登録日:2023/04/02 Sun 02:49:00
更新日:2023/04/26 Wed 15:43:22
所要時間:約 12 分で読めます
「神さまロボットに愛の手を!」は、
漫画『ドラえもん』のエピソードの1つ。
小学六年生1981年9月号に掲載され、てんとう虫コミックス版には第28巻に収録されている。
【概要】
ドラえもんの連載中期から後期にかけての時期に発表されたエピソード。
所々に挟まれるシュールなギャグをアクセントにしつつも、静香の優しさが前面に押し出されたエピソードの一つである。
初登場から既に50年以上、今も尚、国民的漫画不動のヒロインとして揺るがない地位を築いている
しずかちゃんこと源静香。
現在、一般人が彼女に持つイメージは「誰にでも優しいヒロイン」というものが強いと思われるが、実は連載の時期によって性格や行動に大きな変化があったキャラであるのはドラえもんマニアなら常識だろう。
見た目はいいが毒気も強い「あくまでギャグ漫画のヒロイン」だった前期、毒舌はアクセントレベルになり(時折鋭く切り込んではくるが)慈愛の心や気遣いの心とお茶目な可愛らしさが前面に押し出されるようになった「国民的漫画のヒロイン」である後期。では明確に変化があったのはいつなのか、どの辺りのエピソードなのか、その答えの一つとなり得るのが本エピソードとなる。
本エピソードが載った1981年の夏は静香の優しさ、可愛らしさや人生模様が押し出されたエピソードが幾つもあり、静香が本格的に大長編でヒロインムーブをするようになった「のび太の大魔境」もこの頃に連載が始まっている。なので1980年から81年にかけてのこの時期こそが、F先生が本格的に静香に込める「ヒロイン像」を模索し始めた時期である可能性が高い。
「大長編」というコンテンツが一気に展開される兆しが見え、F先生の手によってギャグ漫画のキャラらしい面白味も残しつつ「国民的漫画のヒロイン」に変わっていった静香の魅力を見ることができる始まりの一篇として、読めるエピソードがこの「神さまロボットに愛の手を!」である。
【原作】
ある日、いつものように
ジャイアン と
スネ夫にいじめられた
のび太 は、いつも以上に
オーバーにドラえもんに主張をした。
悪者が栄え、正しい者が泣かされるなんて…、世の中間違ってる!
そんなのび太の主張にドラえもんが出したのが「神さまロボット」。杖をついたみすぼらしい老人のような見た目をしたロボットで、このロボットを保護し、親切に対応すると3つの願いを叶えてくれると言う。早速願いを叶えてもらおうとゴマをすったしたのび太だったが、既に神様だと知っているのび太では上手くいかない、とドラえもんに止められてしまった。
気を取り直して神さまロボットを動かし、二人は家を出ることに。
しばらく自動で歩いていたロボットだったが、突如その場にコテンと倒れてしまった。近くを通る人を感知し、わざと倒れてその人が願いを叶えるに値するか試すのだと言う。最初に近づいた通行人(モブ)は足を止めてロボットを見下ろしたが、気にすることもなく通りすぎてしまった。
その後も何度か人を試すロボットだったが、気にかける人は全くいなかった。誰もが見向きもせずせかせかと通り過ぎていく。ジャイアンとスネ夫に至っては、ニヤニヤしながら暴言を吐いてロボットを蹴っ飛ばしていく始末。
ジャイアン達が去った後、あまりの言いぐさに何とも言えない気分でロボットを回収するのび太。
そこでのび太は静香をロボットに合わせてみることにした。
源家の門の外に神さまロボットを設置し、のび太とドラえもんは静香を呼び出したのだが、出てきた静香は浮かない顔。なんでも、明日のピアノの発表会に向けて猛練習を積んでいたのに指をドアに挟んで怪我をしてしまい、ひどく落胆していた所だったとのこと。
治るまで一週間かかるって。発表会に間に合わないわ。
その場でガックリ頭を垂れて悲しむ静香を、とりあえずのび太たちは外に連れ出すことにした。
すると、門の近くで倒れていた神さまロボットを静香が発見、その場で抱え上げた。
ロボットが声を発したのを見て、一同はそのまま静香の家に戻りロボットに食事を恵んでみる事に。みるみるうちに静香が用意したトーストと紅茶をムシャムシャと平らげていくロボット。ロボットはその場で一息つくと、静香の前に浮かび上がり、神々しい光を放ちながら宣言した。
静香は思わぬ展開に困惑した様子だったが、やがて包帯でグルグルになった左手の人差し指を見せた。
地面に降り、外へと歩き出したロボットについていく一同。やがて辿り着いたのは、のび太の家だった。するとそのタイミングで、にわか雨が突如降ってきた。降雨に慌てた様子で飛び出し洗濯物を回収し始めた玉子ママを見て、手伝いを申し出る静香。
洗濯物を回収しては籠に詰める作業をしていたその時、突っ込んだ静香の手が籠の中の洗濯物に絡まり、抜けなくなってしまった。ドラえもんとのび太の二人がかりで静香を抱え、力任せに手を抜いてみると…。
なんと包帯のとれた静香の左手人差し指はきれいに完治していたのである。洗濯物を調べてみると、ドラえもんが干していたタイムふろしきが出てきた。これが指に絡まり、指だけ一週間経ち完治したようだった。
発表会には新しいお洋服で出たかったんだけど、こんなお願いは贅沢かしら。
気をよくしたのか二つ目の願いを申し出る静香。再び歩き出したロボットを追って、一同は外を歩きだす。しばらく歩いていたその瞬間。一台の車が先程の雨で路上に出来ていた水溜まりの水を跳ね飛ばし、この手の不運はもはやあるあるなのび太ではなく静香はその水をもろに被ってしまった。泥水塗れになり悲哀たっぷりな表情の静香、困惑するドラえもんとのび太の所に、水を飛ばした車の運転手と思しきおじさんが車から降りて近づいてきた。
洋服屋を営んでいるらしいそのおじさんは汚水を飛ばした事を謝罪すると、新しい服での弁償を申し出てきた。
新しい綺麗な服を貰い、ご満悦の静香。満足した様子の静香は一旦願い事を打ち切り、ホクホク顔で家に帰っていった。
さて、そんな様子を盗み見ていた人影が二つ。ジャイアンとスネ夫である。先程蹴っ飛ばした人形が神様だと知ると、ドラえもん達の目を盗んでその場で家に連れ去ってしまった。
スネ夫の家で神さまロボットを恩着せがましく歓迎し、ご馳走をふんだんに振る舞うジャイアンとスネ夫。
これでも一応願いは叶うらしく、願い事を考えだす二人。出し抜けにジャイアンが発した一言が事件の切っ掛けだった。
ジャイアンのパンチに応戦するスネ夫。殴り合いの最中、二人は互いに激しく罵った…。
次の瞬間、その場に立っていたのは二足歩行のまま手足と顔だけがブタになった「ブタ人間」状態のジャイアンとスネ夫であった。(ジャイアンの手には漫画10冊入った袋付き)
こうして「3つの願い」は無事叶えられたのだった。
ブタ人間と化した二人はドラえもんに泣きつくも、ドラえもんは微妙にニヤニヤしながらつれない顔。先程の恨みもあるのかのび太も同様だった。
すると次のコマで唐突にその場にやってきた静香が、ドラえもんの所に帰ってきていた神さまロボットに言った。
何とか元の姿に戻れ、静香に泣いて感謝するジャイアンとスネ夫。一応全てが丸く収まったのを見ながら、のび太は少しだけ残念そうに呟いた。
【登場したひみつ道具】
○神さまロボット
杖をついたみすぼらしい老人の姿を模したロボット。
童話などでよくある「みすぼらしい老人を助けてあげたら、その老人が神様で〇つの願いを叶えてくれる」展開をモチーフにしており、このロボットを保護、世話するなどして認められると、願い事を三つまで叶えてくれる。
大きさはのび太たちが両手で抱えて持てるぐらいで、
人というより古い人形と間違えられそうな見た目をしている。動力がゼンマイ式なのもみすぼらしさに拍車をかけている。
願いの叶え方は様々で、作中では
ピタゴラスイッチ的な誘導をするパターンから謎の力で一気に叶えるパターンまで確認できる。
作中では「(このロボットの素性を)知っててわざと親切にしても上手くいかない」とされているが、その基準をどうやって定めているのかは語られていない。
○タイムふろしき
作中で偶然静香の指を治すのに使用された。ドラえもんは布系の道具をちょくちょく洗濯しており、特にタイムふろしきはこの話を含めた幾つかの話で洗濯している。ママや他の洗濯物に被害が出たりしないのだろうか…?
【アニメ版】
2023年現在、
アニメ化されたのは大山版で1回とわさドラ版で2回。
大きな改変をした物はなく、いずれも大まかな流れは原作準拠となっている。
◇大山版「神さまロボット」
1981年11月6日に初放送。
細かい改変は以下に通り。
- 最初のジャイアンとスネ夫の暴行が、「二人による(悪戯落書きという)罪ののび太への擦り付け」に変わっている。結果的により「悪が栄えている」感が生々しくなっている。
- ロボットの動力がゼンマイではなくなっている。最初から自律で動いており、のび太たちと会話もしている。
- 静香に会うのが接骨院の前、偶然の出会いになっている。路上に寝転がるロボットに気付いて家に連れ帰るのは同じ。
- ジャイアンの漫画10冊の願いが、「スネ夫の本棚から10冊抜き取られる」という形で叶えられる。そのことにスネ夫が怒り、言い合いからブタになる流れは同じ。
- スネ夫が身体を元に戻してと願うも、ロボットにそっぽを向かれる。より自業自得感が強まっている。静香に戻してもらうのは同じ。
◇わさドラ版「神さまロボットに愛の手を!」1回目
副題に「やさしさをください…」が付いて放送された。2006年10月27日初放送。
細かい改変は以下に通り。
- 最初のジャイアンとスネ夫の暴行が、空き地の土管の取りあいになっている。
- 歩くロボットからモーターの駆動音が鳴るようになっている。ゼンマイ設定も復活し、みすぼらしい老人というよりもポンコツロボット感が増している。(性能自体は原作同様)
- のび太がゼンマイを巻き過ぎたためにロボットが暴走し、ドラえもんたちと逸れてしまう。逸れた先でロボットが散々な目に遭い、本当にボロボロになっていた所を接骨院から出てきた静香に保護される。静香の家でドラえもんたちと合流し、静香の願い事の話となる。
- 籠から静香の手を引き抜くのにママも手伝う
もとい巻き込まれる。
- ブタになったジャイアンとスネ夫の語尾が「ブー」、「ブヒ」になっている。
実にわざとらしい。
◇わさドラ版「神さまロボットに愛の手を!」2回目
わさドラでのリメイク版。2018年1月7日初放送。
1回目よりも改変部分は減り、より原作に近い話の流れになっている。因みに、のび太の意志によって神さまが源家を訪れるのはアニメ化3回目にして初めて。
- 最初のジャイアンとスネ夫の暴行が、漫画の巻きあげになっている。
- のび太が最初、何とか神さまロボットに願いを叶えてもらおうとあがく。結局上手くいかず、原作通りの流れに。
- 静香が二つ目の願いの後、別れずにのび太たちと駄弁る。二つ目で一旦願いを打ち切るのは同じ。
- ジャイアンが神さまの歓迎に歌を歌う。その間、「しばらくお待ちください。」の画が出てくる。
- ジャイアンが盗った漫画とロボットからもらった10冊の漫画をのび太に譲渡する。
【余談】
- 全てのアニメ版で「本当の神様のようだ」と評される静香だが、創生日記で実際に女神としての業務を行っている。創生日記はテーマの壮大さもあって没になったエピソードが非常に多かったらしく、その影響で静香の女神としての活躍はたったの2ページに無理矢理詰め込まれている。F先生も無念だった事だろう。
- この話が雑誌に載ったのは小学六年生1981年9月号だが、この前の巻に当たる小学六年生1981年8月号に載っていたのがあの「のび太の結婚前夜」。更に結婚前夜と同じタイミングで出た「てれびくん1981年8月号」に掲載されたのが「魔女っ子しずちゃん」である。概要にも書いたように1981年辺りというのは、F先生が「静香のヒロイン像」を模索する上で大きな転換点となった時期だったのはまず間違いないだろう。
- 原作でジャイアンたちがブタになったコマでは細かい演出が一切無く、「どうしてこうなったかは、ページ数の都合で省く」というナレーションのみで雑に扱われている。実にシュールな光景である。
- 忘れろ草でこのロボットのことを忘れらせて何度も使うのはなしかな? -- 名無しさん (2023-04-02 15:15:03)
- 「どうしてこうなったかは、ページ数の都合で省く。」ここのとこは描写が思いつかなかったとしか思えん…人間が急にブタになるなんて想像も付かんだろうし -- 名無しさん (2023-04-02 15:34:05)
- ひみつ道具大辞典ではのび太も望みが叶ってるんだよな -- 名無しさん (2023-04-02 16:04:26)
- ↑×2「恐竜が出た!」「さとりヘルメット」等、物語の「起」「承」で読者を引き込ませるのは得意だけど、「転」「結」がモヤついた展開が多いのが藤子F先生の構成作家としての弱点で本作がそれの代表例ですな。大体の執筆姿勢がエピローグすら考えない真性のライブ志向だし。 -- 名無しさん (2023-04-02 16:31:29)
- ジャイアンとスネ夫二人いるけど願い事は3つ固定なのね。 -- 名無しさん (2023-04-02 17:47:58)
- アメリカ版でイラスト変えてたのってこの回だったような -- 名無しさん (2023-04-02 18:38:50)
- 余談見る限り、F先生結婚前夜書いてしずかちゃんに感情移入した結果なのかな?>概要に書いてあるキャラ変 -- 名無しさん (2023-04-03 23:29:16)
- 単行本収録時にしずかの性格が大幅に変わった水たまりのピラルクの雑誌初掲載はこの作品の発表よりも後という(1982年1月) 1981,2年頃は過渡期だったのかな -- 名無しさん (2023-04-12 18:53:37)
- 大山版は冒頭の改変で、のび太を殴った大人を謝らせていないっていうモヤモヤが追加されちゃったな。のび太が無実を主張しても「言い訳すんな」と確かめもせずに殴ったのはいただけない。「動物語ヘッドホン」「望遠メガフォン」のように無実を証明していれば良かったんだが、話が脱線しかねないかな… -- 名無しさん (2023-04-20 15:37:34)
最終更新:2023年04月26日 15:43