登録日:2025/04/07 Mon 23:16:08
更新日:2025/04/25 Fri 23:19:38
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警告 : 本データベースは財団レベル4及びそれ以上のクリアランス保持者のみアクセスが可能です。一部のアーカイブへのアクセスにはレベル5またはレベル6が必要となる場合があります。当該クリアランスを有しない職員は、本データベース内に保存された情報へのアクセスを禁じられます。違反者は財団により所在地を特定され、処罰されます。
コードを入力してください。
login: O5-11
警告:あなたはO5-11のIDでデータベースにアクセスしています。本IDは財団クリアランスレベル6の職員(監督評議会員)が所持するものです。権限無く本アカウントへアクセスを試みた場合、ただちに所在地が特定され、終了措置が取られます。
コードを入力してください : 黒き月は吠えているか?
怒号を知る者は無し
認証クリア。生体認証はまもなく実施されます……
生体認証クリア。ようこそ、O5-11。何をご希望でしょうか?
search all-database mark"B3EC4VEM"
現在SCiPNER-INT全データベース内の指定されたキーワードを照会しています……
本部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果: SCP-ʤɮaaʋ エラー:(null)
ロシア支部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果:SCP-ʘuǂos^ɓ-RU エラー:(null)
ドイツ支部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果: SCP-auoåɓ-DE エラー:(null)
フランス支部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果: SCP-ʢurooʦ-FR エラー:(null)
日本支部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果: SCP-ʧiaå-JP エラー:(null)
中国支部データベース 内の 1 件 のキーワード mark"B3EC4VEM" の検索結果: SCP-CN-2000。このドキュメントにアクセスしますか(Y/N)?
Y
クリアランス検証パス。現在ドキュメントを読み込んでいます……
概要
SCP-CN-2000は怪奇創作サイト・SCP財団
中国支部(SCP基金會)に登場するオブジェクト。タイトルは『
カオス理論』。
オブジェクトナンバーが表すように、中国支部で開催された
SCP-CN-2000コンテスト優勝作品である。当コンテストのテーマは『
不確実』であった。
要注意団体である
カオス・インサージェンシー、及び多くの「謎」を残した
SCP-5000に深くかかわるオブジェクトである。
オブジェクトクラスは
Tiamat。『どうあがいても絶望』なApollyon一歩手前だが、財団がヴェールを破棄するレベルで頑張れば対応は可能……というもの。
アノマリー分類システムにおける攪乱クラスはAMIDA、リスククラスはCRITICALとどちらも最高。
特別収容プロトコル及び説明
SCP-CN-2000のドキュメント自体がオブジェクトの収容プロトコルとなる。このドキュメントの無効化により発せられる下記の指令は決して撤回されない。
その指令とは『全財団職員への本ドキュメント公開後、財団職員を除く全人類への粛清を実行』という何とも物騒な物。
そのための手段としては
- 財団が現在収容する全ての非Thaumielクラス異常存在の解放または利用
- 財団が現在収容する全てのThaumielクラス異常存在の破壊
- 財団職員以外の全人類の排除。
といったやはり物騒な文言が並ぶ。
粛清の詳細はアーカイブ参照とのことだが、そのリンク先として貼られているのが
SCP-5000。つまるところ、SCP-5000内で実行されていた「財団による人類の根絶」に関する内容だと予想できる。
詳細説明は『プロジェクト・ラプラス』なる計画のドキュメント内に記述されているそうだが、このクリアランスを取得する職員は既にプロジェクト内容は熟知していることが想定される。そのため、セキュリティを考慮してドキュメントには記述がない。
このように、データベース内にあるSCP-CN-2000の報告書そのものは『人類粛清のトリガー』というだけで、至って簡易的かつ謎に満ちている。
SCP-5000に記録されていた異常事態、財団がSCiPを用いて行い始めた人類根絶。
その真相に迫れるかと思われたが、未だ詳細は分からない。
謎を明かすには、少しばかり場所を変える必要がある……
ドキュメント検索完了。コードを入力して下さい。:
mark CHAOS0
オブジェクトの表記はCHAOS0に変更されました。コードを入力して下さい。:
logout
ログアウト成功。ごきげんよう、O5-11。
access DELTA
パスワードを入力して下さい:
Повстанцев Хаꙮса
特殊パスワードを検出。IDを確認中……
ようこそ、カオス・インサージェンシー首席エンジニアアデベン=クリステンセン。特殊パスワードを検出しました。SCP-ꙮのアーカイブへアクセスされますか?(Y/N)
Y
現在、アーカイブSCP-ꙮをロードしています……
ここで舞台は、カオス・インサージェンシーのデータベース内の、SCP-ꙮなるオブジェクトのアーカイブに移る。
これは、『過去も、現在も、そして将来的にも、カオス・インサージェンシーの第一の中核、第一の行動目標そして第一の保護対象』であるもの。アーカイブ設立当初のデルタ議会指令によって、ドキュメントのSCP表記は永久的に留保されるという。
このオブジェクトの詳細を示したアーカイブこそが、SCP-CN-2000という物語の実質的な本編である。
アーカイブ ꙮ-001-19231225
O5-1からの連絡
時は1923年。O5-1が逆説的な保険証書、即ち
SCP-711の文字列17の解析が『かなり不味い結果に終わった』と他のO5たちに報告するところから、この長いアーカイブが始まる。
詳細はSCP-711の当該項目を参照してもらいたいが、この文字列17と言うのは『いずれ必ず(恐らくは敗北した)財団によって過去に送信されるが、送信されない限りは世界存続が逆説的に保証される』というもの。
引用されるオブジェクトチームからのレポートによれば、この文字列17は1948年12月、アーカイブの書かれた25年後に当たる時期から送信されたもの。既存の方法で解読できない暗号が用いられているが、レベル5クリアランスのベースコードを僅かに変更することで解読用のパスワードを取得できた。
送信された背景、つまり原因は一切不明。『
人類の未来の可能性はここで終わる』という一文があるのみだったという。
ともかく、711の建造意義からして、48年12月に何らかの危機が訪れる……という予想は容易にでき、O5-1は対応のための行動や意見を評議会員に求める。
監督評議会内部会議紀要概要 1923-12-27
監督評議会は、先の文字列17が示唆する1948年の異常事態について議論。O5-13の主導の元、1948年前後の発展状況のシミュレーションを行った。
結果、逆説的保険証書の送信原因になるインシデント予測こそできなかったものの、1931~44年に99.98%の確率で『過去のあらゆる規模を凌駕する戦争』、それに伴う世界オカルト戦争が勃発するという結論が出される。恐らくこの戦争こそが48年インシデントの原因という考えで監督評議会は一致し、詳細の解明と戦争勃発の阻止を主要任務とすることが採択された。
O5-1からO5-7への連絡
O5-1は、48年の災厄の原因は「現在の正常性」の中に隠されていると推定。戦争の回避のためには運命を逆転する力、財団から独立した正常性を乱す可能性がある力が必要だとする。
1は対外的に独立しつつも財団が公式発令しがたい任務を遂行する『黒手袋』部隊の設立を検討し、その指導者としてO5-7と4に連絡を取った。4の政治理解と社会資源による各種業務の容易化の元、7の頭脳によって48年インシデントの予測を行う計画だ。
ひとまず12日後の会議に出席することをO5-1は求めた。
会議ログ ꙮ-002-19240316
以前の分析の通り、財団は直近の世界大戦を超える規模のオカルト的世界大戦の勃発が48年に発生するインシデントであると判断。その結果人類文明の停滞、退行、或いは滅亡が起きうるという結果が示されており、戦争勃発阻止のためあらゆる考察や行動が必要になる。
……が、世界秩序の正常な進行を阻むことは財団の原則に反する。さらに大規模な行動を行えば、最悪の場合、ヴェールが破られて財団が世界に露見するリスクもある。
そのため、「対外的に」財団から独立した新組織によって『世界の正常な進行と財団自身の名誉を損なう任務に干渉し、あらゆる手段を用いて1939年前後に勃発する戦争を阻止する』計画が全会一致で採択。
結成された新組織の名は『インサージェンシー』。監督者が必要と認めれば倫理委員会を無視した行動すら可能となる、戦争阻止のための特殊組織が誕生した。
アーカイブ ꙮ-003-19240331
O5-1は先に倫理委員会によって停止されたアイディタレンズ計画による並行宇宙の観測をO5-7に提案。場合によってはプロトコル・アイディタによる並行宇宙への直接接触にも言及する。7はO5-2、3と議論し、接触は尚早としつつも観測には賛成した。
活動ログ A1-19240331
16334本に渡る並行タイムラインの観測が実行された。
財団が誕生せず、深淵の光同修会が緋色の王の子のような組織となり、最後は
世界を貪る者が早期に活動して地球滅亡……という例外的なタイムラインを除けば、86%のタイムラインで31年から40年の間に非異常性またはオカルト的性質の世界大戦の勃発が判明。また、その全てのタイムラインで、1948年前後には
戦争参加者による異常技術の発見と、大規模な実戦での使用を原因とするその漏洩が発生していたという。
残る14%のタイムラインでは戦争の未発生か遅延に至っていたものの、それらはこちらの世界と顕著な差異のあるタイムラインであり、考慮価値は限定的とみなされた。
先の保険証書における『
未来の可能性はここで終わる』という一文はこの異常技術漏洩に由来するという推測が建てられ、依然とした戦争阻止と技術発展への監視が財団方針として提案される。
人事ファイル・部門ドキュメント
ここでO5-7と『インサージェンシー』に関する解説が挿入される。
彼の本名は
エンリコ・フェルミ。
多数の放射性同位元素の発見や世界初の原子炉運転成功など、核物理学の発展に多大な貢献をした、イタリア出身の実在の科学者である。宇宙論に関する
フェルミのパラドックスでも有名だ。
現在はインサージェンシーのメンバーとして、1948年に推定されるインシデント、暫定ナンバリング名『
SCP-Laplace』を担当する。
インサージェンシーは、対外的には財団造反者による集団と称されるが、実際はO5評議会の指令とO5-7の指揮の元動く部門である。指導層は『デルタコマンド』と呼ばれ、機動部隊アルファ-1(レッド・ライト・ハンド)の隊員が『アノマリー収容任務中の離反』という名目で司令部員として組織されたものだ。なお、レッド・ライト・ハンドの補充は他の機動部隊員から成される予定である。
彼らは財団が対外的に実行することが不都合な任務……端的に言えば『汚れ仕事』をO5公認下でこなす部隊だ。目的のためなら、新たな異常の開発や科学研究の監視すら認められる。
……未来の財団職員諸兄の視点からすれば、『インサージェンシー』という名は(本当の)財団の敵対者のことである。何が現在を作り上げたのか?
アーカイブ ꙮ-004-19240406
O5-7からO5-4への連絡
インサージェンシープロジェクトの役割通り、O5-4が暗殺やロビー活動を行う間、O5-7、フェルミは次の行動を考えていた。その最中、7は4に連絡する。
彼が注目するのは保険証書の『人類の未来の可能性はここで終わる』という例の一文─その中の『可能性』という表現だ。恐らくそれは解き放たれたアノマリーによる世界の滅亡……それ以外だとすれば、人類の発展の戦勝国によるひっ迫、或いは財団による世界の監視状態ではないかと彼は推測する。
そうなれば自由な探究が許されず、人類の未来が、戦勝国・財団のどちらにせよ、一部の人間の希望に沿った方向に進むような状況。仮に世界そのものが破滅しなくても、それは『可能性の終わり』として表現できるだろう。
もし我々の計画が上手く行けば、それは人類に特定の“望まれた”方向へ発展することを要求し、その他の発展可能性——あるいは人類の発展自体の不確実性——はそこで抹殺される。それが戦勝国の望みなのか、財団の望みなのかは関係が無い。要するにそれは、人類が二度と自身の発展する方向を選択できなくなり、人類の運命がたった一つに確定されるのだ。
そうだ、ワンが人類の科学技術全てを制御下に置くことを良案と考えても、私はそうは思わない。世界破滅の可能性を考慮すれば、確かにそれは今は我々が選択できる最も良い方法だろう。だが、本当にそうだろうか。もっと良い解決法は無いのだろうか。インサージェンシーのリソースを使って、もう少し調査を続けたい。
これはある意味、私の我儘なのだろう。どうか理解して欲しい。
その後、O5-7はデルタコマンド隊員へ、プロトコル・アイディタの起用による並行宇宙との直接交流を指示。O5-7と4の責任の下、監督評議会員を含む全財団職員に対し、この指令を漏洩することを禁じた。
アーカイブ ꙮ-005-19370809
インサージェンシー内のプロジェクト・アイディタチームは62の先行するタイムラインの内、SCP-Laplaceに対応する1948年のインシデントは大規模収容違反であると示され、いくつもの世界の財団が対策を講じていると7に報告。その上で交流を求める別タイムラインの財団職員との対話をO5-7に要請し、彼もそれを承認した。
別世界線へのインタビュー記録・1
デルタコマンド部隊員ガウェインと、MD759-E-α-018世界線なるタイムラインの財団職員[編集済み]へのインタビュー記録。
[編集済み]氏は早速、あることを尋ねる。
[編集済み]: 余りある光栄であります。気分を害することをお許し下さい——一つお尋ねします。貴君は今、大ゲルマン帝国と総統にお仕えしておられますか?
ガウェイン: そうではありません……我々のタイムポイントでは、ドイツはまだ戦争を起こしていません。ただし、最近のドイツの政策は確かに些か極端な主義傾向があります。いや、待ってください、あなたが言う
総統とは——
[編集済み]: なるほどなるほど、よくわかったぞ。ならば私の忠告を聞くのだ。総統を選べ。彼の大志は財団の助けとなり、我々の終極の悲願を達成させるだろう。
ガウェイン: ええと……よくわかりません。何を言っているのですか?
[編集済み]: 正常性の守護だ。確保、収容、保護、全ては正常性のため、人類が永遠に安定し続けられるためなのだ。思うに、君は1948年の状況を訊きたいのだろう?
ガウェイン: はい。
[編集済み]: 1948年、ドイツの科学は独自にSCP-8260を発見した。君たちはこれをアノマリーと呼ぶかもしれないな?いずれにせよ、この非常に強力な技術は総統が戦争で勝利を得る決定的な助けとなった。この技術の開発は我々が戦争で勝利を得る助けとなるに留まらず、様々な生産活動に必要なエネルギーをも提供した。あれは記念すべき年であった。
どうやらこのタイムラインでは、某ちょび髭の率いるドイツがSCP-8260なるアノマリーを独自に発見した結果、戦争での勝利と生産エネルギーの確保に至ったようだ。やっぱりドイツの科学力は世界一じゃないか
ガヴェインが調査の発端である『逆説的な保険証書』、即ちSCP-711について尋ねると、こちらではとっくに解体されExplained認定済みの模様。SCP-2000による再構築を目指して17行目を送信した反逆者もすぐに逮捕・処刑されたようだ。
どのような異常物体でも原則的には『保護』を目的とする財団がなぜ解体という行為に出たのか。
ガウェインが尋ねると、[編集済み]氏はアノマリーが正常性に脅威をもたらすためだと答えた。正常性への反逆は総統の統治への反逆。だが、強大な財団は世界の隅々まで監視し、総統の望む正常性を守ることができる……
デルタコマンドの一員が、そのような形態の未来について危惧すると[編集済み]氏は激高。全ての異常が食い止められ、あるべき姿で永遠に維持される文明。そのような未来を追い求めるべきだと改めて語ったところでインタビューは終了した。
この後、戦争勃発にドイツがかかわるという推測の元、デルタコマンドにはドイツ政局への関心を払うことが進言される。加えて、重要な導火線となるらしきSCP-8260の独自発見を防ぐべく、監視強化が必要と認識された。
別世界線へのインタビュー記録・2
続いて、O5-7(フェルミ)とEX864F-α-033世界線の財団職員[編集済み]博士のインタビュー記録。この世界線の財団はある情報を提供する意思があったため、フェルミ自身が対応した。
[編集済み]博士は偉大な科学者エンリコ・フェルミとの対話を喜んだあと、1948年の出来事よりもっと重要なこととして、彼らの側にとっての本題、ムセビナキプロジェクトに関する情報を伝える。
これは中国支部の前回のファーストナンバーであるSCP-CN-1000に登場する用語。ものすごい大雑把に言うと、『あらゆるタイムラインで2300年に発生する破滅的災厄であるSCP-CN-1000を乗り越えるために他タイムラインに介入するがその結果余計悪いことになる計画』と言ったところ。
O5-7は送られたレポートへの研究を受け入れつつも、こちらの本題である1948年の出来事を博士に尋ねる。
[編集済み]: 1948年には……何も起こりませんでした。
O5-7: 何も……無かった?
[編集済み]: いえ、語弊がありました。この年に、我々が収容するオブジェクトの一つが多くの国家に発見され、公にされました。国家の行為であるため、我々には阻止することが困難でした。それで……我々はやり方を変え、それを正常な文書に記録し、その後アンニュイプロトコルを実行しました。これは財団でも数少ない、完全な失敗の一つです。
O5-7: それはつまり、正常性が全く変わってしまったのですか?
[編集済み]: はい。異常な技術の破壊力——奇跡や形而上学など、それらが持つ破壊力は実に巨大です。アノマリーの性能が少しでも広まれば、世界の様相は一変し、人はみなアノマリーの脅威の恐怖におびえて暮らすようになります。我々は正常性を守ることができなかったのです。
O5-7: ええと、あなたはなぜ、何も起こらなかったと言ったのですか?
[編集済み]: 変わってしまった……それがどうしたというのです?我々は対して何もできません。ただ{新たな正常性になることを黙認するしかない}のです。
失敗やアンニュイプロトコルと言うと思い浮かぶのはやはり
これだろうか。ともかくこの世界線では、人類が破綻するような災厄は1948年に発生しなかったようだ。
アイディタチームが受信した音声信号
MK264B-κ-215タイムラインから送信された暗号化された音声信号をプロジェクト・アイディタチームが受信。その内容から、並行世界のインサージェンシー、それも何らかの原因で財団と決別して「カオス・インサージェンシー」と改めた組織からのものと推定された。
送り主は首席エンジニアのエイドリアン・クリステンセン。先ほどログイン時に見た名前だ。
彼によれば、驚くべきことに1948年には何一つ超常インシデントが起こらなかったという。
君たちはこんな結末を見たいのか?連中に何もさせるな。それは罠だ。飛び込んではいけない。
財団にも、他の誰にも、人類の運命をコントロールさせてはならない。人類のためにも、不確実性を残してもらいたい。頼む。
人類の運命が“確実”になった時、奴らの企みが達成されるだろう。
君たちの使命は人類を守ることだが、1948年を凌ぐだけでは決して終わらない。1948年の後は、更に1960年、1992年、2020年、そして58%のタイムラインで人類を破滅させた2300年。奴等は捲土重来を諦めることはない。君たちは学ばねばならない。運命を手中に収める力——不確実性を守る方法を。
我々は既に取り返しがつかないが、君たちはまだチャンスがある。
O5-7と1の対話記録
O5-7、フェルミは、異常技術漏洩による1948年の危機はごく一部のタイムラインの出来事であり、逆説的な保険証書の送信が人類滅亡と関係するのか疑わしいという見解をO5-1に伝える。
彼の観測によれば、SCP-Laplaceによる最大の影響は、アノマリー漏洩による戦勝国或いは財団による人類社会発展の制御によるものだという。さらにこのようなインシデントは1948年にとどまらず、2019年、2300年、2668年、8900年など何度も起こりえるのだ。
加えて7は、財団の既知の惑星文明について統計したところ、99.8%の文明が星間通信に成功前または交流可能レベル到達の直後に滅亡しており、発展し続けた少数の文明でも十数個の恒星系のエネルギーを利用できるレベルが限度という。地球・別惑星を問わず、文明の停滞と固定化による歴史の終わりを招くような『何か』を想定できるのである。
戦争とは科学技術の顕著な進歩期、即ち人類の文明の中で最も不確実な時期だ。戦争自体がインシデントなのではなく、この発展の不確実性が消失することが正真正銘の災厄なのだろうとフェルミは語り、その上で現在進む監視と制御による災厄回避について懸念を表明する。
我々は現在、人類社会の発展を厳格に制御し災厄を回避する計画を立てている。だがこれらの措置自体が真の災厄かもしれない。あるいは真の災厄の出現の原因の一つになるかもしれない。もしその通りなら、我々が今人類の発展を監視するために行っている全ての手段は、全て逆効果になるかもしれない。
君と、他の評議会員がこの問題を議論してくれることを切に願う。少なくとも、我々はこの可能性を厳密に検討する必要があるだろう。
対するO5-1は7に賛同できず、むしろ財団の大規模な世界への関与が正しい、と主張する。
不確実の追求が人類の発展に必要だとしても、あくまで世界の異常浸食を阻止するためには人類の発展を制限するべきなのだ。発展の余地を犠牲にしても、正常維持のため尽力する、それこそが財団の正しさである、と。
議論後の災厄だって、“全ての人類文明の停滞が同一の異常存在により引き起こされる”などという砂上の楼閣の如き推論は、厳密な物理学者ではなく小説家が考えるようなことだろう。少なくとも我々は2300年や、ましてや8900年に何が起こるかを考える前にまず、眼前の仕事に取り掛からねばならない。
O5-7の独断
フェルミはインサージェンシー構成員に、『可能性』の消失について意見を示す。
彼はSCP-Laplaceの真の作用は『実際は非異常な事象を異常とみなして収容させる』ことである可能性を示し、一般の科学研究機構が独自に異常を発見し、それら非異常な事象が財団によって異常の範疇に含められてしまうことが最も危険な可能性だと述べた。
これについて監督評議会の名の元で、SCP-Laplaceの本質への研究、その核心となる『正常』と『異常』の境界への探求のため各部門にリソースを割くように要請。心理学部門のプロジェクトをプロジェクト・PNEUMA、システム科学部門ではプロジェクト・エマージェンシーと命名し、絶対的な秘匿を命じた。
しかし、その後のO5-4への連絡では、実はこの計画が監督評議会の総意などではなく、あくまで彼の独断によるものと明かされる。SCP-Laplaceの異常性も証拠はなく、研究の口実に過ぎないという。
財団職員のO5-7として自分が間違っている可能性を認めつつも、科学者エンリコ・フェルミは財団による文明の封鎖、及び可能性や不確実性への収奪を見逃せなかったのだ。
アーカイブ ꙮ-006-19381028
先にO5-7の独断で結成されたプロジェクト・エマージェンシーのチームによるデルタコマンドへの報告。
O5-7、フェルミが地球外文明探索部門で主導した研究によれば、文明の発展過程には『タイムポイント』が存在し、そこに達した文明は発展意欲を失って固定された状態が長期維持されるようになるという。そこからはその状態を脱しての発展、または停滞と衰退に至るようだ。
このような事態、エントロピープール仮説でも説明される文明の事故封鎖と停滞による不確実性の消失は、地球上でも多数発展しているインシデントだ。不確実性とは人類文明の前提であり、それが失われれば停滞と滅びが待つのである。
逆に言えば、不確実性、『発端かつ有意義な可能性』が無限にある以上、エントロピープールの縁は膨張し続けるのだ。何らかの要因が不確実性の出現を阻害し、それが人類の潜在的な脅威となるのは間違いない、とチームは締めくくった。
アーカイブ ꙮ-007-19391012
O5-7の保有するレコーダーから回収された記録
O5-7は、先に『高い城の男』の如きタイムラインで、総統に使える財団の職員も言及していたSCP-8260に関する八件目の要件に対応していた。書類削除、研究者である「ハーン」らへの記憶処理、科学誌Natureへの記憶除去ミームへの掲載……といった内容を指示する。
が、途中あることを思いつき、職員の『ニック』(文内では[編集済み]表記)に語る。
O5-7: ……ニック、財団内部で、私は最初にSCP-8260を発見した人間だ。監督評議会はこれを異常現象だと見なすことで一致し、その後収容対象に加えた。だが——私は一人の物理学者として、この現象がいかに普遍的で、いかに容易に発見され得るかを良く知っている。
[編集済み]: ……それは、確かに。それとそれ以外の物理法則には特に区別はありませんからね……。
O5-7: このオブジェクトを引き継いだ時、君はどう思った?
[編集済み]: 私は……実を言えば、何も考えていませんでした。私は、それは収容されねばならないと感じました。
O5-7: 私が言いたいのはつまり……君はそれを異常だと感じたのか?
[編集済み]: いいえ。しかし何を異常と呼ぶのですか?私にはそれとそれ以外の異常との明確な区別が付きませんでした……
O5-7: この話題から離れよう。話をSCP-8260に戻すと、これに対する情報制限は二度と行わない。この件は、誰にも話してはならない。監督評議会員にもだ。
48年インシデントのカギとなるであろう8260を、事実上解放しようというのだ。
当然ニックは驚愕するが、O5-7は『財団にとっての異常』を財団以外がどのように扱い、かつそれが正常性にどう影響するか……という興味から、7は再度の独断行為を決行した。
SCP-8260-EX
7の独断で収容プロトコルを解除された、SCP-8260とはそもそも何なのか?
SCP-8260、クラスはEuclid/Thaumiel。
プロトコルによって秘匿されるそれは、重原子における異常な現象のこと。
十分なエネルギーのある中性子が重い原子に衝突・破裂させ、このプロセスで放出される中性子によっても分裂が促進。このプロセスを通してこれにより大量のエネルギーが放出される。
放出されるエネルギーは化学反応によるものを遥かに上回り、壊滅的な結果をもたらしうる一方、制御下ならエネルギー資源になる可能性があり、その潜在性から財団内部で研究を進めている……
……何となく察しがついたかもしれないが、SCP-8260とは我々の知るところの「核分裂」である。
エンリコ・フェルミ自身は稀代の核研究者で、この分野に関しては専門家そのものだ。今回記憶処理を回避した「ハーン」とは、「史実」における核分裂の発見者の一人、オットー・ハーンであろう。
このO5-7の選択はどのように進むのか。
アーカイブ ꙮ-008-19451102
O5評議会メンバー間の連絡記録
O5-7はO5-4に対し、ドイツのズデーテン併合を認めるようにインサージェンシー経由でイギリス・フランスにロビー活動をする、というO5-1の提案を伝える。彼自身は効果を疑問視しつつも、時間稼ぎのためこの提案に同意。
その後O5-4はこの工作を実施・成功させたようで、1は4と7らインサージェンシーのメンバーに祝福を送った。
ミュンヘン協定は……財団の陰謀だったんだよ!
ところが次のO5-4から7への連絡では、ドイツのリッペントロップによるソビエトとの協定、そしてポーランド分割の企みが報告される。独ソの関係緩和は戦争回避のための目標だったが、逆に最も恐るべき事態を引き起こした。O5-4もはやは『戦争回避は幻想』とまで語るに至る。
続く1から4・7両名への連絡は、ついにドイツ軍のポーランド侵攻─我々が知るところの『第二次世界大戦』がついに開始されたことを告げるものだった。回避すべき戦争がついに始まってしまった以上、次善として行うべきはアノマリー流出・再発見への警戒だった。
そんな中、O5-7はO5-4に連絡を取る。
誰かのせいでSCP-8260の情報は不可逆的に漏洩してしまった。このままいけばこの核分裂を使用する兵器─
核兵器を最初に開発するのはドイツだろう。彼の一縷の望みは、
アメリカ・ソビエトらへのSCP-8260の情報提供だ。一方だけがこの技術を持てば
災厄となるだろうが、皆が持てば
抑止力になると7は推察したのである。
彼は計画実施のため、4にアメリカ軍との高官との接触にあたって助力を求めた。
O5-1とO5-7の連絡記録
O5-1は今日の世界を注目させる、広島のキノコ雲に言及する。
重要なアノマリーであるSCP-8260がアメリカの手中に落ちた原因はO5-7、フェルミによるアメリカの兵器開発への協力だと彼は証拠から確信しており、当然ながら怒りを露わにする。
物理学者として、SCP-8260の最初の発見者として、君はSCP-8260がどれ程恐ろしいかを事前に十分理解していただろう。君がなぜこんなことをしたのかまったく理解できない。新たな現象の背後に隠された不確実性に対する人類の好奇心は無限だ。この研究が明るみに出た後で、後続する核技術の研究——核分裂や核融合等——が正常性をどれほど破壊するだろうか?人類に安息の日は二度と訪れず、SCP-8260というダモクレスの剣の下で永遠に生きるだろう。今、少しでも力のある国家ならば、何時でも気まぐれに人類を滅亡させられるのだ!
君の行為は財団への反逆だ。君は監督評議会全員に説明しなければならない。
それに対し、7は1に対し謝罪しつつも、この研究に問題はないと主張する。
SCP-8260は既に八回も漏洩しており、ドイツは遅かれ早かれそれを発見しただろう。ならば双方が同じスタートラインの元で力を行使する方が有益になりうる。また、オッペンハイマーやハーン、アインシュタインと言った研究者たちの8260への考えは財団の研究員より成熟している。どうしてそれを財団の収容下に置くのが最善と言えるのだろうか、と。
それに8260は脅威だけではなくエネルギー源ももたらす。核エネルギーの力は、いずれ宇宙への到達にすら成し遂げうる。そんな技術を財団の手中に収めておくのは、カナリアを鳥籠に閉じ込める身勝手な姫君と変わらない、と7はあくまで意見を貫いた。
人類の不確実性に対する要求はずっと存在していた。異常と呼ばれるものが、この点を掻き立てることは疑いが無い。ではこの間、我々は一体何をしてきたのだろうか?
SCP-8260の収容違反による正常性への深刻な影響と派生アノマリーの発見により、封じ込めプロトコルは既に不可能となった。
O5-7らインサージェンシーチームが収容違反を促進したことは既に発覚しており、インサージェンシープロジェクトの即時中止と権限回収を求める表決が監督評議会で実施。
インサージェンシー担当のO5-4と7、及びO5-11の反対と、O5-12の棄権を除いて9名が賛成したことでプロジェクトの即刻中止と7ら主要責任者への問責が決定された。
その後、SCP-711の担当チームから、具体的な時期は不明ながら、21世紀末以降から逆説的保険証書の18番目の情報を受け取ったことが監督評議会に報告された。結局、1948年の災厄は回避されたのである。
……では、あの1948年からの文字列17とは、いったい何の意図で、何者が送ったものなのか?
O5-7のレコーダーから回収された音声記録
直近のアーカイブから10年ほどさかのぼり、1936年1月23日に記録されたもの。
O5-7と、先にも名が出たエイドアン・クリステンセン─カオス・インサージェンシーの首席エンジニアとの会話を収めたものだ。やはり話題は『1948年に何が起こったか』について。
1948年の異常技術発見とそれを応用した兵器、そして正常性の破壊。たしかに似たような状況は各タイムラインで現れたとクリステンセンは語る。だが、それが世界を壊滅させるほどのものに発展する前に、戦争は終わったのだ。そもそも世界が壊滅するような状態で逆説的な保険証書は送信できないし、
色が現れたことで「人類が滅んだ」などと送信する者もおるまい。
真の災厄とは、それ以来財団が社会に広がって監視し、未来を望むように形成する事態。
不確実性も可能性も失われ、未来が確定した状況なのだ。
その上でO5-7が文字列17の送り主を尋ねると、クリステンセンは財団の一部やインサージェンシーら『レジスタンス』からのメッセージだろうと答えた。だとしても確実に発生した異常インシデントに対応すべきではなかったのか?というO5-7の疑問に、クリステンセンは問う。
そもそも『異常』とは何か?
正常な文書の枠外にあるものが異常なら、その更新の根拠はどこにあるのか?
エイドリアン・クリステンセン: 我々はずっと、正常性はコントロール可能で、定義さえできるものと考えていた。忘れるな。財団が全てに介入し、不確実性を消去する理由、それもまさに正常性と呼ばれるものの維持のためだ——実際には、異常なんてものは初めから存在しなかった。1948年には何も起こらなかった。それは本来、人類史上の正常な発展の一環であるはずだ。人類は元々その時期に核兵器、あるいは奇跡兵器、あるいはフィクション理論テクノロジーを発明するはずなんだ。
強いて何かが起こったと言うならば、それは財団——あるいは今の“正常性”——が人類の運命を確保したことだ。
財団は人類のために戦い、正常性が人類と対立することなどないと反論するO5-7だが、クリステンセンは『人間は自身の細胞と対立することはないが、それでも免疫系は老化したり、病気になったりした細胞を排除する』という比喩で返す。財団は人類と敵対しうる……その事例として、クリステンセンは自らのタイムラインで起きた財団による
人類文明の破壊について語った。
エイドリアン・クリステンセン: 全ての人間の魂の奥深くには、同じもの——不確実なものを探求し、発見し利用したいという欲望が隠されている。この好奇心と期待感は人類文明を絶え間なく発展させてきた。この過程は人類が既存の正常性を突破する過程であり、それは“異常を発見”または“異常を創造”する過程とも言える——結局、彼らの定義によれば、正常性を超越したものが異常なんだ。
人類は少しずつ不確実性を探求してきた。それは正常性が少しずつ破壊されたことを意味する。全ての人間は生まれながらにして正常性の創造者であり、同時に生まれながらにして正常性の反逆者でもある。人類社会の全てが完全に財団の制御下に置かれている、我々の世界も例外ではない。不確実性がまだ存在する限り、正常性が財団の望み通り永遠に維持されることは、決してない。
財団はこのことに気が付いた。初めに、大多数の財団職員が、自分が一生を懸けて戦い続けた“正常性”の最大の敵が自分自身だと気づき、何人かは自分の行為が実際には人類の未来を埋葬することに気が付いた。一部の財団上層部は、“それが人類に進入した異物”の影響であると結論付けた。絶望的な感情が財団職員中に蔓延し、かなりの人間が自ら命を絶つことを選択した。
要するに、財団上層部は、異常の根絶を保証し、正常性を維持する唯一の方法——“心を鬼にすること”——を理解せざるを得なかった。一部の特別な人間を選び、ヴェールの外の正常性を転覆させ得るすべての人類を殺害させた。彼らの目的は……人類発展の一切の不確実性を排除し、人類の運命を固定し、正常性を永遠に持続させることだ。
財団職員以外では、一部の反抗勢力だけが生き残って、その中に我々も含まれた。我々は財団と戦い続けたが、我々の失敗は既に取り返しがつかないようだ。
O5-7がこれまでに見た財団はそこまで極端でなくても、保険証書のメッセージを受け取った以上、財団の「魔の手」は人類社会の隅々に延ばされているのだ。
様々な並行世界で、人類の虐殺だけでなく、
人類全体の神格化に対する全人類収容計画、意図的な世界終焉と
四角い孔と
丸い釘による再構築のループ、災厄突破を目指した結果である並行世界の壊滅、といった事象が引き起こされた。無限の循環や人類の壊滅、または新たな状態への転換と言う状況になっても、財団は正常性を堅持し続ける。
滅びゆく世界で何をするのか尋ねるO5-7に、クリステンセンは自身のタイムラインの財団が他並行世界へ介入することを阻止すべく、ポータルを破壊したうえで、壊滅しつつあるカオス・インサージェンシーと共に最後まで財団と戦うつもりだと答える。
O5-7: (沈黙)……それなら、君が我々を訪ねたのは、どうしてだ?
エイドリアン・クリステンセン: 我々のタイムラインには、ある理論がある。それはカオス理論と呼ばれる。宇宙のような複雑なシステムでは、始まりのごく小さなずれがシステムの進歩につれて巨大な差異をもたらす。たった一匹の蝶が南半球で羽ばたけば、西北太平洋で巨大な嵐を引き起こすかもしれないんだ。
我々の運命も、全てが不確定だ。カオス・インサージェンシーのメンバーはカオス理論を自らの魂に刻み込む。我々は運命に決して屈服しない。既定された運命を打破できるチャンスがごく僅かにでもあれば、我々は皆立ち向かう。
君達も同じだと信じているよ。我々は既に失敗したかもしれないが、君達にはまだチャンスがあるんだ、教授。
アーカイブ ꙮ-009-19461102
プロジェクト・エマージェンシー最終レポート
先にO5-7が組織した研究チームによるレポートの結論部。
財団では『正常な文書』を設けて正常と異常の線引きを図るが、『そもそも正常性を定義する権利があるのか』『正常性は我々の定義通り発展するのか』という疑問が提示される。「正常な文書」に効力があるなら正常性とは人類に依拠する概念であり、並行世界で実施されていた、正常性を守るために人類を滅ぼしたり収容したりする行為は矛盾そのものである。
正常な文書の線引きは拘束力になり得ないことが事例から示されているのだ。
レポートは続いて、「正常性」そのものへの研究に言及する。
まず、正常性を定義づけるなら『人間が熟知する事象の総和』となるだろう。全ての人間は自らの正常性を持ち、同時に社会に置ける客体的な正常性を持つ。「熟知する事象」の内部の物事である以上、正常性とは『確実性』であり、『不確実性』を許容しないものだ。
この『社会における正常性』とは、多くの細胞、即ち『個人の正常性への認識』から成る有機体、ユングの集合無意識に近いものである。個人の正常性認識自体はシンプルでも、それらが複雑なシステムを形成すれば、相互作用によって単純加算では存在しない性質を持ちうる。人間の細胞を積み上げただけでは思考や運動は出来ないが、細胞の相互作用(エマージェンシー)によって人間がこれらの働きが可能となるように。
現状を打破しようとする人間は社会の中で常に存在する一方で、この社会の正常性のキャリアとしての人類社会そのものは不確実性を受容せず、既存の正常性を保護するものとなる。しかしながらこの保守傾向は、決して人類の意思と常に一致するものではない。
人類が正常性を停滞させるのではなく、正常性が人類を保守的にする。正常性は不確実への直面も、新たな正常性への置き換えも、本来望みはしないのだ。
プロジェクト・エマージェンシーの研究目的は、正常性の中の何が周辺環境の不確実性を弱体化させ、同時に人類の好奇心と発展し続ける空間を抑制するかを研究することである。これらによる効果は確実に人類を現状に満足させ、人類文明の形態を二度と発展させなくするが、これは“正常性”が長く維持され続けることも意味する。
プロジェクト・エマージェンシーチームの研究は、最終的に次のように結論付ける。人類の不確実性の発展を阻害するアノマリーは存在しない。人類の発展の不確実性を削除するのは、正常性自身が内在する性質である。
……やや複雑な話になってしまったが、『正常性と人類の発展が一致するとは限らない』という認識でまずは良いだろう。
改めて、時計の針を先に勧めよう。
アーカイブ ꙮ-010-19481012
1948年10月12日監督評議会特別会議ログ
O5評議会の会議目的は、危惧されていた1948年のインシデントことSCP-Laplaceの本質、戦争後の影響……そしてO5-7、フェルミによるSCP-8620の収容違反への責任追及。O5-1は7に発言を求める。
7は改めて、「SCP-Laplace」、48年インシデントは存在しえないという結論を提示した。事の原因は、財団の大戦介入による人類発展の制限をもくろんだ「何者か」……財団自身が守るべきものとされる「正常性」にあると主張する。
先のエマージェンシーチームの報告書を読んだというO5-3は疑問を呈するが、7は人類全体の神格化という仮定を基にして反論する。
全人類が神格化するような事態が起きたとして、なぜ『正常な文書』の修正ではなく全人類の収容という手段を選ぶのか。
人間の先祖から見れば現代の人間は神に等しいだろうが、それは異常ではないのか。
神格化を引き起こす至天蟲が正常性の一部と言えないなら、コルヒチンによる突然変異や遺伝子組み換えはなぜ異常ではないのか?
神格化は科学法則に反する事象であって、進化や遺伝子組み換えは違うとO5-1は指摘するが、それならばSCP-8260-EXの何が異常か、とO5-7も答える。
O5-1: 君自身が結果を見ただろう、セブン。今ソ連とアメリカが再び戦争を始めれば、人類は灰燼に帰すだろう。これは既に正常性の一部分になっていて、我々は
機械仕掛けの神を使って世界を救うことはできない。
O5-7: 私の専門領域で知識をひけらかさないでくれ。SCP-8260-EXは私が発見した。一人の物理学者として、君よりよほど良く理解している。——それは核物理学の自然演繹だ。原子核はそこに存在し、君が収容するか否かに関わらず、この現象は存在する。これはもともと正真正銘の異常と呼べるものではなく、科学法則にも何一つ反してはいない。
それを収容するために、我々はこの数年、何をしてきた?SCP-8260-EXは我々に収容された後も独自に七回発見され、その度に我々は記憶処理により隠匿してきた。我々がプロジェクトを実行した後で八回目の発見がなされた。我々は何もしていないし、ヴェールの外側の同志達にもSCP-8260-EXのことは教えていない。彼らは自分達でこの効果の、八回目の再発見をしたんだ。私自身を含めれば、九回目だ。
財団が行ったこと全ては、本当にアノマリーの収容だったのか?違う、我々は科学の発展を妨害したんだ。
正常性と異常性の差異について、事例を交えつつ議論を続けるO5-1とO5-7。
O5-1: 我々が知るもの一切全てが正常性だ。毎朝目覚めてから、翌日の太陽を見ても、太陽が世界を溶かさないか心配しなくてもいい。毎日路上を歩いても、
道端の樹が突然一塊のバターや硫酸銅の結晶に変化しないかと心配しなくてもいい。毎日、明日核戦争が起きるのではないかと怯える必要は無い。それが正常性だ。
O5-7: 前任のO5-12は中国人で、彼が生まれた頃、中国の清王朝はまだ転覆してはいなかった。彼が言うには、初めて機関車を目にした時、多くの人の最初の反応は“これは妖術”で、“龍脈”と“風水”を破壊するというものだった——これは彼らにとって、国の命運を決定付けるのと同等に重要なことで、君にとっての“太陽がいつも昇る”ことに匹敵した。彼らは“祖先の法則は変えてはならない”と考え、現代科学を受け入れることを拒んだ。あの時代の人々にとっては、我々が今日正常性の一部と考える事象は、彼らの“良く知った全て”を破壊したも同然なんだ。これは正常か?
現実を見てくれ、みんな。我々はこれまで、人類のために正常性を守護できると本気で考えていた。我々は自分達で正常性を定義できるとさえ考えていた。我々は何が正常で何がそうでないかを定義した、もっともらしい基準を書き記した。——実際はどうだ?我々は正常性と呼ばれるもののために人類自身の未来を貪り始めた。もともと我々自身には、正常性に干渉する力なんて全くなかったんだ。
正常性はそもそも我々が制御できるものじゃない。正常な文書は——
(正常な文書の紙コピーを取り出し、細切れ引き裂いてテーブル上に投げ捨てる)ただの古紙の束だ。
O5メンバーがこの挑発に色めき立つなか、7はさらなる議論を提示する。
SCP-2000は災厄の後の文明再建と正常性の回復のために人間を製造するシステムだが、結局は作れるのは完全なクローンであって、災厄で死んだ当人ではない。死した人間が戻らないのなら、誰のためにSCP-2000は起動されるのか、財団がそうするのを望むのは誰か。人類のためか、それとも正常性のためか?
冷酷にもなりうる財団が悪事を成すにしても秩序と平穏のためであり、先述したような虐殺も結局は並行世界の異なる財団の所業でしかないと言うO5-1。
O5-7も譲ることはない。正常性とは永遠に留まることを望む、不確実性と真っ向から対立する概念である。正常性が内包する確実性を否定する不確実性が無ければ秩序や平穏を得られるだろう。しかしその代償は、新たな変化、即ち正常性を突破する可能性だ。
財団の三原則の、確保、収容、保護。保護は人類を保護するためではなく、正常性を保護するのだ。人類はただ交換可能な正常性の細胞に過ぎない。細胞は無くてはならないが、それは替えが効くんだ。
財団がこれまで正常性を保護してきたんじゃない、正常性が財団に自身を保護させたんだ。
未だ続く、正常性への議論。
そもそも
夜闇の子の正常性や
緋色の王の子らの正常性を踏みつけた場所に、財団の正常性は成り立っている。その正常性は
神格化した人類による新たな正常性が生まれても認めはしないだろう、全人類が神格化してもなお。
正常性に境界はないなら、本来異常など存在しないはずだ。では、
そこに財団がいる意味とは何なのか?
O5-2: (僅かに嘲笑う口調)ほう。君がそう言うのなら、財団は即刻解散するべきじゃないか?
O5-7: 議論する必要はないよ、ツー。私はただ一つの問題を問うている——もしも、人類が進歩できないこと自体が正常性の一部であり、人類が進歩し続けてきたことが異常なのだとしたら。皆、選択してくれ。人類に忠誠を誓うか、正常性に忠誠を誓うか?
O5-1,O5-2,O5-3,O5-5,O5-9,O5-10: 正常性だ。
O5-4,O5-6,O5-8,O5-11,O5-12: 人類だ。
O5-13: (沈黙)
先にインサージェンシー停止に反対したO5-11の他、反対した議論の中でO5-7の主張に感じるところのあるメンバーもいたのか、ここにきて評議員たちは真っ二つに割れる。
他の委員も交えて論争が続く中で、O5-7はO5の職権を用いた提案を行う。
O5-7: ここに提案する。財団はただちにその目標——正常性自身の保護を人類の進歩の保護、人類の進歩に必要な不確実性の保護に変更する。このために、人類進歩を補助する異常オブジェクトの大規模な解析を実施し、これらオブジェクトの内容を民衆へ公にせねばならない。
もしくは、財団をただちに解散する。
結果、賛成6、反対6、電子頭脳であるO5-13が棄権したことで留保と言う結果に。再度行われた投票も同じ結果で、O5-1は13に苛立ちを募らせる。
最終的にO5-1が『脅迫的な手段』で選択を強いたことで、O5-13が賛成に回ることに。
これにより7対6で形式上は可決となった本提案だが、当然財団の解散などO5-1が認めるはずもなく、傘下の「レッド・ライト・ハンド」に包囲命令を出す。対するO5-7も「遥かに経験豊富な」レッド・ライト・ハンド、つまり配下のインサージェンシーを繰り出して応戦し、会議室外は銃撃戦の舞台に。
ここで動いたのはインサージェンシーのもう一人の指導者、O5-4。O5-1が監督評議会の決議へ個人的に反逆したという大義名分を基に、拳銃を取り出す。
O5-3: 何をする気だ!?
(O5-2、O5-3、O5-5が同様に拳銃を取り出しO5-4に向ける。)
(会議室内は静寂に包まれる。会議室外では依然として銃声が聞こえ、かつ徐々に間隔が短くなる。)
O5-4: 大御所面した、徳が足りない監督評議会の古ダヌキを排除するだけだ。
O5-1: 待て——
O5-4の拳銃が1の頭を撃ち抜いた直後、3名のO5評議員も発砲し……弾丸は4の着こんでいた防弾具によって止められた。
全てはO5-4による計画通り。善良な7はこのような手段に反対し、1に最後のチャンスを与えることで妥協したが、あくまで「人類」ではなく「正常性」に忠実で、そのために人類を犠牲にする決意すら持ちうる彼との間に合意は成り立たなかった。
O5-4は、7,11,12に加え、インサージェンシーのメンバー、それに一部のエリア・サイトと共に、財団からの離脱─反乱を宣言した。
爆風が会議室の扉を開き、2つの特殊部隊が反乱者と残留者、それぞれのメンバーを保護する。
O5-4はここで完全な離脱のために、一つの「取引」を持ちかけた。
会議室の画面に映るのは、ヴェール・プロトコルを担当するO5-4のみが解除法を知る、『ヴェール破棄』プロトコルのカウントダウン。財団の正体が世界に露見する、その脅迫を前にしては他の評議員も屈するほかなかった。
こうして4人のO5……もとい反乱者は無事にサイト-01を離れ、会議室には座り込む7人と1人の死体、破壊されたO5-13のスクリーンが残された。
この一騒動の後、O5-2はインサージェンシーのアクセス権限を持つ人員に対し、インサージェンシーの離反を正式に通達。離脱の申し出がなかった構成員を財団の敵とみなすことを伝えた。
アーカイブ ꙮ-011-19481201
ここには、冒頭部のSCP-CN-2000の報告書にて記されていた『プロジェクト・ラプラス』の協議書が掲載されている。
この計画は、"SCP-Laplace"、恐らくはSCP-ꙮでもあるもの─即ち「人類の不確実性に対する認識」に関わるもの。人間の不確実性に対する認識は、正常性から逸脱した結果を生み出し、やがて正常性の存続を壊滅させるリスクを持つ。
故に、財団はSCP-Laplaceを収容する計画、『プロジェクト・ラプラス』を始動させたのだ。
プロジェクトはこの計画書でのみ説明され、プロジェクトメンバーはレベル5以上のクリアランスが必要。
オブジェクトを管理するため、プロジェクト内では科学技術の進展監視と場合に応じた減速や、正常性の維持に有利な言論の拡散を行い、徹底して不確実性を収容せんとする。
このオブジェクトはインサージェンシーの第一目標であり、内容が開示された暁には巨大な論争が引き起こされるだろう。
そこで、このオブジェクトは単一番号で管理されず、説明とプロトコルは本部、ロシア支部、ドイツ支部、フランス支部、日本支部、そして中国支部の6篇のドキュメントに分割され、アイテム番号は不定期に更新される。また、検索簡易化のためにプロジェクトメンバーにはランダム生成される統一マークコードが通知される。
本部のドキュメントは
序列第1位に指定され、オブジェクトの特徴と脅威度、そして異常とみなされる理由が記述。
ロシア、ドイツ、フランス、日本の4支部のドキュメントではプロジェクト内のサブプロジェクトに言及。これは、最終的な収容プロトコルを回避してオブジェクトの影響を排除するのを目的とする。
そして、冒頭部で我々が読んだ中国支部のドキュメントは序列最後尾……SCP-CN-2000に位置し、レベル6の機密に指定。評議会の支持や敵対組織の攻撃でドキュメントが無効になったその時、財団主導による
粛清行動が開始される。
これこそが回避すべき、最終的な
収容プロトコルである。
SCP-5000で描かれた、財団による全人類の粛清。
その光景を見た誰もが問いかけた、『どうして?』と。
ここまでのアーカイブが、一つの解答例を示す。
たとえ人類を犠牲にしても、あるべき正常性を守り続ける。
死したO5-1の執念を形としたような、財団に残留したO5らの決意……そして人類普遍の『正常性』の意思こそが、根絶を行わせたのだ。
不確実な人間に惑わされることのない、確実な未来を守るために。
アーカイブ ꙮ-012-19481201
財団が正常性への奉仕を決めたのと同刻、人類への奉仕を選んだO5-7たち……もといエンリコ・フェルミ首席エンジニアは、カオス・インサージェンシーの設立会議でスピーチを行っていた。
正常性の枠内に留めることのできない全ての未知、不確実性。もし滅びすら確実性の範疇で従わなければならないなら、それはどれだけ悲惨だろうか。不確実が無ければ、人間と機械にどれだけの違いがあるのか?
フェルミは量子力学の研究から、ニュートン的な機械論的決定論は打破され、ランダム性・不確実性こそがむしろ自然の法則であると言及する。そして複雑な宇宙のシステムでは、ごく小さな動きでも天地を覆す大きな変動を引き起こせるのだと。
財団はついに正常性に背くことができなかった、だからこそ4人のO5といくつかの職員は離反し、財団の影で、正常異常を問わずに、全ての合理的存在を利用する。
その上でフェルミは、財団の精神を放棄すべきではないが、努力目標は改めるべきだとする。
インサージェンシーも依然として確保、収容、保護を続けるだろう。だがインサージェンシーが確保するのは未知ではなく正常性、収容するのは異常ではなく脅威。そして保護するのは正常性ではなく──人類。
並行世界で起きたような失敗は引き起こさせない。人類の文明を継続させるため、僅かな可能性がある限り、インサージェンシーは努力を続ける。
ギリシャ神話では、太古の昔には、ただカオスと呼ばれる混沌とした虚無だけが存在した。それこそが不確実性だ。それは無限の可能性を内包し、世界をその体内から誕生させた。
この無限の可能性を表す神の名から、我々の未来を命名しよう。今日から、我々は インサージェンシーとは呼ばれない。我々はギリシャ神話のガイア、中国神話の盤古、エジプト神話の太陽神のように、人類の存続のため、混沌の分裂の中から生まれる。そして混沌は、無限の可能性を持つ未来に分岐する。我々はこう呼ばれる——
カオス・インサージェンシー。
ドキュメントの閲読を完了しました。何をご希望でしょうか?
searchstatus SCiPNET-authorized-database CHAOS0
SCiPNET-authorized-database内で CHAOS0 とマークされた 6 個の関連オブジェクトを検索する。
SCP-ʤɮaaʋ ステータス: 無効化成功
SCP-ʘuǂos^ɓ-RU ステータス: 無効化成功
SCP-auoåɓ-DE ステータス: 無効化成功
SCP-ʢurooʦ-FR ステータス: 無効化成功
SCP-ʧiaå-JP ステータス: 無効化成功
SCP-CN-2000 ステータス: 特定完了
logout
ログアウト成功。ごきげんよう、首席エンジニア閣下。
こうしてクリステンセンと共に読んできた、あるO5の反乱と、一つのGoIの誕生についての長いアーカイブは終わる。
この物語もあと少しだ。
access SCiPNET-authorized-database
警告 : 本データベースは財団レベル4及びそれ以上のクリアランス保持者のみアクセスが可能です。一部のアーカイブへのアクセスにはレベル5またはレベル6が必要となる場合があります。当該クリアランスを有しない職員は、本データベース内に保存された情報へのアクセスを禁じられます。違反者は財団により所在地を特定され、処罰されます。
コードを入力してください。
login: O5-11
警告:あなたはO5-11のIDでデータベースにアクセスしています。本IDは財団クリアランスレベル6の職員(監督評議会員)が所持するものです。権限無く本アカウントへアクセスを試みた場合、ただちに所在地が特定され、終了措置が取られます。
コードを入力してください : 黒き月は吠えているか?
怒号を知る者は無し
認証クリア。生体認証はまもなく実施されます……
生体認証クリア。ようこそ、O5-11。何をご希望でしょうか?
edit SCP-CN-2000
SCP-CN-2000 のアーカイブを編集しようとしています。何をご所望でしょうか?
reclassify neutralized; reauthorize Level 1
オブジェクトを無効化へ再分類し、同時にオブジェクトへのアクセス権限をレベル1(公開)に設定しようとしています。この操作を実行しますか(Y/N)?
Y
操作が実行されました。本ドキュメントは監督評議会により保護されており、この操作ログは全ての監督評議会員へ送信されます。
何をご所望でしょうか?
mailbox check-draft 20210129-03
メールを開いています……
2021年のある日、O5-11の手によって、CN-2000の無効化と解放が行われた。
だが、これは粛清の始まりではない。直後、彼はO5-1にメールを送る。彼がこのメールを見たときにはCN-2000の無効化、そしてインサージェンシーによる大規模攻撃が始まっているころだろうと推測する。
彼は自らの正体がカオス・インサージェンシーのクリステンセンだと明かし、財団を徹底的に打ち負かすと宣言する。
おそらく、カオス理論について聞いたことがあるだろう。宇宙のような複雑なシステムでは、始まりのごく小さなずれがシステムの進歩につれて巨大な差異をもたらす。たった一匹の蝶が南半球で羽ばたくだけで、西太平洋で巨大な嵐を引き起こすかもしれない。
カオス・インサージェンシーのメンバーは、カオス理論を自身の精神に刻み込む。我々は運命に屈しない。既定された運命を打ち破れるチャンスがごく僅かでもあれば、我々はそれを試みる。
設立当初の1948年に行った1923年への文字列17の送信により、インサージェンシー・プロジェクトがカオス・インサージェンシーへつながる運命は既に確保されている。互いの滅亡をかけた徹底的な戦争が、財団とインサージェンシーには必要なのだ。
だが、今やインサージェンシーを止めることは出来ない。CN-2000の全世界への公開は、インサージェンシーに数十億の味方─古い正常性に縛り付ける支配者から生き残らんとする人類を加える。既存の正常性の中で世界を維持せんとする者たちに、正常性を超克する意思を持った分裂者が立ち向かう。
我々を止めてみろ。カオス・インサージェンシーは、財団と凝り固まった古い正常性を細切れに引き裂く。財団職員の現在の人数は106,642人。そしてカオス・インサージェンシーの現在の人数は7,683,427,328人。
カオス・インサージェンシー、それはヴェールの外の全人類だ。
こうして、財団は迫りくるカオス・インサージェンシーとの戦いに挑む。
その決着が、この世界の行く末を決めるだろう。
財団の明日はどっちだ。
……いや、アニヲタ支部で使い古されたこの言葉だけでは、人類と財団の存続が同一のものではない現状には些か不足があろう。
ならば、少しばかり表現を変えるとしよう。
人類の明日はどっちだ。
追記・修正はカオス理論を精神に刻み付けてからお願いします。
- 作成乙。なんか気に入っていた記事だったけどちょっと噛み砕いた説明がほしかったので -- 名無しさん (2025-04-08 08:50:51)
- どっちが勝っても地獄じゃないかこの争い…素直に協力しそうにないGOIもゴロゴロいるのに -- 名無しさん (2025-04-08 22:09:35)
- 人類を守るための正常性、正常性のための財団だと思っていた。正常性のために(一部の)人類を使い潰すようになっちゃってるからなあ -- 名無しさん (2025-04-08 22:15:50)
- SCP-5000での財団が人類の敵になったのは「財団が人類の発展そのものを異常存在と見なしてしまったから」ということなんだろうか。 -- 名無しさん (2025-04-09 00:16:24)
- 作成者ハイパー乙 自分が一番好きなSCPだからありがたい 財団のライバルの結成秘話、財団という組織の在り方、本当に陰で動いていたのではと思わされる現実の歴史とのリンク、SCP最大のmysteryに対する一つのアンサー。これらをまとめ上げた一作が、社会主義というある意味不確実性を排除する国家から生まれたというのが、このSCPに込められたメッセージを強く感じさせられる 個人的SCP史上最高傑作 -- 名無しさん (2025-04-09 03:47:26)
- 超大作の記事まとめほんと助かる ちなみにこの記事を見てからSCP‐7000を読むと…(悪魔の囁き) -- 名無しさん (2025-04-09 20:34:58)
- ↑温度差! -- 名無しさん (2025-04-09 21:32:38)
- 個人的にこれ好きだったんだけど、その後にアシッドの提言を読んでより心にくるものがあった。 -- 名無しさん (2025-04-10 03:15:56)
- まさにカオスとロウの戦争だな。さしずめフェルミはO5から堕天したルシファーか -- 名無しさん (2025-04-10 23:34:43)
最終更新:2025年04月25日 23:19