エルニア帝国という言葉すら出来る前の古い時代。今では名前のない国として秋帝国というものがあった。
これは、その唯一の皇帝とその后の話。
これは、その唯一の皇帝とその后の話。
秋帝国の首都。その中心にある宮殿の一室にて、ちょこんと小さな天空人の女性が寝台に腰かけていた。線は細いが美人であり、栗色のふわふわした髪と140cm前後の小さな身体、そして天空人としてはとても小ぶりな角と翼が特徴的であった。
そんな彼女の大切な者が、よく通る美しい声色で「入るぞ」と一声かけたのちにやってくる。
「お待ちしておりました、天子様」
「そのような呼び名はいい。ここは二人だけの空間、『男たる更始帝』でも、『偉大な君主』でもない。等身大の私を見て欲しく――」
「そのような呼び名はいい。ここは二人だけの空間、『男たる更始帝』でも、『偉大な君主』でもない。等身大の私を見て欲しく――」
そう更始帝がやや嬉しそうに『天子様』呼びをやめさせようとするが、霊貴妃はクスクス笑ってこう言った。
「しかし、名で呼ぶより天子様と呼んだ方が反応がよくなっていましたから。例えば……」
そう言うと霊貴妃は更始帝の翼の付け根あたりを撫でる。すると、可愛らしい声が漏れる。
「ほら、こういうことです。最初の頃ではこんなことにはならない筈なのに。すっかり『私の味』を覚えているということです」
「……この部屋では、君に勝てないな」
「最初からでしょう。ささ、今は疲れを『癒しましょう』」
「……この部屋では、君に勝てないな」
「最初からでしょう。ささ、今は疲れを『癒しましょう』」
更始帝は、相変わらず妻に勝てないなと苦笑するのだった。