あなたは……相変わらず、
自分のことはスクールアイドル失格だと思っているのね。
……失格とは、違うかな。
一度だって、その資格を手にしたことはない。
新入生のさやかをスカウトし、新たな1年のスタートを切ることとなった───はずだったのだが、彼女を綴理なりのやり方で指導はすれど、なぜかライブ出演の誘いは断り続けていた。
……花帆と梢が、はじめてユニットとして「ひとつになれた」日───2人がスクールアイドルになれたライブ以降、綴理の様子はどこかおかしかった。
彼女には、不甲斐ない自分のことを慕って、一生懸命合わせようと頑張っているさやかの姿が、去年の梢と重なって見えていたのだ。
綴理の様子がおかしいことにはさやかももちろん気付いていたが、綴理はその気持ちをなかなか声にできない。そんな様子を前にしたさやかは───
相応しくないと判断したなら……
わたしのことはいつでも、見限ってください。
さやかから見た綴理は、平時はともかくとして一度ステージに立てば誰もを魅了する「完璧なスクールアイドル」であった。
そんな彼女が、ライブを見送り続けている。しかも最近は、花帆の見せたパフォーマンスのことばかりを気にしている。
その状況から導き出される結論は……必然、「後輩たる自分が不甲斐ないから、自分ではなく花帆に気持ちが向いている」となる。
ずっとスランプの最中にあったさやかなら、尚更そう考えてしまうだろう。
ここにきて、直前に梢が示していた懸念が当たっていたこと……さやかとのコミュニケーションを欠き続けていたことを悟った綴理は、自分なりの言葉で「そうではない」と伝えようとする。
「あなたは夕霧綴理であって、スクールアイドルではない」───かつて、そう言われた。
スクールアイドルは、一人でやるものではない。ずっと一人でやってきた……「みんなで頑張る」ことができなかった綴理は、スクールアイドルにはなれない。
しかし……「スリーズブーケとして」はじめてライブを披露した花帆と梢は、あの日間違いなく「スクールアイドル」だった。
……そして、さやかもきっと「すごいスクールアイドル」になれる。そう思って、綴理は彼女をスカウトしたのだから。
だから、ごめん。
ボクだ。ボクが、たりない。
ボクが、よくない。
しかし、その言葉を聞いたさやかは……。
さっきから何を言ってるんですか。
あなたこそしっかり聞いてください。
わたしにとっては、あなたこそがスクールアイドルです。
さやかは、綴理のステージに立つ姿にこそ憧れた。
ずっと成長できないままで、何をどうすれば先に進めるのかも分からなくなってしまっていた中に現れた綴理という存在は、一条の光だった。
だからこそ、綴理の誘いを受けたのだ。
誰が、あなた自身が、なんと言おうと!
わたしにとっては、あなたがスクールアイドルです!
わたしの憧れに、あんまり酷いこと言わないでください!
その言葉は、綴理にようやく訪れた救いであった。
……さや。スクールアイドルに、なりたい。
ボクは、ずっと、
スクールアイドルに、なりたいんだ。
きみは、ボクを、スクールアイドルにしてくれるの?
何度でも言います。
あなたは、わたしにとっては最初から、
一番のスクールアイドルです。
でも、そうですね。
どうしても一人じゃダメだって言うなら、
わたしが隣に立ってますから。
慈がクラブに復帰し、1年越しのみらくらぱーく!再結成を果たしたことで、ついにスクールアイドルクラブ102期生……かつて蓮ノ空の未来を担う「大三角」と謳われた3人が出揃った。
それから少し経ったある日、慈ともども梢に呼び出しを受けた綴理。
「お説教の予感」しかしなかった慈と綴理は身構えながら梢の話を聞くことにしたが……そんな2人に梢が出したのは、1枚の紙。
これ、3人での約束……。
全国大会の出場辞退と、
これ以上関わらないようにしようっていう、不干渉条約。
何もかもを間違えてしまった、1年前の苦い記憶。
3人で話し合って、サインをして……去年の3人は、そうするのが一番良いと思っていた。
何度も意見を衝突させて、
信念とは決して呼べないようなエゴをぶつけ合った。
これは私たちが未熟だった証拠。
さしずめ……若木証明書。
今梢がこれを出したのは、当時の問題が1年経って概ね解決したこのタイミングで、まだ2人が言い足りないことがあるのならここで清算しようという提案だった。
ただ、梢が自分の気持ちを吐き出すことができたように、慈も、綴理も、それぞれに当時の出来事は彼女達なりに整理をつけていた。
見えない?
ここに3人のサインが書いてあるのが。
今の梢は部長かもしれないけど、私たちにとってはあの頃の梢も今の梢も、
ただ周りの人より少ししっかりしてるだけの同級生だよ。
それなのに、なんでもかんでも、
自分で背負い込もうとしないでよ。ムカつく。
ボクは、めぐみたいに言う資格はないと思う。
だって、こずが無理をしてたのは、ボクのせいだったから。
去年の今頃を思い出すと、今でも体が沈んでく。
それが後悔という名前なら、ボクはずっと後悔してるよ。
もっとこずと、ちゃんと話せればよかった。もちろん、めぐとも。
はい、これで辛気臭い話は終わり!3人とも若かったし、
ヤなこと続いちゃってたよね!以上!文句ある!?
何はともあれ、当時のことに対して2人から言いたいことはもうないし、今となっては気にすることでもない。
そのことが確認できたことで、梢も少し心が軽くなった。
少しだけなんだ。
しょうがない。
梢は結局、背負い込むのも好きなんだから。
帰り道。
当時は紙がもう1枚あったことを思い出した綴理が梢に訊ねると、梢はその「もう1枚」もきちんと用意していた。
それは、ラブライブ!のエントリーシート。
今年こそは、3ユニット───本来の蓮ノ空のカタチで出場できる。
梢が今このタイミングを選んだのは、出場に向けての意思確認でもあったのだ。
いよいよ眼前に迫る夢の舞台を前に、「仲間でライバル」となるお互いを弄り合う2人を前に苦笑しながら、その梢もまたこの3人の関係性を愛おしく思っていた。
……でも、きっとかけがえのない関係なのよね。
だって、誰が欠けても成り立たない、「蓮ノ大三角」なんですもの。
その言葉で、綴理が何かを思いつく。
後日、部室にあるホワイトボードの隅に、6色の虹色をした五芒星が貼られていることに気付いた花帆達。
疑問に思った3人を前に、綴理は感慨深そうに語る。
それは、もともと若木だった。
でも今は、お星さまなんだよ。
そして名を、蓮ノ大三角と言う。
……当然、この「若木」が「星」になった経緯など知らない103期生達にとっては、何のことやらであった。
そんな光景を尻目に、慈たちも少し複雑な……しかし悪いものではない心境でその星を眺める。
……なんか、楽しそうだけど。
いいんじゃないかしら。あの頃の思い出が星になるなんて。
破くよりも、よっぽどいいわ。
……まっ、そーかもね。
ええ。それじゃあ……
みんな!きょうも練習、がんばりましょうね!
ラブライブ!出場に向けて沙知が出した「試練」を通じ、自身が何かを頑張る「根幹」に気付くことができたさやか。
それ以降、彼女の成長は目覚ましく、当初こそ綴理はそんな相方を誇らしく思っていたが……
何がいけないの?みたいな顔!
そしたら蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは
さやかちゃん6人グループだからね!
慈が軽い雑談のつもりで発したその一言をきっかけに、綴理がかつて味わった「大切な人に置いていかれる」ことへの恐怖が再燃してしまう。
綴理せんぱーい!置いていっちゃいますよ?
置いて、いかれる……!?そ、それはだめ!
焦った綴理は、ちょうど控えているオープンキャンパスに向け実行委員を募集していることを知ると、半ば飛びつくように立候補。
当初こそ綴理にそんな大役が務まるのか不安でしかなかったクラブ一同だったが……しかし、意外にも綴理は独特な形でこそあれアイデア出しに貢献し、会議を前に進める原動力となっていた。
しかし、そもそもこのオープンキャンパスは生徒会が主導で企画しているもの───すなわち、今の綴理の状態は、かつて自分達を「置いていった」張本人にして今なお彼女が唯一良い感情を持っていない相手である生徒会長・沙知に手を貸しているに近しいものだった。
特に慈はその事実に綴理が気付いていないと読み、「綴理が実行委員をきちんと務められるか」だけが問題ではないと不安視していたのだった。
これから蓮ノ空を目指す子たちに、この学校の魅力を伝える。
それがオープンキャンパス実行委員の仕事なんだって。
だったらそれはもう……スクールアイドルと同じ。
ボクがスクールアイドルとしてやりたいことだ。
スクールアイドルクラブの活動じゃなくても?
うん。スクールアイドルクラブじゃなくても、スクールアイドル。
みんなは、どう思うかわかんないけど。
しかし綴理は上記のやりとりで語った通り、実行委員という仕事自体にスクールアイドルとしての活動と同じくらいのやりがいを感じていた。
それは、オープンキャンパスが沙知の発案によるものという事実を知っても変わることはなかった。
果たして、ついに迎えたオープンキャンパス当日。
綴理考案のメイン企画である「スクールアイドルクラブ6名によるツアーガイド」は順調に進行。
あとは最後の大詰めとして控える野外ライブさえやり切れば、オープンキャンパスは大成功間違いなし!……の、はずだったのだが───一日快晴だったはずの天気予報は裏切られ、いよいよという時に限って本降りになってしまう。
これでは野外ライブはできるはずもないし、体育館も今しがた緊急避難場所として使ってしまったためライブ会場に使える状態ではない。
実行委員もこの状況にはノープラン……というより、これから始まるはずだったライブ以外の予定をほぼ全て消化してしまっていたため、スケジュール調整のしようがない状態だった。
かといって、このまま参加者達を足止めし続けるわけにもいかない。どうしたものかと話し合うスクールアイドルクラブ一同。
そこに遅れてやってきた綴理は、どうやら参加者達に今までの感想を聞いて回っていたらしい。その評判は上々だったようだが、それを伝える綴理の口ぶりには焦りが浮かんでいた。
それは嬉しいお話ね。
でも綴理、今はそれより───。
そうだね、ライブの準備をしないとね。
わ、ライブできるんですか?
するよ?
綴理。……大丈夫なの?
うん。このオープンキャンパスは、絶対に成功させる。
その言葉を受け、ライブのための場所探しに奔走し始めるクラブ一同だったが───さやかだけは、不安げな目で綴理を見ていた。
……綴理先輩。
沙知先輩が探してましたよ、綴理先輩のこと。
……きっと、ライブ中止にしろって話だ。
えっ?
すなわち……「ライブを決行する」という綴理の判断は、沙知───生徒会に無断で、綴理の独断で強行しようとしていたものだったのだ。
さやかに、きちんと生徒会へ行って話をするよう諭されても、綴理は頑なに従おうとしない。
綴理先輩!
どうして、どうしてそこまで生徒会長とは壁を作るんですか。
……分かってるんだ。
ボクはやりたいって気持ちだけ。向こうの方が正しい。分かってる。
ボクが、おかしいんだ。ボクも、さやも、そう思ってる。
……綴理は、なぜライブを中止にしなければならないのか───沙知がそう言うであろうその理由が、正しく理解できていた。そして、沙知のほうが「正しい」ことも。
沙知を無視しようとしているのは、正面から正論を言われてしまえば返す言葉を持てないから。
1年前もそうだった。
沙知がスクールアイドルクラブを辞めて生徒会長になったことで、クラブが……他の部活も、それまで通りの活動が続けられるようになった。
みんな感謝していた。
だって……きっと正しいのは、生徒会長の方だから。
怪我したばっかりのめぐを、置いていっても。
そのせいでこずまで、おかしくなっても。
いきなり、ボクの前からっ……居なくなっても……。
それでも、おかしいのはボクの方なんだ……。
だってこずも、めぐも、生徒会長と話せてて……。
さやもっ……!
さやだって……色々されても、感謝してた……。
ボクがおかしいんだ。
分かってる。分かってるけど……。
ボクは、ボクがおかしいんだって、
ボク自身に言い聞かせるのが、痛いよ……。
綴理の絞り出した悲痛な独白を聞いたさやかは……冷静に、しかし優しく先輩を諭す。
綴理先輩。
……沙知先輩って、そんなに冷たい人ですか?
分からない。
ボクはあの人のことが、分からない。
あんなに楽しかったスクールアイドルクラブを、
あっさり辞められた時から……もう、分かんない。
……本当に、あっさりだったんでしょうかね。
さやかはつい先日、沙知に「試練」を課された身だ。
だからこそ、知っている。
沙知がそうしたのは、きちんとした理由あってのこと……それがさやかを成長させるための「試練」であったことが。
彼女は、後輩を……綴理をばっさりと切って捨ててしまうような人ではないのだと。
ねえ、綴理先輩。
……後輩に、そこまで無体になれるものですか?
わたしは、きっと裏では沙知先輩もすごく悩んだんだと思います。
……どうして、そう言い切れるの?
そうですねぇ。
わたしがどんなに綴理先輩に突然距離を置かれたって、
きっと何か事情があるんだろうなって、
信じられるからでしょうか。
……ちょうどその時、再び校内放送で沙知の声が響いた。
その声は、呼ぶ相手への信頼を感じさせる、優しい声色だった。
さやかの説得とその声で決心がついた綴理は、それでも信じる道のため、ついに沙知と正面から向き合うことを決める。
今もまた、さやには助けられてばっかりだけど……待ってて。
頑張って、追いつくから。
些細な活動方針のすれ違いが大喧嘩に発展してしまい、相方にして幼馴染である慈に対等に扱われていないと感じた瑠璃乃は、慈とは違うやり方で力になれることを”証明”するため「ごちゃまぜユニット」を企画する。
その企画に「今しか出来ないこと」と考え同意を示した梢の意向もあって、一時的にクラブ全体でそれまでのユニット体制を解き、それまで組んでいなかった相方との臨時ユニットとして活動することに。
綴理は企画の発起人にしてそもそもの騒動の当事者でもある瑠璃乃と組むこととなる。
……が、瑠璃乃はクラブで最もつかみどころのない存在と言ってもいい綴理とどう接したらいいのかわからず、一方の綴理も瑠璃乃と合わせようとはするものの、今まであまり接してこなかった相手であるせいもあってかうまく歩調が合わない。
性格の近しい者同士で組めた他2ユニットの滑り出しが順調だったこととは裏腹に、肝心要と言っていい瑠璃乃達は盛大に空回ってしまっていた。
しかし綴理は、瑠璃乃がなんとか場を保たせるため……それはすなわち、組んでくれた綴理が楽しめるようにと行動しようとしてくれていることを感じ取る。
それこそが、瑠璃乃の「スクールアイドル」としてのきらめきなのだと、綴理は気付いたのだ。
ボクも早く見たいな、るりのスクールアイドル。
ルリの、スクールアイドル……。
そっか。そうじゃんね。
それがちゃんと分かってなかったんだから、
めぐちゃんにも伝わらないはずだ。
そうして、瑠璃乃が自らの「スクールアイドル」像……「ひとりひとりに合わせ、寄り添うスクールアイドル」を見せてくれたことで、綴理もその気持ちを伝えるための曲を思いつき───ここに、「るりのとゆかいなつづりたち」が完成した。
そうして、シャッフルユニット活動は大成功を収め、元のユニットに戻った各々も今回得た経験をフィードバックすることでさらに前進させることができた。
……肝心の、みらくらぱーく!を除いては。
みらぱだけが活動再開しても上手く行っていないことに気付いていた綴理は、「かほめぐ♡じぇらーと」として慈と活動した花帆とともに考えた末───「今のるりだから出来ることがあると思うんだ。」と瑠璃乃に語る。
るりは、目の前に元気のない子がいたら───
それが誰であっても、元気にしてくれる。
ねえ、るり。
きみはめぐの幼馴染だけど、もうそれだけじゃない。
きみはひとりの───スクールアイドルだ。
その言葉で、大事な幼馴染にして唯一無二の相棒と、もう一度向き合う決心をした瑠璃乃。
しかし、その頃慈は───?
今年学院を卒業する先輩・沙知に向け、来る蓮華祭で102期生3人で何かを残したい。
そう考えた梢に、綴理は新曲をこの3人で制作することを提案。
去年の部室はいつも、こずがそこに居て、
めぐが転がってて、それからさちが入ってきてたなー、って、思ったらさ。
いつだったっけ……
入ってきたさちが言ってたことを思い出したんだ。
歌は、こず。ダンスは、ボク。言葉は、めぐだって。
そして……さちが知ってるボクたちより、
今のボクたちはすごいことができるはずだと思う。どうかな。
そうして、その言葉通り……作曲は梢、作詞は慈、そして振り付けは綴理がそれぞれ担当し、同時進行で制作したものをそれぞれ持ち寄って擦り合わせる形を取ることとした。
綴理は「ボクの全力を出さないといけない」という考えの元、さやかに意見を求めながら構想を練ってゆくが……いかんせん、表現したいこと、すなわち伝えたいことが多すぎてなかなか纏まらない。取捨選択をしようにも、アイデア全てが「沙知との思い出」を表現しているためにひとつも落とせない。
1本のリボンがほしい。
……それはつまり、
この振りをまとめるための軸のようなものでしょうか。
うん。気持ちを詰め込んだプレゼントの……
1番大事な見た目の部分。
そう考えた綴理は……唐突にどこかへと出掛け始める。
ずっと空を見上げ続けて……当て所もなく歩き続ける綴理を流石に心配したさやかが行き先を訊ねると、綴理は端的に。
それですべてを察したさやかが、その場で調べて綴理を案内したのは……奇遇にも、沙知といた頃から綴理がずっとお世話になってきた場所───近江町市場だった。
綴理が言うには───恐らく、沙知の言葉だろう───DOLLCHESTRAというユニットは、舞台の上で人々に想いを伝える”居場所”そのものだという。
それをさやかが初めて感じることができたのも、この市場だった。
ボクは……居るだけで良いって、言われたんだ。
それを言ったのは、沙知先輩だったんですね。
初めて綴理がそう言われたことを明かしたとき……「もう何もしないで」という意味だと、おそらく綴理は感じていたのだろう。
しかし、沙知はそういう意味で言ったのではないことが、今ならわかる。
去年さちが教えてくれたこの場所で、
今年のボクは、ボクで居て良いんだって思えたんだ。
来年素敵な出会いがあればボクもスクールアイドルになれる……
そう言われた場所で、ボクはスクールアイドルになれたから。
だからここは、ボクにとっても、きらめきを教えてもらった場所。
そのきらめきは、さちに何かを返せるって、そう言ってる。
ただ、本当に沙知がそういう意味で言ったのかは、まだよくわからない。
だから、雨を───沙知の好きな「雨が上がる瞬間」を、探していたのだった。
雨が上がるときはいつも、ボクはボクで居て良いんだって思えた気がした。
だから、今日それを感じて、意識して……。
今度こそ、言葉にしたいんだ。
その時、市場の人々が二人に話しかけてきた。
雨が上がるまで……いや、ずっとここに居て良いのだと。
ここの人々はいつも、そう言ってくれるのだ。
それからしばらくして───
雨が……。
ああ……そっか。
……雨上がりの時に、ボクがボクで居て良いんだって思えたのは、
その瞬間が大事じゃないんだね。
この市場みたいに、みんなが居る場所が……
ボクの居場所なんだって今は分かる。
今のボクの周りには、みんなが居る。
だってボクは、スクールアイドルだから。
……沙知先輩への気持ちをまとめるためのリボン、見つかりましたか?
うん。さちが、居るだけで良いって言ってくれた理由。
DOLLCHESTRAを選んだ理由。
それは、ボクに”スクールアイドル”を教えるためだったんだね。
いつかボクがボク自身を、スクールアイドルだと思えるように。
……リボンは、すごく簡単だった。
「ボクにスクールアイドルを教えてくれて、ありがとう」