名探偵ポワロ

登録日:2022/12/10 Sat 19:19:55
更新日:2025/01/24 Fri 00:44:35
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AGATHA CHRISTIE'S
POIROT

『名探偵ポワロ』とは、イギリスの女性推理作家アガサ・クリスティの「エルキュール・ポアロ」シリーズを原作としたイギリスのテレビドラマ作品である。
1989年から2013年までの24年間に亘って13シリーズが制作された。


▽目次

概要

ポアロの映像化作品はクリスティ存命時代から現在に至るまで多数存在するが、その大半が長編を題材としたものであり、短編が取り上げられる事はあまり無い。
そうした中で、本作は短編を含めシリーズをほぼすべて映像化した唯一の作品である。

原作を徹底してリスペクトした作風で非常に人気を博し、24年にわたるロングラン作品となった。
クリスティの孫は「祖母はこれまでの映像化作品に全て不満を持っていたが、もし生きていたら間違いなく本作を絶賛していただろう」と最上級の賛美を送っている。

シリーズ初期は短編を、それを消化した後期は長編を原作としている。
そのため当初は1クールの連続ドラマ方式で放送されていたが、2000年代以降は年1・2回程度の放送となった。加えてスタッフや制作媒体の交代もあって、末期は新作の放送が1・2年ほど開くこともあった。
最終シリーズ放送時には「さよならポワロ!~世界が愛した名探偵・25年の軌跡~」という特別番組が放送されている*1

作品設定は第二次世界大戦前夜の1930年代で原則統一されており*2*3、オープニングや美術面では当時流行したアール・デコ調の世界観を多用し、登場人物のセリフには当時の時事ネタも登場する。

登場人物の数を原作よりも大幅に増やしており、アーサー・ヘイスティングズ大尉やジャップ警部、ミス・レモンは本作でレギュラーとなった。
第9シリーズ以降は原作同様本編から降板していたが、最終シリーズではレギュラー全員が再集結し有終の美を飾った。



日本での人気

日本では1990年からNHKで放送され、ポワロを演じた熊倉一雄の代表作としても知られるようになった。
熊倉の声は代表作でもあるヒッチコックにも似た独特の語り口であるが、スーシェ本人からも「熊倉の声が最もポワロの声によく似合う」とお墨付きをもらっている。
シリーズ終了後もデジタルリマスター版がNHKのBSで再放送されているほか、CSでも頻繁に再放送が行われている。

NHKでの放送分は尺の関係から一部シーンがカットされており、DVD化に際し追加収録が実施された。
再放送ではこの追加収録分が使用されているが、一部声優が異なるシーンもある。

なお、デアゴスティーニからもDVDが発売されているが、こちらはNHK版と吹替のキャスティングが全て異なっているので要注意



登場人物

声はNHK/デアゴスティーニ版の順。

  • エルキュール・ポワロ
演:デビッド・スーシェ
声:熊倉一雄/大塚智則
フランス系ベルギー人の私立探偵。本作の主人公。
かつてはベルギー警察の一員だったが、第一次世界大戦のドイツ軍侵攻のためにイギリスへ亡命。
その亡命先の村で起こった「スタイルズ荘の怪事件」を私立探偵として解決し、その後ロンドンのホワイトヘイブン・マンションに探偵事務所を開いて活躍する。
卵形の頭をした小男で、ABC殺人事件」で白髪が増え、「カーテン」でのみ密かにヅラをつけていたとされる原作と異なり本作では髪の毛は完全に禿げ上がっている。
ちなみに原作では作者のクリスティにも「1作目でポワロが嫌いになった」と言われる程高慢かつ嫌味なキャラとして描かれているが、本作ではそれらを薄め高貴で誇り高い人物として描かれている。

演者のスーシェは演じるにあたり原作を徹底的に研究し、痩せ型だったので服の下に詰め物を入れて小太りに見せるという徹底ぶりを見せた。
スーシェは「ダイヤルM」等他の映画作品にも出演しているが、ポワロとは見た目が大きく異なるので驚くことだろう。
第9シリーズ以降はプロデューサーも兼任し、シリーズ終了後には「ポワロと私」なる自叙伝も出版しているほか、
「仏語圏出身で仏語訛りの英語を話す」というポワロのキャラに倣って苗字のSuchetをそれまでの英語読み(サシェット)から仏語読み(スーシェ)に改名しており、
役への入れ込みは「(ポワロという役は)神からの贈り物だ」と語るほど。


  • アーサー・ヘイスティングズ
演:ヒュー・フレイザー
声:富山敬→安原義人/宮健一
イギリス陸軍予備役将校で、階級は大尉。本作のワトソン役で、原作では初期作品と「カーテン」のみの登場だった。
ポワロとは第一次大戦前にベルギー旅行をしていた際に知り合っており、その後大戦で負傷して本国に帰還した後、「スタイルズ荘の怪事件」でポアロと再会して助手となった。
ゴルフと車が大好きで女性にも弱いが正義感の強い好人物。一人で海外に赴任することも非常に多く、世界各地に滞在経験がある。ただ商才には乏しいようで、本作では友人に勧められて購入した大手鉱山会社の株が暴落して損失を被ったり(「プリマス行き急行列車」)、結婚してアルゼンチンに移住したは良いが鉄道投資に失敗して無一文になり、イギリスに再び戻ってポワロの助手となる(「エッジウェア卿の死」)といったエピソードがある。
「ゴルフ場殺人事件」で知り合った女性と結婚するが、本作では結婚相手が異なっている。
最終回となった「カーテン」では娘が登場する。

演者の富山が第6シリーズ終了後に死去したため、第7シリーズ以降は安原に交代。前述した追加吹替シーンも安原が担当している。
また、熊倉はインタビュー内で最も寂しかった出来事として富山の逝去を挙げている。

  • ジャップ警部
演:フィリップ・ジャクソン
声:坂口芳貞/弓家保則
スコットランド・ヤードの主任警部で、ポワロとはベルギー警察時代にある事件を共同捜査して以来の知り合い。
理屈より直感と行動の人のため、ポワロの推理をからかいながらいつも後塵を拝してしまうものの、それだけに実はポワロの才能を高く評価している。
「ビッグ・フォー」では警視監に出世している。
エミリーという夫人がいるが、某うちのカミさんよろしく画面には登場しない。

  • ミス・フェリシティ・レモン
演:ポーリン・モラン
声:翠準子/ひなたたまり
ポワロの有能な秘書。ミス・レモンと呼ばれることが多い。ちなみに原作では「ヘラクレスの冒険」等一部作品で登場し、さらに元々は別の連作「パーカー・パイン登場」のキャラだった。
原作では書類整理と検索に全てを注ぐ機械的なキャリアウーマンだったが、ドラマでは異なりフィットネスや催眠術、占い、海外音楽など、秘書業以外にも多彩な分野に興味と知識を示す。
数字の6を並べたような独特の前髪は、本作の設定年代である1930年代に実際に流行ったもの。


オススメエピソード

全70話もあるので、初見の方はどれを見たらいいのか分からないと思うかもしれない。
そんな人のために、この記事を編集したwiki篭り達が独断で選んだオススメエピソードをあげておく。

第一話 コックを探せ
その名の通り、コックを探すことになったポワロ。最初は「こんなしょぼい依頼を私に持ち込んでくるとは」と憤っていたポワロだったが、調べてみると実はそうでもなく…?
事件はとにかく追いかけてみようねという話。

第四話 24羽の黒つぐみ
ポワロが友人とレストランで外食していたら、ウエイトレスが「常連客の様子がいつもとおかしい」と言い出す。興味を持ったポワロが調べてみると…。
作中ではポワロがイギリスの国民的スポーツ・クリケットを何度もディスるが、なんだかんだでポワロもクリケットが好きなことが発覚する。

第十二話 ベールをかけた女
ベールをかけた女が依頼を持ってきた話。珍しいアクションもの。
とっとと窓ガラスを割って逃げるヘイスティングスと、置き去りにされるポワロのコミカルさが見どころ。

第三十二話 ABC殺人事件
犯人からポワロに挑戦状が送られ、アルファベット順に事件が起きる有名作。
ヘイスティングスの自慢話であるカイマンとカスト氏を演じるドナルド・サンプター氏の演技は必見。

第四六話 アクロイド殺し
叙述トリックの最高傑作と呼ばれる本作も映像化。
…なのだが、媒体が媒体ゆえに大変残念な改変がなされている。原作をご存じの方はあまり期待しないように。
まあ、しょうがないんですけどね。

第六十四話 オリエント急行の殺人
豪華寝台列車を舞台とした、結末が衝撃的すぎることで有名な名作。
他の話と違い、ポワロの苦悩が描かれ、正義とは何かを考えさせる。
有名作だけあってドラマ製作陣も相当に力を入れたようで、セットなど美術周りの細かい作り込みはもちろんのこと、
イギリスでは単独で主演を張れるレベルの名優が大量にキャスティングされている。


ヘイスティングズ、私の灰色の脳細胞が動き出しました。
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最終更新:2025年01月24日 00:44

*1 日本では本編放送前の特番だったが、イギリスでは最終回の直後に放送された。

*2 これに伴い、原作では第二次世界大戦後を舞台にしていた『満潮に乗って』も時代背景及びそれと密接に連動する経緯が変更されている。

*3 「カーテン」のみ第二次世界大戦直後の1940年代後半。