最狂超プロレスファン烈伝

登録日:2021/02/23 Tue 15:00:00
更新日:2023/08/14 Mon 02:47:44
所要時間:約 6 分で読めます




この物語は1990年代前半 日本のプロレス団体が分裂を繰り返し
新日本プロレス 全日本プロレス RINGS Uインター 藤原組
FMW SWS ユニバーサルレスリング連盟 パイオニア戦志
全日本女子プロレス JWP LLPWが群雄割拠し
さらにW⭐︎ING みちのくプロレス パンクラス
オリエンタルプロレス NOW PWC
SPWF WAR 大日本プロレス DDTが次々と旗揚げしてゆく多団体時代を
この多団体時代をリアルタイムで体験したプロレスファン達の物語である
単行本冒頭より

概要

最狂 (スーパー) プロレスファン烈伝 とは1990年代に徳光康之が月刊少年マガジンで連載していた漫画である。
タイトルは名作レスラー漫画『プロレススーパースター列伝』のパロディだが
その名の通りレスラーではなくプロレス ファン に焦点を当てており
プロレスファンが自分の愛するプロレス団体やレスラー、業界について語ったりするギャグ漫画である。
ただし語るとはいったが言語による対話だけではなく 拳や蹴りや関節技の応酬 も多い。

例をいくつかあげると
地元の田舎では観れるプロレス興行や放映する番組が限られるのでプロレスを見るため だけ に東京にある大学を受験して入学する。*1
プロレスは八百長」などの悪口を言った者を 謎の技術で探知して 集団で押しかけて改心するまでリンチする。
もし改心しなければ 仕方がないので 殺人罪で刑務所に行く覚悟を決めてリンチを続行する。
贔屓のレスラーが負けたという事実を隠蔽するためスポーツ新聞を片っぱしから破り捨て
放映させないために放送用衛星に 地上から自動車をぶち当てて落とそう とする。
(ただし他のファンに諭されて取りやめる)
絶対に外せない用事がある人間に対して、Uインターのファンが 1億円の札束を見せつけて
「1億円で奢るから飲みに行こうぜ」と招待状を送っておちょくる。
…などのハチャメチャなギャグ描写で表している。
ただし登場するプロレスファン達や彼らの行為はフィクションだが、作者が重度のプロレスオタクだったために90年代のヘビーなプロレスネタを細かく取り上げており
当時を知るプロレスファンならニヤリとさせられることうけあい。
4番目の例のようなマニアックなネタをガンガンぶっ込んでくるのだが、プロレスを知らない者が読んでも察することができる最低限の説明は書かれている。

漫画アニメやゲームなどのサブカルチャーを作中の人物達が語り合う行為がメインの作品というのは今は珍しくないが、
1992年の月刊少年マガジンとしては珍しい部類でその手のトーク漫画のハシリと言えるかもしれない。

登場人物

基本的にメインキャラは闘狂大学(とうきょうだいがく)プロレス研究会の部員である。
鬼藪 宙道(きやぶ ちゅうどう)
教育学部 前田日明ファン
前述の通り大都市のプロレス興行を見るため だけ に故郷の佐賀から東京にある大学に入ってきた。
敬愛する前田日明への情熱に燃えていて彼をバカにした者には暴力も辞さない。
(ただしそれはこの漫画に出るプロレスファン全員が持つデフォルト設定)
作者が佐賀出身なので佐賀スポーツセンターのプロレスイベント体験談を「実話シリーズ」として語る。
少年漫画の主人公のたしなみとして常に顔に絆創膏が貼られている。

西等里 熱人(にしらり あつと)
教育学部 スタン・ハンセン及び外人レスラー全般ファン
丸眼鏡、小太り、出っ歯で関西弁の好人物。
外見が作者である徳光康之の自画像そのままで作者の分身としての役回りをする。
余談だが徳光康之は修羅の門の川原正敏の後輩で親交が深く、修羅の門バーリトゥード編の某キャラのモデルにされたりしている。

十六文 菊(じゅうろくもん きく)
法学部 ジャイアント馬場ファン
葉巻がトレードマークの全日本プロレス馬場ファン。
年長者で大人であるからかプロレス研究会の部長で周囲をまとめるリーダー格。
といっても作中キャラの中では大人、というだけで普通の感覚では まったくもって大人気ない男

奥飛 掘三(おくとばす ほるぞう)
理工学部 アントニオ猪木ファン
いつも猪木のマスクを被りっぱなしの男。リスペクト先の人物が人物だけに性格も自信満々でパワフル。
彼の「1、2、3、ダーッ!!」は鼓膜を破るどころか 建物のガラスを全部割る 大音量。

獏葉 出素待(ばくは ですまち)
教育学部 大仁田厚ファン
FMWや大仁田の電流爆破デスマッチの凄さを皆に知ってもらいたいという理由で
それらに使っている電流が流れる有刺鉄線や地雷と同じものを 一瞬で 設置し 無関係な一般人を平気で巻き込みながら あちこち爆破する。
(本物と同じと言いつつ明らかに本物より威力が高いこともよくある)
爆発オチ要員…と言いたいところだが、爆発オチではなく爆発として多用されるのがこの漫画の凄まじさである。

破輪 募治(ぱわ ぼむ)
理工学部 天龍源一郎ファン
SWS天龍ジャージと眼鏡の似合う男。
月マガ連載時点の天龍は色んな意味で 逆風が吹いていた時期 なので
それに合わせて彼も「天龍のように黙って苦難に耐える」ような、
ストレートに言えばイジられたりする場面が多かった。
だがその後に本人や作者も思いもしなかったであろう役回りを演じることになる。

長くなるので省略するが彼ら以外にもたくさんの 濃い プロレスファンが登場する…というか
作者がその時描きたいプロレスネタに合わせたプロレスファンを配役する群像劇のような構成で、あえて言うなら鬼藪と西等里がメイン主人公に近い。
これらファン同士が仲良くプロレス観戦やトークをすることもあれば
応援しているレスラーや団体間の主義主張が噛み合わない時は 罵倒や暴力も辞さない口論を行う

ただし根底では 同じプロレスを愛する者同士 と認め合っていて
喧嘩や罵倒をしても一線を越えない範囲で楽しくやり合っている。たまにやり過ぎる
贔屓レスラーが本当にかわいそうな目にあっているファンに対しては追い討ちをかけずに励ますことも多い。
そんなプロレスファン同士の 熱く激しく笑えるやり取り がこの漫画の持ち味。


執筆内容の変遷

紙の単行本は何度か出ているのだが全て絶版となっている。
だが現在はkindleで全て購入可能でkindle unlimited加入者は無料閲覧が可能。また「スキマ」では全話無料公開されている。
そして作者はkindleや電子書籍でなるべく買って読んで欲しそうな主張をしているため
ここではkindle版の巻数表記を基準にして解説する。
1〜3巻は月刊少年マガジンで1992年に連載された分を収録しており
作者も認めているが月マガでやるには 異質すぎる内容で 熱狂的なファンを極少数掴んだが
人気は常に最低レベルで打ち切りをくらった。
最終回の内容を一言で示すと「とんでもないピンチになったけどプロレスファンはこれからも負けないぜ!」という見事な打ち切りエンド。

それから数年後にファンの声に押されて3巻ラストのその後の話を書き下ろしたのが4巻なのだが
ちょうどその頃に作者が漫画家としてもプロレスファンとしても行き詰まって 情熱を無くして おり
プロレスファンの漫画なのにプロレスファンとしての熱意を無くした作者の悲痛な叫び がこめられていた。

オレもうプロレスファンじゃないから この漫画描く資格ないから
それってもしかしてプロレスを 卒業 ってことですか
いや… 退学 ですよ
ついていけなくなっただけですよオレが

打ち切られた漫画がファンの推しで描き下ろしたのだから、普通なら当時よりアゲていこうとするところだが
4巻はシナリオも登場キャラ達も 異世界にでも転移したかのような衝撃的な内容 が続々と描かれて終わっている。

しかしその4巻からさらに年月が流れ、作者にも時間薬が効いていたところに
かつて本作にハマっていた編集がちょっとだけプロレス要素のある仕事を持ってくることで
徐々にプロレスへの意欲を取り戻し、プロレスファン復学への目処を付けたのが4.5巻で
最新のプロレスをゆっくりと楽しみながら新たに物語を再開して最終的な大団円を目指して5巻以降の執筆を不定期に続けている。 そう現在も。

率直に言えばプロレスネタがマニアックすぎたり、言いたい事はわかるが特定の団体や人物を酷く描きすぎたり
偏りすぎた内容やひどいパロディやギャグを入れすぎるなどの難点も多い。
狭い範囲に深く刺さり、それ以外にはウケる要素がさっぱりない のは昔も今も変わらない。
だが冒頭の文章を見てピンとくる人なら読んで損はない。少なくとも熱意だけは伝わる作品なのでぜひどうぞ。


追記・修正は大きな声で「プロレスなんか八百長だー!」と叫んでからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • プロレス
  • プロレスファン
  • 徳光康之
  • ギャグ漫画
  • 大学
  • 超展開
  • 月刊少年マガジン
  • 打ち切り
  • プロ柔道
  • ポストアポカリプス
  • 最狂超プロレスファン烈伝
  • 漫画
最終更新:2023年08月14日 02:47

*1 アニメ過疎地域も参照してほしいが80〜90年代の地方民がプロレスを見るのはアニメ以上に難しい。