◇ ◆ ◇
歩きスマホ?だいじょーぶだいじょーぶ私ほら背中に目があるってよく言われるし、おデコにもあるかもよ?第三の目みたいなの。
ないけど。
背中もギターケースだけど。
夕暮れ時の渋谷は人多いけど、まぁ慣れだよ慣れ。都会っ子に混ざって一週間もすればこれくらい余裕っしょ。
そんな公衆のモラルよか、今の私的にはツイッターのタイムラインの方が重要なワケ。
オーロラビジョンのニュースでも見たけど、現地の人の生の声が拾えるのはやっぱり違うと思うんだよ。
特にこういう、憶測が飛び交いやすい爆発事件は。
爆発の原因は様々な憶測が飛び交ってるけど、そういう憶測が飛び出すにはそれなりの理由があるはずだから、
多数の憶測の重なる一点が真実。
あるいは、
「そう誤認せざるを得ない状況」こそが真実の裏に潜むもの。
こーいう時に相方がツイートしてれば楽なんだけど、1回目の爆発の前後からぱったり発言してないし⋯⋯。
クロの眼と思考回路ほど信頼できるものもないんだけどなぁ私としては。
まぁ仕事もひと段落ついたし、都会の空気も満喫したし、
心配してるし掛けてるしだからそろそろ帰りましょうかね。
我が家へ!
◇ ◆ ◇
ーーー昼休み、
黒乃は購買と教室の往復ついでに、
人探しをしていた。
それも典型的な人探しとは少し違った。
探している『日下部 灯』なる後輩を探すにはコツがいるのだ。
例えば「2年生でやや明るい髪色で棒付きキャンディをよく咥えていてたまに校則無視して耳付きパーカーを羽織ってる爛漫でキュートな女の子」を探せ、と言われたとする。
結論だけを端的に言えば「99%見付からない」。喩え本人が目の前に立っていたとしても「本人に『見付かろう』という意思」がないのであれば、これでは99%見付けられない。黒乃にはよくわかっていないが、日下部 灯とはそういう存在なのだ。
ではどうすればいいか。
“ただ『日下部 灯を探している』と強く意識し続けること”である。
“こんな感じの女の子を”ではない。
今の格好なんてどうでもいい。
“日下部 灯を探そう”である。
この意識の違いが重要なのだ。テストに出るのは当然として、黄色いチョークに赤の下線引いて強調したいレベルの重要度である。
裏を返せばこれは、日下部 灯という存在を知らない一見さんは、どうしても外見に気を取られて見付けることは困難になる。必要なのは手掛かりではなくイデアだ。
漠然と、だが確固たる意志を以って探さなければ見付けられない。
だから、廊下で目が合った時には向こうから声を掛けてくれる。
「こんちわですー。先輩が私をお探しってことは、デートのお誘いですかな?」
棒付きキャンディを咥えたまま、ケモノ系の愛くるしさを纏った後輩がぴょんと黒乃の前に躍り出た。相変わらず、振り撒く愛想に似つかわしくない『衝動』を背負っているのが視える。
「んーん、ちょっと渡したいものがあってだねー、放課後どこかで会えない?」
「風紀詰所とか、屋上とか購買とか、どこでもいいですけど」
「ぁ、風紀委員室がいいかなぁ。あんまり公衆の面前で堂々と渡すようなものでもないからさー。」
灯はぴしっと軽やかに敬礼をする。どこまでもキュートだ。
「りょーかいです、放課後に詰所で待機するであります。⋯⋯ところで先輩、」
「ん?」
猫を思わせる灯の瞳が、じっとこちらを見詰める。
「⋯⋯何かありました?」
ーーー 瞬間、その双眸に全てを見透かされた気がした。
「⋯⋯なんもないよ?」
黒乃はおどけたように努めて返事をする。
冷たい風が、どこからか舞い込んだように感じる。
「ふーん⋯⋯ま、いいですけどぉ。」
灯の背後の『衝動』が膨らむのが視えた。
「では、私はお昼食べに戻りますねー。」
「うん、ありがとう。放課後ね。よろしくー。」
灯は手を振る代わりに掌をにぎにぎとして別れの挨拶とし、そのまま軽快な足取りで去っていった。
「完全下校時刻が繰り上げになるそうよ。」
お弁当のおかずを箸で切り分けながら、美冬は何がともなく切り出した。
「17時くらい?」
「とりあえず17時半だって。もうどこが安全なのかわからないから暗くなる前に帰そうって魂胆みたい。」
「ほー。まぁ学校が狙われるなら真っ昼間だもんねぇ。休校にしないならそれくらいが限度かー。」
黒乃はサンドイッチを頬張りながら納得する。
「やっぱりテロだと思う?」
美冬が問う。いつもの委員長然とした顔ではなく、天災にも似た災害に怯える少女の表情だった。
「んーわかんないけど、ガス管の爆発とかニュースでも滅多に聞かないのに二日連続で起こる?って言われると、まぁナイよねぇ。連続テロか、模倣犯かなぁ。」
「こんな片田舎で騒ぎを起こして、いったい何になるっていうのかしら⋯⋯。」
「騒ぎを起こしたいだけ、みたいな愉快犯だと最悪だよね。まぁ、爆発事件なんて動機に関係なく最悪だけど。」
「まったくね。もう起きないといいのだけれど。」
「巡回の警察官みたいな人は増えてたよね通学路。やっぱり監視の目が増えるだけで怪しい行動は取れなくなるだろうし、抑止力になるんじゃないかな。」
「まぁ警察もどうすれば根本的な解決に繋がるのかわかっていないだろうし、天に祈るしかないわね⋯⋯。」
「そだねぇ。ところで話題変わっちゃうんだけどさ、いいんちょ。」
「なに?」
「⋯⋯⋯⋯たまごサンドってこんなに美味しかったんだねぇ。」
ーーー 今日の私ってどこか変?ーーー と、問おうとした。やめた。
そんなこと問うこと自体が変だと認めているような気がしたし、不要な心配を掛けてしまうのは本意ではないのだ。生憎と自分にかまってちゃん属性はないらしい。
ただ、ポーカーフェイスには自信がある方なのである。相手が何か自分に対して違和感を覚えたなら、それを察知してカバーできてしまうので、一人でぼーっとしている時はさておき、誰かと話している間は『いつも通りの自分』を振舞えていると思うのだが。
「私は甘い卵焼きを挟んだホットサンドの方が好みだけれど、たまごサラダのも確かに乙なものね。」
「ぁーいいよねたまご焼きサンド。作ってみようかな今度。ケチャップとマスタードとマヨ入れれるのが醍醐味だよねぇ。」
そんな、他愛のない会話で昼休みは過ぎていった。
今週の学業も、残すところ2コマだ。
放課後、
黒乃は単身カバンを片手に風紀委員室の前に来ていた。
無論、昼間に約束を取り付けた後輩に逢うためである、が。
扉を開けんとす腕は少し重かった。覚悟が決まらない、というやつである。
目的を果たすことに躊躇いがあるわけではない。
あの後輩と人気(ひとけ)のないところで会う、という行為自体に覚悟がいるのだ。
普段の自分であれば特に何も悩むことなく扉を開けただろう。その後円満に事は進み、軽やかに教室を後にできると思う。
だが今現在の自分は絶賛不安定なのだ。しかもそれを灯に見抜かれている可能性が高い。
これは単純に「危険」である。惨く甘美な結末から、自分が抗え続けられるか不安で仕方がない。
黒乃は一旦扉に伸ばした手を下ろし、深呼吸を一つ。心の中で自分に言い聞かせる。
思い描け。いつもの明るくテンション高めな朗らかJKを。ほんの15分だけ、自分は胸のしがらみを全て忘れていつもの篠崎黒乃になるのだ。
黒乃は自分自身に頷くと、決心して扉を開けた。
直後、教室に佇む後輩と、その背後に視える視界を埋めんばかりの黒い感情に黒乃の眼は釘付けになった。
「ややっ、呼び付けたりしてごめんね灯ちゃん。」
異常でしかない視界に怯むことなく、黒乃はなるべくいつものテンションで語りかけ、後ろ手で扉を閉めた。
「ぜんぜんいいですよー。こういうことって滅多にないんでちょっと新鮮ですー。」
棒付きキャンディを咥えたまま、机に浅く腰掛けた灯が応える。
少し傾いた陽の光がカーテン越しに差し込み、教室は外よりも一足早く、橙色に染まっていた。
それを塗り潰すように巨大な黒い球体がぽっかりと浮かんでいる。
今は、それを努めて無視する。
「単刀直入であれなんだけど、渡したいものっていうのはコレなのね。」
黒乃は鞄のミニポケットから“月”のカードを取り出す。
「タロット⋯⋯ですか?」
灯に向けてカードを差し出すと、素直にその手を伸ばし、
カードに触れた。
灯の動きが数瞬だけ凍り付く。
黒乃の視界に浮かぶもう一つの特異な球体が、より鮮明になる様が見て取れた。
それは灯の“異能”の球体だった。鈍色を思わせる金属光沢のある灯の球体。
その様を見て、黒乃は確信する。
「⋯⋯“制約”が解けたのはこれが初めて?」
「そう⋯⋯ですねー。なのにいろいろ“理解できちゃう”のは、なんか不思議ですー。」
一度もインプットされたことのないこの世の『理』を、制約が解けたとき即座に『理解』してしまうのは、秩序の維持のために『星』が知識を与えるためだと、『はじめてのカバラ』には書いてあった。魔術の派閥によって解釈は幾らか揺れるだろうが、おおよそこの思想は魔術界で共通の認識だそうだ。
黒乃は軽く頷くと、手元に“恋人”のカードを出し、口を開いた。
「少しだけ、そのカードについて説明させてね。まずはーーー」
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日下部 灯は病気だった。
しかもそれは不治の病だった。
しかしそれは、身体を蝕むような病ではなかった。
「 他人からの認識障害 」
それこそが病だった。
灯がこの病に抗おうとしない限り、他人が灯を見付けるのは困難を極めた。
苦なく灯を認識できたのは、灯の肉親と、幼馴染の男の子だけだった。
それは「姿を捉えられない」で済むようなものではなかった。
灯の行動の結果、そこに残された「痕跡」さえも、他人は自分と結びつけて考えられないようだった。意図して隠れようとすれば、それは機械的な目さえ誤魔化せた。
しかし、これは日常生活に於いて非常に厄介な病気だった。
何より「その場の全員に苦なく認識される」ためにはかなりの精神力を要した。
『まるで幽霊みたいだ。』
そう、子供の頃は思ったものだ。
今はどちらかと言えば『夜闇に溶け込む黒猫』と表現したい。
だいぶポジティブになったと自覚している。
高2になるまで生きてきて、だいぶこの『病気』との折り合いが付けれるようになったと思っていたが、どうやらこの“月”のタロットがある限り、より柔軟にこの『病気』と付き合っていけるらしい。
というより、『病気』から『特技』や『特性』と改められる程度の革新が訪れたのかもしれない。
それだけの可能性を、このタロットは秘めていた。
日下部 灯は病気だった。
それは重度の倒錯、依存症とも言えるものだった。
他人はどうなのかわからないが、彼女はある特定の行為に対し、極度の性的快楽を覚えていた。
一人で自慰に耽るよりも、その行為の方がより強く、より長く、より激しい快楽をもたらした。
その行為とは 殺人 だった。
灯にとってその殺人という行為は、「より強烈な性的快楽を得るための手段」以外のなにものでもなかった。
その点に於いて、視界に映る全ての人間は、そのための使い捨てのおもちゃに等しかった。
幸い、と表現して差し支えないだろうが、灯はこのパラフィリアを患っている割に、比較的まともな価値観の持ち主だった。
無闇矢鱈に、身の回りの人間全てを手に掛けるようなことはしなかった。
しかし灯自身は、自分がいつか無差別な快楽殺人鬼に堕ちるのは時間の問題だと、ある種の確信を持っていた。
そんな灯の手に舞い込んだこのタロットは、嘆かわしいことに、自分の「衝動」を抑えられるような恩恵は何ももたらさなかった。
むしろ、この“力”の高まりが、自らの獣の枷を確実に脆くしていくのを感じていた。
そして今、自分の目の前には、ここ2年に渡って「極上の獲物」と見定めた標的が立っている。
もう一枚のタロットを手に、
他に誰もいない、
閉ざされた教室で、
自分の腕の届く距離に、
彼女は据えられていた。
「枷」が軋む音が、聴こえた気がした。
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「⋯⋯だいたいこんなところかな。ちょっと詳しいことはよくわからないんだけどね。」
黒乃は一通りの説明を終えた。カードによって得られる恩恵から、“神”のカードの存在まで。
途中から自分でも理解できていないところだらけだったが、可能な限り伝えたつもりだ。
「なるほどぉ⋯⋯あんまりよくわかってないですけど、奪われちゃいけないってことなんですね?」
「うん⋯⋯たぶん。⋯⋯だけどここで一つ、一生のお願いがあってね?」
「ほよ?」
黒乃は真っ直ぐに灯の方を向くと、頭を下げながら口を開いた。
「⋯⋯そのカードを、あたしに貸して欲しいの。必要な時には、すぐに手元に呼び戻してもらっていい。ただそれ以外の時は⋯⋯あたしに預けて欲しい。」
頭を下げたまま、正直な気持ちを吐いた。
もしタロットが「奪われた」場合、そのタロットの所有権は相手に移り、自分の意思で呼び戻すことはできなくなる。
しかしカードを「貸与する」だけであれば、管理系統は元の所有者に残ったままだ。カードの力を十全に借りられれば満足な黒乃にとって、管理系統の権限などどうでもよかった。
灯のタロットが手元にある時、灯に何ができるようになるかはよく知らない。
もしかしたら、私にカードを預けるよりも、灯がカードを所持していた方が大勢の人を救えるかもしれない。
それでも、黒乃は自らのエゴに逆らうことはできなかった。
自分が他人を救え得るのであれば、自分はその可能性に縋るしかないのだ。
黒乃は頭を下げたまま、灯の反応を待つ。
『今手に入れたばかりの力を差し出せ』と言っているのだ。無理な交渉なのはわかっていた。
請われた灯はその姿を見つめたまま、思考を巡らせる。
だがすぐに思考を止めると、結論を述べた。
「⋯⋯いいですよ?」
黒乃は思わず顔を上げた。
「ほんと!?」
「はい、ただ、こちらからもお願いがあります。」
灯は机に重心を預けるのをやめ、真っ直ぐに立つ。
棒突きキャンディをガリッと噛み砕く。
刹那、黒乃はの視界に白黒のノイズが映った。
黒乃は咄嗟にそのノイズから逃げるように後ろに跳ねる。
視界を、黒乃の眼前を、下から斬り上げるようにナイフの切っ先が滑るのが見えた。
「⋯⋯先輩、前にも言ったと思うんですけど、」
斬り上げたナイフをそのままに、灯は静止していた。
「先輩は大事なメインディッシュの1人なんですよ。そこらへんの人たちとは比べものにならないくらいの“ご馳走”なんですよ。」
灯の先ほどまでとは全く別人のように鋭い双眸が、こちらを射抜く。
「それなのになんですかその『生きるのがつらい』みたいな顔は。味が落ちるじゃないですか。」
ナイフの切っ先がこちらに向けられる。
「私はケーキのイチゴは最後に食べる主義なんですよ。いつまでもそんな顔してるなら」
モノクロのノイズが真っ直ぐに黒乃の胸を貫く。
次の瞬間には目の前に灯が居て、
遅れて鈍い音が響いた。
黒乃の『盾』がナイフを受け止めた音だ。
「⋯⋯メインディッシュ降格にしてさっさと殺ってあげましょうか、先輩。」
『盾』に伝わるナイフの重みから、生々しい殺意が伝わる。
紛れも無い本気の脅迫、否、誘惑だった。
黒乃は、その蠱惑的な提案に酔いたくなる。
が、そんな感情をがむしゃらに振り払い、
眼前、僅か15cmの距離の灯に告げる。
「⋯⋯ごめん、まだ、殺されてあげるわけにはいかないの⋯⋯。」
一瞬の沈黙が、その場を支配する。
咥えられたままのキャンディの棒が、ゆっくりと角度を下げる。
ナイフに加えられていた力が、ふっと緩んだ。
「はぁ⋯⋯」
と、灯は溜息を一つ。
ナイフを無造作にパーカーにしまうと、左手を持ち上げる。
キィン、と、特徴的な音を立ててその左手に“月”のカードが現れた。
「はい先輩。貸してあげるので、早くいつもの黒乃先輩に戻ってください。いつまでもそんな顔してちゃダメですよー?」
ナイフを握っていた手には、いつのまにか次の棒突きキャンディが握られている。
「ん⋯⋯。ありがとう灯ちゃん。必要になったら、手元に戻してもらっていいからね?」
黒乃はゆっくりとカードを受け取ると、試しに少しだけ、“月”のカードとパスを繋いでみる。
それは、灯に手渡す前までとは比べものにならないほど、強い繋がりを感じた。
自分のものである“恋人”のカードほどではないものの、その7割程度の恩恵は受けられそうである。
未契約状態のカードは本来の力の1割ほどしか発現できないとの話だが、今なら納得できる。
黒乃は一人頷き、2枚のカードの顕現を解くと、扉を開けた。
「じゃぁ灯ちゃん、本当にありがとね。灯ちゃんも何か困ったことがあったら、気にせず言ってね。」
灯はキャンディを咥えたまま、手だけでヒラヒラと返事をする。
黒乃も手だけで『じゃ!』と別れの挨拶をすると、流れるように扉を閉めて去っていった。
一人になった教室で、灯は改めて溜息をつく。
よかった。本当に、よかったと思う。
黒乃を殺さなくて。あのカードが、手元から離れて。
もしあそこでナイフが胸を貫いていたら。
乱れ舞う鮮血を、全身で、心ゆくまで味わったとしたら。
果てしない恍惚感と共に、もう1枚のカードも手にしていたら。
そんなの、考えるまでもない。
前菜だとか
主菜だとか
そんなの関係なく喰らい尽くす魔物が
生まれていたに、違いないのだ。
月曜、午後のHR。
黒乃は頭を抱えていた。
原因は眼前に鎮座する、一枚の紙切れである。
ことの発端はこうだ。
明日は恒例のスポーツ大会がある。
今朝のHRでクラスごとにランダムに配布された籤を引き、その籤の結果、学年や性別をも一切考慮しない完全ランダムな10人組を何組も作り上げるわけだが、
ついさっき、そのチーム分けの結果を記した一覧表が配られた。
それがこの紙である。
自分とチームになる9人の名前の中に、知った名前があるのはそんなに珍しいことではない。
しかも今回は秋枝がチームメイトである。これを僥倖と言わずしてなんと言おう。
早速秋枝にLINEを送る。
『泣きたい。』
すぐに返事が来る。
『ぃゃもうこれはきっと運命だよ。諦めなよ。』
黒乃は再び頭を抱えた。
なんて間の悪い。
昔から、こういう重要なタイミングこそ籤運が悪い方ではあったが、
ここまでか。
改めて、紙面の一点を見やる。
そこには、近いうちに必ず逢おうとは思っているものの、
今もっとも逢いたくない人物の名前があった。
その名を、水鳥 小夜という。
◇ ◆ ◇
さてさて、路銀とおみやげ代くらいは稼がないとね。
2・3時間歌えれば充分かな、まぁ少し足りなくても別にお金下ろすだけなんだけど。やっぱ集めれるなら集めたくなるのがストリートミュージシャンのサガだよね。人もお金も楽器も。
小さな弾き語りポイントはちらほら埋まり始めてるけど、まだこの時間だしそんなには、⋯⋯ほら見付かった。
結構人が集まっちゃうと歩道埋めちゃったりなんて普通にあるからね、どっちを背にして弾こうかなとか、結構気を遣わなきゃいけないんだよ。まぁ警察に指導されるような事態は面倒ってのが本音なんだけど。
ここならかなり広いし結構本気で声出しても大丈夫かなー。まぁとりあえずセッティングしましょかね。
っても今日はアコギとハーモニカくらいしかないからセッティングって楽器出すくらいなんだけどね。
エレキ担いでトモちんとかゆーたん呼んだ方が盛り上がるし稼げるんだけどさ、重たいんだアンプとかスピーカーとかエフェクターとか。ぃゃ電子ドラム運んでるトモちんはいつ見てもすごいって思うよ。カホンでも充分聴かせてくるのにねあの子。ハイハットの代わりにチンドン屋さんの変なちっこいシンバル持ってきた時にはゆーたんと二人感服したもんよ。
まぁ今ここにいない人の話はここら辺にしといて、そろそろ始めますかね。
とりあえず誰か足を止めてくれるまではインストでいっかな。アコギは楽器一本でもかなり様になるからいいよね。
ではでは一曲目、クロびカリから「サンキャッチャー(アコースティックInst.ver.)」。
須くお聴きください。
◇ ◆ ◇
最終更新:2019年01月30日 21:43