カイジ外伝

登録日:2019/11/10 Sun 02:16:21
更新日:2024/12/26 Thu 23:20:40
所要時間:約 11 分で読めます





借金王、マカオ上陸!



カイジ外伝とは、週刊ヤングマガジンの連載作品『賭博黙示録カイジ』のスピンオフ漫画。
作者は福本伸行。

【概要…!】

シリーズでは初のスピンオフ作品となる。ファンからは『マカオ編』と呼称される事が多い。

ヤングマガジン増刊赤BUTA12号にて、22ページ程の読み切り作品として掲載。
2011年に刊行された『圧倒的オフィシャルガイド カイジ×カイジ×カイジ』にも収録された。
ちなみにカイジのスピンオフエピソードという扱いなので作品サブタイトルが存在し、第0話「憤死」となっている。

作品内容は、本編の主人公であるカイジが「エスポワール乗船を断った世界」を描いたIFストーリー。
つまり、ありえたかもしれない一つの可能性を描くと同時に別世界で戦う(?)もう一人のカイジのお話となっている。
ただし、薄暗くシリアスな世界観の『賭博黙示録』の分岐ストーリーなのだが、読み切りであるためか実質ギャグ漫画となっている。

福本氏はコメントにて「これはカイジがエスポワールに乗らなかった場合を描いたものである。『カイジ』本編を読む際には忘れてください。」と記している。
本編に対する明確な分岐世界として認められているようだが、あくまでも本編とは切り離してほしいとの意図があるのだろう。
同時に「もう二度とやらない…」と疲れ切ったようなコメントも残されており、本編とは異なるルートに分岐したカイジの漫画が描かれる事もなさそうである。

掲載誌の知名度や長らく単行本収録に恵まれなかった影響で、カイジ作品としては知名度が低い。
絶版状態が長かったことや上述の作者のコメントもあり、カイジの黒歴史として疑われていた時期もあった。
というか、カイジのスピンオフなら中間管理録トネガワ方面のほうが人気も知名度も格段に上だし。
しかし、本編のIFストーリーという興味深い内容であるため、カイジのファンなら是非とも一度は読んでおきたい作品となっている。

ちなみに、時代設定的にこの時期のマカオはまだポルトガル領(返還は決まっていたが)。

【あらすじ…!】

男は勝つためにマカオ(ここ)に来た・・・・・・・・・・!

彼には友人の保証人になったことから生まれた借金が385万円あり

遠藤というヤクザからギャンブル船に乗ることを勧められたがそれを断り

マカオ(ここ)に来たっ・・・・・・・・・・・・!

【登場人物…!】

カイジ以外の本編のネームドキャラは登場せず、遠藤の存在が示唆されるのみ。IFストーリーなので当たり前だが。

本編の主人公…なのだが、本編とは異なる世界に分岐した所謂「平行世界のカイジ」。

古畑の連帯保証人として385万円の借金を背負った末に遠藤と出会うまでは本編と同じルートを歩んだ。
しかし、遠藤のエスポワール乗船の勧誘を断る決断を下し、マカオのギャンブルで一発逆転を狙うというやり方を選ぶことに。
遠藤の勧誘を拒否した流れはナレーションで触れられるのみであり、どのような内容だったのかは描かれていない*1

マカオにおける大勝負の軍資金として、150万円の大金をサラ金*2から借金。
借金に加えて母親や友人のカードもだまくらかして持ち出しており、本編よりも屑人間としての性質が強化されている。

それらの行為までして金を集めたのは、資金が豊穣であることが勝つための必須条件だからである。
385万円の勝利を狙っているが、小さく賭けていたら時間を費やしてしまうので大きく賭けて勝つ方針に決定した。

本編で目覚める事になるギャンブラーとしての博才が全く発揮されておらず、泣き出す展開が多い。

【ギャンブル…!】

マカオが舞台と言うだけあって、本作で採用されたギャンブルはマカオのカジノ定番の『大小』。

3つのサイコロを振って、その合計が10以下か11以上かを賭ける。
10以下なら「小」、11以上なら「大」に張った者が勝つシンプルで初心者でも分かりやすいルール。

【結末…!(ネタバレ注意…!)】

初戦こそ勝ったが以降は負けを重ね続け、1時間で100万を失うポカをやらかすカイジ。

流石にヤバさを感じ始めたのか少し慎重になり始め、勝つためにマカオに来たことを自身へ言い聞かせる。
大小の専用台はカイジのいるフロアだけで3つも置かれていたので、自分が張れると感じた流れが来るまで待つことに。
読み切れる流れが来た時に厚く張って勝つという計算を行った。

そんなカイジの目の前に、8×4の長方形で配列された今までの大小の結果が目に入る。
そこには随分と偏った流れの配列が形成されており、「大」と「小」の文字がカタカナの「コ」のような形を作る寸前だった。
何かの縁を感じ始めたカイジだが、馬鹿なことを考えて血迷ったかと頭をポカポカと自ら叩く。

考えを巡らせる最中、賭けが締め切られて何も賭けなかったカイジ。
結果が出るとサイの目は「大」を叩き出し、「コ」の文字が完成される。
直感を信じて賭ければ勝っていた結果を見て、思いっきり悔しさを滲ませて後悔する。

そんなこんなで30分後、またまた偏った結果配列が生まれ始めており、今度はあと1回「大」の字を出せばカタカナの「ロ」が完成しそうだった。
似たような流れに怒りながらも、毎度恒例の効果音「ざわ・・」を出し始めるカイジ。
そもそもカタカナ理論を抜きにしても次が「大」ならば9回連続という偏りすぎな状況であり、その上で「ロ」が完成するという超稀な事態である。

ここで厚く張らずにいつ張るのだと、「小」の方に50万円を投入するカイジ。
だが、ここで出たのは「大」の目であり、「ロ」が完成する事になった。
またもや直感を信じられないばかりか大負けまでしたカイジは、項垂れて頭を抱える。


来るんだよっ・・・・!
来るもんなんだよ・・・・・・!
流れっていうのはそういうもんなんだよ・・・・・!

なんでオレは素直になれないんだ・・・・・・・・!
・・・・・・・・もう少しオレが素直なら・・・・


自身の不甲斐なさにもう追い込まれた時の涙目状態に突入するカイジ。そもそもカタカナ理論が意味不明なのは置いといて
冷静になるためにカイジは一度席を離れた……というよりも金が尽きただけだったのだが。
カジノチップを入手する作業を行っているカイジの脳内は、「くそっ・・・・!」の連呼が行われていた。

コーヒーを一杯飲んで休憩に入り、少し時間を置いていたカイジが再び戻るとまだ異変が起きる。
今度は、あと1個「大」が出ればカタカナの「ハ」の文字が出来上がる配列結果が生み出されていた。
困惑を覚えるカイジは、ある重大な事実に気が付いてしまった。

先程は「ロ」の文字が完成しており、今出来上がりかけている「ハ」が完成すれば「ロハ」、合体させれば漢字で「只(ただ)」になる事実だった。
「ただ」の単語を深く考え始めるカイジに、悪魔のような声が「大」の結果を出すと囁き始める。


「ロハ」・・・・・・
つまりただみたいなもんだよっていう・・・・・・・・
天からのメッセージ!・・・・


意味不明な思考をした自身を戒めるように頭を振り、血迷った事だと言い聞かせるカイジ。
しかし、頭を抱えているうちに謎の冷静さを取り戻し始めていく。


いや・・・・・・
いやいや・・・・・・
そうじゃない そうじゃない・・・・・・・・・・・・・

そのギャンブラーの容量じゃないのか・・・・・・?
こういう閃きに 命を任せられるか否かが
そういうふうに否定する根拠が オレに今あるのか・・・・?

男なら張って見ろ

「大」だっ・・・・!


一気に厚く張ったカイジの一手に大きく盛り上がる会場のギャラリー。
一方、対戦相手の男性の方はカイジの必死の思考に気が付かないようなあくびをしていた。


「リ」・・・・!


カイジの予想は外れて「小」が出たことで「ハ」ではなく「リ」のカタカナ文字が出来上がった。
カイジは涙目となり、対戦相手の困惑した姿が見えないかのように勝手に発狂して台を叩きながら彼に抗議する。


違うだろ・・・・! なんだよ「ロリ」って えっ・・・・?


暴れ始めたので会場の人間二人に取り押さえられて連行されるも、他者からしたら意味不明なぶち切れが続ける。


こらっ・・・!説明しろっ・・・・・・!
温厚なオレももう怒ったぞ・・・・・・・・・・!


会場の外にボロ雑巾のように投げ出され、苦渋の声を挙げるカイジ。
いくら負けたか計算したくないと涙目で顔を抑えるカイジだったが、テーブルで結局計算する。
荒い息遣いで計算結果の出した紙を見ると、既に239万円の損失を計上していた。

これが最後でもう負けられないと決意したカイジは、震える両手に抱えたカジノチップを手にして「遊びは終わりだ」と会場に戻る。
ギャラリーがどよめく様子をチラリと目にしたカイジの視線には、あの「ロリ」の台に人だかりが出来上がっている光景だった。
あの台は鬼門だと認定したカイジは、「もういやだ」としてプイッと顔を背けるが、結局またチラリと目線を動かしてしまう。

そこには、あと1個で全面が「大」で埋め尽くされる配列が作られていたのだった。
その場にしゃがんで泣きだしたカイジは、今の状況を「挑戦」だと評して考え始めていた。
本来は7回や8回連続で同じ結果が出るのが超稀なのに、それが8×4=32回連続で出る訳がないとして「小」だと予想するカイジ。

しかし考えが変わり、そのような当然の考えをして「小」に賭けた人間の金を後半2列の「大」は吸い取るのだろうと。
大きくため息をついて顔を覆うカイジだったが、突如として何かを閃く。
それは全面が「大」になれば、「ロハ」という隠されたメッセージが完成するという超無理矢理な理論だった。

これは紛れもなく前回「ロハ」に賭けて負けた自身への挑戦だとカイジは確信する。
自身が誰かに試されていると認識するカイジは大に一気に張り、ギャラリーもその豪快っぷりに歓声を起こす。
先程と同じ対戦相手の男性は、またもや気怠そうにあくびをしていた。

「大」が出ても「小」が出てもどちらでも満足だと感じ始めるカイジ。満足している場合ちゃうぞ
何故なら自分に課せられた運命を逃げる事無く受けたので、その真実に比べれば勝った負けたは小さなこと。挑んだことが勝利なのだ。
とは言っても、間違いなく「大」だと決めつける中でついに賭けが締め切られる。

目の結果を予想して盛り上がるギャラリーを見て、押すなよと嘆くカイジ。
力んで目が変わる訳でもないので、冷静に結果を見守ろうとした。
どんな目でもそれが自分の運命なので迎え入れれば良い。ただ静かに…………。

サイの目は小だった。気が狂ったかのように涙目で大爆笑するカイジ。


なめてんのか・・・・!てめえっ!


発狂したカイジは対戦相手の首を絞める行為に出て、苦しさで「あいや~~~~っ」と叫び始める相手の男性。
またもや二人組の男性の連行されるカイジはなおも発狂を続け、ギャラリーもその様子に呆れ気味だった。
今度はボロ雑巾のようにカジノの外に放り出されるカイジ。


カイジのマカオが終わった 結局385万の借金をチャラにするどころか

その上にさらに上乗せすること 333万・・・・・・!

合計の借金は718万という結果に終わった 要するに・・・・

単に金だけの事を言えば エスポワールに乗っていた方がまだ ましだったのだ・・・・・・・・・・


なんとか立ち上がったカイジは、柱に寄り掛かって泣き出しながらブツブツと呟き始める。


・・・・・・ひどい・・・・・・
あそこで「小」かよ・・・・ いいのか・・・・・・?本当にそれで・・・・
違うだろ・・・・!


悔し涙を流し終えたカイジは、マカオの夜の街に歩き出して静かに闇の中に消えていった…。


恐るべしマカオ・・・!


【考察…!】

カイジがエスポワールに乗船しなかったことで、エスポワール参加者や帝愛の一部関係者は運命が変わった可能性が高い。

一方、マカオの街に消えた後のカイジの行方は語られていない(読み切りなので当然だが)。
借金が膨れ上がった上に親や友人を騙しているので、本編よりも暗い未来しか想像できないのではあるが…。
しかも借金が残っている以上、結局こちらの世界でもカイジは帝愛と関係性を持つ可能性はある。
ただし、そもそもカイジがマカオから帰国できているかは謎なのだが(マカオに残ったとして、マカオに帝愛の勢力は存在するのかも謎)。

一部のファンからは、後の『中間管理録トネガワ』や『1日外出録ハンチョウ』はこちらの世界の話ではないかと見る説も出ている。
それらのスピンオフは本編の世界観よりもギャグの雰囲気が強く、利根川や大槻が本編と同様にカイジに出会って破滅する光景が考えにくいためだろう。
しかし、トネガワでもハンチョウでもいずれカイジが現れる事は示唆する描写が作中で描かれているため*3、少なくともカイジ外伝と同一の世界観であるとは考えにくい。
一応、カイジ外伝の世界の利根川も大槻も、もしかしたら各スピンオフと同様の生活をずっと送れている可能性は十分考えられるが。

話は変わるが、この大小というギャンブル、作中で述べられているルールなら当たる確率は1/2だが、ここから考えると配当倍率は2倍以下のはずである。
ドカドカいくとならもっと高倍率のギャンブル選べよ
最後の勝負、当たれば逆転!のような空気を出しているが、賭けた資金は333万ー239万=94万。
仮にここで勝っていてもこの日の負け分半分も取り戻せなかったと思われる。

【余談…!】

ヤングマガジン増刊赤BUTAでは、カイジ以外にも福本氏の未発表作品として『青空絵空絵空事』が読み切り掲載された。
こちらは、なんとコロコロコミックに持ち込むが没にされてしまったという作品。
コロコロコミックを意識した作品であるためか、下ネタを使った話になっている。

青空絵空絵空事はカイジ外伝と比較しても相当知名度が低く、結局没作品の状態と大差がない幻当然の作品となっている。
こちらはカイジ外伝と異なり、現在は掲載時のヤングマガジン増刊赤BUTAでしか読むことが出来ない。

一般的に知られる大小(シックボー)は作中で描写されているよりもう少し複雑となっている。
合計出目の大小だけでなく奇数偶数を予想したり、合計出目を一点読みしたり、3個のうち1個の目に賭けたりと様々な賭け方が可能。
サイコロ3つの出目で行うルーレット、といえばイメージしやすいかもしれない。
この場合、大小の配当は2倍だが、ゾロ目がルーレットでいう「0」のように扱われるため、当たる確率は1/2以下となる。





冷静に追記・修正しようじゃないか………

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  • 講談社
最終更新:2024年12月26日 23:20

*1 カイジがエスポワール乗船を決めるのは賭博黙示録第2話なのだが、この第2話で拒否する流れに分岐したと考えるのが妥当か。

*2 帝愛とナレーションで言われていないので、あくまでも帝愛以外の系列のサラ金から借りた可能性が高い。

*3 アニメでは「カイジと出逢う前の物語」と明言されている