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いちご #11

 
水鳥は目を覚ます。
そこは先程いた屋上、日が落ちかけている以外は何も変わらない。
本日3回目の目覚めだ。
朝起きて、本で意識を失って、さっきは疲れたから少し寝て…
何やってるんだろうと、少し考えてしまったり。
それはともかく、これからの方針は…本を燃やす、以上。
とはいえ、そのためには火種が必要で、行き先は複数ある。
本命でマッチ、着火器具がありそうな実験室、対抗でガスコンロ頼りに調理実習室、大穴でライター探しに職員室辺りだろうか。
といっても、そのうち2つは大方鍵が無いと入れないところだろうが、鍵のありかはおろか、そもそも鍵があるかわからないという状況である。
しかし、実際のところ鍵を探す余裕も、3ヶ所全て回る余裕もないわけで、実質3択である。
ついさっき、2択で思慮を巡らせた上、その答えも分からぬまま次に3択、全部で6通り。
しかも、この中に正解があるとは限らない、全て間違いだという可能性だってある。
全く、考えれば考えるほど絶望的な状況だ。
それでも、生きて帰るには行動するしかない。
なんとか気合いを入れて立ち上がる。
少し休んだからか、まだ多少は行動できそうな気がしてきた。
それでも、もうまともに真っ直ぐ歩けない程に衰弱しているのは感じ取れた。
そして、水鳥は壁に寄りかかりながら屋上をあとにした。

壁伝いにゆっくりと歩きながら、水鳥は考えていた。
先程考えていた3択、その行き先に。
この選択肢、実は全て可逆的で、余力さえ残っていれば、全部巡ってもいいのだ。
ただ、あまりにも肉体、精神双方に追い詰められていて、勝手に自分が3択にしてしまっていただけなのだ。
だから、今行くとしたら、ここから最も近いのは実験室。
そんなことを考えて進んでいた。
不意に、何かの音が聞こえた。
自分以外、今誰もいないはずである。
不審に思い、立ち止まって耳をすませてみる。
聞こえてくるのは、よく聞き覚えのある、マナーモードの携帯の振動音である。
もしかしたらと思い、なんとか音のする方へと進んで行く。
その音の発信源は図書室、しかも幾度となく見た筈の読書スペースの机で、自分の存在をアピールしていた。
記憶が正しければ、つい数時間前まで何もなかった筈の場所に、見間違うはずもない、自分の携帯が置かれていた。
何故今になって自分の携帯が置いてあるのか…とにかく重要なものに違いないと思い、やっとの思いで携帯の場所まで辿り着く。
すぐさま中の状態を確認、充電はバッチリ、そして案の定圏外、それにもかかわらず見知らぬ不在着信が2件あった。
一応、電話がかかるか試してみるため、電話帳から親の携帯にかけてみる。
結果は予想通り繋がらない。
他にも家の電話にもかけるが、結果は同じ。
そして、あいにくと他に登録済みの連絡先はない。
なので、ダメ元で不在着信に対して折り返しを試みるものの、かかることはなかった。
どうやら、今ここにある携帯は、『いつでも使える連絡手段』から『時間を確認できる物』に成り下がっているようだ。
それでも、今まで正確な時間がわからなかったので、一応はあったほうがいいものなのだが、残念なことに脱出するためのアイテムにはならなそうである。
ついで言うと、充電器もないのでいずれ電池切れになってしまうが…それよりも早くこちらの命の灯の方が先に切れそうではある。
何はともあれ、今の時間を確認。
時刻は18:19、気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。
慌てて鞄の中から懐中電灯を出して、電源を入れる。
さて、まだこれから探し物をしなければならないのに、暗くなって探しにくくなってしまった。
余裕があれば日を改めて引き上げるのだが、今の自分が明日まで持つとは到底考えられなかった。
そうなれば、必然的に強攻策を取るしかないわけで…
水鳥は溜息をつくと、再び目的の場所へと進んで行くのだった。

で、一応目的地の実験室の前に辿り着いたのだが、予想通り鍵がかかっており、中に入ることはできなかった。
どうせ誰もいない異世界なので、無理矢理入り口をこじ開けるなんてことも考えられたが、果たして今それができるかと言われると、衰弱している自分では無理だろう。
そんなことに体力を使うよりも、他を当たる方が賢明だ。
なので、水鳥は次の目的地に向かって行くのだった。

衰弱した体を庇いながら、水鳥は階段を降りていた。
今まで、これ程までに階段が辛いとは思わなかった。
ましてや、下りで苦労しているのに、上がるのはもう無理なのではないかと思うくらいだ。
それでも、もう上がることはおそらくないだろう、それが唯一の救いだろうか。
そして、もう1階へ降りてこようという時だった。
突然、学校内に声が響き渡った。
よく聞いてみると、下校時刻放送のようだ。
今まで惰性で学校に来て、用事がなければすぐ帰っていたので、初めて聞くものだ。
とはいえ、少なくとも昨日の時点ではこのような放送は無かったはずである。
何故今になってこんな放送が流れたのか…
誰か他の人がこの平行世界に来たのか…にしては、この放送の意図が分からなさすぎる。
だとすると、これは何らかの最終警告なのではないか、もしくはラストチャンスなのではないかと、そう思った。
そうであれば、この放送内容にある19時までが制限時間、それを逃すともう後はない。
でもどうすればいいのか…
もし、この瞬間だけ「扉」が開いていたとしたら…
今の時刻は18:46、つまり残り14分、何でもいい、急がなくてはならない。
そう思い、水鳥は学校の校門へと急ぐのだった。

時刻は18:49、校門前。
普段ならものの1、2分で着きそうな場所へ辿り着くのも一苦労する。
それでもやっとの思いでそこに辿り着いた水鳥は、今なら外に出ることができるかどうか突破を試みる。
しかし、前回同様によくわからない何かによって押し戻されてしまう。
結果、どうやらハズレらしい。
まあ、アタリなんてあるかどうかもわからないのだが。
ただ、今は時間を無駄にするわけにはいかない。
あと思いつくのは…図書室か屋上か…
厄介なことに、どちらも階段を上らなければならない。
一縷の望みにかけて、大きな絶望感を抱えつつ水鳥は次なる目的地へと向かった。

時刻は18:55、図書室前。
もう普通に階段を上ることはできず、腕も使いながら這うようにしてここまで辿り着いた。
そのせいか、今まで着ている制服はかなり汚れていた。
それでも、最後の力を振り絞って図書室の前までやってくることができた。
だが、その苦労とは裏腹に、図書室にも何も変化はなかった。
一応、出入口を確認するが、出入りしたところで何も変化はない。
他にも本棚を見て回ったが、これといったものはない。
ここもダメなら、時間的にもあと1ヶ所、しかも近場しか行くことができない。
幸いなのは、最後の目的地である屋上がやや近いことだ。
迷っている暇はない。
水鳥は意を決すると、もう殆ど力が残ってない体を引っ張りながら、屋上へ向かった。

時刻は18:58、屋上。
ここへも階段を這うようにして上りきり、屋上の様子を確認する。
外は既に真っ暗で、左手に持っていた懐中電灯をかざしても何も見つからない。
でも、1番確認しなければいけないのは階段から見て裏側、魔法陣を描いた壁。
回り込んで魔法陣を確認するが…何も変わったところはなかった。
右手に持った携帯で時間を確認……18:59…
もしここで、再び詠唱をしようとしたところで、終わる頃には19時をまわってしまっているだろう。
つまり、今から行動しても無意味…ゲームオーバー、そしてバッドエンド…
思えば、あの放送を聞いた時に、何故このような行動をとったのかと…
実のところ、あれが脱出までの制限時間であると誰が決めたのか…
今思えば、全てにおいて「if」の話であり、無意味な行動に全力を尽くしていただけである。
そして、その結果として、無駄に体力を消耗してしまった。
実際、この後何か行動できる程の余力はもう残っていない…
そう思った瞬間、今までの疲労感、そして絶望感が重くのしかかり、立っていられなくなっていた。
思わず、体を支えるべく右手で魔法陣がある壁に手をついた。
その瞬間、右手に持っていた携帯は壁に吸い込まれるようにスッと消えてしまった。
それと同時に、そこには壁があるにもかかわらず、まるで何もないかのようにスルリと右手が吸い込まれていった。
その結果、虚空に体を預ける状態になり、なす術なく壁に倒れかかってしまう。
だが、体も壁に突っかかることなく、壁を抜けてしまった。
壁を抜けた瞬間、急に視界が真っ白になった。
それはまるで、闇の世界から光の世界へとワープしたような感覚だった。
そして、なんの支えもなくドサリと地面に倒れ込んでいた。
しかし、今の状況を把握することすらできない程弱っていた水鳥は、そのまま昏倒してしまった。






 

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最終更新:2019年01月30日 21:33
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