登録日:2023/12/16 Sat 21:01:31
更新日:2024/12/21 Sat 00:16:13
所要時間:約 28 分で読めます
概要
調査兵団13代団長。
第1話・物語開始時点では分隊長であり、当時の団長キース・シャーディスの指揮下で巨人と戦っていた。突撃戦法ばかりで成果を上げられていないキースに対し、当時エルヴィンの分隊はまだ死者を1人も出しておらず、兵士の損害を抑える長距離索敵陣形を考案する等、この時点でエルヴィンの方が団長に相応しいという声が市井にも広まっており、彼が団長になるのも時間の問題であった模様。
アニメ版第1話では超大型巨人襲撃前の壁外調査から帰還した際、当時のエレンと目が合うが、何の戦果も上げられずに帰還してきた自分達を憧憬の眼差しで見ていたため、思わず目を背けてしまっていた。
超大型巨人襲撃によるウォール・マリア陥落以降、団長に就任。部下の調査兵を指揮して壁外調査を続けていたが、成果は芳しくなく、5年の月日が経過して尚ウォール・マリア奪還の目処は立っていなかった。
そんな中、調査兵団が壁外調査に出ている最中に超大型巨人がトロスト区に出現し、壁の扉を破壊。巨人の動きから壁が破壊された事を察知したエルヴィンは即座に壁外調査を中止し、ウォール・ローゼへ帰還する。あわや調査兵団存続どころか人類滅亡の危機に陥るかと思いきや、確かにウォール・ローゼのトロスト区の外門は破壊されて巨人が侵入していたが、調査兵団が到着した時点で既に穴は大岩で封鎖されていた。事の顛末は、訓練兵・エレンに突如として巨人に変身する能力が発現し、その力を以て穴を塞いだという前代未聞の報告だった。
エルヴィンはエレンこそが人類を救う鍵であるとして、彼を調査兵団に勧誘する。
人物
身長:188cm
体重:92kg
誕生日:10月14日
金髪を綺麗に整えた七三分けに、彫りの深い顔立ちが特徴。
基本的に能面のように無表情であり、誰かに笑いかける場面も存在するがそれもほぼ営業スマイルだったりする。
しかし、喜怒哀楽の感情も人並みに持っており、実際王政編で調査兵団に協力した商会長のディモ・リーブスが王政に暗殺された事に静かに怒りを露わにしていたり、巨人の正体につながる手がかりを知った際には、
子供のようにキラキラした目で満面の笑みを浮かべていた。
特に、彼が仲間を鼓舞する場面での顔は冗談抜きに凄味を増しており、特にアニメ版では眼力がエラいことになっている(アニメ1期16話など)。
また、
リヴァイやハンジ、ナイルなど付き合いの長い人物に対しては一人称が「私」から「俺」になり、口調や表情も多少柔らかくなる。
壁外調査において迅速な対応を求められる調査兵の全指揮を統括する立場にあるだけあって、常に冷静かつ聡明な人物。王都の地下街で暴れるゴロツキとして名高いリヴァイや、巨人化能力者であるエレンを調査兵団に引き入れたり、後が無い状況下で新兵の立案した作戦を即席で採用するなど、状況に応じての柔軟な対応を取れる。とかく一指揮官として優秀であり、兵士の損害を減らす長距離索敵陣形を考案したことからもそれはうかがえる。
一見紳士的で穏やかな物腰のようであるが、その本性は目的の為ならば手段を選ばず仲間の命どころか自分の命さえ切り捨てる事を厭わない、いわゆるマキャベリスト。
巧みな雄弁を以て部下を鼓舞・扇動し、死地へ送り込む手腕はそれこそ詐欺師と形容される程のもの。特に、重傷を負った自分すら味方の鼓舞に利用する様は詐欺師を通り越してもはや狂人の域にある。
しかし、別に積極的に犠牲を強いている訳では無く、実際に彼は調査兵団の新兵を募る際、巨人の謎が明らかになる可能性を示唆して勧誘しながらも調査兵団の厳しい内情を明かして本当に人類の為に心臓を捧げられる覚悟のある者のみを引き入れたり、王政編において、クーデターを計画した時も極力双方が血を流す事のない無血革命を目的としており、政権交代後も民衆の暴動や貴族の反乱が起こらないように努めていた。
というより、彼が指揮を執っているのは大量の犠牲がなければ、もしくは大量の犠牲を払ったとしても成功率そのものが低く、失敗すればそれがそのまま人類滅亡に繋がりかねない重要な作戦ばかりであり、そういった実情もあってか「博奕打ち」と揶揄される事も。実際に賭博が強いかどうかは不明だが。
このような面から非人間的な超越者のようにも見受けられるが、青年時代は普通に女性に恋をした時期もあった事が明かされており、作中の所業からは想像もつかない程ずっと人間的な人物である。
壁の外に人類がいないってどうやって調べたんですか?
エルヴィンの父は、エルヴィンの育った地域の教員であり、エルヴィンもその中の生徒のひとりであった。
ある日歴史の授業をしていた時、エルヴィンは人類が壁内に逃げ込んだ際に外の世界の文献等が全く残されていない事に疑問に抱き、それについて質問したが、父はその授業でまともに質問に答えず、自宅に帰ってからその質問に答えた。
父によると、「王政が発行している歴史書には矛盾が多過ぎる上に、仮に文献が残っていなくとも壁に入ってきた世代が次世代に歴史を語り継ぐことができた筈であり、完全に口を噤んで次世代に外の世界の情報を残さないのは本来は不可能である。ゆえに、壁の中に逃げ込んだ当時の人類は、王が統治しやすいように記憶を改竄されたのではないか」というものだった。
当時のエルヴィンにとっても信じ難い仮説であり、なおかつ何故父がその仮説を教室ではなく自宅で話したのかを察せる程聡明ではなく、街の子供にその仮説を話し、その場に居た憲兵にも詳細を尋ねられ、それを話してしまった。
その日、エルヴィンの父は家には帰って来ず、自宅から遠く離れた街で事故に遭って死んだ。
一連の出来事からエルヴィンは父が壁の真実に近付いた結果憲兵団ひいては王政に殺されたと悟った。いつしか、エルヴィンは父の仮説を証明する事こそを人生の使命とするようになった。
エルヴィン自身も王政について調べるうちに、父の仮説は彼の中で真実と相成った。
曰く、壁外をろくに出歩けない以上、人類が巨人に喰い尽くされた事を確認する手段は無い筈。にも拘らず、王政が発行する歴史書では「喰い尽くされた」と断言している。本来歴史書は客観的であるべきであり、「喰い尽くされたと思われる」と表記されるのが正しい。そう表記しなかったのは、それこそが王政の意図であり、「壁外に人類は存在しないと思い込ませたい」、逆説的に「人類は滅んでなどいない」という仮説に行きついた。
しかし、父の仮説には「人類の記憶改竄の仕組み」という重要なファクターが欠如していた。それを解明できない事にはただの絵空事でしかなく、長年エルヴィンの中でも燻っている他なかったが、エレンが巨人化能力を発現したことで、その仮説は現実味を帯び始めた。
「人間」と「記憶」、仮説の中でそれを繋ぐ要素として「巨人」が介在出来るようになり、「人間は巨人になれること」「巨人化能力を持つ一部の人間は巨人を操る事が出来る」といった事実から「人間が巨人になる事が出来、その巨人を操る事が出来るのなら、人間が人間を操る、それこそ記憶改竄すらも可能とするのではないか」という仮定に行きついた。
王政との決着を経て、欠けていた要素が繋がった事により、長年追い求めていた真実に手が届く所にまで辿り着いた。
後はそれを壁の外の真実を知る者が残したモノから、それを確かめるのみ。シガンシナ区のエレンの生家、その地下室に彼の父グリシャ・イェーガーが残した世界の真実を知る事さえ出来れば、長年の夢は成就する筈であったが…
活躍
第57回壁外調査
3兵団による特別兵法会議において、エレンの処遇は調査兵団に委ねられることとなり、エレンの巨人化能力の試運転目的での壁外調査を行うこととなった。
しかし、エルヴィンには別の思惑があった。
トロスト区防衛戦/奪還戦において超大型巨人は出現したが鎧の巨人は出現せず、しかも外門を破壊しておきながら内門を破壊する事は無く、エレンが壁の穴を岩で塞いだ時も放置していた。
このことから、巨人側にとってもエレンの巨人化は侵攻を中止せざるを得なかった程の完全に想定外の事態であり、エレンを壁外に出せば必ず奪いに来ると確信し、表向きはエレンをシガンシナ区へ送る試運転として壁外調査を立案したが、裏で巨人側の諜報員を捕獲する為の作戦を秘密裏に計画していた。
ただし、作戦の真の意図を伝えられたのは5年前の超大型巨人襲撃時以前から調査兵団に在籍して生き残っている兵士のみであり、それ以外の兵士はスパイの疑いを捨てきれなかった為、表向きの壁外調査の計画しか知らされず、巨人側にも本当の目的を勘づかれないよう、襲来するであろう巨人を全力で迎撃する時間稼ぎの為の捨て駒にされた。
甚大な被害を受けながらも、女型の巨人の襲撃から逃げているように見せかけて巨大樹の森に誘導し、仕掛けた多数の罠により、女型の巨人を拘束・捕獲する事に成功する。
女型の巨人の「中身」を捕らえるべく攻撃を仕掛けようとするも、女型の巨人は「叫び」の力で巨人を呼び寄せて自らの肉体を喰わせる事で情報の抹消を図る。
兵士総出で応戦したが、兵士を森の周りに配置した結果多数の巨人を森に集めてしまっていたことが災いし、女型の巨人を守り切れず、女型の巨人は多数の巨人に貪り喰われてしまう。
捕獲作戦は失敗と判断して撤収…その最中に、巨人化能力の練度の差から女型の巨人の「中身」が逃走した可能性に思い至り、リヴァイ班の部下に合流しようとしたリヴァイに消耗したガスとブレードを補給させた上で、合流に向かわせた。
予感は的中し、包囲網から離脱していた女型の巨人の「中身」がリヴァイ班を急襲。リヴァイ班は全滅し、エレンは女型の巨人に奪われてしまった。
最終的に班長のリヴァイが女型の巨人からエレンを奪還する事には成功したが、調査兵団全体としては、兵士を大量に死なせた上で女型の巨人の中身を取り逃がしてしまった失態のみが残り、団長のエルヴィン含む調査兵団幹部数名とエレンの王都招集が決定した。
女型の巨人捕獲作戦
第57回壁外調査は多くの有力者から出資を受けておきながら、大損害を受けて帰還した。それは調査兵団の支持母体を失墜させるには十分であり、エレンの処分方針だけでなく調査兵団解散および壁の完全封鎖も王都で正式に決まる流れであった。
しかし、アルミンにより女型の巨人の正体が割り出された為、エルヴィンはこれを逆転の切り札とすべく、王都に召喚される直前にアルミンから立案された女型の巨人捕獲作戦を承認、これを「本体」のいるストへス区にて決行した。
エレンらの働きにより、女型の巨人は倒されるものの、中身である
アニ・レオンハートは全身を硬質化による結晶で覆い、沈黙。
街や住民に甚大な被害を出したことにより、ストへス区の有力者からは苦言を呈されたが、壁内に潜む巨人化能力者を特定・捕獲した功績は雑音を黙らせるには十分であり、エレンおよび調査兵団の王都招集は見送りとなった。
第57回壁外調査のそもそもの目的だった肝心の巨人に関する情報をアニから得る事は出来なかったが、ひとまず今回の主目的が達成された事もあり、その場はひとまず良しとした。
アニメ版では、王都招集中に無断で捕獲作戦を実行した為、ナイルら憲兵団に一時的に逮捕されている。巨人化したエレンの攻撃で千切れた女型の巨人の腕がエルヴィンと彼を連行する憲兵の居た方向へ吹っ飛んで来たのだが、憲兵が逃げ出す中で彼のみ一切の回避行動を取らずにエレンを見据える、という彼の狂気もまた強調されるシーンが追加されている。
エレン奪還作戦
女型の巨人捕獲の戦果により、エレンおよび調査兵団の王都招集は凍結したが、ウォール・ローゼ内で巨人が出現したという報せを受ける。緊急事態ということもあり、一時的に憲兵団を指揮下に置き、直ちに現場に出動した。
結果的にはウォール・ローゼは破壊されていなかったが、壁上で出現した超大型巨人と鎧の巨人の交戦の末、エレンとユミルが壁外へ連れ去られてしまった。二人を奪還する為、調査兵団の他一部の駐屯兵と憲兵を率いて、奪還作戦の指揮を執る。
即席で部隊を編成した為、行きの時点で練度の低い憲兵が巨人に喰われるなど損害を受けながらも、二人が連れ去られた巨大樹の森に到達。
しかし、エレンとの交戦時とは異なり、鎧の巨人は膝裏の鎧を剥がさず逃走を続行していた為、鎧の巨人には白刃攻撃が一切通じず、足を止める手段が無い。
これに対しエルヴィンは、巨大樹の森に集まって来ていた巨人の群れを引き連れて先回りし、鎧の巨人にわざと突っ込ませて強引に足止めを図る。
いかに強大な力を持つ鎧の巨人と言えど多勢に無勢であり、遂に逃走を停止。
地獄のような光景に慄く兵士達だったが、息を吐かせぬままエルヴィンは鎧の巨人への突撃を指示。
巨人は巨人化能力者が変じた巨人も襲うとはいえ、人間にも容赦なく襲いかかって来る。ましてや巨人の群れを潜り抜けて鎧の巨人の元へ辿り着くのは容易な事ではない。
まさしく狂気の策を以て、エルヴィンは大博奕を仕掛けた。
エレンなくして人類がこの地上に生息できる将来など永遠に訪れない!!
先陣を切って突撃するも、木陰に隠れていた巨人に右腕を喰われてしまう。真っ先に指揮官がやられた事に一瞬怯んだ調査兵たちだったが、
腕を喰われてもなお、一切動じずにエルヴィンは突撃を指示。
更に、アルミンがベルトルトに仕掛けた揺さぶりによって生じた隙を突き、ベルトルトをブレードで一閃。エレンを縛っていた紐を切り裂いたことでエレンの救出に成功した。
しかし、何が何でもエレンを奪う腹積もりだった鎧の巨人は自身に群がっていた巨人を投げつけてまで執拗に追いすがり、鎧の巨人足止めの為に巨人を集めすぎていたことが逆に仇となり、戦えないエルヴィンを守る為部下も必死に奮戦するも、絶体絶命の危機に陥る。
あわや全滅かと思いきや、突如としてエレンが巨人を操る能力を発現して周囲の巨人が鎧の巨人に襲い掛かった為、好機と見て撤退を指示。ウォール・ローゼへの撤退に成功した。
腕を失ったまま無理を押して動き回ったツケが来たのか、ウォール・ローゼに到達した時点でショック状態を引き起こして意識を失うも、数週間後に回復。以降、エルヴィンは隻腕となる。
ラガコ村の異変に関する報告から、「巨人の正体は人間である」という結論に至り、エルヴィンは自分が「夢」に近づきつつあることに確かな手応えを感じ、歓喜に震えるのだった。
王政編
ウォール・ローゼ内の騒動から間もなく、凍結されていた筈のエレンの王都への引き渡しが突如として再決定される。
このまま王政に従っていては本当に人類生存の可能性が絶望的となると考え、調査の結果104期の新兵ヒストリア・レイスが王家の末裔であることが判明した為、王政を打倒しヒストリアを女王に即位させるクーデターを画策。
だが王政も手をこまねいているばかりではなく、調査兵団に協力したトロスト区の商会長ディモ・リーブスを暗殺し、それを調査兵団の仕業とすることで調査兵団の息の根を完全に止める腹積もりであった。
次々に調査兵は逮捕され、団長のエルヴィンにも出頭命令が出されるが、彼は調査兵団団長としての表の顔を通してこれに応じ、中央憲兵の拷問を受けながらも知らぬ存ぜぬを通していた。
逮捕される直前、裏で駐屯兵団幹部のピクシスと交渉していたが、クーデターの協力にピクシスは首を縦には振らなかった。
というのも、ピクシスの懸念はクーデターの成否そのものではなかった。政権をすげ替えた結果、王政が有している人類の記憶改竄や巨人体の硬質化などの人類の切り札となりえる力を永久に失ってしまう可能性を危惧したのである。また、各地の有力貴族が反乱を発し、民衆からの支持を得られない可能性を考慮。最悪の場合人同士の争いが勃発して人が滅ぶリスクがある事も、ピクシスにとっては重大な懸念材料だった。
これに対してエルヴィンは「ウォール・ローゼ陥落の誤報を王政の前で出し、反応を窺ってほしい」という要請を提示。
この要請自体、最悪ピクシスの行いは反逆行為と見なされる恐れもあり、普通に考えれば自身の地位を脅かすだけの行為にしかならない為、受ける必要性は皆無だった。しかし、ピクシス自身も王政が人類を生かすつもりがあるならばそれでも良しとしてその要請を受諾し、自身と、それに賛同する一部の部下全員の首を賭けて実行に移した。
しかし、王政が下した決定はウォール・シーナの完全閉鎖、すなわち人類の半数を見殺しにする判断であった。
王政が人類を生かす切り札を持っていながら、人類を生かす気など毛頭ない事が露呈した為、ピクシスはザックレー総統と共にクーデターを決行。中央政府を制圧し、王政の解体に踏み切った。
結果としてクーデターは成功したが、エルヴィンは「人類はより険しい道を選ばざるをえなくなった」ことに嘆息していた。
しかし解放後、ザックレーに「(自身の目的の成就の為に)君は死にたくなかったのだ」と、心情を指摘されている。
エレンおよびヒストリア奪還の為に調査兵を率いてレイス家の領地へ向かうが、ロッド・レイスが巨人化してオルブド区へ侵攻を開始した為、オルブド区の駐屯兵と共に迎撃作戦を立案。
ヒストリアを女王に即位させなければならない以上、彼女の作戦参加を認める訳には行かなかったが、ヒストリアに「民衆は名ばかりの王になびく程純朴とは思えない」と反論される。彼女の意見を肯定しながらもやはり作戦への参加は認められない…というスタンス自体は崩さなかったものの、隻腕の自分では止める事は出来ないだろう、として実質的に彼女の作戦参加を黙認した。
巨人化したロッドを仕留める為、口内に爆薬を投げ込んで弱点の
うなじごと爆破する作戦を立案。しかしながら、ロッド巨人体はあまりの巨大さゆえの自重によって顔面を地面で削りながら進行していた。この事から、開く口すら無い恐れがあったが、口がある事に賭けて作戦を決行。
その賭けは成功し、オルブド区が蹂躙される寸前で巨人体を吹き飛ばし、最終的にヒストリアがロッド巨人体の討伐に成功した。
彼女の英雄的行動による効果はエルヴィンにとっても予想だにせぬ結果だったが、ヒストリアが身を挺して民衆を守った事実により市井から英雄視され、彼女の女王としての権威を民衆が認めるところとなり、政権交代もつつがなく行われる事となった。
クーデターを経て得られた物もあった。エレンが巨人の硬質化能力を獲得したことでウォール・マリアの穴を塞ぐ手段を確立し、更にそれを利用した対巨人駆逐機の開発により穴を塞いだ後の安全かつ持続的な巨人殲滅の手段も得たことで遂にウォール・マリア奪還も夢ではなくなった。
ウォール・マリア奪還作戦前夜、エルヴィンは作戦に参加せず壁内に残るようリヴァイに進言された。
今回の作戦は、鎧の巨人、超大型巨人、獣の巨人の三体もの知性巨人と戦うことになるであろう文字通りの全面戦争になる可能性が高く、誰が死んでもおかしくない。その上エルヴィンまで失ってしまっては本当に人類は後がなくなる。そういった諸々のリスクを考慮した上での提案であった。
しかし、エルヴィンは自分が行かなければ作戦の成功率が下がるとしてあくまで自分が作戦の指揮を執る姿勢で食い下がる。
リヴァイにはそれが建前であることを見透かされており、そうまでして作戦参加に固執する理由を問われると、
この世の真実が明らかになる瞬間には私が立ち会わなければならない
と、常に冷静な彼らしくもない、あまりにも自己中心的な理由を語った。「夢の成就が人類の勝利よりも大事なのか」と問うリヴァイに対し、肯定。絶対の意志を表明した彼に対し、リヴァイも引き下がらざるを得なかった。
ウォール・マリア最終奪還作戦
ウォール・マリア最終奪還作戦では、シガンシナ区内側に鎧の巨人、ウォール・マリア内門側に獣の巨人と大量の巨人がそれぞれ出現。リヴァイ以外のリヴァイ班とハンジ班は鎧の巨人と、それ以外の調査兵は獣の巨人との交戦を命じ、エルヴィン自身は全体の指揮を執る為に壁上に残った。
しかし、獣の巨人の散弾投石により、調査兵団の熟練兵士がリヴァイを除いて全滅。
加えて獣の巨人によりシガンシナ区内に投げ込まれたベルトルトが超大型巨人に変じたことで、ハンジ班は壊滅。超大型巨人と戦っていたエレンも壁上に吹き飛ばされて戦闘不能に陥り、残る戦力はエルヴィンとリヴァイ、そして戦闘経験に乏しい新兵のみと、絶体絶命の危機に。
絶望的とも言える状況に、リヴァイですら無謀とも言える敗走を皮算用する始末であったが、打開策自体はエルヴィンは既に思いついていた。
そして、それはエルヴィン自身の命と、新兵の命を犠牲にすれば為しえることだという。
しかし、その程度の事は今までも彼がやって来たこと。
彼らしくもなくその策の実行に躊躇する態度をリヴァイは詰るが、
突如エルヴィンは、恥も外聞もなく、調査兵団団長としての矜持も責任も放り捨て、エルヴィン・スミスとしての本音をリヴァイに吐き出した。
何度も死んだ方がマシだと思った。そんな地獄の日々を生き抜く原動力となったのは、幼い頃に抱いた夢だった。死ぬ前に自分が地下室の真実さえ知る事が出来るなら作戦が失敗してもいい。そんな無責任な思いさえ頭の片隅に浮かぶ程、焦がれたものがすぐそこにある。
だが――
捧げた心臓がどうなったのか、今まで死んだ仲間がそれを知るまでずっと自分を見ているのだと、そんな幻さえ見てしまうほどに、彼の精神は限界を迎えていた。
いっそのこと死なせてきた者達の事を忘れてしまえる程恥知らずであったならこれ程苦しむことも無かったであろうに、そうあることなど出来なかった。
リヴァイに吐いた弱音は、身勝手を通してまで叶えたかった「夢」への渇望か、それとも自分が騙して死なせた仲間へ抱いた最期の良心の呵責であったのか。
ここに来て初めて、リヴァイは彼の苦しみを理解した。それでもリヴァイは、今まで死んでいった仲間達に報いる為にエルヴィンの選択を肩代わりした。「夢を諦めて死んでくれ」と。
それに対して、エルヴィンは――。
「獣の巨人に全員で騎馬突撃を仕掛け、全員が囮になっている間にリヴァイが単騎で接近し獣の巨人を討ち取る」という狂気の策を以て、この状況を打開する事を決断。
その大前提となる新兵全員での騎馬突撃だが、誰がどう聞いてもそれは明白な
死の宣告に他ならなかった。
新兵の一人・フロックに「どんな死に方をしても無意味だ」という自嘲を受けて尚それを受け止め、人類の勝利の為、エルヴィンは今一度「悪魔」となった。
それこそ唯一!! この残酷な世界に抗う術なのだ!!
悪魔は甘く囁いた。 屍で道を作れ、と。
自分の夢の為に仲間を殺し続けた男はこの日、最初で最後、人類の為に心臓を捧げた。
新兵たちは顔に隠し切れぬ死の恐怖を浮かべながらも悪魔の甘言に酔い、地獄へと導かれた。
自ら先陣を切って突撃し、「獣の巨人」の投石第一波により脇腹を打ち抜かれ、真っ先に落馬。それでもなおエルヴィンが引き連れた新兵たちは突撃を続行した。
最終的には突撃した新兵たちはほぼ全滅するも、発射した信煙弾の煙に紛れてリヴァイが獣の巨人を強襲。獣の巨人も単なる破れかぶれの特攻と見て完全に油断していた為虚を衝かれ、リヴァイは圧倒的な戦闘能力で捩じ伏せ本体を引きずり出し、討伐寸前まで追い込んだ。
車力の巨人の存在により獣の巨人の本体は取り逃がしてしまったが、本体は重傷を負ったことで巨人化出来なくなり、更にシガンシナ区内側でもエレン達に超大型巨人と鎧の巨人が倒されたことにより、形勢不利と見てシガンシナ区から完全に撤退。
エルヴィンは自らと若き兵士たちの命と引き換えに、人類の未来を守り抜いたのだった。
……しかし、なんとエルヴィンは生きていた。
投石の散弾が左脇腹を貫通して内蔵を抉られる瀕死の重傷であったが、辛うじて生存していた。
しかし、このままでは出血が止まらず、まともな治療も出来ないこの状況下では彼の生存は絶望的であったーーリヴァイの持つ巨人化の注射器という唯一の例外を除いては。
だが、超大型巨人を倒す為に囮となったアルミンも全身に大火傷を負い重傷であり、更に倒した「鎧の巨人」も結局「車力の巨人」に奪取されてしまった為、巨人にして生き返らせる為の注射器も、喰わせられる巨人化能力者もそれぞれ一人分、すなわちどうやっても生き返らせる事が出来るのは、アルミンかエルヴィン、どちらか一人だけという状況に陥ってしまう。
作戦の事前にリヴァイの判断で注射器を使う事を定めていたにもかかわらず、アルミンの命を諦められないエレンとミカサがリヴァイに刃を向けてまで反抗するも、壊滅状態の調査兵団の体裁やエルヴィンの経験の必要性などの観点からも、ハンジや104期の同期ほぼ全員がエルヴィンの方が生き残るべきと結論付けた為、エルヴィンに巨人化の薬を使うことを決め、全員を引き離した。
しかし、リヴァイがエルヴィンに巨人化の薬を注射しようとした時、突如エルヴィンがリヴァイの腕を払い除けた。
意図して薬の注射を拒絶した訳では無く、混濁した意識の中での反射的反応でしかなかったが、彼は挙手して子供のような口調で呟いた。
先生、壁の外に人類がいないってどうやって調べたんですか?
元々エルヴィンが抱いていた長年の夢への執着は、自身の無知ゆえに死なせてしまった父親への贖罪の意識から生まれた強迫観念だった。
父は息子の愚行の為に死んだのに、その息子は死なずに生き延びた意味とは何か。何故父は無惨に死なねばならなかったのか。
自らの愚かさを呪った息子は、父の仮説を証明することこそが贖罪になる筈だと信じた。調査兵団を志し、壁の外へ出たのもその為だった。
やがて部下を従えるようになり、彼らを鼓舞し、死なせたのも、夢の為の仕方のない犠牲だと割り切ろうとした。
気付いた時には積み上げた屍の上に立っていた。
人類の未来という大義名分に酔ってまで追い求めた夢は、とうの昔にその意義を失っていた。
今まで人類の為に心臓を捧げた仲間達は、何故身勝手を通した自分に殺されねばならなかったのか。どうすれば彼らは報われるのか。
屍の道の果てに辿り着いたのが、人類の未来か、自分の夢かの二択だった。
苦しみ抜いた末の最後の最後で選ぶ事が出来なくなった男の為、代わりに選択したのはリヴァイ自身だった。
彼からすれば嫌な役回りでしかなかっただろうに、選択を肩代わりしてくれたリヴァイに対し、エルヴィンは憑き物が落ちたかのように、涼やかに微笑っていた。
最終的に、リヴァイは巨人化の薬をアルミンに使用した。アルミンが人類を救う存在だと思ったからでも、ましてやアルミンの夢に共感したからでもない。
あの時エルヴィンは、長年追い求めた「夢」も、死んでいった仲間達から託された「意味」も、悪魔としての「役目」からも解放され、エルヴィン・スミスとしてようやく自由になれたのだと、知ったからだった。
こうして、悪魔になるしかなかった男は
地下室の真実を知ることなく、静かに息を引き取り、眠りについた。
更なる地獄へ突き進むことになる調査兵団の仲間たちに、「意味」を託して。
その後
作戦終了後に遺体を回収する余裕がなく、シガンシナ区の民家にエルヴィンの遺体は放置された。ローゼ-マリア間の巨人が完全に掃討され、正式にウォール・マリアが奪還されたのち、リヴァイにより白骨化の進んだ彼の遺体が回収され、特別に埋葬された。
彼の死後、調査兵団団長はハンジが引き継ぐこととなった。
この奪還作戦で調査兵団はエルヴィンを含め作戦に参加した調査兵のおよそ9割が戦死するという大損害を受け、兵団の維持は不可能と思われたが、
- ウォール・マリア奪還の功績
- ハンジが開発した対巨人駆逐機により、壁外の巨人の全てが討伐された。
- 壁の外の真実が明らかになり、敵の正体についても明確になった。
こういった諸々の事情から調査兵団の在り樣が変化。巨人対策組織から対人強襲用軍隊という位置付けになったことで、入団希望者が増え、組織としての体裁は一応保たれた模様。
追記・修正は、壁の外の真実を知ってからお願いします。
- 平時は青文字、悪魔モードの時は黒赤みたいな感じで編集してみました。 -- 名無しさん (2023-12-16 21:02:40)
- パラディ島の歴史ではすんごい英雄として教科書に名を遺したんだろうな -- 名無しさん (2023-12-16 21:24:09)
- 地下室の真実を知らなくてよかったのか、知った方がよかったのか、どっちなんだろうね -- 名無しさん (2023-12-16 21:28:35)
- エルヴィンの記事なかったのか意外だ -- 名無しさん (2023-12-16 22:17:02)
- 本当に頑張った -- 名無しさん (2023-12-17 00:33:41)
- 何度もあの時、アルミンじゃなく団長に巨人化薬を使って蘇生させたら物語はどうなったのだろうと考えてしまうが、未だに想像もつかないままでいる -- 名無しさん (2023-12-17 01:49:48)
- エルヴィンはもし生きていたら地ならし肯定するのかな? -- 名無しさん (2023-12-17 14:00:11)
- 地下室見て外見た時点で目的達成されちゃうからその先が全く読めないんだよな…とは言え生きてたらフロックの覚醒フラグ折れるから物語的にはフロックの立ち位置やって貰わないと困るんだが -- 名無しさん (2023-12-17 21:19:30)
- 漫画越しでなら有能と言えるけど、リアルの上司には絶対したくない人。いつ切り捨てられるかわかったものじゃないし博打の連発で心休まるときがない -- 名無しさん (2023-12-19 13:18:29)
- エルヴィンが巨人化して生き残る場合はアルミンがリヴァイによって見殺しにされる形になるわけで、エレンとミカサはその場で殺し合いはしないとしてもイェーガー家の地下室を開けた後で兵団を離れると思うんだよな。一時放浪か即マーレにつくかまでは想像つかないが。少なくとも完成作品のマーレ編のアルミンをエルヴィンに置き換えたようにはならないと思う。あとは進撃の巨人の能力によって未来が決まってる設定を崩すか否か(結末まで変えるつもりで考えるのか)。 -- 名無しさん (2023-12-20 01:45:14)
- ↑×2エルヴィンの恐ろしいところは、作中世界に居たらそうと分かっていても惹き付けられてしまって付いていってしまうカリスマ勢。まさに一人の人間にして英雄にして悪魔だよ -- 名無しさん (2023-12-21 12:43:13)
- あの時、注射器をアルミンとエルヴィンに半分ずつ注射して2人とも巨人にした上で、1人はベルトルトを喰わせ、もう1人は一旦生け捕りにして、また巨人化能力者を無力化した時に喰わせれば、2人とも助かったのかもしれない。 -- 名無しさん (2024-10-17 21:37:01)
- スクールカースト時空じゃ歴史の先生なの皮肉が効いてて好き -- 名無しさん (2024-12-21 00:16:13)
最終更新:2024年12月21日 00:16