冥府/地獄

登録日:2012/02/21(火) 12:14:13
更新日:2019/03/31 Sun 09:48:20
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冥府/地獄

「冥府」及び「地獄」とは、肥大した脳(前頭葉)を獲得した高等霊長類が獲得した「」の認識と、それに起因する「死」後への恐怖、
「死」者と「生」者の隔たりの認識により考え出された宗教(神話)的概念である。
云わば、現世に残された生者の側の精神の負担(知己の者との別れ、来るべき自らの死)を軽減するべく生まれた概念なのだが、
実際に死んだ状態から復活した人間が「神話」以外には居ない事から、
現在でも生きている側の人間の精神を救う為の方便として、形を変えつつも機能し続けている。

因みに、冒頭で「高等霊長類」と書いたのは、現時点で確認出来る最古の「死」の概念を持った旧人類がネアンデルタールの為である。
……現在、確認された最古の埋葬は5~6万年前のイラク北部はザグロス山脈中のシャニダール洞窟に於いてであり、ネアンデルタールは死した同胞の為に墓を作り、
様々な種類の花を手向けていた事が解っている。


【冥府】

古代宗教に於ける「死」の概念であり、エジプトやギリシャ、日本での概念は元来はこれに近かった。
多くは地下にあり、支配者も居るがエジプトを除いては死者が裁かれる事は無く、ただ単に現世と線引きがされるのみである。
各地域の伝承が習合され、纏められた神話とはやや趣が違うが中国や日本の山岳信仰では死者は山に入ると考えられた。
沖縄や出雲では海の彼方とされるが、これも山と同様の意味を持つ。
現世との境界は曖昧で、生者から死者に会いに行く事も可能だが、その出会いは最大のタブーであり、神話でも悲劇のみが語られ注意が促されている。
「死」への漠然とした恐怖やネガティブなイメージからか暗く、黴臭く、腐臭がして、泥水を啜る……と云った説明がされており、
その地を治める支配者(メソポタミアのエレキシュガル、日本の伊邪那美、ギリシャのハデス…etc.)にすら嫌われている事が多い。


【地獄】

ゾロアスター教や大乗仏教、ユダヤ教、キリスト教イスラムに誕生した概念であり、
古代宗教に於ける「死後の世界」のイメージを一新させてしまった概念。
特にキリスト教のそれは「天国」と「地獄」としてセットで語られ、現在の「地獄に堕ちたら未来永劫に救いが無い」と云うイメージを定着させてしまった。
所謂「神話」では無く「宗教」で語られる概念であり、宗教者達は来るべき「死」への恐怖を「絶望的な地獄」の概念を上乗せする事で人々に説き、
それから救われる為の道として自分達の教義を信仰する様に仕向けたのである。
因みに、地獄に墜ちた場合に「全く救われる要素が無い」のはユダヤ/キリスト/イスラム教のみであり、
仏教とゾロアスター教では地獄を終えた魂は輪廻に回帰したり、改めて救われる事になる。もっとも、地獄を終えるまでには兆、京年単位の時間が必要だが。


【代表的な概念】

※以下に、代表的な神話や宗教での「冥府・地獄」を紹介する。

●エジプト神話

支配神:オシリス
エジプトでは、死者の魂は死後に太陽神ラーの治める「太陽の国」に旅立ち、やがては地上に戻ると考えられていた。
ミイラはその時の為に肉体を残す手段であり、ペットのミイラも残されている。
オシリスの配下として死者の魂の罪の重さを量るのがジャッカルの神格化であるアヌビスで、
罪深い魂はワニの頭を持つ怪物アミトに食われ、完全に消滅する。
……が、死者の棺に入れられた「死者の書」には審査を誤魔化す為の裏技が記載されていたそうな。


●ギリシャ神話

支配神:ハデス
みんな大好きハデス神の治める暗くて黴臭い地下世界。
「オルフェウスの竪琴」の神話が有名だが、勝手に出入りするのが難しい以上の制約は特に無かったりする。
起源は「イシュタルの冥府下り」で知られるメソポタミア神話にある。
日本の「黄泉津比良坂」の神話とも類似性があり、これは墓の中(死者の世界)に入った人間が腐敗した死体を見た為に生まれた話ではないかと考えられている。


●ゾロアスター教

支配神:アフラ・マズダ
「善悪二元論」を基本とするゾロアスター教では地上世界は善神アフラ・マズダの率いる「天使(アムシャ・スプンタ」と
悪神アンリ・マンユの率いる「悪魔(ダエーワ」が人間の魂を賭けて戦う場であり、最終的に善側が勝利する。
そして「最後の審判」に於いて悪側の誘惑に負けた悪しき魂は地獄に墜とされるが、
3日間に及ぶ過酷な責めにより魂を浄化された後にはアフラ・マズダの支配する天界に迎え入れられたと云う。
この先進的な思想は仏教やユダヤ/キリスト教にも影響を与えている。


●北欧神話

支配神:オーディン
「神々の黄昏(ラグナロク)」により世界が終わり、再生と創造が繰り返される北欧神話では、戦場で生命を落とした勇敢な魂は、
戦女神ヴァルキリー達の手で主神である戦争と魔術の神オーディンの住むヴァルハラに運ばれ来たる日の為に訓練に励むと信じられていた。
流石はバイキングが信仰した神話である。
それとは別に、ロキの娘である冥府の女王ヘルの支配する地下世界も存在する。


●ユダヤ教

支配神:Y・H・V・H
紀元前13世紀頃にモーセがヘブライ民族の神から啓示を受けた事で起きた民族宗教。
自分達の国イスラエルを建国するが、数百年で崩壊。
他民族の支配と迫害を受ける中で「何時の日か多民族を滅ぼしユダヤ人を救ってくれる救世主(メシア)が誕生する」…と云う希望に基づく「終末思想」が根付いた。
元々は特に死後の世界等は定められていなかったのだが、
余りに救いがない現実からキリスト教的な「地獄」の概念が生まれた。
つまり、ユダヤ教に於ける「地獄」とはユダヤ人の救済により他民族(他宗教の徒)が堕ちる世界である。


キリスト教

支配神:サタン
宗教改革者たる「救世主イエス」の教えにより誕生。
自分達のみを救うとしたユダヤの教義を「神を信じる全人類が救われるが、神に背いた者はユダヤ人でも「救われない」と説き、広めた。
また地上に建設される「神の国」を否定し、観念的な存在としたのもイエスであり、教義に於ける「天国」と同一視される様になった。
ユダヤ人からも迫害されたキリスト教では「終末思想」が磨かれ、神の勝利の為の「地獄の支配者サタン」の概念も誕生している。
余りに急進的な思想からイエスは謀殺されたが、その影響は世界に広がった。
教団化した後の「キリスト教会」は初期の頃には終末論を利用して信徒を獲得したりもしたが、基盤が安定してからはこうした考えを改めた部分もある。
……ただし、「神に背いた者は地獄に落ちる」と云う極端な教えは現代でも残ってしまっている。
キリスト自身との言葉からは大きく本筋を見失っていると批判もされているのだが。


●イスラム

支配神:アッラー
7世紀頃に天使ジブリールの啓示を受けたムハンマドによりユダヤ/キリスト教を批判する形で誕生した。
誕生直後より他の宗教との戦いに明け暮れたイスラムの地獄とは、ズバリ「悪人と他の異教徒が堕ちる世界」である。


●大乗仏教

支配神:閻魔大王
ここでは最終的に仏教思想が行き着いた日本での概念を紹介する。
我が国では中国の道教思想を取り込みつつ、大乗仏教が伝播。
更に古来よりの祖霊信仰と、精霊信仰、神道を取り込み独自の進化を遂げる事になった。
各宗派により詳細は違うが、特に一般にも膾炙したのは「南無阿弥陀仏」と唱える事で西方浄土に入ろうと云う阿弥陀信仰と六道輪廻による転生の思想であろう。
死したる者は前世の「業(カルマ)」を背負いつつ、仏に至る解脱を果たすまで6つの世界を彷徨う事になる。
「地獄道」は六道輪廻の最下層で、閻魔大王の支配する亡者の流刑地。
特に有名なのが刀葉林
刀葉林から美女が手招きしている
亡者は抱こうとするが美女に永遠に抱けない
「天道」は所謂天国ではあるが、仏教思想の大元でもあるインド神話同様に天人にすら寿命があるので、それすらをも越える為に「仏」を目指すのである。
大乗仏教では厳しい修行を一つの生で課すことはしないが、転生を繰り返す中で浄化された魂は再び解脱を目指し輪廻に回帰するのだ。
阿弥陀信仰は本来の仏道とは違い阿弥陀如来に帰依して阿弥陀の拓いた極楽に入れて貰おうという信仰であり、考え方としては一神教の形態に近い。


●マルディアス

支配神:デス
ゲーム『ロマンシング・サガ』での冥府は西洋的なイメージながら仏教思想に近く、生前の執着を消した魂は新たな生命を受けてマルディアスに転生する。
PS2版『ミンストレルソング』では煉獄が登場。
更にその設定が詰められていた。





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