定義
彼方の私たちには分かりづらいのだが、異修羅世界では
どんな言語を使っても会話が成立する。
これは、音と同時に詞術によって「言葉」が直接伝わるため。相手に聞こえさえすれば作用するらしく、声帯を持たず、どこから声を出しているのか不明な
粘獣でも会話できる。音声の付随情報とでも考えればいいのか。
自動かつリアルタイムで相互に言語が翻訳されている状態、と言えば最も理解しやすい。
そのため、実は異修羅世界の住人は、種族ごとどころか個体ごとに違う「言語」で話している。(鳴き声ではなく文法を持つ「言語」である)
詞術が通じない生物は「心がない」とされ、逆に詞術で会話できる者は
相当おぞましい姿でも受け入れられる。
詞“術”とはいうものの、異修羅世界では「創造神話に組み込まれるレベルで」当然の現象である。詳しい原理は不詳。
作中で開示された設定ではないが、魔族の動力や獣族の思考力の根本にあるのも詞術類似の現象であることが仄めされている。
また、
天のフラリクのように発話・発声障害を持つものが、道具などでモールス信号のような意味のある音を鳴らすことによって詞術を使うといったことは不可能らしい。
広義の『詞術の力』を用い、対象に「燃えたり動いたりするよう頼んで」何かしらの現象を起こす技術。いわゆる「魔法」みたいなもの。
会話可能なのは当たり前であるためか、作中で詞術といった場合は大体こちらを指す。
作中では【】でくくった詞にアルファベットのルビが振られた
詠唱文で表現される。何語とも解釈できない不思議なルビだが、詞術(広義)の解説にある通り異修羅世界の住人は各々が異なる文法と音素を用いた「言語」で話している。その「音としての言語」を表現していると思われる。
ルビではbe動詞のようなもの(人族の詞術詠唱における"io"の部分)があるように見えるが、決まった規則があるわけではない。
詠唱は一見効果と関係ないような文章になっているが、作者は感覚で決めているらしく、
法則などはないようだ。「軸は~」という文は座標を設定する力術についていることが多い。
発音器官が複数あればそれだけ別々の詞術を行使できそうであるが、詞術は発声以上に心で唱えるものであるため発音器官の数は多重詠唱に関与しない。そのため、通常は二種以上の詞術を同時に行使することはできないのだが、やはり
例外は存在する様だ。
また、器物を対象に詞術を使うためには、
対象に名前をつけなければならない(フィピケの鏃、サータイルの針など)。
客人の逸脱能力はこの詞術法則に拠るもので、より正確に表現すれば「詞術なら説明可能なので、バランスの取れるTearに飛ばされてきた」という事情である。
分かりやすい所だと
黒い音色のカヅキの弾道制御はまんま力術で説明可能。 ただし、「説明が可能である」から「詞術の力を用いている」とは言えない点は間違えてはいけない。
無意識・無詠唱に詞術を使っているとも言える
客人ではあるが、一方で彼らは詞術ネイティブではなく「認識がついていかない」ため、詠唱を介し詞術を行使することは
普通はできない。それでもデタラメに強くはあるので、詞神のせめてもの慈悲といったところだろう。
系統
人間の学問では狭義の詞術を大きく四種類に分類している。これらに当てはまらないもう一つの系統を加え五系統の詞術が作中にて描写されている。
これらはあくまで
人間の文化による分類・体系化であり、
森人などの他種族ではそこまで厳密に区別せず感覚て使っている者が大多数である。
また後述の通り、これらが「詞術」に関連する現象の全てというわけでもない。
炎、雷、光といった、その地点にあるエネルギーを作り出す詞術。
物理学でいうところのスカラーを操作する。
生活レベルではライターのように着火したり、窯でパンを焼くのに使用されている。
強力なものだと生物を焼き切ったり、
街を丸ごと焼き払うことも。
あまり認識されていないが、
人間はこの系統への適性が高い。
物質やエネルギーに自在の運動量を与える詞術。
物理学におけるベクトルを操作し、物を動かしたり飛ばしたりする。大雑把に言うとサイコキネシスである。
他の系統の詞術と合わせて用いられることも多く、例えば熱術に方向性を持たせたり、工術で作った物に運動量を与えたりする。分子間力を操作することもできる。
物質の形を予め定められた形に変える詞術。
主に器物の加工や製造、建造物の建築に使用されている。
あくまで基本は物質の形を変える術であり、構造そのものを強化することは出来ず、その材質以上の強度を与えることは不可能。
例えば、水を氷の様に形を留める事は可能だが、氷の硬さを与える事は不可能である。
ただし、常軌を逸したレベルまで達した場合はその限りではないようで、例えば
メステルエクシルの行使している工術においては全く違う物質への変化を引き起こしているらしく、作者の一問一答でも
明言されている。
異修羅の種族では
巨人がこの系統に長じるとの事。
物質の性質を変える術。生物の体にも応用できる。
代謝を高めて怪我や病気を治療したり、肉体の老化を防いだり、死体に掛けることで食物の
長期保存、植物の品種改良への利用、水を酒に変えるなど、身近な範囲で広く役立つ術。
特に異修羅世界では外科治療を含めた技術医療が他の技術と比べてあまり発達しておらず、詞術医療がメインの為重要な術である。
ただし、肉体の損傷を回復するような類の術は
相応の量の対象の寿命を削る必要がある。しかしながら、寿命が存在しない様な、例えば
巨人、例えば
機魔や
屍魔等の魔族は代償を事実上踏み倒すことが可能であり、そのため生術を操る前述の様な種族は総じて危険度が高いとされる。
その一方で、
毒物の生成や毒性の強化による暗殺、
魔王自称者を中心とした生物の改造など悪用の印象も強い術である。
異修羅の種族では
森人が得意との事。また、
血鬼も元の種族に関係なくこの系統の適性が高くなる傾向がある。
作者の一問一答によれば、物体の形状を変える工術とは違い、ほぼ無から物質を生み出しているに等しいことをしているらしい。
非生物に心と命を与えて人工生命を生み出す術。
この術で生み出された生物を魔族と総称する。また、製作した魔族に自身の心を遠隔同調させ、リアルタイムで操作する術なども含まれる。その全貌は未だ不明。
魔族生成の詞術は感覚によってしか行えなかったが、その
全ての工程を理論立てて他者に教授出来る者が現れた為、第五の系統として確立した。
使用者には
魔王自称者が多いが、
黄都に仕える者にも使用者が存在するので、この術自体は禁忌や罰則の対象ではない。
教団の教えにも禁忌とするようなはっきりした記述はないが、だからこそ危険視されてきたとも。
少なくとも為政者にとっては、個人が武力や労働力を独占しうる危険な技術である。
一見希少な才能の持ち主しか使えない術のように思えるが、実は一般人の中にも心術の才能を持つ者が意外と居るのではないかという説が存在する。一般人が魔族を生成しないのは、方法も分からない上に試そうとも思わないからで、事実、クラフニルの教えを受けたことで初めて魔族生成ができるようになった生徒も存在するらしい。
その他
通常の四系統の真逆の系統は理論上存在しており、ある地点から熱を奪う「
凍術」、巨視的運動を停止させる「止術」、生命反応を含めた変化を否定する「停術」、万物の構造を砂のように分解する「壊術」が挙げられる。また、心術にも対応する真逆系統は理論上は存在でき、心を解体する「葬術」が想定できるらしい。
また、記憶や意識を操作する術は何れの系統にも当てはまらない魔の術とされる。
(現状情報が不足しているが、上記の記憶・意識操作等の精神関連の術も心術の範疇に含まれる可能性がある。)
系統の概要欄にもあるが、あくまでも
人間が便宜上分けたものであり、各術への理解・研究が進んだ結果として細分・統合・分類の追加等の余地があることは作中世界でも判明してきているらしく、上記の分類はあくまでも「現時点での」ものであるらしい。
その他にも、詞術には人族の理解範囲外に極めて複雑な相互作用が存在しており、竜族や
巨人の存在維持や神経系以外での複雑な思考能力、共有の呪いといったバグめいた超自然的事象を詞術は引き起こしている。
詞術法則
詞術自体に大気中のマナや本人の秘めた魔力に当たる制約リソースはない。
現象を起こす様に世界に命令し、世界が命令に答え引き起こすという原理の為、現象の規模に伴う力の消耗は存在しない。しかし詞術を持続させるには術者本人が詞術で起こる現象についてイメージと集中を続けなければならず、これが限界となる。
精度についても同様で、工術で現代の精密機械のような複雑な物を作り出すには深い理解と研鑽が必要であり、実現できるのは
世界を逸脱する程の才能の持ち主だけである。
また、詞術は心の伝達である為、心そのものが相互に同一でもない限り複数人で同一の詠唱を行う事は不可能であり、出来たところで強力になることもない。
同様の理由で、詠唱の複雑さも詞術の効果に直接影響を与えるものではない。単に複雑な構造や動きを与えようとする場合に詠唱が長くなるだけだと思われ、事実、
竜の行使する
息は極めて短い詠唱で非常に高い効果を引き起こすことが可能である。
一方で、詞さえ届けば現象を命じれるため、理論上範囲や距離は詞術に影響しない。もっとも、天候を一瞬で塗り替えるほどの超広域な詞術を命じるのは後述の理解度の問題から、
現実的には難しいと考えられる。
自分自身の肉体にアクセスする権限と、
竜が世界にアクセスする権限は他の詞術よりも強く、施術の強さ自体は変わらないが、詠唱の「~より」の部分を省略して命令する事が出来る。
詞術が発動する速さは命令の長さ・複雑さとは無関係な「意思の速度による伝達」であるが、詠唱そのものは省略できないため、短いほど即発動できる強みがある。
また、一度発せられた詞術詠唱による命令は
取り消したり内容を変更する事は基本的に出来ない。
通常の詞術を行使するには、対象への理解が不可欠である。
その為、慣れ親しんだ土地から離れると詞術の威力や精度が低下してしまう。離れた土地で詞術を行使しようとするなら、詞術の焦点となる物品を持ち込む必要がある。
物品に限らず、生物に直接詞術を行使する場合においても、相手に対する深い理解が必要になる。
例えば、小数ヶ月以上のスパンで飼育している獣に生術を疎通することは容易な一方で、ほぼ完全に漁獲に頼ることになる魚介類は輸送で鮮度を保つことが難しいため、異修羅世界では魚料理は地元でしか食べられない高級料理だったりする。そしてその関係上、
牧場等の
経営者は一流の生術士であることがほとんどである。
医療分野においても同様で、十分お互いに接して慣れている生術使いでないと治療効果が全く得られない為かかりつけ医の重要性が現実世界より遥かに大きくなっている。一方、もし主治医が患者に「死ね」と命じたなら患者を死なせる事も可能である事から、暗殺を恐れて技術医療に頼った結果かえって寿命を縮める者も少なくないとの事。
生術に限らず、詞術を直接行使出来る程相手を理解しているという事は、相手の生殺与奪の権利を常に握っていることに等しい。
属性
基本三属性は、どこにでもある詞術の焦点のこと。
工術と相性が良い。金属の生成もこれ。防御にも攻撃にも優れる。
熱術と相性が良い。見えにくい事が最大の強み。遠隔攻撃が可能。
生術と相性が良い。優れた溶媒になるので、霧や薬物など陰険。
詞術使い
一つの系統に特化した詞術使いの名称は、それぞれ「熱術士」、「力術士」、「工術士」、「生術士」、「心術士」(「凍術士」)。
単に「その分野が得意」というだけでなく、常人を遥かに超える術士でなければこうは呼ばれない。
逆に、満遍なく得意な場合は、実力の高低に関わらず「詞術士」。
三系統や二系統しかできなくてもこう呼ばれる。
新たな詞術の修得難易度は、大体現代日本基準の外国語の修得くらいとの事。ただし種族による適性の差があり、おおよそ以下のとおりである。
0系統:
客人と
ウハクのみ。
1系統:種族によって違うが、才能がない。
砂人は半分くらいこれ。
2系統:普通に生きてるだけで修得できる。
3系統:しっかり勉強すればできる。“
教団”の標準がこれ。
4系統:まあどこでも自慢できる程度の希少度。
5系統:
クラフニルのみ。
詞術存在
異修羅世界の生物の起源は他の世界からやって来た生物である為、この世界の生物は全て
客人かその子孫であると言える。
客人は詞術の恩恵により老化しない為、寿命が存在しない。そのメカニズムについてはよく分かっていないが、理由については作中にて考察されている。
客人は詞術を使う事が出来ないが、その子供は詞術を使える。ただし、
客人の異常性の内、異常技能を子孫に引き継ぐ事は不可能。
一方で、
客人の異常性が生物学的要因に依拠していた場合は、子孫に引き継がれる事で新種として異修羅世界に定着する。これが異修羅世界における
ファンタジー種族の起源である。
心ある生物全てに詞術の恩恵が授けられるのとは逆に、詞術を非生物に加える事で人工的に心ある存在を創造する心術が存在する。このような手段で生み出された種族は魔族と呼ばれている。
死体から生み出された
屍魔は生術によって肉体を保ち、
機魔や
骸魔は力術により疲労せずに動き続けるなど、魔族は心術に限らず様々な詞術の強い影響下にある。
異修羅世界に放逐されるのは生物に限らない。建物や器物などの非生物がこの世界に流れ着く事があり、それらの中で逸脱性のある道具を魔具と称している。
また、客人の放逐元が皆同一の世界であると思われるのに対し、異常物品は多数の世界から流れ着いている可能性が高い。
魔具の異常性能は力術や熱術の延長線上の能力を発揮する物から、因果律や時間に影響を及ぼす物まで様々だが、それらの能力も詞術によって成り立つようで、詞術の及ばない環境では能力を失う様子が確認されている。
ただし、「明らかに詞術に由来しない古代の魔具」と表現されるような物品も存在するようで、客人の異常技能と同じく一概に詞術を介して異能を発揮しているというわけでもないらしい。
文化への影響
異修羅世界では詞術の恩恵により、ある程度の知能があれば誰でも会話能力が得られる。
一方で、文字の習得が困難であり文字文化が乏しく、主要な国家や都市はその土地を示す紋章を名称として使用している他、市場の看板などは簡略化した絵の組み合わせで示されており、交易などに使用される教団文字や数を表す記号的なものが市民に多少普及している以外には貴族の家系別に伝わる貴族文字ぐらいしかない。
この理由については作者が説明している。異修羅世界の存在は何の秩序もなく唸り合って会話している訳ではなく、それぞれが自分なりに人生の中で確立した知識に基づく「言語」を持ち、詞術により自動翻訳される事で互いに会話が成立している。その為、文字の読み書きを覚えようとすると、それぞれが「自分がこういう風に喋る」と思って使用している文法と全く異なってしまうからである。
それでも意味を表記するツールが全くない訳ではない。身近な器物や自然物を象徴する絵は認識が個々人の知識に左右されにくいので、市場の看板などはこうした「アイコン」が使われている。こうしたアイコンを抽象化して「文字」にする事にある程度成功したのが、教団文字や貴族文字であり、教団文字は市民の間に知識として多少普及する事に成功している。故に、異修羅世界における文字は全て表意文字と考えて間違いない。
ただし、こうした「文字」で構成された「文章」に正確な文法を見出し、あるいは付与するのにはあの世界においては相応の想像力が必要になる。例えば、「火」「水」があったとしても、「火」が「熱い」か「燃える」なのか、「水」が「雨」なのか「湖」なのか、そうした細かなニュアンスを全て細分化した文字を発達させることが出来ていない。よって、こちらの世界で使われているような「文章」があの世界の住人には理解が困難である、ということになる。
その結果文字の読み書きが大変困難になり、日常生活も覚束ないほどの識字率ではないものの、一番簡単に覚えられて単語数も少ない教団文字ですら日本人が英語をマスターするぐらいの難易度がある。
貴族文字になると更に詳細なニュアンスが入ってくるのでますます難しく、幼少時から充実した学習環境を整える事が出来て、更にそこまでの困難を踏まえてでも知識を継承していくメリットがある家系でなければリターンが釣り合わない為、貴族にしか定着していない。逆に言うと、継承にそのまでのコストを掛けるに足る知識をマニュアルとして残すことができた、「文字を使える家系」だからこそ貴族であるとも言えるかもしれないとの事。
異修羅世界の基幹宗教である教団の教義には、
心ある生き物には全て詞術の祝福が与えられた家族であるとされ、それを殺す事は忌諱されている。
教団関係者以外でも精神衛生上の問題により、人族の大半では詞術の通ずる生物を食す事がなく、そこを構わずに食するのが人族と鬼族の違いと言える。
その一方で詞術の通じない生物に対する扱いは雑であり、使えなくなった家畜は処分する事は当然とされて悲しむ様子がなく、子供が猫を遊びで殺したとしても野生動物の危険性を注意されることはあっても倫理的には咎められず、狼は人を襲うせいで見つけ次第殺されて犬として家畜化されていないなど、動物の扱いに明確な差が存在する。
作中で活躍する主な
客人達は殺伐とした環境に慣れきっているせいで指摘しないが、こうした価値観を残酷と受け取る
客人も居たようだ。
最終更新:2025年04月25日 12:32