デング熱

登録日:2020/06/21 Sun 14:13:54
更新日:2021/06/21 Mon 19:31:05
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください


デング熱(デングねつ)とは、ウイルス感染症の一種である。

概要

病原体はフラビウイルス科デングウイルス。
デングウイルスは主にネッタイシマカやヒトスジシマカなどヤブカ属*1に分類されるが媒介しており、ウイルスを持ったカに刺されることで人間(ヒト)に感染する。
なお同じくフラビウイルス科の黄熱ウイルスやジカウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルスも蚊が媒介するウイルスである。

熱帯地方(東南アジア、インドなど)では風土病扱いである。世界では年間1億人近くがデング熱にかかり、約50万人が入院が必要な重症のデング熱を発症し、さらにそのうち約2万人が亡くなっている。
カが媒介する熱帯感染症としては、寄生虫病のマラリアと並び患者が多い病気となっている。マラリアがアフリカに多く、黄熱病が中南米に多いのに対し、デング熱はアジアに多い。

通常、日本には常在しない感染症である。しかし、ウイルスを媒介するヒトスジシマカは日本にも生息する……どころか日本でも(後述する北限以南なら)大半の地域でまず目にするであろうヤブカであり、海外で感染し帰国してきた日本人の血を吸った場合、日本国内でも流行する可能性がある。
実際、2014年(平成26年)には関東地方を中心に、日本国内では69年ぶりとなる大流行が見られた。幸い亡くなった人はいないが。
ヒトスジシマカの北限は従来までは秋田県および岩手県と言われてきたが、近年、青森県でも生息が確認されている。

ちなみにマラリア原虫を媒介するのは、ハマダラカと呼ばれる蚊である。羽に黒いまだら模様があることから、ハマダラカと呼ばれている。

デング熱はインフルエンザや麻疹、ノロウイルスのように空気感染する病気ではないが、ごく稀に輸血や臓器移植でヒトからヒトにうつる可能性もある。

ちなみにデングウイルスには4つのタイプがある。最初に感染したタイプと同じタイプのウイルスには二度と感染しない(終生免疫)が、最初に感染したのと異なるタイプのウイルスに感染すると重症化しやすくなると言われている。
デング熱は2回目が危険、と言われるのはこのためである。
また、予防接種(ワクチン)の開発が難しい理由でもある。

症状

高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛などの症状があらわれる。麻疹のような発疹もあらわれる。
インフルエンザと違ってのどの痛みや咳、鼻水などはみられないことが多いが、頭痛などの症状はインフルエンザと比較にならないほど激しいものになる。
ちなみにデング熱の病名の語源はスペイン語の「デングエラ」であり、こわばりや引きつりを意味する。おそらく激しい筋肉痛が由来と思われる。ちなみに日本語テングとは全く関係ない。

この病気にかかると血小板が減りやすくなる。毛細血管から出血することで鼻血やあざなどがみられる人もいる。

下痢や嘔吐など胃腸炎症状がみられる人もいる。時々、先述の発熱などの症状が軽い代わりに、ノロウイルスのような激しい下痢や嘔吐を起こすことがあり、その場合は脱水症状に注意する必要がある。

通常は1週間程度で回復する。マラリアなどに比べると比較的予後良好な感染症である。

しかしごく稀にデング出血熱と呼ばれる劇症型のデング熱を発症することがある。
毛細血管から水が漏れることで胸や腹部に水が溜まる。また、血小板が著しく減少することで胃腸から出血し、激しい腹痛を起こしたり、大量の血液を吐いたり(吐血)、真っ赤または真っ黒な下痢便(血便)が出ることもある。*2
重症のデング熱では肝臓が大きく腫れる。
体内の血液量が著しく減少することでショックを起こし、死亡することもある。
デング出血熱は早急に治療しなければエボラ熱並みに致死率が高い。

先述の通り、最初に感染した場合はほとんどが軽症であるが、2回目に最初と異なるタイプのデングウイルスに感染した場合に重症化しやすいと言われる。

ちなみにデングウイルスと同じフラビウイルス科のジカウイルスによる感染症(ジカ熱)でも、発熱や発疹、筋肉痛、下痢などの症状があらわれるが、デング熱よりは軽症であることが多い。
しかし、妊婦さんがジカ熱にかかると、おなかの中の赤ちゃんに深刻な悪影響を与えてしまう可能性があるため危険である。

治療

治療は脱水症状を防ぐために水分補給をするなど対症療法が中心である。
マラリアの場合は致死率が高いため寄生虫をやっつける薬を必ず飲む必要があるが、デング熱はそれほど致死率が高い病気ではないため、特に薬による治療は必要ない。
…というかデングウイルスをやっつける薬(特効薬)は今のところ存在しない。
基本的には対処療法しか治療方法はない。

しかし症状が重い場合は入院して点滴を受ける必要がある。他人にうつりやすい病気ではないので隔離の必要はない。
劇症型のデング出血熱に発展した場合はICU(集中治療室)に移動して血小板輸血など高度な治療を受ける必要がある。

海外旅行中に発熱や筋肉痛、下痢などの症状があらわれた場合はデング熱を疑い、すぐに病院を受診すること。
問診の際はに刺されたことを強調すると診断の手助けになる。
鑑別が必要な他の病気としてはマラリアや黄熱病、インフルエンザ(発熱)、麻疹(発疹)、細菌性赤痢、ノロウイルス(下痢)などがある。

先述の通り、デング熱には予防注射(ワクチン)が存在しない*3ため、蚊に刺されないようにするのが一番の予防法である。
蚊が媒介する時点でお察しの通り暑い地域で多い病気だが、長袖や長ズボンの着用が推奨される。
ただその場合は熱中症の心配があるので、蚊の忌避剤スプレーと携帯蚊取り機の携行が安牌だろう。

フィクションにおけるデング熱

  • 医療漫画『Dr.コトー診療所』の三上新一*4は、新婚旅行中に劇症型のデング出血熱に罹患し、命を落としている。
  • はたらく細胞』にもデングウイルスという天狗の仮面のような描写で登場している。アニメ版だと天狗の仮面が(アニメ版の制作繋がりか)とある仮面のように細胞に骨針を打ち付けて感染する描写を描かれた。
  • ズッコケ三人組』のエピソードの一つ、『緊急入院!ズッコケ病院大事件』でデング熱が取り上げられたことがある。出版当時は日本でのデング熱の知名度はまだ低かった。


追記、修正お願いします。



最終更新:2021年06月21日 19:31

*1 大雑把に言うと白い模様のある黒い蚊はオオクロヤブカ 以外ほぼヤブカ属。ちなみに茶色っぽい蚊はイエカ

*2 ちなみに血便が必ずしも赤色ではなく黒色になる場合があるのは、出血した箇所によっては血液が酸化して変色するためである。

*3 同じく蚊が媒介する黄熱病には予防ワクチンが存在する。アフリカや中南米に旅行する場合、黄熱ワクチンを打っていなければ入国できない場合がある。

*4 旧姓は鳴海。