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ピンクパンサー

登録日:2026/08/12 Wed 11:32:48
更新日:2026/08/22 Sat 09:31:09
所要時間:約 15 分で読めます







♪ デレン…デレン… デデンデデンデレンデデンデデ~ン デデデデデェン…

──この音楽が脳内再生できたなら、あなたはもう「ピンクパンサー」を知っている。

〜ヘンリー・マンシーニー『Pink Panther』より



『ピンクパンサー』(The Pink Panther)とは、1963年のアメリカ映画『ピンクの豹』を第1作とする実写コメディ映画シリーズ、
およびそのオープニングアニメから独立して大スターとなったピンク色の豹のアニメキャラクターの総称である。


【概要】

20世紀後半を代表するコメディ映画シリーズにして、映画史上屈指の「メディアミックスの怪物」。
本シリーズは一本の映画から

◆ドジで無能な名(迷)探偵「クルーゾー警部」
◆オシャレでとぼけた「アニメキャラクターのピンクパンサー」
◆誰もが一度は聴いたことのある「ピンク・パンサーのテーマ」

という3つの大ヒットを同時に生み出したという、狙って出来るものではない奇跡のような作品である。

オリジナルの実写シリーズは全8作。監督ブレイク・エドワーズ*1、音楽ヘンリー・マンシーニのコンビが全作を通して手掛けており、ピーター・セラーズの存命中に5作、没後に3作が製作された。
その後、2006年からは製作陣を一新したリブート版2作が公開されている。
一方アニメの方も1964年から1980年までに劇場用短編が124本も作られ、その後もテレビシリーズが断続的に製作されるなど、半世紀以上にわたって世界中で愛され続けている。

日本でも映画・アニメ・テーマ曲いずれも知名度が高く、「本編は観たことないけどキャラと曲は知ってる」という人が大量に存在する、ある意味最強のコンテンツと言えよう。

【そもそも「ピンクパンサー」って何?】

昨今では名前だけ聞くと「ああ、あの二足歩行のピンク色の豹のキャラクターのこと?」と答えるだろう。
アニメキャラクターとして見るなら、これでほぼ正解である。
が、あのピンクの豹は所謂“主人公より有名になっちゃったモブキャラ”というやつで、原義は少し異なる。

大元の「ピンク・パンサー」とは、第1作の劇中に登場するダイヤモンドの名前である。
作中世界において指折りの巨大ダイヤモンドであり、さらに極めて希少とされるピンクダイヤモンドでもあるこの宝石をめぐって怪盗と警察が攻防戦を繰り広げる、というのが原作のあらすじ。
薄桃色に輝くこのダイヤは、中央部の傷が光にかざすと跳躍する豹のシルエットのように見えることからこの名で呼ばれている。

このダイヤをイメージして生み出されたのが、オープニングアニメに登場するピンク色の豹のキャラクター。
彼が予想外の大人気を博したことで、今日では「ピンクパンサー=あのピンクの豹」という認識が世界的に定着してしまった。

総括すれば「ピンク・パンサー」とは「ピンク色の豹のキャラクター」ではなく「劇中に登場する宝石」で、作品としては「ピンクの豹のキャラクターが活躍するアニメ」ではなく「人間たちが繰り広げるドタバタ喜劇の実写映画」というのが正確な答え。
ある意味では、本シリーズも『本家より有名になったスピンオフ作品』に当てはまるのではないだろうか。


なお、映画の物語の中で、あのピンクの豹が作中の登場人物たちと会話したり、キーパーソンとして事件に関わったりすることは1秒たりとも無い。
あのピンクの豹の出番はあくまで「オープニング」及び「映画のラストのおまけ」のみで、これは後続のシリーズでも徹底している。


【実写映画シリーズ】

シリーズの系譜は主演交代や空白期間、番外編の存在などによりかなり複雑なので、時系列に沿って解説する。

◆始まりの『ピンクの豹』(1963年)

記念すべき第1作。イタリアの高級スキーリゾートを舞台に、デヴィッド・ニーヴン、ロバート・ワグナー、キャプシーヌ、クラウディア・カルディナーレら美男美女スターが競演するロマンティック・コメディとして製作された。

主人公はニーヴン演じる英国紳士チャールズ・リットン卿──その正体は希代の怪盗ファントム。
亡命王女が持つダイヤ「ピンク・パンサー」を狙う彼と、その逮捕に執念を燃やすパリ警察のクルーゾー警部の攻防が描かれる。

そう、この時点での主役は怪盗の方であり、ピーター・セラーズ演じるクルーゾー警部は準主役格のコメディリリーフに過ぎなかった。
しかもラストでは怪盗の罪を着せられて逮捕されるという、徹底した引き立て役である。

ところが蓋を開けてみれば、転んで壊して自爆するクルーゾーの珍演技が観客の心を鷲掴み。
翌1964年には早くもクルーゾーを主役に据えたスピンオフ『暗闇でドッキリ』が製作され、以降シリーズは「クルーゾー警部モノ」として展開していくことになる。

ちなみにクルーゾー役は元々ピーター・ユスティノフが演じる予定だったが、クランクイン直前に降板*2。
急遽代役として起用されたセラーズが、結果的に生涯の当たり役を手にすることとなった。人生何が起こるかわからない。

◆空白期間と番外編

『暗闇でドッキリ』は大ヒットしたものの、エドワーズ監督とセラーズの関係悪化によりシリーズは長期休止に突入。
その間の1968年、アラン・アーキン主演・別監督で『クルーゾー警部』が製作されたが、こちらは一般に番外編扱いされている。

◆1975年、シリーズ再開

1970年代前半はエドワーズもセラーズも不振の時期であり、両者が活路を求めて手を組み直す形で、11年ぶりの第3作『ピンク・パンサー2』が製作された。
内容的には第1作の直接的な続編で、怪盗ファントム(演者はクリストファー・プラマーに交代)が再登場し、再びダイヤ「ピンク・パンサー」を巡る物語が展開。テーマ曲もアニメの豹もオープニングに帰ってきた。

これが見事にヒットし、以降『ピンク・パンサー3』(1976年)、『ピンク・パンサー4』(1978年)と立て続けに製作される黄金期を迎える。
特にシリーズ再開後は、クルーゾーの無能ぶりに精神を病んでいく上司・ドレフュス主任警部の暴走が加速。
『3』では、狂気をぶり返した彼が科学者を誘拐して物質消滅兵器を作らせ、「クルーゾーを殺さなければ国連本部を消す」と世界の首脳を脅迫するという、もはや刑事モノですらないスケールの騒動にまで発展した。
続く『4』では一転して国際的な麻薬組織との攻防が描かれ、ケイトーが唯一「捜査の助手」として活躍する回にもなっている。

◆セラーズの死とその後

1980年7月、ピーター・セラーズが心臓発作により54歳で急逝。
実は第1作の公開直後にあたる1964年4月、セラーズは短時間のうちに複数回の心臓発作を起こして一時は危篤状態に陥っており*3、以降16年にわたり心臓疾患を抱えたまま活動を続けていた。
1977年には二度目の大きな発作に見舞われ、ペースメーカーを装着している。

セラーズの死後もシリーズは続行され、
  • 未公開映像などで構成された追悼作『ピンク・パンサーX』(1982年)*4
  • 行方不明になったクルーゾーの捜索を命じられたニューヨーク市警の刑事が主役の『ピンク・パンサー5 クルーゾーは二度死ぬ』(1983年)*5
  • ロベルト・ベニーニがクルーゾーの隠し子を演じる『ピンク・パンサーの息子』(1993年)
の3本が製作されたが、いずれも主役不在の穴は埋めがたく、興行的にも批評的にも往年の勢いを取り戻すには至らなかった。

◆リブート版(2006年・2009年)

時は流れて2006年、ショーン・レヴィ*6監督、スティーヴ・マーティン主演で完全リブート版『ピンクパンサー』が製作された。
フランス代表を勝利に導いたサッカー監督が衆人環視の中で毒殺され、彼の所有するダイヤの指輪「ピンクパンサー」が消失。事件を任されたクルーゾー警部が相棒ポントン(ジャン・レノ)と共に捜査に乗り出す──という筋立てで、ケヴィン・クラインやビヨンセも出演する豪華キャストが話題を呼んだ。
2009年には続編『ピンクパンサー2』も公開されている。

古典的ドタバタ喜劇を現代に蘇らせた作風には賛否あったものの、興行的には成功を収め、新世代に「クルーゾー警部」の名を知らしめた功績は大きい。

【主な登場人物(実写シリーズ)】

◆ジャック・クルーゾー警部

演:ピーター・セラーズ(オリジナル)/アラン・アーキン(番外編)/スティーヴ・マーティン(リブート版)ほか
本シリーズの実質的な主人公。パリ警察所属。
世界一無能な名探偵とでも言うべき存在で、自信満々の推理は大体外れ、行く先々で物を壊し、変装すればすぐバレ、フランス訛りの英語は誰にも聞き取れない。
にもかかわらず異常なまでの悪運の強さにより、なぜか最終的に事件は解決してしまう。
本人は自分を超一流の探偵と信じて疑っておらず、その揺るがぬ自尊心こそが最大の武器(そして周囲にとっての最大の脅威)である。

◆シャルル・ドレフュス主任警部

演:ハーバート・ロム(オリジナル)/ケヴィン・クライン、ジョン・クリーズ(リブート版)
クルーゾーの上司。初登場は『暗闇でドッキリ』。
部下の起こす惨劇の数々により徐々に精神を蝕まれていき、目の痙攣が止まらなくなり、ついにはクルーゾー抹殺のためなら世界すら滅ぼしかねないレベルにまで壊れていく悲劇の人。
シリーズが進むごとに憔悴していく様は、もはや彼こそが本当の被害者ではないかと同情を禁じ得ない。

◆ケイトー

演:バート・クウォーク
クルーゾー宅に住み込むアジア系(演者は中国系英国人)の使用人。こちらも初登場は『暗闇でドッキリ』*7。
主人の反射神経を鍛えるため、昼夜を問わず不意打ちで襲いかかってくるという迷惑極まりない忠義者。
帰宅した瞬間に天井から降ってくる、冷蔵庫から飛び出してくる等、その奇襲はシリーズ名物と化した。

◆怪盗ファントム/チャールズ・リットン卿

演:デヴィッド・ニーヴン→クリストファー・プラマー
第1作の主人公にしてシリーズの原点たる紳士怪盗。狙った獲物は必ず盗み、現場には手袋を残していく。
クルーゾー人気に主役の座を奪われた、ある意味シリーズ最大の被害者。ドレフュスと被害者の会でも作ってほしい。

【アニメのピンクパンサー】

◆誕生の経緯

第1作のオープニングアニメーションを手掛けたのは、ワーナーの伝説的アニメーター、フリッツ・フレレングとデヴィッド・H・デパティエ率いるデパティエ・フレレング・エンタープライズ(DFE)。
テーマ曲に乗せて気取った足取りで現れるピンクの豹は、本編を食う勢いで観客の注目を集め、公式の年表によれば1964年4月には雑誌『TIME』の表紙を飾るほどの人気者となったという。

これを受けて1964年、彼を主役とした最初の短編アニメ『ピンク騒動(The Pink Phink)』が劇場公開。
白ヒゲの小男が家を青く塗ろうとするのを、豹がひたすらピンクに塗り替えていくだけの内容ながら、この作品はいきなりアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞。
デビュー作でオスカーを獲ってしまったピンクの豹は、以降1980年までに124本もの劇場短編が作られる一大シリーズへと成長した。

◆キャラクターとしてのピンクパンサー


画像出展:1963 The Pink Panther trailer (public domain via Wikimedia Commons)


その名の通りピンク色の豹。誕生日は1964年4月11日とされる*8。
基本的に無口であり、短編の大半はセリフなしボイスなしのパントマイムとBGMだけで展開される*9。言葉の壁がないこの作風が、世界中で愛される要因の一つとなった。
また、アニメ中は「ピンクパンサーのテーマ」*10が常にBGMとして流れており、ジョークシーンでは「ガヤ」(観客の笑い声を模したSE)が流れるのも特徴。

性格はオシャレでイタズラ好き、そしてどこか気品のあるトボけ者。初期は白ヒゲの小男(リトルマン)を一方的に困らせる愉快犯的な役回りが多かったが、シリーズが進むにつれ、彼自身がトラブルに巻き込まれる苦労人ポジションの話も増えていった。

なお実写映画の設定を引き継いでか、アニメ世界の彼は宝石泥棒としてクルーゾー警部(のアニメ版)に追われる立場でもある。もちろん捕まることはまずない。

◆シリーズ展開

劇場短編と並行して、1969年からはアメリカで『ピンクパンサー・ショー』としてテレビ放送が開始。
同じDFE製作で、クルーゾー警部をモデルにした警部が活躍する短編『The Inspector』も作られており、日本では1972年にフジテレビで『警部でゴジャール』のタイトルで放送された。

その後の主な展開は以下の通り。
  • 『ピンクパンサー&クルーゾー警部』(1980年):短編13本で構成されたオムニバス映画。日本では1981年に東宝東和配給で劇場公開。
  • 『ピンクパンサーわんぱく隊』(1984年):ハンナ・バーベラ製作のTVアニメ。日本では1988年にフジテレビで放送。
  • 『ピンク・パンサー』(1993年~):テレビ東京とMGMの共同出資による日米合作TVシリーズ。この作品ではピンクパンサーが普通に喋るという大胆な路線変更がなされた。吹替版はナレーションがピンクパンサーの言動に茶々を入れまくったり、EDテーマがやたら爽やかだったりで色々カオス。
  • 『Pink Panther & Pals』(2010年):若返ったデザインのピンクパンサーが活躍する新作TVアニメ。

日本語吹替はオムニバス映画で青野武*11、1990年代のVHS版で藤原啓治*12、テレビ東京版で石井康嗣、2004年以降のカートゥーン ネットワーク放送版で樫井笙人が担当している。
無口キャラなのに声優の顔ぶれが妙に豪華。

【ピンク・パンサーのテーマ】

ヘンリー・マンシーニ作曲。おそらく映画音楽史上もっとも有名な曲の一つ。
低音で忍び寄るようなサックスの旋律は「怪しい人物がこっそり行動するシーン」の代名詞と化しており、映画本編を知らなくても、バラエティ番組やCM等でこの曲を耳にしたことのない日本人はほぼいないだろう。
かの『8時だョ!全員集合』でも、コントでメンバーが登場する際のBGMとして使われることがあった。

マンシーニはこの曲でグラミー賞を受賞し、アカデミー作曲賞にもノミネートされた(受賞は『メリー・ポピンズ』に譲った)。
彼は他にも『ティファニーで朝食を』の「ムーン・リバー」などを手掛けた巨匠であり、生涯で4度のアカデミー賞に輝いている。

【日本での展開・余談】

  • 1995年、山佐からタイアップパチスロ機『ピンクパンサー』が発売された。これはパチスロにおける版権タイアップ商品の第1号とされており、現在隆盛を極めるタイアップ機の元祖が彼だったりする*13。

  • 2005年には安室奈美恵のアルバム収録曲「WoWa」のPVに出演。このコラボでは安室に似せたと言われる女性版ピンクパンサーまで作られた。

  • 1999年4月、ハリウッドのチャイニーズ・シアター前に、アニメキャラクターとしては初めて手形・足形が刻まれ、一流スターの仲間入りを果たした。

  • ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでは一時期、主要なキャラクターのひとりとして、グリーティングやショーの開催、グッズ販売がされていた。しかし、2016年頃にピンクパンサーグッズの専門店「スタジオスタイル・イン・ピンク」が閉店して以降、徐々に展開が縮小し、2026年現在は完全に取り扱いを終了し、園内に現れることも無くなった。

  • 第1作の製作年は資料によって1963年と1964年で表記が揺れているが、これはイタリアで1963年12月に先行公開され、アメリカ本国では1964年3月に公開されたため。一般には1963年度の作品とされる。

  • リブート版以降も新作企画の報道がたびたび挙がっており、半世紀以上を経てなおこのシリーズ(と豹)の商品価値は健在である。





追記・修正は、項目の中からピンクに塗り替えられる箇所を見つけてからお願いします。



この項目が面白かったなら……\ピンクが…最高~!/
最終更新:2026年08月22日 09:31

*1 『ティファニーで朝食を』『酒とバラの日々』などで知られる名匠。

*2 共演予定だったエヴァ・ガードナーの降板に伴うもので、製作側との訴訟沙汰にまで発展した。

*3 伝記類では、当時常用していた吸入薬(亜硝酸アミル)が引き金になったとされる。

*4 日本では劇場未公開。BS放映時のタイトルは『トレイル・オブ・ザ・ピンクパンサー』。

*5 ロジャー・ムーアが「整形手術後のクルーゾー」として出演したことでも話題に。当時現役のジェームズ・ボンド俳優の起用に多くの観客が驚いた。

*6 後に『ナイトミュージアム』『デッドプール&ウルヴァリン』等を監督

*7 ちなみに名前の綴りは『暗闇でドッキリ』では「kato」だったが、『ピンク・パンサ―2』以降は「Cato」に変更されている

*8 公式サイトの年表による。なお第1作『ピンクの豹』のアメリカ本国での公開日は同年3月18日で、資料によってはこちらを誕生日とするものもある。

*9 ごく一部、喋る回も存在する。

*10 場面によってはピッチを変更したアレンジバージョンになることも

*11 テレビ東京版ではクルーゾー警部の吹き替えを担当していた。

*12 テレビ東京版ではルーイの吹き替えを担当していた。

*13 パチンコの方の元祖は1991年に出たオロチョンパといわれている。河内屋菊水丸並びに、彼の出演していたテレビ番組とのタイアップである。