SCP-4941

登録日: 2020/03/06 Fri 16:20:13
更新日:2023/06/26 Mon 21:53:33
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監督評議会命令
以下のファイルはレベル2/4941機密情報です。無許可のアクセスは禁止されています。





もはや届かぬ愛の調べ。




SCP-4941はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはEuclid。
撹乱クラスは3/Keneq。
リスククラスは1/Notice。
項目名は『永久にあなたの』。



最初に

SCP-4941は、イギリス付近のロングダウン島という名の無人島に存在する非実体オブジェクトである。
このロングダウン島自体、付近の主要航路から大きく外れているため収容自体は比較的容易に行うことが可能だが、念のため現地の保安職員が1kmの侵入禁止区域を維持し続け、活性化期間中に領域内へ侵入したあらゆる無許可の船や人を拿捕することがプロトコルで規定されている。

ここで気になるのはプロトコルの内容、上記の収容内容は従来のオブジェクトの収容と殆ど変わらないのだが、気になる内容が記述されている。


以下はプロトコルの一部を抜粋した内容である。



どのような時でも、SCP-4941が苦痛の兆候を示した場合、収容職員は対象を宥めるためのあらゆる努力を行うべきです。
これは通常、チャーリー・メイソンが間もなく帰還することを改めて保証し、島で発見されたクリスタルオルゴールを再生することによって達成されます。



このチャーリー・メイソンなる人物が何者であるかはさておき、SCP-4941のプロトコルの内容から、本オブジェクトが明確な意思を持ち合わせていることを覚えてもらいたい。

尚、このオルゴールの音声なのだが、日本語版のサイトでは容量の関係上載せることが出来ない。なのでSCP-4941の本家ページで視聴して貰うしかない。

それでは説明へ。


説明

SCP-4941とは何か、簡単に言えば巨大なザトウクジラである。そして上記の通り非実体、即ち物理的な肉体を持っていない。性別は雌であるという。

SCP-4941は満月の夜にロングダウン島の最東端の崖に姿を現し、イギリス本土にも届く程の大きな低音を発し初め、日の出と共に消滅することを周期毎に繰り返す。
この現象を抑える方法として、島に唯一存在する廃屋から発見されたオルゴールを聴かせることで宥めることが可能。なぜその事が判明したのかという経緯は不明である。


発見経緯

1995年、該当海域を巡回していた財団所有の船舶が、偶然に遭遇したことがSCP-4941との初コンタクトである。
その後、島を捜索する中で発見された唯一の廃屋から、複数の手紙とクリスタルオルゴールが1つ発見された。プロトコルに記述されているオルゴールはこれである。

加えて見つかった手紙の殆どが判読不明であったが、床の隠し穴に隠されていた手紙は殆ど傷付いてなかった。


ここからは、このオルゴールの持ち主と思われる女性イーファが受け取った、この手紙の送り主チャーリー・メイソンの手紙の内容を記述していく。



  • 補遺4941.2: 手紙(抜粋)



愛しいイーファ、

一日たりとも君の事を考えずに過ごしたことはない。戦況は日々悪化するばかりで、毎日のように強くあれと説教される。君がいない今、果たして僕にどんな強さが残っているだろう。最悪の時には、僕は君の顔を、君の髪の香りを、君の手の柔らかさを、僕らの背後の海鳴りを思い描く。すると家に帰ったような気持ちになる。

待っていてくれ、愛しい君。すぐ家に帰るよ。

永久に君の、

チャーリー



この手紙の内容から、チャーリーはとある戦争に出兵しており、そこから手紙を送っていることが伺える。
後述するが、この戦争とは、第一次世界大戦のことである。



愛しいイーファ、

僕らはまた動いている。基地の連中が君からの手紙を持ってきてくれた、彼らには感謝しなきゃならない。君の言葉は僕の胸を吹き渡る風だ、読み終えたすぐ後にまた読み返している。遠く離れた場所に君の声を聞いていると、ずっと昔に聞いて忘れてしまった歌と同じように、君の声を失ってしまうんじゃないかと時々怖くなる。銃は僕から沢山奪い取ったが、君の歌声だけは最後まで渡さないぞ。

元気でやっているかい。戦いが僕らの小さな島まで及んでいないことを祈る。

待っていてくれ、可愛い子。そう長くは待たせない。

永久に君の、

チャーリー



愛しいイーファ、

ジョフルがフランス軍をヴェルダンに移動させているという噂だ。そこに住むジャネット叔母さんを訪ねたことを覚えているかい? 川は美しく、太陽の下でそこに立つ君を見た時には胸がはち切れそうだった。世界中のあらゆる美が僕だけのために一ヶ所に集まったように思えた。

あそこが今でも美しい場所だとは想像しにくい。戦争が長い間のさばって、風景を変えている。僕を変えている。僕がまだ君から離れた時と同じ男であることを願う。君を愛していた僕の一部がまだ消えていないことを、砲弾と煙と泥に打ち砕かれていないことを願う。嗚呼、僕の心が既に塹壕で死んでいないことを願う。

待っていてくれ、僕の星明り。すぐにまた君と一緒だ。

永久に君の、

チャーリー



手紙の内容から、戦争の激化に伴いチャーリーの心が徐々に追い詰められていくことが伺い知れる。そんな命が消えていく過酷な戦場の中で恋人へ送る手紙は、彼にとって最後の希望であったのだろう。
彼のように、愛する者の元へ帰ることを夢見ていた兵士たちが一体どれ程存在していたのだろう。


................しかし、現実は非情であった。




愛しいイーファ、

世界は変わってしまった。人間はこの新世界で高貴ではいられない。ここから離れて、また君の隣に立つこと以外を僕は望まない。毎晩、君の下へ連れ戻してほしい、もう一度僕たちに月明りの下で踊る鯨たちを見る機会を与えてほしいと神に祈っている。あの日々は何もかも遠い夢のように感じられて、殆ど現実味が無い。君と共に過ごした時間の多くは既に消え去って、残っているのは君の顔の記憶だけだ。それとも、本当に僕が思い描くのは君の顔なんだろうか? 泥と血と鉄条網しか見えないこの戦場で、どうして僕に分かるだろう?

中尉はこれが住んだら家に帰れると言う。例えただ一度だけだとしても、また君に会い、君の声を聞き、君の顔に触れることができたなら、もうそれで十分だ。

永久に君の、

チャーリー




この手紙を最後に、チャーリーからの手紙は潰えた。それは即ち................


















送られなかった手紙から



SCP-4941が発見された後日、本棚にあった2つの本の間に宛先が“チャーリーへ”とのみ表記している手紙と、同時に封入されていた男性の写真が発見された。

以下は発見された最後の手紙の内容である。


  • 補遺4941.3: 送られなかった書簡(抜粋)



私のチャーリーへ、

水兵たちは戦争が終わったと言いますが、最後にあなたの手紙を受け取ってから長い時間が経ちました。手紙は保管して毎日読んでいます。私たちのベッドの、あなたが居た場所は空です。途方もなくあなたが恋しい。

私は歳を取りました、チャーリー。海と太陽が私を通り過ぎてゆき、かつてあなたが知っていた少女は共に消えました。自分が変わったかもしれないという手紙を見た時はあなたを案じましたが、歌が語るように、変化はどういう形であれ私たち皆に訪れるものなのだと思います。今の私の中に、あの少女の面影はごく僅かしか残っていません。あなたを愛していた部分だけが残っています。

間もなく、私が海へ帰らなければならない日が来ます。私はあの崖の傍へ向かうでしょう。ずっと昔、星の明るい夜にあなたが私を見つけ、鯨たちが闇の中から私たちに歌っていたあの場所へ。例え千の生涯を耐えなければならないとしても、あなたを待ちます。あなたが家に戻って来るのを私は知っています。

愛しています、チャーリー。私の下へ帰って来てください。

永久にあなたの

イーファ



後に財団が調査したところ、写真の人物はイギリス第4軍の兵士、チャーリー・メイソン氏だと判明し、同時にチャーリーは、第一次世界大戦最大の会戦と呼ばれるソンムの戦いで戦死したこと、そして遺体はフランス北部の集団墓地に埋葬されたということが判明した。




結局SCP-4941って何?


ここからは、SCP-4941とは何なのかということを、筆者の考察を踏まえて記述させて頂く。あくまで解釈の一つとしてよければ受け止めてもらえれば幸いである。




1 チャーリー・メイソンの恋人イーファが、亡くなった後に異常存在となった説
未練を残して亡くなった人物が、この世に留まるというよくある展開。画面の前の方々も薄々考えていた人もいるのではないだろうか。



2 チャーリー・メイソンの恋人イーファは、元々異常存在であった説
送られなかった手紙の内容の、私が海へ帰らなければならない日という記述。
これは純粋に、かつて恋人との思い出を思い出しての記述かもしれないが、この説を踏まえて捉えてみると、まるで『自分が元々そこにいた』という捉え方も出来ないだろうか。





これらの考察は、あくまでも筆者の考えに過ぎない。SCP-4941が本当にイーファ本人なのかということも、今となっては分かりようがない。

もしかしたら、チャーリー・メイソン氏の遺体を発見し、この島へと連れてくることが出来るのならば、この異常存在は消滅するのかもしれない。


しかし、それは財団の理念に反することである。財団の存在理由は異常存在を消滅させることでも、異常存在を使って世界を良くすることでもない。

異常存在を封じ込め、人々の目から遠ざけることである。
あくまでも確保、収容、保護。この理念を忘れるべきではない。

財団は冷酷だが残酷ではない。だが、我々の世界を守るためならば、いかなる方法を行うことも厭わない。例えそれが、離れ離れとなった恋人たちの愛を永遠に遮ることになったとしても。





追記・修正は、愛する人を想いながらお願いします。






SCP-4941 - Forever Yours
by djkaktus
http://www.scp-wiki.net/scp-4941
http://ja.scp-wiki.net/scp-4941(翻訳)
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最終更新:2023年06月26日 21:53