はシェアード・ワールド 「SCP Foundation」に登場するオブジェクトの一つ。
項目名は『The Empyrean Parasite (至天蟲)
オブジェクトクラスTiamat
攪乱クラスはAmida、リスククラスはCritical




はじめに

さて、いきなり特殊クラスを見せられて困惑した人もいるだろうが、一応言っておくとこれは情報災害ではない。
このクラスは簡潔に言ってしまえばKeterの上位互換のようなもので、脚注にて以下のように説明されている。

Tiamatクラスアノマリーは、財団にとって現在可能な資源と知識を用いてその影響を秘密裏に収容することができず、そのため基本的には財団の直接の戦術的関与の障害となる正常性に関するコンセンサスを改変もしくは完全に無効化するよう計画されている実体を指します。

…微妙にわかりづらいが要するに「財団がどんなに頑張っても隠蔽できないし一般社会に露出してるから、正常性とか無視した武力行使をする」と言えば恐らく大体あっている。
つまりこのSCiPがそれほどまでに強い影響力や拡散性を持っていることの証明でもある。現に元記事のACSでは撹乱クラス/リスククラスともに最悪のAmida/Criticalである。
ただしどこぞのApollyonのようなお手上げ状態ではなく、財団がオブジェクトと全面戦争をおっぱじめていると考えればある意味燃えるシチュエーションな気もする。
いずれにせよ当事者にとってはたまったものではないだろうが。




概要

クラスの説明も終わったのでオブジェクトの詳細に移ろう。

元記事では「変異原性の共生生物のゲシュタルト」とか「カテゴリー4異次元実体」とかややこしい言い方をしているが、SCP-3396の本質はずばり『極めて強力かつ危険な感染症』である。
といっても「感染者を絶対殺す病原菌」とかそういうのではない。てかそれだけなら場合によってはKeterも怪しい。
こいつの性質はそれとは真逆で「感染者自身を危険な実体に超強化してしまう」というものである。


SCP-3396の中枢はアメリカのデスバレーに根を張っており、樹木と昆虫の両方の特徴を兼ね備えた青緑色の実体である。
その幹や枝から、発光する青緑色の液体を垂れ流しており、周囲にはその液体によって浅い池が形成されている。
この樹木昆虫と謎液体は得体のしれない異次元物質からできているらしく、あらゆる物理的な手段での干渉が不可能である。
つまり撤去も破壊も不可能。感染源を排除できないとは非常に厄介だ。


そしてこの謎液体に触れたり匂いを嗅いだりした者はSCP-3396に感染し、SCP-3396-01となる。
SCP-3396-01の体には速やかに異常な組織が発達し、この謎組織はデスバレーに生えている樹木昆虫や謎液体と同じ物理的特性を示す。
つまり外科手術等では除去ができない。感染したら最後である。

SCP-3396-01となった者にあらわれる症状はランダムだが、どれも正常な人類にとって非常に危険なものである。
例えば、ある28歳の女性Dクラス職員の腕に謎液体を塗布し、何か変わったことはないか尋ねたところ、「私は火力を理解した」と発言。
直後に両手にガトリング砲を多数出現させて乱射したため、機動部隊が銃撃で応戦するとなんと身体を爆発四散させ、身体の破片で実験設備を破壊した。
その後も攻撃を受けるたびに自爆と再生を繰り返し、しかも破片は自爆するたびに更に高火力の武器に変化して実験チャンバーに壊滅的な被害を与え、37名が死亡する大惨事に発展。
こうして SCP-3396-01となった女性Dクラス職員はそのまま管理下から逃走。下手な漫画やラノベにも登場しないような最強全身兵器ガールが誕生する羽目になったのである。

また、今度は42歳の男性Dクラス職員に謎液体の匂いを嗅がせたところ、なんと5体に分身。そのまま融合して10本の腕を持つ巨大人型実体に変化した。
そして実験チャンバー内に激しく渦巻く海水を呼び出し、渦に巻かれて霞となって消滅。そのまま行方不明となった。
去る前に彼は「魔法の祝福を呪いとみなすのは汝らがごとき愚者のみなり」と宣言していた。

他にも人間だけでなくトカゲや犬などに謎液体を与えた実験もあったが、どれも極めて深刻な変異を起こしているにもかかわらず生命活動に一切の支障をきたさず活動していた。
重要となるのは、謎液体に曝露したすべての生物は元の容姿を損なう以外に生物学的な負の影響をほとんど受けないという点である。つまり実質ただクソ強くなるだけとも言える。
人間の場合は以前の人格や記憶まで完全に保持しており、むしろ知性が向上した奴までいた。
更にはミーム汚染や洗脳まがいの症状も一切ない。まあ力を得たせいか悟りを開いたようなのはいたが。

ただリスククラスがCriticalにされてる辺り、財団からすれば「変異してしまった人間はもはや元のそれではない」という認識なのだろう。
どうやら彼ら自身も感染ベクターになるみたいだし。


3396の主な性質は以上なのだが、ここまで見た限りだと「意外と大したことなくない?」「感染源がはっきりしてるならそこ隔離すればいいだけじゃん」と思うかもしれない。
確かにこいつが現れた初期ならそういう対策もできただろう。

うん、結論から言うと財団が見つけた時点で手遅れだったんだなこれが。
最初にこいつを発見した一般の考古学研究チームは全員01個体になった挙句、こいつを掘り出して露出させた後に人口密集地に戻ってしまい、そのまま感染が拡大。
ある者は殺人、ある者は犯罪、ある者は病気の根絶、またある者は福祉活動のため、その能力を用いるようになり、結果として3396の影響は国際社会に大きな変化を与えるまでに至ってしまった。一応メディア統制によってこいつの存在は公になっていないが、上の立場の人々にとってはもはや周知と言っていい。

そして財団は3396の中枢を見つけたはいいものの、収容や隔離は全くできない状況に追い込まれている。なぜか?
考えてもみてほしい。これの影響を受けた者は強大なミュータントと化す。しかも例外なく全ての人間が適合できる。おまけに現時点でそれらしい副作用は何も見つかってない。
…世界中の国家や要注意団体にとってこいつがどんな価値を持つかは容易に想像できるだろう。
現にデスバレーに存在する中枢領域はその支配権をめぐって財団、GOC、国際連合、その他多数の団体による争いが繰り広げられており、可能な限り衝突を避けるため非武装地帯と宣言されている。01個体群も例外ではなく、既に拡散した彼らを利用するための奪い合いが勃発し、中には組織内での感染を意図的に起こして強化を図る連中まで現れる始末。


財団は全ての01個体の特定および確保、そして中枢領域の獲得を目的として活動しているが、それを上回る勢いで3936の影響は拡散しており、報告書執筆時点で世界人口の6%が既に感染している。このままこいつが財団のキャパシティを超えてしまえば、やがて全人類が『人ならざる者』と化すことによってかつての文明が失われる「TPK-クラス奇蹟論的増殖シナリオ」の発生に繋がるだろうとされている。


だが、こいつは財団が対峙してきた他の終末系オブジェクトとはわけが違う。
彼らの敵となりうるのは単一のアノマリーではなく、かつては守るべき正常性の下で生きていた者達であり、今や力を求めて争いあい、正常性を自ら切り捨てようとする者達。

そう、いわば人類そのものなのだから…。








アポセオシス・ハブ




“神格化は有能な人間の起源ではない。彼は現れる。身を折りたたんで無敵の薄膜に包まれ、理由を持って、真夜中によく学んだ目に照らされて、まどろみに包まれ、心の中で避けられた思考の共鳴体として……”
― ウォーレス・スティーブンス


一つの記事としての3396の内容は以上だが、察しの通りこれに関する物語はこの記事だけで終わらない。
こいつは財団wikiにおけるカノンハブの一つ、「アポセオシス・ハブ」の核となるオブジェクトであり、上記の報告書はいわば「プロローグ」のようなものに位置する。


このハブは本家で開催された『終末の日コンテスト』の参加作だった。
これのテーマはずばり「『世界の終わり』を4つ以上の記事で表現してね」というもので、アポセオシスは見事優勝を勝ち取った作品である。
実際、核となる3396はテーマの通り実に終末を感じられるオブジェクトだったであろう。


そういう経緯もあってか、このハブは他の有名なものとは一味違う。
「死の終焉」や「1998年」などでよく知られている普通のカノンハブというのは、1人または複数の著者が何らかの独特な『世界観』をテーマとして立ち上げ、そこから有志たちが更に記事を書き、世界観を広げていくのが基本である。
だがこのアポセオシスはその世界観の「始まり」から「終わり」までの時系列がすべて2つのSCPと4つのtaleによって纏められており、完全な終結が描かれているという特徴を持つ。
前例は普通にあるものの、こういう小規模な構成は中々珍しいと言って良いだろう。

そんなわけで、このハブは数あるカノンハブの中でも初心者には特にとっつきやすい部類である。
3396が現れた世界では何が起こり、どんな終末が訪れるのか。
その過程で財団は、人類は、異常存在は、何を見て何を成すのか。
ここで紹介するには長すぎるので、ぜひとも自分の目で見ていただきたい。





軌道で一人、青は、至天の蟲は、言語を超越した、全ての生命の始まりであった秘密の内的な炎の生物は、ただ見ていた。
自らのなしたことの結果が、悠久を通して描かれるのを、そして自らが大いなるタペストリーに編み込んだ最新の糸が、自らを永遠に喜ばせるのを。








追記、修正は至天の祝福を受けた方にお願いします。


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最終更新:2025年03月10日 23:57