暫く経ったのち、水鳥は意識を取り戻す。
まだ若干頭がクラクラするが、意識はハッキリとしてきていた。
そして、まだ完全に覚醒しきっていない頭をフル回転させて、状況判断に努める。
まずは、やたらと重く感じる身体を起こして周りを見渡す。
そこは、意識を失うまでいた場所、図書室だ。
問題なのは、それがさっきまでいた裏の平行世界なのか、はたまた表の現実世界に戻ってこれたのか…
物音ひとつ聞こえない辺り、十中八九まだ平行世界の中だろう。
そうなると、意識を失う原因となった本がまだ刺さっている筈だと思い、本棚に視線を向ける。
そこには、おおよそ水鳥の予想通り、背表紙に何も書かれていない本が鎮座していた。
この本も手を触れる前は、背表紙に何か書かれていたと記憶しているが、前例から察するに、これもおそらく魔導書の類であろう。
とはいえ、先程は手を触れた瞬間、気を失ってしまった代物である。
それにもう一度手を伸ばすのは、かなり気が引けた。
そこまで考えた辺りで、意識がようやく本調子に戻ってきた。
さて、今はこの本をもう一度手に取るか否か…
少し考え、もう一度手に取る方針で決意を固めた。
今、一番の手掛かりになりつつある物だからこそ、時間経過のリスクを度外視する価値はあると踏んだのだ。
そう決めた以上、躊躇している場合ではない。
少し瞑目した後、件の本に手を伸ばす。
そして、本に手を触れた瞬間…
…何も起こらなかった。
何もなかったことに少し安堵し、少しの瞑目の後、本を開く。
水鳥は、その内容を一目見て確信する。
これが、自分が求めていた「知識」であると。
あとは、解読をしている時間があるかどうか…
図書室に射し込んでくる光は、まだ朱に染まっていなかった。
気絶していた時間も含めて、現在昼過ぎといった辺りだろうか。
それなら、まだ時間の余裕がありそうだ。
水鳥は立ち上がると、本を読み進めるために読書スペースへと歩みを進めた。
ぺらり、ぺらりと、一定間隔でページが捲られている音が図書室に響く。
水鳥が探し当てた本は、ほぼ全てのページがよくわからない記号で埋め尽くされていた。
それにもかかわらず、水鳥はそれに目を通すだけでその内容を理解できていた。
記号の羅列を眺めるだけで内容が頭の中に入ってくる、そんな性質の魔導書なのだろう。
一通り目を通して本を閉じ、得た「知識」を一旦整理する。
この世界にいる全ての人間は、魔法、魔術を行使できる素質がある。
ただし、殆どの者はその知識、記憶がないため、魔法、魔術を認識できない。
しかし、何らかの方法で制約を解除する、または知識を得ることで魔法、魔術を認識、行使できるようになる。
そして、今ここにその「知識」と元の世界に戻るための魔術が書かれている。
こんなところだろうか。
もう慣れたからか、ただの記号の羅列から「知識」を読み取っていることに違和感を抱かなくなっていた。
ともかく、帰る方法を見つけた以上、行動を起こさない理由はない。
一通りの荷物、そしてこの魔導書を持って、水鳥は図書室を後にした。
最終更新:2019年01月30日 21:22