ナートゥ・ナートゥ(RRR)

登録日:2023/01/29 Sun 23:38:06
更新日:2023/03/24 Fri 01:05:31
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サルサでもフラメンコでもない。

ナートゥ、をご存じか?


『ナートゥ・ナートゥ(Naatu Naatu)』とは、2022年公開のインド映画『RRR』の劇中にて披露された劇中歌のタイトル、及び同曲に合わせて披露されるダンスである。
主人公2人による、倍速かと思ってしまうほどキレッキレな足技が話題を呼び、Youtubeにある公式動画は2022年4月に投稿され、2022年12月時点で再生数は1億回を突破した。

第80回ゴールデン・グローブ賞をはじめ、様々な賞を受賞しており、映画界を騒がせている。
また、第95回アカデミー賞の歌曲賞にノミネートされ、見事受賞した。
これらはインド映画初の快挙である。


主要登場人物

  • コムラム・ビーム(ビーム)
主人公の1人。灰色のスーツを着ている方。
ゴーンド族の「守護者」で、さらわれた同族の少女マッリを助けるため、「アクタル」という偽名を使ってデリーに侵入。
ラーマとはあるトラブルから意気投合し、彼を「兄貴」と呼び慕うほどに。
ちなみにこの場面でのビームは、マッリがいるだろう屋敷に忍び込む一環でジェニーとお近づきになろうとしているところ。しかし、英語を解さないため彼女の言うことがなかなか理解できなくて……。

  • アッルーリ・シータラーマ・ラージュ(ラーマ)
主人公の1人。茶色のスーツを着ている方。
大英帝国領インド帝国の警察官。英語を話すことができる。
映画冒頭で暴徒と化すデモ隊から捕まえるべき1人を、満身創痍になりながらも捕まえてくる凄腕を誇る。
しかし、インド人ゆえ冷遇される日が続く中、デリーに忍び込んだ暗殺者を捕まえると特別な地位が与えられると聞いて志願。
まさにビームこそがその対象であることを知らず、あるトラブルから彼と意気投合し、親友に。
恋に奥手で英語を解さないビームがジェニーにお近づきになることに対して(事情を知らずに)助け舟を出す。

  • ジェニー
マッリをさらったスコット総督の姪。しかし、叔父のようにインド人に対する差別感情は持っていない。
トラブルの時に道案内をしてくれたアクタル(ビーム)を気に入り、招待状を渡す。

  • ジェイク
インド人を見下すイギリス人。様々なダンスを熟知しており、自身としてもプロのダンサーとしてのプライドを持っている。


『ナートゥ』が始まるまでの流れ

※この時点ではビームは「アクタル」という偽名を使っているが、ここでは便宜上「ビーム」と記す。

(ラーマの悪知恵によって)トラブルに見舞われたジェニーを、(これまたラーマの助け舟で)道案内することになったビーム。
ジェニーをある市場まで連れて行き、同行する。
ジェニーは子供用の服を買おうとして「それ子ども用の服ですよ」と(ジェスチャーも交えて)会話するビーム。
そしてジェニーは「この服はマッリという少女に着させるものよ」と言い、それを聞いたビームは驚愕。誰あろう探し人の名前だったからだ。
ビームは急いでバングルを作り、ジェニーに「その子にこれもあげてくれないか」と渡す。
すっかりビームのことを気に入ったジェニーは、パーティーへの招待状を彼に渡し、迎えとともに去っていったのだった。

ビームは家に帰り、ラーマに市場を歩き回れたことを伝え、彼にジェニーから受け取った招待状を見せる。
パーティーの招待状までもらった事に驚きながらも喜ぶラーマは、パーティーの日付が今日であることを知ると、急いでビームに身支度を整えさせ、ビームのパーティー出席にお供することとなった。

ところ変わってパーティー会場。
ジェニーはジェイクに口説かれていたが、ビームとラーマを見つけると一目散に二人の方へ向かう。
そしてジェニーはビームを社交ダンスをと誘うが、それを見たジェイクは「あんな奴のどこがいいんだ」とばかりに、近くにいた女性を連れてダンスステージへ。
しかもビームの足を引っかけて転ばせ、ダンスを台無しにさせた。
それを見て「インド人はこんな踊りも踊れない」と、タンゴやフラメンコを踊りつつビームを嘲るジェイク。
笑われ者になりかけたビーム、だがその時。


カァン!


カンコンカン…


ダッ ダダダン ダン!


転がっていたトレイが突如空を舞い、嘲笑をかき消すほどの力強いリズムがドラムの場所から鳴り響く。

鳴らしていたのは、別行動を取っていたラーマ。その後も力強いリズムで気圧されていたビームを鼓舞し、ドラムを黒人の演奏家に託すと、割れた貴人たちの前を悠々と歩む。座り込んでいたビームもラーマの差し出す手を受け取り、力強く立ち上がる。
そして立ち上がらせたビームに前を向かせて、ビームの肩に肘を置くラーマはこう告げる……。


サルサでもフラメンコでもない。


“ナートゥ”をご存じか?


……“ナートゥ”とは何だ?


この後、ジェイクはナートゥをそれはもうたっぷりと理解(わか)らさせられることになる


ナートゥ


土煙を挙げて猛進する雄牛
母神にささげる渾身の踊り
サンダル履きの大立ち回り
木陰で悪巧みする若い衆
あるいは唐辛子入りの雑穀パン

まあ聴け
この曲を
この歌を

ナートゥ それは英雄の歌
ナートゥ それは故郷のダンス
ナートゥ 刺激強めのインドの歌
ナートゥ 切れ味鋭い野生のダンス

(インド映画でよくある)キレッキレな足技のダンスを披露する二人。
つまらなそうに二人を見ている男性陣と違い、周囲で楽しそうにダンスを見ていたジェニーや他の女性たちも、いつしかその踊りに合わせて小刻みに揺れはじめる。
一方のジェイク。「くだらないものを見せられた」と立腹し、二人を追い出そうとする。
しかし、ここでジェニーたちがそれを遮る。
そしてジェニーは、二人のサスペンダーを引っ張って放し……

続けて

と促す。
そんなリクエストにお応えして、二人が次に見せるのはサスペンダーを使ったダンス。
そして二人が肩を組んで息の合った足技を見せる。
そのまま女性たちと踊り続けるが、さすがに腰を振る踊りに我慢できなかったジェイクが妨害する。
しかしまたもジェニーが彼を妨害。二人や他の女性たちとともにジェイクのそばから離れていく。

女性たちもまた二人と一緒に踊る。
そして一方、散々コケにされたジェイクは、ダンサーとしてのプライドをかけ、半ばやけっぱちになってダンスに参加。周りの男性たちも彼に加勢する。
やはりダンサーとしての腕前は伊達ではなく。その踊りを見たラーマはジェイクに向けてサムズアップする。
そして「左足を軸足に、右足を左右に振る」モーションをひたすら続ける、豪快な耐久勝負(ダンスバトル)へと突入する。

次々とリタイアして倒れたり何かにもたれかかったりする中、ビーム、ラーマ、ジェイクの三人が残った。
しかし、いくらダンサーとして自信があっても、ここまでの激しい動きを長時間やることには耐えきれず、ジェイクは足を踏み外してついに倒れてしまう。
勝ち誇る二人、まだ勝負は終わっていない。
ビームラーマ、両雄向かい合い、頂点を決める最終決戦に突入する。
多くの女性たちがラーマを応援する中、ジェニーだけはビームを応援する。
そのまま両者譲らずの展開が続いたが、ふとラーマはジェニーの方を見る。

アクタル!

ビームを応援するジェニーを見て、ラーマはビームを見る。
ビームは疲労がたまって徐々に動きが鈍くなる。このままいくと先に彼が倒れるだろう。
それを見たラーマは足がつったと右足を抑え、倒れ込む。
ラーマはビームに花を持たせ、ジェニーとの関係を進展させようとしたのだ。
最後まで残り、勝ち誇るビームの姿で「ナートゥ」は締めくくられるのだった。


その後

勝利したとはいえ疲れ果てたビームはラーマにおぶってもらい、パーティー会場を去ろうとする。
そこにジェニーが現れ、ビームを総督府に招き入れることに。
「探し求めていたマッリがそこに居るかもしれない」と思ったビームはジェニーの誘いに乗り、総督府に向かうことに。
ラーマは笑顔で二人を見送る一方、車の後部にある模様から、不意に「自分の接触してきたゴーンド族の男の指に塗料がついていた」事を思い出す。
「自分に接触してきた男は塗装工に扮しているのでは?」と考えたラーマは、パーティー会場を後にして捜査を再開するのだった。



余談

このナートゥは史実で踊られている伝統的な踊り……ではなく、この作品オリジナルのもの
この架空の世界にはあるのか、それとも二人の即興なのかは知る由もないが、そんな細かいことはどうでもよくなるほど、このナートゥは見る者を魅了するだろう。
やはりというかこの踊りを真似ようと、Tiktokなどで「踊ってみた」をやるのが流行っているようだ。

公式の英語綴りは、作品の基盤となるビームやラーマの使うテルグ語表記。
一方インドの公用語の一つヒンドゥー語では「Naacho Naacho」、名作映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』で使われたタミル語では「Naattu Koothu」等、インド各地の言語でそれぞれ異なる読みで呼ばれている。

このシーンが撮影されたのは2021年後半。インドを離れウクライナの重要文化財にして現役の政府施設、マリア(マリイーンシキー)宮殿で撮影された。
……もう一度言う。
2021年後半のウクライナである。
この半年後に何が起こったかは、言わずともわかるだろう。
このため、このシーンは「現実での暴力的な戦争」「映画での平和的なダンス勝負」という皮肉にもほどがある対比が出来上がってしまった。
また、開戦直前のマリア宮殿の様子としても貴重な映像となった。制作陣にとってはあまりうれしくない名誉だろうが。

アカデミー賞受賞式においては、司会者の話が長引いた場合、何らかの手段によって退場させられるのがお約束
そして本作が受賞した第95回受賞式では、ナートゥダンスの片足を振る踊りで司会者を囲みながら移動させ外に追いやるという方法が取られた。もちろん、会場からやんやの喝采が上がったことは言うまでもない。

何故字幕が「ご存知か」になったかご存知か?翻訳者インタビューによれば字数の制約上(大意)とのこと。



追記・修正はナートゥをご存知の方にお願いします。


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最終更新:2023年03月24日 01:05