デュランダル(競走馬)

登録日:2022/01/08 Sat 05:05:18
更新日:2024/12/31 Tue 17:12:14
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伝説の聖剣

それは英雄だけが
帯びることを許された
伝説の聖剣

いまこそ抜け
強く振り下ろせ
力まかせに突き刺せ

冷酷なまでに硬い刃で
万物を斬り裂き
非情なほど鋭い切っ先で
すべてを貫き破るのだ

───名馬の肖像 2018年 マイルチャンピオンシップ



デュランダル(Durandal)とは日本の元競走馬、種牡馬である。
名前の由来は中世の叙事詩「ローランの歌」で主人公ローランが使う不滅の聖剣「デュランダル」。
その名に違わぬ切れ味鋭い強烈な末脚を武器に、2000年代前半の短距離界に君臨した名スプリンターである。
メディアミックス『ウマ娘 プリティーダービー』におけるデュランダルについては当該項目を参照。→デュランダル(ウマ娘 プリティーダービー)



血統背景

父:サンデーサイレンス
母:サワヤカプリンセス
母父:ノーザンテースト

サンデーサイレンスとノーザンテーストは共に社台グループを日本最大の生産者にのし上げた立役者。
…なのだが、父サンデーサイレンス×母父ノーザンテーストの配合は何故か長らく活躍馬が出なかった
サンデーサイレンスはもちろんノーザンテーストも母父として非常に優秀。
サッカーボーイサクラバクシンオーフラワーパークエアグルーヴ等を輩出している…が、父がサンデーサイレンスだと何故か思ったほど走らない。
一応この馬以前にもデュランダルの3歳上の全兄で中日スポーツ杯4歳ステークス優勝馬・2002年スプリンターズステークス6着のサイキョウサンデー、フェアリーステークス(GⅢ)の優勝馬で桜花賞3着のプライムステージ、高松宮記念2着のディヴァインライトなどがいる。
全く走れないというわけではなかったものの、GⅠには届かない。呪いのようなジンクスである。

そのため配合という点だけで見れば、このデュランダルはそこまで活躍を期待できるほどの馬ではなかったといえよう。


聖剣の叙事詩


研磨の時

母や兄サイキョウサンデー等親族は主に短距離戦線で活躍していたこともあり、デビュー戦は2001年12月に阪神で行われた芝1200m。
単勝1.4倍の一番人気に推されたこのレースでは上がり3ハロン最速の末脚で快勝…したもののその後に脚部不安のため休養。
翌年の8月の復帰戦を2着とした後、条件戦で3連勝。
その後すぐ挑んだマイルチャンピオンシップでは上がり3ハロン1位タイの34.1を叩き出したものの10着に敗れる*1

その後は条件戦を2戦目で勝利し、中山記念(GⅡ)に挑むものの距離が長かったか9着と完敗。
再び休養に入り、休養明けのセントウルステークス(GⅢ)では上がり最速の33.3の末脚もかなわず3着。GⅢで上がり3ハロン33.3の3着…と、無駄に3尽くし

ここまでの戦績だけを見れば正直微妙な馬ではあるが、上がり3ハロン1位にならなかったレースは10戦中2戦のみとその力の片鱗は十分に見せていた。
そしてこの後のスプリンターズステークスで、研ぎ澄まされた聖剣がその真価を発揮することとなる。

聖剣抜刀

調教師である坂口正大は当初、マイルのポートアイランドステークスに出走させる計画を立てていた。
しかしセントウルステークスで鞍上を務め、引退まで彼の手綱を握ることになる池添謙一がスプリンターズステークスへの出走を進言。
1200mで追い込み型の彼が勝てるのか?という懸念もあったが、最終的に進言を容れて出走することに。

そして本番のスプリンターズステークス。
前年の同レースと高松宮記念を勝利しており、これが引退レースであるビリーヴが一番人気な中、デュランダルは重賞未勝利ながら5番人気に推される。

レースでは4番人気テンシノキセキが先頭に立ち、デュランダルは最後方からレースを進める。
直線半ばでビリーヴが先頭に立ちこのまま有終の美を飾れるかと思われた瞬間、大外から桁違いの末脚ですっ飛んでくる馬が一頭
そう、デュランダルである。
最後方にいたデュランダルが大外から一気の末脚で突っ込み、ビリーヴと並んでゴールイン。
結果、ビリーヴの単勝馬券をたくさん買ってた*2実況の青嶋アナが「きわどいきわどいきわどい!」と何度も連呼する程の大接戦ドゴーン!!
それをハナ差で制し、デュランダルは見事GⅠ制覇及び重賞初制覇を成し遂げた。

そしてこのレースで父SS×母父NT配合は初のGⅠ制覇を果たした。
SS産駒がデビューしたのが95年なので実に8年もの時間を要している。

なおこの後、父SS×母父NT配合は
  • 2004年の皐月賞を制し、喉鳴りを乗り越えマイル王に君臨したダイワスカーレットの半兄ダイワメジャー
  • このスプリンターズステークスで3着に入り、2005年の高松宮記念を制したアドマイヤマックス
  • クラシック二冠馬エアシャカールの半姉であるエアデジャヴーの娘で、母の届かなかった秋華賞を制したエアメサイア
サンデーサイレンスの子も含めれば
…など、まるで呪縛から解き放たれたかのように、多くの活躍馬を輩出。
またデュランダルの半妹リトルブレッシング(父バブルガムフェロー)は繁殖入り後、サンデーサイレンスの血が多重に含まれた2022年JBCスプリント優勝馬ダンシングプリンス(父パドトロワ・母父バブルガムフェロー・父母父フジキセキ)を輩出する事になる

そんな呪縛を一刀のもとに斬り伏せた張本人であるデュランダルは次走にマイルチャンピオンシップを選択。

不安材料もあったがこのレースでもデュランダルはその力を如何なく発揮。
不振にあえいでいたファインモーションが抜け出しかかり、復活する…
かと思われた刹那、大外から凄まじいとしか言いようのない末脚でデュランダルが後方15番手から前の全頭を一刀両断。2連勝を果たした。


スプリンターズステークスに続いて名刀デュランダルの切れ味!
大外からファインモーションを切り裂きました!

──2003年マイルチャンピオンシップ実況(馬場鉄志)


この成績が認められ、2003年の最優秀短距離馬のタイトルを獲得。一流馬の仲間入りを果たした。

聖剣君臨

翌年の2004年、初戦は高松宮記念。初の左回りコースや休養明けという不安材料がありながらも1番人気に支持された。
大外から鋭く伸びたもののサニングデールにクビ差及ばずの2着。
次走には安田記念を予定していたものの、裂蹄により春シーズンは全休となる。

秋には回復したものの復帰戦は前哨戦を挟まずスプリンターズステークス。
記録的不良馬場をものともせず、前年と同じスタイルで突っ込むもののカルストンライトオの馬場を利した幻惑逃げを捉えきれず2着。

惜しいレース続きではあったものの次走の2連覇をかけたマイルチャンピオンシップ。
ただ一頭上がり3ハロン33秒台を叩き出し、2着ダンスインザムードに2馬身差をつけて見事に連覇達成。
まだまだその切れ味は鈍っていないことを証明した。

デュランダル!
名刀の切れ味は今年も衰えていません!
デュランダル二連覇!!

──2004年マイルチャンピオンシップ実況(馬場鉄志)


短距離界の頂点に立ったデュランダルは香港の沙田競馬場で行われた香港マイルに招待され出走。
だが追い込み馬の彼にとっては最悪なことに馬場に大量の水が撒かれてしまう*3
それでもいつもの末脚で懸命に前を追い5着に食い込んだ。流石の一言である。
そしてデュランダルは短距離GⅠでの安定した成績が評価され、2年連続でJRA賞最優秀短距離馬に選出された。

納刀の時

2005年も現役続行の予定だったものの、再び蹄が悲鳴を上げる。
しかも前年のような裂蹄ではなく、蹄葉炎。父サンデーサイレンスの命を奪った病である。
競走生活の続行は不可能とされたが懸命の治療の結果、10月のスプリンターズステークスで復帰。
2番人気に推されたこのレースでもやはり後方待機から生涯最速の上がり3ハロン32.7の末脚を繰り出すが、当時世界最速と言われた香港最強スプリンターサイレントウィットネスには届かずの2着。

三連覇をかけたマイルチャンピオンシップではこちらも上がり最速で突っ込むも前が止まらずハットトリックの8着。
蹄の状態もあり、このレースを最後に競走馬を引退した。

通算成績18戦8勝[8-4-1-5]。獲得賞金は5億323万円。
ちなみに18戦中15戦で上がり最速を記録している。

引退後

社台スタリオンステーションで種牡馬入り。
産駒の評判は良く、セレクトセールでもよく売れたのだが、小倉2歳ステークスを勝ったジュエルオブナイル以外はイマイチで正直期待外れな感じは強く、2010年にブリーダーズスタリオンステーションに移動となった。
2011年5月にはエリンコートが優駿牝馬(オークス)を制し名誉挽回
…と思われた矢先の2013年7月7日に死去。14歳という若さでその生涯を終えた。
結局後継種牡馬は残せなかったが、没後母父デュランダルのチュウワウィザード(父キングカメハメハ)*4・トーセンスーリヤ(父ローエングリン)*5、ブローザホーン(父エピファネイア)*6が活躍。
まだまだ聖剣の系譜は続きそうである。
ちなみに産駒には聖剣の名を継いだカリバーン*7やフラガラッハ*8なんてのがいた。

フィクション作品への登場

2003年スプリンターズS回での初登場時には、出走馬達がサクラバクシンオーの判定で「馬名トリビア(由来)」の面白さを競う中デュランダルの説明の妙な長さからうっかりバクシンオーがボタンを連打してしまった事で勝利。
続くマイルCSではラストで放浪の元姫ファインモーションをエスコートする騎士として参上し、そこから2004年のスプリント・マイル戦線では主に、スプリント重賞牝馬「サーガノヴェル」の書き紡ぐ「英雄譚」(短距離・マイルレースの模様をファンタジー世界観で描いた小説)のメイン剣士にサニングデールと共に抜擢される事に。
一方で2004年マイルCS時には連覇のために電話相談し「恋」を進められ、ラストで3歳ながら奮闘するダンスインザムードに同父なので交配は無理だがついドキッとした。
その後成績不振により出番が減少するも、引退後デュランダル達の低迷と引退のせいで小説のオチを平和的にしたら本が売れなかったサーガノヴェルからサニングデールと一緒に「新作のネタ探し」を依頼され、2006年高松宮記念の上位2頭を次なる主役に推薦。
さらに後、産駒達がデビューし始めた頃には、自身の愛剣デュランダルの柄を飾る宝玉を託すに足る跡継ぎを求める剣士として登場。マイネルカリバーンやフラガラッハら息子達の不甲斐なさに悩みつつ、ジュエルオブナイル・エリンコートの奮闘に後継の希望を見出していた。
そして没後、2013年中京記念前に修行するフラガラッハの前に霊として現れ、息子へと武術と見た目両方の指導を行ってベストターンドアウト賞の賞金をせしめた。

2024年6月24日のぱかライブにて、カルストンライトオドリームジャーニーとともに参戦が発表された。偶然にも母父にデュランダルを持つ馬ブローザホーンが宝塚記念に勝利した翌日の発表となった。
名前の通り騎士道を重んじる女騎士のようなキャラクターで、忠義を尽くすべき王(=トレーナー)との出会いを待ち望んでいる。
ルームメイトであるライトオの奇行に度々ツッコミを入れているが、一方で騎士に憧れている性分からライトオとチャンバラを繰り広げたりとこっちもややポンコツなところがある。

余談

  • 気性とレーススタイル
デュランダルは非常に気性が荒く、ゲート内で落ち着きを保てずスタートがうまく切れない傾向があった。
3歳時に騎乗した武豊が調教師の坂口に「この馬は後ろから行って大外を回った方が走る」と進言したこともあり、以降馬群の大外を回って追い込むレーススタイルが定着した。
しかし彼の本領は1200mの短距離戦。正直追い込みでは不利な条件である。
スプリンターは前に付けられる馬こそ名馬であるというのは鉄則とも言われる。
しかし短距離戦で後方待機を取れる胆力と決め打ちの巧さを持った池添謙一と共に、不利条件も不文律もまとめて斬り捨てたのがデュランダルであった。

  • 蹄鉄について
蹄にかかわる故障に2度も苦しめられたことからわかるように、デュランダルは生まれつき蹄が弱かった。
そのため装蹄にはエクイロックスと呼ばれる樹脂で蹄を覆ってから、釘を使わずに蹄鉄を装着する技法が採用された。
後のディープインパクトなどでも同様に採用された方式である。

  • SS×NT
デュランダルを契機に呪縛の解けた相性の悪い配合。
しかし先述の通り、この馬以前にもプライムステージ、ディヴァインライトなどGⅠ勝利こそないもののそれなりに活躍した馬もいるのは事実。
後から考えると「これ短距離血統なのに大種牡馬同士だからって中長距離に期待しすぎたんじゃねえの?」とも言われた。
もっとも、サクラバクシンオーやフラワーパークを送り出した実績を持つ母父ノーザンテーストはまだしも、当時の父サンデーサイレンスは短距離路線の実績に乏しく、GⅠ級の大物はデュランダルと1世代しか違わないビリーヴぐらいしかいなかった。
どちらかと言うと短距離に期待しようがなかったと言った方が正確かもしれない。実際ダイワメジャーは有馬でも好走している。
なおノーザンテースト自身は欧州で7ハロン(約1400m)のGⅠに勝っている。

共に初GⅠから始まりGⅠを3勝する相棒となったが、実は騎乗馬がなかった彼に偶然声が掛かったことが彼とのコンビの始まり。
セントウルで3着に敗れるも驚異的な末脚に惚れ込んだ池添が坂口調教師に「スプリンターSも自分に騎乗させてほしい」と頼み込んだ。
するとオーナーから「枠が開いてるなら挑戦しよう」と快諾し出走が決定。結果初GⅠを獲得。
マイルCSを制した時には「サイッコーだよお前ー!!」と抱き着き、インタビューでも「素晴らしい馬と巡り会えた」と褒めちぎっていた。

その思い入れ様は後に「デュランダルがいなければ今の自分はないと思います」と彼の口から出るほど。
携帯の待ち受けをずっとデュランダルにしているレベルで彼にとっては特別な馬だった*9
デュランダルの死後は毎年墓参りをしているそうで、このエピソードからも彼のデュランダルに対する思い入れが分かる。
池添といえばドリームジャーニーオルフェーヴル兄弟スイープトウショウというのは確か。
だが、このデュランダルも池添とベストコンビな馬だったといえるだろう。やはり気性難な馬に縁のある男
何よりこのデュランダルとの活躍があったからこそ、素質ある癖馬たちに乗ることに繋がったのである。受難の始まり?そうとも言う



とにもかくにも動画サイトなどで上がっているレース映像を一度だけでも見てほしい。
一頭だけ次元の違う、まさに「聖剣の切れ味」なその末脚は、一度見たらきっと忘れられないはずである。



追記・修正は聖剣を研ぎ澄ませながらお願いします。

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最終更新:2024年12月31日 17:12

*1 このレース、上がり3ハロン34.1を記録した馬がデュランダルも含めてなんと5頭もいる。ちなみに1着のトウカイポイントの上がりタイムは34.3で3位。

*2 ゴールイン後、ビリーヴの名を連呼していたからそう言われているだけである。

*3 鞍上の池添曰く、同年のスプリンターズステークスを超える程の不良馬場だったらしい。

*4 2019年JBCクラシック・2020&2022年川崎記念・2020年チャンピオンズカップを勝利

*5 2020年新潟大賞典・2021年函館記念を勝利

*6 2024年宝塚記念を勝利

*7 地方重賞「せきれい賞」馬。元ネタはアーサー王伝説に登場する選定の剣

*8 2012・2013年中京記念馬。元ネタはケルト神話に登場する太陽神ルーの剣

*9 なお現在はスマートフォンとの二台持ち。スマホの方の待ち受けは後に共に三冠を取ったオルフェーヴルだそうだ。