アナログホラー

登録日:2024/07/11 Thu 00:41:07
更新日:2025/07/22 Tue 20:54:35
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前置き

現役バリバリのアニヲタの多くが生まれたであろう平成時代も今は昔、令和の世はまさに大デジタル時代。
もはやメディア作品というものは電子媒体で楽しむものとなり、手に取って見たり読んだりする時代ではなく、VHSや映像テープというものをよく知らない、あるいは知っているが使い方もわからず実物も見たことがないという世代も生まれて来つつある。
だからこそ「古き時代の遺物」と化したアナログメディアは、「現代人が忘れ去った、失われた過去」を映し出す存在になりつつあるのだと言えるだろう。

あなたは「うすらぼやけた、低画質で、音もガビガビでそれでいてどこか懐かしさを感じる映像」を見たことはないだろうか?
RAM(ランダムアクセスメモリ)でないがゆえに映像の「見たい場所」から見るには巻き戻しと早送りを駆使する必要があったり*1、テープの劣化で突然音が歪んだり、音質の悪さ故に内容が聞き取りづらかったり、もう亡くなったあの人の生前の姿が残されていたり、もはや現代では公共の電波で映すことも叶わなくなった過激な内容が収められていたり…

そんな懐かしさを感じる映像に、どこか寂寥感のような、不安感のようなものを感じたことはないだろうか?
古い時代のメディアは不便さ故にその全体像をはっきりと見通すことは難しい。もはや伝聞でしか伝わっていないような、いわゆる「ロストメディア」と化したものもあるし、子供の頃みた懐かしの映像を見たとき「あれ?こんな内容だったっけ」と感じることもあるかもしれない。作成した人物ももうこの世になく、作成の意図も不明なまま謎の映像と化してしまうこともある。

もはや事実かどうかも確かめられないような曖昧な認識と記憶の隙間に、当時は気づかなかった得体のしれないものが潜んでいるかもしれない。そんな不安感が恐怖を掻き立てるのだ。

あたかも安全地帯だと思っていた日常に、この世ならざる異界への扉が開いてしまったかのように。


概要

アナログホラーとは、ホラー創作のジャンルの一つ。
「アナログ」の名の通り、作品の多くは「VHSのような古いアナログメディアに記録された、出所不明の怪映像」といった体裁を取っている。

例えば、ACジャパンの古いCMを見たことがあるだろうか?
内容としてはごく普通の、至って真面目な内容だが、当時の映像の画質や音質、あるいは演出によってなんだか得も言われぬ不安感や不気味さを醸し出す「怖いCM」と言われる映像である。
アナログホラーはこういった「古い映像の不気味な雰囲気」を表現することを意図しているのだ。
そのため単純にバケモノに襲われてさあ大変…なんて話ではなく、「何が起こっているのか」を視聴者に想像させることで恐怖を掻き立てる内容になっている。


定義

どのような作品がアナログホラーとして定義されるのか?
ざっくりとまとめると以下のような特徴がある作品が該当するとされる。
とはいえ明確に「こうでなくてはならない」という定義ではなく、「この定義に該当するものは大体そう呼んでいいい」位の認識でいて構わない。

  • デジタル映像ではなく、VHSなどの古いメディア媒体に記録された謎の映像という形式
アナログホラーの雰囲気を醸成する上での肝とも言える。
より具体的には、
■真面目な番組に正体不明の存在が映り込んだ放送事故
■何処かから流出した得体の知れない記録映像
■次第に内容がおかしくなっていく映像作品
■不可解な事件が起こったことでお蔵入りになった曰く付きの映像
■制作者も制作意図も不明な謎の映像
…といったもの。
その性質上、VHSが一般的だった1970年代~1990年代頃の雰囲気をイメージして作られることが多い。

  • 直接的にバケモノが襲ってくるジャンプスケア表現やグロ描写はない、あるいはあってもそれが恐怖の根源ではない
恐怖のフォーカスは「バケモノ」それ自体ではなく「バケモノに襲われることになった経緯」のほうに当てられているからである。

  • 視聴者に考察させる
不穏な表現、あるいは断片的な情報、表面的な出来事の説明だけを視聴者に提示することで、その裏にある「何か恐ろしいもの」を想像させて恐怖感を生み出す。


有名なアナログホラー作品

言わずと知れた日本ホラー映画界の金字塔。
作品の主題としては貞子に襲われる恐怖が中心だが、「ビデオの映像を媒体に呪いが拡散されてゆく」「恐怖の本質は貞子そのものではなく貞子の呪いとそのバックボーンにある」という点はまさしくアナログホラーそのものであると言える。
そのインパクトは海外でも高く評価されており、いわゆる「深層Webで見つかった謎の映像」系のホラー作品に非常に大きな影響を与えた、ある意味アナログホラーの原点とも言える作品。
ちなみに令和の新作映画ではデジタル配信時代における呪いの変化が描かれ、原作の方の続編は思いっきりデジタルSF化していたのは別の話。

  • ブレア・ウィッチ・プロジェクト
アメリカ、メリーランド州の魔女伝説を追い、とある深い森に入り、そしてそのまま消息を絶った3人の大学生が遺したビデオカメラの映像記録……という体で進むモキュメンタリ―映画の傑作。
製作費僅か6万ドルの低予算映画でありながら、VFXも特殊メイクも一切使わない生々しさと、肝心の「魔女」は一切映されず、ただ得体の知れない何かが3人を突け狙っているというじわじわと締め付けてくるような恐怖演出から世界的ヒットを叩き出し、現在に至るまで盛んにメディアミックス展開が行われている。

ホラー作品というより都市伝説として耳にした人のほうが多いかも知れない。
テレビを付けると「NNN臨時放送」と題された番組が放送されており、ゴミ処理場の画像を背景に複数名の名前と年齢がテロップで流れた後、

明日の犠牲者はこの方々です、おやすみなさい。

という字幕が表示され終了するという、まるで何者かの死を予告するかのような不気味な映像が流れるというもの。
その内容を再現したとする映像が動画投稿サイトで出回っており、その不穏な雰囲気は前述のACジャパンのCMにも通じるものがある。

  • local58
アメリカのとある地方テレビチャンネル「local58」で放送された番組の録画という体裁で、YouTubeに投稿された映像作品のシリーズ。
一見放送事故か何かのように見える映像だが、その内容の端々から何か異常な存在が背後で動いているらしいことが垣間見える。次第に普通だった内容も異常性を見せ始めてゆき…

  • Gemini Home Entertainment
こちらは古い子供向けの教育ビデオシリーズという形式でYouTubeに投稿された作品。
「Gemini Home Entertainment」なる企業が制作した教育ビデオ映像や、同社に関係する企業のコマーシャル映像といった内容が次々映し出されていくが、その端々に混ざる不穏な文言や表現、繰り返し示唆される謎の存在が「異常な存在」の輪郭を映し出してゆく。

  • The Backrooms (Found Footage)
The Backroomsを題材に制作された短編映像。Backroomsに迷い込んでしまった犠牲者の遺した記録映像という体裁で投稿されており、謎の異空間Backroomsに関わったとある企業を中心にストーリーが展開されてゆく。
ほぼ全編CGで作られていながらビデオ画質特有の表現を駆使して実写と見紛うほどのリアルさを演出しており、The Backroomsのパブリックイメージを決定づけたと言っていいほど。

  • The Mandela Catalogue
アメリカのウィスコンシン州にあるという設定のマンデラ郡なる架空の地域で発生した、「オルタネイト」と呼称される異常存在と、それに関連した事件についての記録映像と事件簿という形式で展開されるホラー映像シリーズ。
機械音声とピクトグラムを使って淡々と事件の内容が説明されてゆくが、そのうち映像自体にも異常な兆候が現れ始め、次第に現実が異常存在に侵食され始めてゆく。

  • the boiledone phenomenon
茹でられた肉塊のような風貌をしたボイルドワン(茹でられた者)なる「何か」がアメリカの自然番組に映り、喋った。彼の姿を見て声を聞いた者は心身に異常をきたしてしまう。それに対する政府の警告とその時の番組から成る内容。
ボイルドワンの強烈なビジュアルは一部でネットミーム化しており、動画そのものは知らなくても見覚えがある方もいるかも。

  • vita carnis
1930年に突然世界中に出現した7つの生命体を紹介するビデオ作品。
シーズン1では7つの生物の紹介映像とその生物をさらに深掘りした映像であり、シーズン2ではvita carnisをさらに深く調べていく内容となっている。この7つの生物に隠された秘密とは一体何なのだろうか?
7つの生命体
1 Crawl クロール
ビタカルニス属の最初のメンバーであり、すべてのビタカルニス種の起源。見た目は肉のツルのような見た目で持続的で適応力に優れたその特性上、気候とは関係なく全世界に生息する。クロールからなるノードというものから他の種類が生まれる。
2 trimming トリミング
クロールに作られた種のうちの最初の種で、ふっくらした体と小さな目と鼻、そして広がった口を持つ夜行性生命体である。夜行性で、一晩中聞くのが難しい悲鳴を上げるという。
トリミングはどんな温度でも生存可能だが、活動する際に好む温度は映像18~20度と言われ、眠る時はこれより暖かい温度を好む。成体になるまでのかかる時間は約7ヶ月で、成体サイズは約20cm程度である。
人畜無害であるためペットとして飼っている人も多い。
3 meat sneak ミートスネーク
クロールによって作られた種のうちの2番目の種で、爬虫類の特徴を多く持った生物です。生まれた時はトリミングより小さいが、成体の大きさは5mと非常に大きい。あまりにも暑くも寒くもない穏やかな天候でのみ生存が可能で、死体を餌としているため多くの動物たちの死体が存在するところでのみ目撃されるという。
恐ろしい見た目と大きさで誤解されるが非常におとなしいため飼育している人もいるそうだ。
4 mimic ミミック
クロールを通して作られた種のうち3番目の種であると同時に、人間に最初に敵対的な種として生まれました。
皮膚がないことや身長が高いこと(2.1m)を除いて、ほとんど人間に似ています。また、成体ミミックの食料源は”人間”です。
長いが爪がない指と人間より比較的長い四肢、突き出た空虚な目、そして歯でいっぱいの口を露出した笑顔が特徴だ。ミミックの歯は肉と骨を噛んで丸ごと飲み込むのに適しているという。
ミミックは自分の体よりも小さな空間に入るように体をねじる能力を持っていて、これを使って人間に奇襲をかけます。
また成長段階があります。
  • elder mimic
成体ミミックがあまりにも多くの餌を摂取して進化した姿。
一般の成体よりもはるかに大きくて暴力的です。(3.6m)エルダーミミックは、成体時代の多くの特徴を失うのではなく、体に硬くて柔軟な暗い肌の層が成長します。この皮膚層はエルダーミミックが餌をたくさん食べるほど硬くなる。また、エルダーミミックは顔に人間に似たピンクの肌の皮が育つ。歯はエルダーミミックののどに成長しているので、エルダーミミックは歯が見えない笑顔を帯びている。知能も上昇したのか、服をまとめて着る習性もでき、遠くから見ると普通の人間と勘違いできる。
この特徴により、エルダーミミックは地球上で最も強力で効率的なハンターであり、人間にとって大きな脅威となる。
  • 日本国尊厳維持局
昭和36年設立の「社団法人日本国尊厳維持局」制作による政府有事宣言時フィルムであり、「平和的終結の見込みの無い状況」に陥った際に、日本人の魂の純潔を守るために集団自○を強要するという内容。
日本のYoutubeで展開されているアナログホラーにはこれの影響を受けたものが多く、「ディストピア化したパラレルワールドの日本で放送されるプロパガンダ映像」や、「オカルトの類が実在する世界線の日本で放送されたニュース映像」などが度々テーマとして使われる。
前述の「local58」をオマージュして作られた傑作だが、元を正すと某ホモビ関連で行われたテレビ番組パロディの一部であり、ホラー演出はクッソ汚いミームを見せるための罠でしかなかったりする。

テレビ東京で放送されたモキュメンタリーホラー。
昭和時代の過激なバラエティ番組のVTRを見ながらツッコミを入れていくという緩い番組の出演者達が、徐々に狂気の世界へと引きずり込まれていく。

  • 謎の映像・CMチャンネル
「蒔迦な穂」氏がYouTube上で展開するアナログホラー作品群。
非道な人体実験を繰り返す組織「代天府」に支配された、とある異世界から漂着した映像(主に代天府による不気味なプロパガンダ映像、異世界の生き地獄ぶりが伝わる隠し撮り映像、たまに社会風刺)を、蒔迦な穂氏がネットの海から拾い上げたという体裁で公開している。
だが動画を読み解いていくごとに、その動画公開そのものが代天府の陰謀によるものであることが次第に明らかとなっていき、「蒔迦な穂」氏のサブチャンネルにてその真相及び、動画に映されていた恐ろしい異世界の正体が示唆される。

  • きいろやまんねる
謎の「ドナイ神」を信仰する組織「處内省」(どないしょう)による、昭和テイスト満載のパロディ動画群。
ダジャレ染みた組織や商品のネーミングからは想像が付きづらいが、CMで紹介されている謎の道具はいずれも人間を失踪や発狂に至らしめる代物ばかりであり、不気味さとコメディ要素が混ざり合った魅力を持つ。

  • Mystery Flesh Pit
1970年代のアメリカ・テキサス州。
ボーリング作業中に突如として、生体組織で出来た謎の深穴が出現する。
「Mystery Flesh Pit(ミステリー・フレッシュ・ピット/神秘の肉穴)」と名付けられたこの深穴は、調査の結果様々な生物の集合体で構成された「超個体」であり、さらにその超個体からは各種の有用な資源が採掘できることが判明。
これに目をつけたアノダイン社はMystery Flesh Pitの権利を独占し、事業化を開始したが…。
実在の地名や組織、商品名を使うことにより、「もしかしたら現実にもどこかにあの超個体が存在しているのかも」という雰囲気を作り出しているアナログホラー作品。アメリカ人の好きそうな設定を全部入りにした結果、誰が呼んだか二郎系SFとも呼ばれているとかいないとか


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最終更新:2025年07月22日 20:54

*1 ランダムアクセスメモリとはデータ全体の中からランダム、つまり無作為に選んだ任意の場所からでもデータの読み出しができる記録媒体。しかしテープならテープ全体の中から読み出したいデータを物理的に引っ張り出してきて読み取り位置まで持ってこないといけない。これが早送りと巻き戻しなのである。このような記録媒体を「シーケンシャルアクセスメモリ(SAM)」と呼ぶ。