登録日:2024/02/02 Fri 18:21:43
更新日:2024/07/07 Sun 18:05:27
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“最強の2勝馬”から脱却へ、そして悲願のG1制覇へ
JRA-VAN World 2017年ドバイシーマクラシックより
サウンズオブアース日本の元
競走馬である。
勝ち星に
ものすごく恵まれないながら、7歳まで日本競馬の最前線で戦い続けた黒鹿毛の牡馬。
データ
誕生:2011年4月12日
死没:2023年2月13日
享年:12歳
父:
ネオユニヴァース
母:ファーストバイオリン
母父:ディキシーランドバンド
調教師:藤岡健一(栗東)
馬主:吉田照哉
生産牧場:社台ファーム
産地:北海道千歳市
獲得賞金:4億6744万9000円
通算成績:30戦2勝[2-8-1-19]
主な勝鞍:2014年はなみずき賞(500万下)
備考:WBRR:2017'E117、2018/19'L118
香港表記:萬籟爭鳴
血統
父
ネオユニヴァースは2003年のクラシック二冠馬。種牡馬としても堅実に結果を出しており、本馬は6世代目にあたる。
母ファーストバイオリンは現役時代アメリカで2勝、2008年にセールに出され、社台ファームに23万ドル(約2260万円)で落札され輸入された。アメリカに残した産駒ドミニカン(Dominican、セン馬)がG1ブルーグラスSを優勝している。本馬は日本で初配合された結果生まれた。出産当時母は13歳であった。
母の父
ディキシーランドバンドはアメリカでGⅡ2勝。種牡馬として91年ジャパンC来日馬で92/93年にGⅠアスコット金杯を連覇したDrum Tapsなどを輩出、中・長距離の活躍馬が見られる。
母の父としては、2001年有馬記念で最低人気2着のアメリカンボスやGⅠ2勝のデルタブルース、最後の
サンデーサイレンス産駒中央所属馬アクシオンなどを輩出した。
競走馬時代
社台ファーム代表・吉田照哉の個人所有となり、吉田家の所有馬を多数の馬主で共有管理する「
社台グループオーナーズ」にも所属。なお照哉氏は
デュランダル等オーナーズ所属馬含む個人名義馬だけでGⅠ21勝を挙げていた。
そして
サウンズオブアース(地球のサウンド)で馬名登録され、開業11年目、2012年末にサマリーズでGⅠ全日本2歳優駿を優勝した
藤岡健一厩舎に所属した。
2歳
2013年10月にデビュー。調教は良い、と言われたが3戦未勝利で2歳シーズンを終えた。
ちなみに同年末には同じ母父ディキシーランドバンドのレッドリヴェール(父
ステイゴールド)がGⅠ阪神JFを優勝している。
3歳
3連続1番人気で勝てず終いだったが、2月未勝利戦で初勝利を挙げる。OP若葉Sでは後のGⅡ2勝馬アドマイヤデウスの3着に敗れた。
次に4月のはなみずき賞(500万下)をハナ差で制した。
……そして、このレースが彼にとって最後の勝利となり、彼が「史上最強の2勝馬」と呼ばれていく伝説の始まりであった。
京都新聞杯では後のGⅠ6勝馬モーリスが7着に沈む一方、8番人気でハギノハイブリッドの2着に入り、日本ダービーの出走権を獲得する。本番では11番人気11着だったが、レッドリヴェールやハギノハイブリッドに先着することができた。
秋初戦の神戸新聞杯は8番人気だったが、ダービー馬ワンアンドオンリーに
アタマ差2着と大激走を見せる。本番の菊花賞では候補となる4番人気で出走した。
レースはサングラスが平均ペースで逃げ、2周目の3コーナーからハイペースになると、4コーナーで神戸新聞杯3着トーホウジャッカルが厳しいラストスパートに持ち込む。
蛯名正義の仕掛けでサウンズオブアースはインから鋭い脚を伸ばしジャッカルに詰め寄る、しかしジャッカルが更に二の脚を伸ばし
半馬身差の2着に敗れた。ワンアンドオンリーらはハイペースの前に敗れ2頭の競馬だった。
勝ちタイムは驚愕の
3:01.0、2006年ソングオブウインドのレコードを1.7秒更新する菊花賞レコードであり芝3000mのJRA最速タイムであった。
サウンズオブアースの粘りは、東日本大震災前後に生まれ、幼少期病で命の危機にあったトーホウジャッカルが父
スペシャルウィークの無念を晴らす競馬ドラマに屈したのであった。
なお菊花賞2着をもって収得賞金の条件を満たし完全にオープンクラス入りした。一応当時は4歳夏の賞金半減による降格制度があったもののそれを踏まえてもオープン級の収得賞金であり、これで彼の走りが彼自身を苦しめることとなる。
なぜなら並みのGⅠ馬を上回る獲得賞金によってOP・GⅢ出走時のハンデが増えて到底出走できるものではなくなってしまい、彼は引退のその日までGⅡ・GⅠという日本競馬の最高峰で戦わざるを得なくなったのである。
4歳
1番人気の日経賞はアドマイヤデウスの4着、天皇賞(春)9着で春シーズンはいまいちだった。
秋初戦の京都大賞典で宝塚記念勝ち馬ラブリーデイの
2着に入るとジャパンCでも接戦5着と調子は上がっていく。
有馬記念では
重賞未勝利ながら5番人気に上がった。逃げる
キタサンブラックを見ながら先行策から上り2位という完璧な競馬をしたのだが、3番手ゴールドアクターとの一騎討ちに
クビ差2着だった。GⅠ馬5頭に先着しファンに衝撃を与えたのだ。
ゴールドアクターはサウンズオブアースと違い小さな牧場出身。鞍上吉田隼人は膝を骨折した状態で必死に騎乗した結果の勝利である。騎手・馬・調教師・生産者揃ってのGI初制覇、吉田は誕生日というドラマチックな競馬にまたも敗れたのである。
5歳
日経賞ではゴールドアクターを抑え1番人気だったが僅差2着、5番人気の天皇賞(春)はキタサンブラックから3.2秒差15着と大惨敗。1番人気ゴールドアクター共々撃沈してしまった。
秋初戦の京都大賞典ではキタサンブラックに0.2秒差の4着と去年のように復調を見せる。
ジャパンCでは5番人気からキタサンブラックを追い詰めるも、「第36(サブロー)回の1着には、この馬こそがふさわしい」と武豊が冗談交じりに笑ってのけるような快勝劇の2着だった。
その後4番人気で出走した有馬記念を8着と完敗してしまう。
6歳
悲願のタイトルを目指しドバイシーマクラシックに出走したが、海外実績馬に敵わず6着ブービー負け。翌月には同期のネオユニヴァース産駒ネオリアリズムがGⅠクイーンエリザベスⅡCを制した。
復帰後、札幌記念で4着と好走した。この時の掲示板組みはキングカメハメハ産駒ということで唯一の非キングカメハメハ系の健闘?と注目された。
しかし2番人気の京都大賞典で13着と調子を崩すとジャパンC12着・有馬記念7着と息をひそめてしまう。なおトーホウジャッカルは2016年に既に引退。ワンアンドオンリーもキタサンブラックもこの年限りで引退し、アドマイヤデウスに至ってはオーストラリアで客死してしまっていた。
7歳
もはやサウンズオブアースに力は残っていなかった。ハンデ覚悟の目黒記念で復帰も12着、札幌記念で勝ち馬から0.1秒差4着に入ったのが最後の輝きであった。
毎日王冠9着、ジャパンCでは新時代の女王アーモンドアイの超レコード勝ちに4.6秒差つけられた殿負け。
同期の障害王者
オジュウチョウサンとの最初で最後の対戦となった有馬記念でブラストワンピースの2.3秒差殿負けし、これをもってターフを去った。
通算30戦2勝、生涯を主な勝ち鞍:はなみずき賞(500万下)で貫き通し、いや汚名返上できぬまま競走馬時代が終わってしまった。
思い返せば「はなみずき」の花言葉は「永続性」だった。「返礼」ならよかったのに。
獲得賞金は重賞未勝利馬としては異常な4億6744万9000円である。同期のGⅠ1勝馬ワンアンドオンリー・トーホウジャッカル・レッドリヴェール・ネオリアリズムの倍近く稼いだのである。重賞未勝利馬による獲得賞金歴代1位としてJRAに記録されている。
その後同じく重賞未勝利で生涯2勝の女傑・カレンブーケドールが獲得賞金4億5805万7000円と追い詰めるも、惜しくも届かず。まあ彼女の2勝目は重賞一歩手前のリステッド競走だったし、掲示板を1回しか外さなかった彼女の安定感には及ぶべくもないのだが。
藤岡厩舎においてはGⅠ大阪杯勝ち馬ジャックドールが登場するまで厩舎の最多獲得賞金王であった。
好位から末脚を伸ばす競馬が得意だったが、重賞では[0-7-0-17]という追い詰めるか惨敗かというシルバーコレクター中のシルバーコレクターであった。
なお彼の引退と前後する様に、新たに「最強の1勝馬」
エタリオウが活躍?したが、サウンズオブアースの異色な様は別格である。
エタリオウの親父「稀代のシルバー&ブロンズコレクター」ステイゴールドは重賞未勝利時5億5466万円も稼いでいたけどね。ただ阿寒湖特別(900万下)ははなみずき賞のインパクトには勝てないけど。
引退後
種牡馬になれず乗馬となり、札幌市のモモセライディングファームに移った。同地には高知総大将・
グランシュヴァリエや出遅れ馬ペルーサなど人気馬が集まっており、追いかけるファンも多くいた。主な
というか唯一の勝ち鞍から
はなみずきさんの愛称でファンに愛されていた。
しかし平穏な日は長く続かず、2023年2月11日に下痢を起こし、大腸炎が発覚。治療の甲斐なく13日に12歳でこの世を去った。
モモセライディングファームの百瀬氏は「持ち直すかなと思っていたが、うまくいきませんでした。残念でしょうがない。乗馬は秋まで頑張ってくれていて、冬の期間はお休みで放牧に出たりしていました。重賞を勝っていないので、功労馬として登録はしていなかったのですが、ファンの方がよく会いにきてくれていました」とコメントしている。
死去から4か月後の8月22日に「
ウマ娘 プリティーダービー」の配信においてウマ娘として発表された。キタサンブラックが主人公のアニメ「ウマ娘 プリティーダービー Season 3」にも登場していた。
有馬記念4年連続出走は歴代3位タイ、ナリタトップロード、タップダンスシチー、デルタブルースらGⅠ馬に並ぶ快挙であり、負け続けても第一線で懸命に走り続けた姿が如何に愛されていたかが窺える。
追記・修正は最強の2勝ウマだという方にお願いします。
最終更新:2024年07月07日 18:05