SCP-2005-JP

登録日:2021/01/14 Thu 19:38:11
更新日:2024/12/03 Tue 14:15:07
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SCP-2005-JPはシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトである。
オブジェクトクラスはEuclid。



概要

SCP-2005-JPは世界各地の処刑場に出現する人型実体で、身長180cmのコーカソイド系若年男性の姿を取る。
近世ヨーロッパ風の赤いコートを身に付け、両刃の長剣を装備し、喋るフランス語はフランス語の知識のない人間でも理解可能。
で、処刑場で何をするかと言うと、死刑執行時に出現して、執行人に「私が代わりに執行する」と宣言し、
持っている長剣で受刑者の首を刎ねる。
出現条件は現在でも詳しくはわかってはいないものの、大半のケースにおいて、執行担当者の中に
「死刑囚に対して同情的な人」や「死刑の正当性に疑義を抱く人」がいることが調査で判明している。
財団が把握しているケースも数百回に登り、中にはマタ・ハリなどといった歴史的な有名人の死刑にも出現している。

なおこの際に執行人のみならず他の人もSCP-2005-JPの威厳に圧倒されてそれを静止できず、
執行代行が終わると速やかにSCP-2005-JPは消失する。
このことからSCP-2005-JPの収容は現時点で不可能なものの、
  • 死ぬのは元から死ぬことが決まっている受刑者
  • その他の人には一切危害を加えない
  • 出現条件は限定的で隠蔽手順も容易に確立可能
という点からEuclidに指定され、財団は同盟国との間にバスチーユ条約という条約を結んでいる。
これは、死刑を公開処刑としないことなどを定めた条約である。
死刑執行時に財団職員が偽装身分のもとに立ち会い、SCP-2005-JPが出現した場合は受刑者の遺体の回収、
記録の改竄、担当者への聴取を行い、完了し次第目撃者にクラスA記憶処理を実施する。
受刑者の遺族が遺体の引き渡しを要求した際には、火葬またはエンバーミング後に引き渡しを行う。

このオブジェクトについて、2010年代にパリはノートルダム大聖堂の書庫から、関係文書と思われる手紙が見つかった。

資料-2005-JP-α"ノートルダム書簡": 原文はフランス語、一部に不明な語句あり

[破損により解読不能]に関してはバチカンに悟られぬよう、くれぐれも慎重に行動すること。

次に、各地の処刑場に現れる、深紅の外套の処刑人について。かの者は神聖にして不可侵であり、妨害は不可能にして無用である。かの御仁こそ[解読中]に転生せしムッシュ・ド・パリ、シャルル=アンリ・サンソンである。

サンソン氏は正規の騎士でこそないが、騎士団への貢献度、神智の理解の深さは計り知れないものであった。先代はかの御仁こそ後継者に相応しいと考えた。私も全く同意見であった。しかし、あくまで王家への忠誠を貫く彼は辞退した。

先代はサンソン氏に代わりの望みを訊ねた。彼は世界から死刑を根絶して欲しいと願った。さしもの騎士団でもそれは不可能だった。人類は未だ[解読中]には達していない。ならばせめて、罪の重みに苦しむ処刑人たちに代わって、死後も裁きの剣を振るい続けたいと彼は願った。

先代がどのようにサンソン氏の願いを叶えたのかは、私も知らない。しかし、おそらくは[解読中]転生の秘蹟を用いたのであろう。氏であれば資格は十分だ。処刑人という家業を呪いながら、時代に強いられ2700人以上もの人々を手に掛けねばならなかった。彼ほど、魂の痛みに耐え続ける生涯を送った者がいるだろうか?

死という救いすら拒み、今日もサンソン氏は理不尽な死刑を代行し続けている。世界から死刑が根絶されるまで、その魂が休息することはないであろう。我々は彼のためにも、1日も早く頑迷を廃し、人類を神智に至らせなければならない。

連絡は以上である。汝にジャック・ド・モレーの祝福あれ。

[破損により判読不能]騎士団
パリ分団領 グランドマスター [破損により判読不能]

シャルル=アンリ・サンソンさんはフランス革命期の死刑執行人であり、
ルイ16世やマリー・アントワネット、ラヴォアジエ、ロベスピエールなどこの当時の有名人の処刑にもれなく関わった人である。
と同時に、死刑執行人という立場を恨み、死刑廃止論を唱え度々上奏していた*1
実際死刑執行人というのはこと心苦しい立場である。
その受刑者が本当に最低の人間の屑であればまだ救いもあろうが(それでも目の前で死ぬのは見たくないだろうが)
サンソンさんの場合は政治的にその時その時悪とされた人、であり根っからの悪人とばかりでもない。
サンソンさんがSCP-2005-JPとして転生したあと、出現する死刑の条件も「その人が死刑を受けるだけの悪人ではない」パターンである。
死刑を根絶せられぬならば、せめて執行人の罪の重さを軽減してやりたい。それがサンソンさんの目的であるのだろう。
















諜報局による機密指定、要セキュリティクリアランス・レベル4/2005-JP

ID Agt.Tachibana
PASSWORD •••••••••


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2020年6月20日、要注意団体のカオス・インサージェンシーとの関わりが疑われる非同盟国の諜報組織に潜入中の
エージェント・戸神は緊急援助要請を出し、機動部隊-丁酉-8("双睛")がエージェント・戸神の救出に向かった。
丁酉-8が駆けつけた時、エージェント・戸神は負傷していたものの無事であったが、
他の施設人員はすべて首を刎ねられて事切れていた。

エージェント・戸神の上司に当たるエージェント・立花は、エージェント・戸神に対してインタビューを執り行う。
エージェント・戸神曰く、もはや当該諜報組織はCIの得意先というレベルではなく、
CIの構成員が多数組織にいる事実上の支部と化していたという。
それを財団に知らせるためにエージェント・戸神は通信機の隠し場所に向かっていたが、
CIに突き止められて捕まり、拷問を受けた。

CIは元財団の分派である以上、財団のエージェントの定期連絡を遅滞させれば
機動部隊が殴り込みにかかるのはわかっており、CIの組織規模から考えてもそうそう財団とやり合うのは望んでいない。
そこでさっさと処刑をしてずらかろうとしていたのだが、その際にCIが処刑人として選んだのは、
エージェント・戸神と一緒に潜入捜査中だった彼の後輩、エージェント・雛倉であった。
彼女も財団のメンバーと疑われていたのか、あるいは単に新人に度胸をつけさせようというCI流育成方針なのかは不明ながら、
エージェント・雛倉は明らかに動揺して泣き出しそうになっていた。このままでは彼女の命もやばいので、
エージェント・戸神はアイコンタクトでさっさと僕を撃ち殺せと指示するも、エージェント・雛倉は引き金をなかなか引けない。

そこにSCP-2005-JPは出現。処刑場と、処刑したくない処刑人が揃っていたので絶好のシチュエーションであった。
エージェント・戸神は「自分の後輩に罪悪感を与えずに済む」とホッとした*2が、サンソンさんの様子がおかしい。

「いつまで続ける気だ」とか「この乙女の苦しみが分かるか」とか「かつての恋人を処刑させられた私の苦しみが」と
烈火のごとく怒っていたサンソンさん。エージェント・雛倉になにか言っていたようだがエージェント・戸神には聞き取れない。
エージェント・戸神が気を失い、目覚めたらそこにはSCP-2005-JPもエージェント・雛倉もいなかった。
そして、CIや施設職員はみな首を斬られていたのである。

監視カメラ映像には、SCP-2005-JPに酷似した服装をしたエージェント・雛倉が映っていた。
エージェント・雛倉はその手にした剣を振るい、さっきまで命だったものが辺り一面に転がる。

その後、各国で指導者が次々と首を刎ねられ、その近くにフランス語でサンソンの署名の入ったメッセージが残される事態が発生。
事ここにいたり財団はSCP-2005-JPをEuclidからKeterに引き上げると同時に、
おそらくはSCP-2005-JPの意識下にあるエージェント・雛倉をSCP-2005-JP-1に指定しその確保が急がれた。

そんな折、日本のサイト-81ILの中庭に口径約1m、高さ約1.2mの金属製の鐘が出現し、
メッセージカードが備え付けられていた。

諜報局資料GoI-███-013: 情報災害、ミームリスクチェック済・安全

親愛なる財団の諸君へ。

サンソン氏の暴走の件、お詫び申し上げる。彼があれ程の怒りに駆られている理由は、我々にも分からない。フランスがギロチンを捨てた後も、世界では今尚死刑が続いている。慈悲深い彼だからこそ、これ以上は見過ごせなかったのか。

お送りした物は、サンソン家の家宝にして家紋の由来になった聖遺物だ。これをサンソン氏の前で、祈りを込めて打ち鳴らしてくれ。あるいは、彼を正気に戻せるかもしれない。

本来であれば我々が責任を取るのが道理であろうが、神智に近付くために情を捨てつつある我々には、最早祈りを込めることができない。だが、ヴェールの守護者たる諸君なら、サンソン氏の苦しみが理解できるはずだ。

祖先に代わってお願い申し上げる。どうか、我らが盟友シャルル=アンリ・サンソンを救ってやってくれ。

リュミエール騎士団
パリ分団領 グランドマスター ████・██████

リュミエール騎士団(L'Ordre de la Lumière、The Order of Light)。
アノマリーを用いて十字軍を支援することを目的とした騎士団であり、テンプル騎士団の後継組織とされる要注意団体である。
本来ならば他の組織とは繋がりを持たない彼らだが、サンソンさんの心情を見て財団に助けを求めたのであろう。
サンソン家の家紋は割れた鐘。サンソンの名字が静かな音を示し、ならない鐘とマッチする。
しかし財団からすると、確かにサンソンさんを止めたいのは確かなのだが、だからといってよくわからん団体から
よくわからん聖遺物をもらって、しかも送り主のリュミエール騎士団でさえ効くかどうかわからないものを利用するのは渋られる。
「サンソンを止めないとUP-クラス:社会変動シナリオにつながる」という意見もあったものの、
O5の投票にて賛成6:反対7で使用は見送られた。

そうこうしているうちに、SCP-2005-JPはSCP-2005-JP-1、すなわちエージェント・雛倉の姿を借りてついに財団を襲撃にきた。
財団が各国の支配体制を守る(=死刑制度の廃止を遠ざける)とも言える状態に我慢ならなかったのだろうか*3
あるいは、エージェント・戸神とエージェント・雛倉の職務がそもそもGoIの調査、場合により鎮圧というものであるため、
処刑人の宿業から解放してやりたいというサンソンさんなりのおせっかいなのかもしれない。
この時点でフランス語を使って会話しているのにも関わらずフランス語の素養のない日本人が理解できるというSCP-2005-JPまんまの特性を有することで、
完全にSCP-2005-JP-1がSCP-2005-JPに乗っ取られていることは理解できた。
警備員たちを蹴散らしたあと、O5の居場所を求めサイト管理官の元へ駆けるサンソン=雛倉の前に、エージェント・戸神が現れる。
SCP-2005-JPはエージェント・戸神になぜ止めるのか、処刑人の職務から解放してやろうというのにと糾弾するも、
エージェント・戸神は無理強いされてやっていることじゃないと反駁。

SCP-2005-JPはエージェント・戸神を攻撃しようとするも、その瞬間SCP-2005-JP-1の体が静止。
SCP-2005-JPは困惑し、協力をしようと誓ったじゃないかと叫ぶ。
どうやらエージェント・雛倉はエージェント・戸神を殺したくないあまりにSCP-2005-JPに体を委ねてしまったらしい。
しかしそのエージェント・戸神当人を攻撃しようとするタイミングでついに自我を取り戻すと、
あの時エージェント・戸神が自分にしたように、今度は自分がエージェント・戸神に対して自分を撃つように言う。

SCP-2005-JP-1: こ、これは?〈14:38:01〉(戸神先輩、聞こえますか?)

エージェント・戸神: え?[周囲を見渡す仕草]〈14:38:03〉

SCP-2005-JP-1: 乙女よ、なぜ拒む!?〈14:38:04〉 (申し訳ありません、私の所為で)

エージェント・戸神: この声、ひ、雛倉なのか? 〈14:38:07〉

SCP-2005-JP-1: 共に、革命を成し遂げようと誓ったではないか!〈14:38:10〉(確かに私は人間が嫌い。そう、嫌いなだけだった。あなたのような崇高な理想なんてない。革命を起こす資格なんて、私にはない)

エージェント・戸神: 雛倉、聞こえているのか!〈14:38:16〉

SCP-2005-JP-1: そんなことはない! 汝には自由になる権利がある!〈14:38:21〉(先輩、撃って。今なら撃てるわ)

エージェント・戸神: 何だって? う、撃てって、え?〈14:38:26〉

SCP-2005-JP-1: さあ、今一度、私と合一を!〈14:38:30〉 (そのつもりで来たんでしょう? さあ、早く)

エージェント・戸神: 嫌だ。〈14:38:35〉

SCP-2005-JP-1: 誰も、誰も殺さなくていい世界を。〈14:38:37〉(私だって嫌でしたよ! なのに、自分ではできないの? この意気地なし!)

エージェント・戸神: ぼ、僕は。〈14:38:39〉

[SCP-2005-JP-1、膝を付く] 〈14:38:42〉

SCP-2005-JP-1: [日本語]私たちは財団エージェントでしょう、先輩?〈14:38:43〉

エージェント・戸神: [絶叫] 〈14:38:48〉

[エージェント・戸神、SCP-2005-JP-1に発砲] 〈14:38:50〉

しかしその弾丸はエージェント・雛倉に届く前に、リュミエール騎士団が送りつけてきた鐘が謎ワープしてきてそれに当たる。
鐘は鳴り、辺りにアヴェ・マリアが流れる中、サンソンさんに別の実体らしきものが語りかける。
もういいだろう、今の時代のことは、今を生きる人に任せようと。
エージェント・雛倉は行方不明以前の服装に戻って倒れ込む。
後にエージェント・戸神が語るところによると、発砲してから目を覚ましてエージェント・雛倉の無事を確認する間のことは
「巨大な門や広大なバラ園などの漠然としたイメージがあるのみで、詳細は記憶にない」という。

エージェント・雛倉はどうやらサンソンさんに乗っ取られている間のことも意識は完全になくなっていたわけではなく、
自分がしたことも理解しているようだった。
しかし国家元首殺害は彼女の意志ではないとして、財団は処分をせず、経過観察後に職務復帰することに決めた。
そしてSCP-2005-JPのNeutralized指定を審議中である。



SCP-2005-JP - 裁きの剣、赦しの鐘



余談

エージェント・戸神とSCP-2005-JPの問答が噛み合っていないように見えるだろう。
ここは第三者が会話に参加しているからであり、実際この部分をコピペしてメモ帳に貼り付けると……。

作中に登場するエージェント「立花」「雛倉」はそれぞれSCP-014-JP-JSCP-014-JP-EX-1とされている女性がTaleに登場する際に使われることが多い名前。
作者によると意識はしているが、同姓同名の別人だと思っても構わないとのこと。

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最終更新:2024年12月03日 14:15

*1 当時の死刑執行人は世襲であり、サンソン家に生まれた以上はやめたいからやめるというわけには行かない。なお皮肉にもサンソンさんは世界で2番めに死刑を執行した執行人である。

*2 自分の先輩を殺すのが自分からアノマリーに変わるだけなので普通の職場ならどのみちトラウマになるはずだが、財団という職場ならアノマリーに殺されるのは仕方ないくらいには割り切れるのかもしれない。

*3 まあ財団からすると死刑制度の廃止は困るよね、ブライトの残機どうするんだよ。