トータル・リコール(映画)

登録日:2024/03/03 Sun 11:23:14
更新日:2025/04/01 Tue 22:11:31
所要時間:約 23 分で読めます




『トータル・リコール(原題:TOTAL RECALL)』は、米国のSFアクション・サスペンス映画。

フィリップ・K・ディックの短編、『追憶売ります』を原作とした作品で、本項では1990年版・2012年版の両方について解説する。




【1990年版】



仕組まれた 2つの現実。

謎解きの鍵を握るのは、2人の女。


概要

ブレードランナー』を始めとして、ハリウッドにて定期的に映像化されるフィリップ・K・ディック作品を原案としたSF映画の一つ。

本作は北米市場のみでも制作費の2倍超、全世界では4倍超もの収益を挙げたヒット作となり、主演のシュワルツネッガーに1.000万ドル(現在の価値で1.960万ドル相当)のギャラと、追加で興行収入の15%という収益をもたらし、名実ともにシュワちゃんが90年代のNo.1スターとなるきっかけとなった。
そのため、ディック原作を謳う(●●)映画作品の中でも数少ない成功例の一つとされる。

監督のポール・ヴァーホーヴェンはハリウッドデビューを飾った『ロボコップ』(1987年)の成功を受けての本作での抜擢であったが、本作に於いても独自の映像感覚と、それによる映像体験を見せつけており、大ヒットした作であると同時にカルト的な匂いもプンプンとさせた怪作に仕上げている。
ヴァーホーヴェン特有のグロさを感じる特殊効果もふんだんに用いられており、基本的にはシリアスな笑いを提供する要素とはなっているものの、明らかにやり過ぎな演出についてはトラウマを刻みつけられている視聴者も居ることだろう。

また、本作に於いてはあくまでも準ヒロイン……何なら悪役の一人という程度の扱いのシャロン・ストーンの美貌に注目が集まり、当時は既に10年程度のキャリアがあったとはいえ若手女優止まりだったのが、本作の出演とヴァーホーヴェンの次回作『氷の微笑』(92年)での抜擢により、一気にトップ女優に登り詰めることになる。

原作となる『追憶売ります(We Can Remember It for You Wholesale)』は、数十ページ程の中短編である為、映画化に於いては原作では話題に上がるだけだった“火星”まで実際に行ったり、全体的にアクションの密度が濃くなる等の大幅なエンタメ化が推し進められている。

ストーリーについても展開自体は一見すると単純なものの、肝心な語り手(視聴者が最も共感する相手)である主人公の記憶があやふやということもあってか、何が真実で何が嘘なのか判断し難くなっていくことが、本作が難解な映画と評される最大の要因にして意図された仕掛けである。

……一応、解答についてはヴァーホーヴェンが公式に発言済みであり、それを元に視聴すれば前述の通りで非常に“単純な映画”となるのだが、敢えて公式の解答に逆らって自分なりの考察で楽しんでみるのも面白い見方だろう。

脚本を初代『エイリアン』の原案・脚本であったロナルド・シュゼットとダン・オバノンが手掛けており、全盛期に入ろうかというシュワちゃんの筋★肉&顔☆芸若き日のシャロン・ストーンの美貌ばかりが印象に残っている視聴者も多いかも知れないが、その複雑な設定ながらも明解なプロットと共に単純にSF映画としても秀作である。
……寧ろ、これだけ複雑なテーマをエンタメ全開の作品に仕上げてしまえるのは流石はヴァーホーヴェンの手腕なのか、全盛期のシュワちゃんのシュワん(魅力)なのか。

名匠ジェリー・ゴールドスミスによるメインテーマ曲も人気が高く、何気に色んな所で聞く機会があったことだろう。

何よりも、本作の核心部分と言える“どこまでが現実でどこからが夢だったのか?”という全編を通しての謎もあり、見返していくことで理解が進むと共に新たな面白味が増していくタイプの作品でもある。

日本では、物語の導入部が寺沢武一のSF作品『コブラ』に似ていることも話題となった。*1

本作(及び原作)と日本人に関連した話題として、アニメーションプロデューサー・シナリオライターであり、日本におけるコンピューターグラフィックスの父とも呼ばれる金子満の率いるメトロライトスタジオが、本作の特殊効果に於いて低予算でありながら画期的な演出とインパクトを発揮出来るアイディアを提供したとして、第63回アカデミー賞にてアカデミー特別業績賞を受賞していることが挙げられる。
受賞したのは地下鉄でのリアルタイムでのレントゲン透過シーンで、当初は骨格のCGモデルをモーションキャプチャーと連動させて動かそうとしたが当時の技術力では上手く機能させることが出来ず、金子が代替案としてハーフミラーを利用してシュワちゃんのビデオショットを1枚ずつモニターの上に貼り、そこに骸骨のモデルを合わせていく=いわゆるロトスコープで撮影することを提案したため(しかもその試みが低予算で実現した)。


物語

━━近未来。人類が太陽系内の他の惑星にまで進出した世界での物語。

特に、火星は数世代前より開始された大規模な惑星改造により人類の第二の故郷となるも、それ故に惑星改造を指揮・運営するエネルギー採掘企業が同時に行政も兼任。
その中で、人々が生きるのに必要な“酸素の供給”を盾に独裁体制を敷くようにまでなってしまっていた。

そして現在、その支配体系に対して反旗を翻したのが、使い捨てかのように火星の地べたを這いずり回るような生活を強いられてきた下層労働者達と、過酷な環境の中で世代を跨いだことで彼等の子孫から生じたミュータントからなる、真の現地の火星住人達により結成された反政府組織(レジスタンス/テロリスト)であり、連日の火星での騒動が地球でもトップニュースを飾る有り様であった。

地球で土木作業員として働くダグラス・クェイドは、結婚8年目となる美しい金髪妻のローリーと共に平凡だが幸せな毎日を過ごしていた筈だったが、ある時から異常に鮮明な“火星”と思われる場所での体験と、そこで行動を共にする黒髪の女性を“同じ夢”として続けて見るようになる。

……遂には、実際に“火星”に行ってみたいと思うまでとなり、ローリーに火星への移住を相談してみるのだが全く相手にされない。
しかし、どうしても諦めきれないクェイドは通勤中の列車の広告で見かけた、話題のリコール(REKALL)社の“自分の望む夢を実体験さながらに見ることの出来るプラン”に強く興味を惹かれるのだった。
作業中に同僚のハリーにもリコール社の話題を振ってみたクェイドだったが、ハリーからも実在が定かでない友達がリコール社の“悪い噂”通りに植物人間にされかけた……という話をされてしまうことに。

だが、それでも諦められなかったクェイドは仕事帰りにリコール社へと足を向けるのだった。

さて、担当責任者のマクレーン不死身の刑事とは関係ないぞ!にリコール社の悪い噂をジョーク交じりにぶつけながらも既に乗り気であったクェイドはコースを選択。
……例の夢のシチュエーションに限りなく近いものを体験できそうな設定と、あの黒髪の女性を夢の中のパートナーとして選び眠りへ……が、その瞬間に封じ込められていたクェイドの記憶が爆発したかのように吹き出す
錯乱状態のクェイドは怪力で拘束具を引きちぎり、周囲のスタッフ達を薙ぎ倒す程の大暴れをした末に過剰なまでの鎮静剤の注射を受けて漸く止められる。
……何事かとスタッフを叱責するマクレーンに対して主任研究者の女博士は、
実は「まだ何もしていない」=トリップ前に希望する夢を見るために設定したキーワードがクェイドの記憶のロックを外して錯乱状態に陥らせた=「クェイドが実際に火星に居た可能性が高い」と答える。
……つまり、それが本当ならばクェイドは記憶を封印されるような処置をされたヤバい過去がある人間ということであり、
それを聞いたマクレーンは利益である支払いのやり取りを含めて、クェイドがここへやって来た痕跡を消すように指示してから、無理矢理に自動タクシーに乗せて送り返すのだった。

タクシーの中で前後不覚となりながらも目覚めたウェイドは未だ混乱しながらも自宅のある巨大アパートのエントランスへと辿り着くも、そこで待っていたのはハリーと彼に率いられた男達の集団。
知人の突然の襲撃に対して、クェイドは相手が複数人で銃を持っていたにもかかわらずに鮮やかな立ち回りを見せてあっという間に全員を倒してしまう。

自分の秘められた能力にも驚きつつ帰宅したクェイドは、ローリーに今しがたにハリーに襲われたことと、その中で殺人を犯したことを告白。
……まだ刺客が来るかもしれないとしてローリーに注意と身支度をするように指示するが、直後に部屋の電気が消され何者かによる銃撃を受ける。
これにも反応できたクェイドは刺客を捕えることに成功するが、何と刺客はローリー自身だった。
ローリーより、実はクェイドに植え付けられた記憶は全てが嘘で、実際には自分やハリーは数ヶ月前に記憶を消されて地球へと送られたクェイドの監視役だったと聞かされる。

ショックを受けつつも、ローリーによる時間稼ぎにより真の刺客であるリクターとその配下が迫っていることに気づいたクェイドはローリーを殴り倒すと部屋の外に飛び出し、上手くリクター達が通り過ぎたタイミングでアパートの外に脱出……火星を目指すべく逃避行を開始するのだった。

……その途中の駅にて謎の男からコンピューターやその他の装備を内蔵したケースを受け取ったクェイドは、リクター達の追跡から逃れつつ映像記録を確認……。
その中で、自分の顔をしたハウザーという男より、クェイドはハウザーが記憶を消されたことで植え付けられた偽の人格であり、何れにしても自分達をこんな目に遭わせた相手を倒すためには火星に向かわなければならないことを聞かされる。

ハウザーの指示により頭部に埋め込まれた追跡装置を鼻孔から取り出すことに成功したクェイドは火星へ……果たして、クェイド=ハウザーの巻き込まれた火星の支配体系をも揺るがしかねない陰謀の正体とは……。


主要登場人物


本作の主人公。
屈強な肉体を持つ土木作業員で、自分のことを地球生まれの地球育ちで一度も地球の外に出たことがないと思い込んで暮らしていたが、ある時より火星に関連したリアルな夢を見るようになり、リコール社のトリップムービーにより、遂に自分が偽りの記憶を植え付けられた存在であることを知る。
尚、現在のクェイドには当時の記憶が無いものの、火星に居た頃にもテロリストグループと協力してメリーナと愛を育んでいた時期があったようで、それが火星の夢の正体である。
全く記憶を取り戻せないながらも以前のクェイド=ハウザーへの協力者、そして現実でも再会を果たしてメリーナの導きもあってテロリストグループの精神的指導者であるクアトーとの面会を果たし、封印された記憶が解かれることで、現在の火星の支配者であるコーヘイゲンが秘密にしている“50万年前にエイリアン(古代火星人)が作り上げていた氷から大量の酸素を生み出すことの出来るターミニュウム製リアクター(テラフォーミングマシン)”の存在を隠していることを思い出すも、その直後にコーヘイゲンのスパイであったタクシー運転手のベニーの裏切りで突入してきたリクター率いるコーヘイゲンの配下達によりクアトーが殺されメリーナと共に捕らえられる。
その中で、クェイドの行動理由となっている過去の自分=ハウザーがテロリストグループから信用を得られる程の協力関係にあったという過去こそが、現在の支配体系を維持するためのコーヘイゲンとハウザーの計画であることを知るも、ハウザーの記憶を取り戻すための処置の途中で問答無用の怪力で拘束を脱してメリーナと共に脱出。
リアクターを起動させて、火星の赤い空を青い空に変えて人々を救った英雄となる。
演じているのがシュワちゃんなのでツッコミもなく流されてる感があるが、割と筋★肉☆で(拘束具を引きちぎる等して)強引に突破する場面が多い。
そして、EDクレジット後にはリコール社で晴れやかな顔で目覚めるクェイドの姿が。

  • ハウザー
    演:アーノルド・シュワルツェネッガー
クェイドの本来の名前・人格かと思われる。
協力者より渡されたコンピューターに残してあった記録映像によりクェイドを火星へと導き、その後もメリーナ、そしてクアトーと接触できるようにと導くような行動を取らせていたが……。
実は、コーヘイゲンに信頼されている同志であり、記憶を消して自らを囮に反政府組織に接触して内部から壊滅させる作戦を取っていたようなのだが中途半端に終わり、それが更なる偽人格の“クェイド”として地球送りになると共に監視対象となっていた理由の模様。
……この辺が少し込み入っているのだが、ハウザー(悪)という元人格からハウザー(善)という別人格が生み出されてテロリストグループに接触。
メリーナと恋仲となるも何かしらのハウザー(善)が関与していると疑われる“裏切り”により反政府組織にダメージを与える……も、壊滅には至らず失敗。
記憶をリセットされ、ハウザー(善)の要素が色濃いダグラス・クェイドという人格が作られて地球送りとなり物語が始まる━━という感じだと思われる。(本来の人格のハウザー(悪)が邪悪な人物の為、メリーナはともかくとしてテレパシー(精神感応)能力を持つクアトーを単純な演技で騙すのは難しいと思われる。)
シュワちゃんの悪役というと初代『ターミネーター』が代表的だが、それとは真逆の極めて感情出まくりの自分に向けて(●●●●●●)正体を明かす際の邪悪な笑みは必見。

  • メリーナ
    演:レイチェル・ティコティン
    吹替:戸田恵子(ソフト版)/弥永和子(テレビ朝日版)/横尾まり(ANA機内上映版)
クェイドがある時から夢の中で見るようになった“黒髪(ブルネット)、筋肉質、控えめで淫らな女性”……。
場末のパブにカモフラージュされた、実は反政府組織の窓口である“最後の楽園”のコンパニオンにして闘士であり、かつて潜入してきたハウザー(善)と恋仲となった。
しかし、そのハウザー(善)が裏切ったとしか思えない状況の中で姿を消した後は彼を疑い、憤りを感じつつも同時に彼の身を案じてもいた。
そうした事情からクェイドがやって来た時には複雑な感情のやり取りがあった後に追い返してしまうも、その後でクェイドの発言からハウザー(善)がやって来たのには何か“裏”があったということは確信。
遅れながらも後を追い、ローリー達に襲撃されていたクェイドを救出するも、二重三重に張られていた策略により指導者であったクアトーを殺害されてしまう。
その後はクェイドと共に捕らえられて洗脳されそうになるも怪力により救われ、最終決戦時にはコーヘイゲンに続いてクェイドと共に火星の地表に放り出されてしまい死にかけるも、起動させたリアクターにより間一髪でテラフォーミングが成功して生還する。
因みに、悪役でサブヒロインのローリーと比べて正ヒロインなのにおばさんでブサイク……等と言われたりするが、中の人はシャロン・ストーンとは同い年(同じく1958年生まれで何なら学年ならシャロンのが上)である。

  • ローリー
    演:シャロン・ストーン
    吹替:高島雅羅(ソフト版)/小山茉美(テレビ朝日版)/榊原良子(ANA機内上映版)
クェイドの8年間も連れ添った金髪(ブロンド)の美人妻……だが、実は偽人格クェイドの監視役として送り込まれたコーヘイゲンのスパイであり、リクターとは男女の関係にあったと思われる。
とにかく若い頃のシャロン・ストーンが美しすぎてメリーナより人気が高いサブヒロイン。(完全な悪役なのに)
実際、その美貌は続く『氷の微笑』にて映画史に名を残すことになる。

  • リクター
    演:マイケル・アイアンサイド
    吹替:内海賢二(ソフト版)/羽佐間道夫(テレビ朝日版)/麦人(ANA機内上映版)
コーヘイゲンの配下で実働部隊の指揮官。
同じ側近ながら、秘密保持の為かハウザーが記憶を操作されてまで反政府組織に潜り込まされていたことは知らなかった模様で、クェイドのことも元はハウザーと知りつつも単なる裏切り者と思い、面倒が起これば直ぐに殺害してやるつもりでいたのをコーヘイゲンから止められストレスを抱えていた。
ローリーを殺された時には我を忘れる程に怒っていたものの、コーヘイゲンが策略の真実を明かした時には自らを抑える構えを見せていた。
しかし、クェイドがハウザーには戻らずに脱出したと聞くと、コーヘイゲンの許しを得て今度こそ全力で殺害しようとするも作業用エレベーターでの一騎打ちで敗れFatalityな末路を迎える。ヴァーホーヴェンらしいね。

  • コーヘイゲン
    演:ロニー・コックス
    吹替:家弓家正(ソフト版)/中村正(テレビ朝日版)/大木民夫(ANA機内上映版)
火星の採掘事業と惑星改造を主導すると共に行政機関も兼任する巨大企業のトップであり、火星の酷薄な支配者として君臨する。
自分達はガラス張りのドームの中に篭もって地球のような生活を送る一方で、使い捨てにする作業員とミュータントを含む彼等の家族や子孫は過酷な環境に住まわせ、空気の高い課税で販売して逆らえないようにしていた。
……しかし、最も信頼を置く配下であるハウザーが火星のピラミッドの地下の採掘中に50万年前にエイリアン(古代火星人)が創造したリアクターを発見。
起動させた場合には火星の大気が地球化する程に酸素が増える=自分達の存在意義が無くなり支配体系が崩されることを危惧していた。
ハウザーからはリアクターの破壊を提言されていたこともあり、それも視野に入れていた所で何処からかリアクターの情報が漏れたのか反政府組織の活動が活発化することとなり、ハウザーが提案した自らを反政府組織に潜入させる計画に乗った……のだと思われる。回りくどい上に大体はハウザーのせいな気が。……リアクターの利用価値を探っていたのかも知れんが。
中の人は言わずと知れた初代『ロボコップ』のジョーンズ社長。
ビバリーヒルズ・コップ』の厳しくも男気溢れる上司役でも有名だが、ヴァーホーヴェン作品では続けての悪役となった。

  • ベニー
    演:メル・ジョンソン・Jr
    吹替:田中亮一(ソフト版)/樋浦勉(テレビ朝日版)/秋元羊介(ANA機内上映版)
偽装に失敗してリクター達に追われていたクェイドが乗り込んだタクシーの運転手。
明るい性格で、妙に縁付いてしまったのかメリーナと脱出した時にもクェイドを乗せた。
そのまま、なし崩し的にアジトの中にまで入り込んだ後にはミュータントだと明かしてクアトーとの面会にまで同行するが……。
実は、ミュータントでありながらコーヘイゲンに金で雇われたスパイであり、クェイドを乗せたのも偶然ではなかった。
素性がバレた後は狂喜的な笑みを浮かべて削岩機でクェイドを殺そうとするが反撃に遭い殺害される。

  • エッジマー
    演:ロイ・ブロックスミス
    吹替:筈見純(ソフト版)/阪脩(テレビ朝日版)/峰恵研(ANA機内上映版)
逃走を続けるクェイドに対して、リコール社の人間を名乗って接触してきた男。
CMにも出演していたので、もしかすると彼がリコール社の代表なのかもしれない。
実際、コーヘイゲンの同志でもあり、リコール社の自由に夢をみせる技術を悪用したと思われる強制的な洗脳、人格の上書きの技術は彼が提供していたのだろう。
クェイドが「未だに夢の中にいる」として、ローリーも利用して“目を覚ます為”の薬を飲ませようとするが、冷汗を垂らしたことで嘘と見破ったクェイドにヘッドショットで殺害された。

  • ジョージ
    演:マーシャル・ベル
    吹替:池田勝(ソフト版)/麦人(テレビ朝日版)/吉水慶(ANA機内上映版)
反政府組織の表向きのトップで、指導者である“クアトー”との橋渡し役。

  • クアトー
謎多き反政府組織の指導者。
その正体は……。

  • デカいおばちゃん
    演:プリシラ・アレン
    吹替:片岡富枝(ソフト版、ANA機内上映版)/さとうあい(テレビ朝日版)
火星にやって来たクェイドが着ぐるみタイプの変装(というか偽装)していたデカいおばちゃん
装置の故障によりあっさりと身バレしてしまうが、ある意味では本作最大のハイライトであり、
当時の様々な作品でパロられもしたので、この場面だけは知っているという人も少なくないのでは?
更に、マスクは爆弾になっている。

  • メアリー
    演:リシア・ナフ
    吹替:滝沢久美子(ソフト版、テレビ朝日版、ANA機内上映版)
“最後の楽園”のコンパニオン。
一見すると普通の美女だが、前を開けると巨乳が3つ並んでいるミュータント……という出落ちのようなインパクトだけで脳裏に存在を焼き付けた。
ごく僅かな登場ながら上記のデカいおばちゃん共々に登場したシーンが最大のハイライトとなっている感もあり、共にクソ真面目なSFにアレンジされた2012年版にも世界観を壊さないようにしつつもリスペクト的に登場させている。(2012年版は美容整形により改造された娼婦。)


【2012年版】



なりたい自分になれる記憶、

あなたは買いますか?


概要

2012年に、原作の『追憶売ります』に近い世界観ながらも『トータル・リコール』のタイトルで再映画化。

主演はコリン・ファレルで、二人のヒロインはローリーをケイト・ベッキンセールが、メリーナをジェシカ・ビールが演じた。
監督は『アンダーワールド』シリーズや『ダイ・ハード4.0』で知られるレン・ワイズマン、脚本は『ダイ・ハード4.0』のマーク・ボンバック。

シナリオも1990年版に比べるとシンプルで、かなり生真面目なハードSFとなっており、真面目すぎて映画としてもSFものとしても没個性的になってることもあってか余り目立たなくなってしまっている感はあるが、潤沢な資金で丁寧に作られた良質なSF映画なのでサイバーパンクとか近未来アクションが好きな人なら及第点以上の良作と思えることだろう。
その一方、90年版をオマージュした要素も入れられている(特にインパクトの大きかったデカいおばちゃんやトリプルおっぱいが登場しているのは完全に趣味に走っているというか心得ているというか)。

同じディック原作映画繋がりということもあってか『ブレードランナー』を彷彿とさせるイメージに美術設定がまとめられている等で、目新しくはないかも知れないが予算の潤沢なサイバーパンク物としても見れる為。その手の作品が好きな人なら一見の価値あり。というか監督以下の面子からして明らかに“解ってる”連中が作っているタイプの映画である。

1990年版に比べるとリアリティーのある世界観設定となっており、かつての世界大戦で荒廃してヨーロッパの一部とオーストラリアのみが生存圏となった未来の地球が舞台となっている。
“FALL”と名付けられた地球を貫く重力エレベーター(重力列車)や、シンセティックと言う名のドロイドや、その他の美術デザインやガジェットも普通にカコイイので注目。

また、元々はブルーレイにのみ収録されていたディレクターズカット版は通常公開版(118分)より長く(130分)、途中の展開が異なっている。


物語

21世紀末の世界大戦にて使用された大量破壊兵器の影響で地球の大部分が汚染され、人類は今やUFB(the United Federation of Britain=大英(ブリテン)連邦)と呼ばれる上層階級が暮らす地域と、その裏側に位置するコロニーと呼ばれる、かつてオーストラリアと呼ばれた汚染された大陸でのみ生存が許されていた。
しかし、そんな状況にもかかわらずにテクノロジーは発展を続け、UFBに暮らす上層階級の人間は人工物で作られた多層構造の巨大都市で華飾の富を貪っていた。
一方、コロニーに追いやられた下層階級の人間は未だに前時代的な地べたに暮らす生活を送り、更には上層階級の為に重力エレベーター(the FALL)によるUFBまでの強制的な出稼ぎ労働を強いられていた。

……しかし、そんな二極化された世界の中で近頃になって噂となっているのは、コロニーから湧き上がったと言われる、コロニーのUFBからの支配の脱却を訴える“マサイアス”なる人物が率いるレジスタンスによる破壊活動であり、それが連日のトップニュースとして報道されるようになっていた。

これに対して、UFB総裁のコーヘイゲンはレジスタンスがコロニー政府からの支援を受けているとの情報を受け、更なるコロニーへの締めつけを発表するのだった。


……ダグラス(ダグ)・クェイドは、そんなご時世とは無関係に、いつ頃からか「夢破れた」という思いを抱えつつもコロニーで暮らす平凡な男。
彼が恵まれていると言えるのは、そんな彼に文句も言わずに付き合ってくれている美人妻でUFBに警察官として勤務するローリーの存在くらいのものだった。

しかし、ある時からダグは倒れ伏していた自分を助け起こしてくれた美女。

その美女と敵の追撃をかわしながら逃走しようとするも失敗。

美女は捕らえられた自分の手を掴み尚も離そうないが、二人の結ばれた手は銃弾で撃ち抜かれる。

━━という、同じ夢を見るようになっていた。

“悪夢”にうなされるようになったダグをローリーは心配してくれるが、夢を見ている当人のダグにもどうにも出来ない。

思い悩み、同じシンセティック製造工場で働く同僚で友人のハリーに対して“記憶を夢として映像化してくれる”という、スラム街にあるリコール社の噂を振ってみたダグだったが反応は芳しくなく、ハリーは以前に“火星の王様”になりたがっていたトラヴィスの話題を出し、リコール社に頭をめちゃくちゃにされかけた、としてダグに忠告する。

しかし、そんな中で新たに配属されてきたアジア系の新人工員ウィルの面倒を見ることになったのがダグの運命を変えた。
危ない手付きで作業するウィルの身を案じて指導したことへの感謝からか、ウィルはたまたま聞いていたダグとハリーのリコール社についての噂について「アンタの友達は間違っている」として、自分が如何に3度もリコール社で素晴らしい体験をしたのかを語ったのだ。

ウィルの話を聞いたダグは、ハリーと飲んだ帰りに酒の勢いもあってかスラムへと足を運び遂にリコール社へ。
ダグを快く迎え入れた代表のマクレーンはコースを提示し、ダグも例の“悪夢”に近いスパイのシチュエーションを選ぶ。
「自分がリアルで抱えている“嘘”を反映させると矛盾に耐えきれずに脳がイカれる」として行った精神走査にも問題はなく、いよいよ施術開始……と思われた所でダグの精神に厳重なブロックが掛けられていたことが判明したことで慌ててシステムを停止させたマクレーンはダグに対して「よくも騙したな貴様はスパイだ」と吐き捨て銃を向ける。

しかし、次の瞬間には大挙してやって来た武装警官達によりマクレーンとリコール社のスタッフは皆殺しに。
ダグも身柄を確保されそうになるが、自身でも全く意図していないのに自然に身体が動き瞬く間に10人もの警官達を殺害してしまう。

更なる追手からも流れて自宅に帰り着いたダグは、リコール社でのテロ発生の情報で待機していたローリーにニュースになっているのはテロではなく、犯人は自分だと告げる。
混乱するダグをローリーは優しく抱きしめ落ち着くように語りかけるが、その締めつけは明らかに異常で、ローリーが自分を殺そうとしている事実に気づいたダグは拘束から抜け出すと、激しい争いの末に抑え込んだローリーから、実は自分の記憶は偽物でありローリーも監視のためにUFBから送り込まれたエージェントだという事実を聞かされる。

増員された武装警官とシンセティックの集団も迫る中で逃げ出したダグは、自分の本当の記憶を求めて奔走を開始。

その中で、あの“悪夢”の中で見た美女メリーナが窮地のダグを救いに現れるのだった。


主要登場人物


  • ダグラス・クェイド/カール・ハウザー
    演:コリン・ファレル
    吹替:森川智之
本作の主人公。
しがないシンセティック工場のライン工だった筈だが、突如として見るようになった“悪夢”の謎を解き明かそうとしたことから、自分が伝説的なエージェントであるカール・ハウザーだと知る。

  • ローリー
    演:ケイト・ベッキンセイル
    声:岡寛恵
7年も連れ添ったダグの美人妻で警察官。
実は、記憶を消されたダグ=ハウザーを素性を知らされずに監視していた上級エージェント。
1990年版のローリーとリクターの役割を合体させたキャラとして、本作のヒロインの一人ながら最大の敵としてダグの前に立ち塞がり続ける。

  • メリーナ
演:ジェシカ・ビール
吹替:本田貴子
レジスタンスの美しくも勇猛な女闘士で、かつてマサイアス暗殺の為に送り込まれてきたハウザーの目を覚まさせ恋仲となった。
記憶を消された筈のダグ(ハウザー)が見ていた“悪夢”とはメリーナとハウザーの別れの瞬間の記憶であり、ダグの手の傷もライン作業中の怪我ではなくメリーナと結んでいた手を撃ち抜かれた際の傷もであり、メリーナの手にも同じ傷が残っている。

  • ハリー
    演:ボキーム・ウッドバイン
    吹替:楠大典
ダグの同僚。
ダグの思い出の中では数年間も共に過ごしてきた親友……の筈だった。
1990年版のエッジマーの役割も担っている。

  • マクレーン
    演:ジョン・チョー
    吹替:猪野学
リコール社の代表。
スラム街のイメージが『ブレードランナー』的な東洋的なイメージにアレンジされたのに伴いアジア系にアレンジされている。

  • コーヘイゲン
    演:ブライアン・クランストン
    吹替:金尾哲夫
UFB総裁。
酷薄な未来の地球の独裁者。

  • マサイアス
    演:ビル・ナイ
    吹替:小川真司
レジスタンスの指導者と目される謎多き人物。



【余談】

  • タイトルの“Total Recall”は単語を分割した場合でも“全て(=トータル)”を“思い出す(リコール)”…或いは“ご破産にする(リコール)”と二重の意味でも通じる語句となるが、更に“Total Recall”と続けた場合でも“完全記憶”を意味する語句になる等、複数の意味を掛け合わせたタイトルだったと読み解くことが可能である。(シュワちゃんの筋肉映画で何て高尚なことを……)。
  • 2003年にシュワルツェネッガーがカリフォルニア州知事戦への出馬を決めたのは当時の現職知事がリコールされたことがきっかけであり、この勝ち確のような超有名人の出馬に対して地元タブロイド紙は“Total Recall”を見出しに付けた。
  • 寺澤武一作の漫画『コブラ』は、元々は原作小説をモチーフとしたストーリーである。



追記修正は記憶を取り戻してからお願い致します。

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  • 1990年
  • 2012年
最終更新:2025年04月01日 22:11

*1 尚、導入部が似ている=『コブラ』が『追憶売ります』から発想した……と言われる場合もあるが、特にそれを認めた発言をしたことはない。