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いちご #19

 
「隠者(ハーミット)ですって⁉︎」
白衣の女性の言葉に対して、水鳥が知らない方の3年生の女子生徒が驚きの声を上げていた。
しかし、水鳥にはそれが何を意味するのかが理解できなかった。
そんなことには構わず、白衣の女性は言葉を続ける。
「でも、アナタ自身ではなく、アナタの持っている鞄の中から感じるわね」
咄嗟に、水鳥は肩に掛けている鞄の紐を強く握り締める。
少なくとも、魔導書の存在に気付かれているらしい。
でも、目の前にいる白衣の女性が、味方である保証はない。
それを考えると、何もしない、何も言わない方が賢明だと水鳥は思い、沈黙を決めていた。
白衣の女性は、それを気にする様子もなく話を続ける。
「ま、少し想定外のことはあったけど、さっきの話を続けるわね」
白衣の女性が話し出そうとしたとき、もう一人の女子生徒がこちらに来た。
「あ、秋枝さん、ちょっと…じゃなくて大変なことが起きて…」
ん、この人は確か同じクラスにいたような…名前は分からない。
相変わらず、クラスメイトの認識が酷い水鳥である。
「あら、アナタもなのね」
もう一人の言葉を遮るように、白衣の女性は言葉を放った。
「ぇ、何か知っているんですか?って、水鳥さん⁉︎」
その女子生徒は、こちらを見て驚きの声を上げていた。
その様子を見て、白衣の女性は何かを察したように語りかけた。
「……訳ありみたいね、一度場所を移しましょうか」
白衣の女性の提案に3人とも同意し、4人で校内へ向かった。

白衣の女性が向かった先は保健室、服装から考えても妥当な場所だろう。
白衣の女性は3人に適当な場所に座るように促した。
「訊きたいこともあるでしょうけど、落ち着いてまずはアナタ達の名前を教えてもらえるかしら?」
白衣の女性の言葉に、3人は各々の自己紹介をする。
最初に自己紹介したのは、3年生の女子生徒だ。
「私は栗原秋枝、この中では唯一の3年生だゎね」
次に、同じクラスの女子生徒の自己紹介。
「私は藤ヶ谷小春です」
水鳥も軽く自己紹介をした。
「把握したわ、ああ、私は桜悠依、気軽に悠依先生とでも呼んでもらえればいいわ」
3人の自己紹介を訊き終わった白衣の女性も、自己紹介をした。
「さて、色々訊きたいところなのだけど、先にアナタ達の疑問に答えましょうか、状況を理解していない人もいるみたいだしねぇ」
そう言いながら、視線を水鳥の方へ向ける。
それに対して、水鳥は再び沈黙を決め込んでいた。
「ぇっと、では訊きたいことがあるんですけど…」
最初に口火を切ったのは小春という女子生徒だった。
「あの、第1競技が宝探し?だったと思うんですけど、周りの皆さんは誰も覚えていないらしくて…」
それがどういうことなのか、水鳥には理解できなかった。
「それは「制約」が解けているからなのよ」
「「制約」、ですか?」
「そう、今回の件、「制約」が解けていない者は記憶の修正、改竄を受けている状態なの」
「私たちは確か、クー…私の友人に「制約」を一時的に解かれている状態だゎね」
「そう、ですね」
そう言って、小春は秋枝と互いに目を合わせる。
「それで、何故記憶が修正されたのですか?」
「そうね、それはもう1つの質問となるチームメイトの所在と繋がるわね」
悠依の言葉に、秋枝はすぐさま反応した。
「まずは、今何が起きているかを説明しましょう」
ここまで若干置いてけぼりだった水鳥も、その言葉に耳を傾ける。
「今回の件では、学校全体に結界が張られていたわ。そして、つい先程その結界が発動したの。その結界は、「制約」が解かれている特定人物を異世界に送る効果を持っていたわ。私はそれに気付いて対抗手段を講じたのだけど、3人だけ間に合わなかったわ、ごめんなさい」
悠依は申し訳なさそうに謝った。
「そして、「制約」が解けていない者は、何が起きたかを理解することができず、記憶の修正を受けてしまうの」
説明されても、水鳥には何の事か理解できなかった。
そもそも、「制約」とはなんなのかすら分からない状態だった。
しかし、1つ理解できたことはある。
少なくとも、今の自分は「制約」の影響下にない状態であると。

「1つ訊きたいことがあるわ」
唐突に、秋枝が言葉を発した。
「何かしら?」
「この結界かなんかに私達は含まれていたわけ?」
「いいえ、結界発動時点でアナタ達が制約が解けていることに気付いてないわ、私も「首謀者」もね」
「だったらおかしいわね、なんで、同じ時期に「制約」が解けたクーだけ対象に入ってるの?」
秋枝にとって、一番の疑問点はそこだった。
何故、クーは対象に含まれていたのか。
自分達も対象になっていたらまだ分かる。
いっそクーと一緒に異世界に行ってた方が良かったとも思っていた。
なのに、なんで…
「簡単な話よ、彼女は過去に「制約」が解けていた時期があるの」
悠依からは、自分の予想を超えた回答が返って来た。
「彼女には生まれ持った能力があることは知って…いるわね?」
悠依の質問に秋枝と小春は頷く。
といっても、数日前に知ったばかりのことだが。
「その制御をするために、一時期「制約」が解かれていたわ、もっとも制御出来ないみたいだから、もう一度「制約」が掛けられたみたいだけど」
自分の知らないクー…黒乃の過去を聞き、秋枝は悔しい思いをする。
黒乃のことは何でも知っていると思っていた。
でも、実際には次から次へと自分が知らない真実が出てくる。
このあいだだって、黒乃が悩んでいることを知らなかった。
友人なら、少しくらい相談してくれたっていいのに…
だからこそ、今まで何も言ってくれなかったことが、とても悔しかった。
「さて、私もアナタ達に訊きたいことがあるの、アナタ達がどうやって「制約」が解けたのかを、ね?」

かくかくしかじかとは便利な言葉である。
それはさておき、秋枝は今まで起きたことを悠依に説明した。
「そう、アナタ達は篠崎さんと共に、そこにいる水鳥さんを助けるために行動して、結果として一時期に「制約」を解かれているのね」
悠依の言葉に、秋枝と小春は頷いた。
「それじゃ、水鳥さんはどうやって「制約」が解けたのかしら?まあ、訊くまでもなく、アナタの鞄の中に答えがあると思うけど」
そう言って、悠依は水鳥に視線を向ける。
水鳥はそれに対し、どうするべきか迷っていた。
魔導書の存在を公開するか否か…
しかし、今までの会話から、非科学的な事象も案外受け入れられるのかもしれない。
それに加えて、今のところ悠依という人物は、おそらく敵対的な人物ではない。
水鳥はそう思い、自分の鞄の中から魔導書を取り出した。
「なるほどね、アナタはそれを手にしたことによって「制約」が解けたわけね」
悠依は、表紙に何も記載されていない本を見て、合点がいったかのように頷く。
「水鳥さん、それは何ですか?」
水鳥にとって意外な場所、小春が質問をしてきた。
なんやかんやとは便利な言葉である。
それはさておき、水鳥は今までの経緯を大まかに説明した。
ただし、魔導書の本当の「使い方」は伏せた状態で。
「そんなことがあったんですね…」
小春は、なんだか申し訳なさそうに言葉を発した。
「水鳥さんは災難だったわね、その代償に見合った物を手に入れたみたいだけど」
確かに失ったものは多い、取り返しがつかないものだらけで…
水鳥の状態を察してか、悠依は話題を切り替える。
「さて、訊きたいことは全て聞いたから、本題に行きましょうか」
「本題って、どういうことですか?」
悠依の言葉に対し、小春が尋ねた。
「今、異世界にいる3人のことね」
「っ⁉︎クーを助ける方法があるの⁉︎」
悠依の言葉に、秋枝が思いっきり食い付いてきた。
「申し訳ないけど、「私」はその手段を持っていないわ」
「そう…だゎよね」
悠依の言葉に、秋枝は落胆していた。
助ける方法があるなら、どんなことだっていいと秋枝は思っていた。
だが、その方法は無いと言われてしまえば、自分にはどうすることもできない。
しかし、別のところから、意外な言葉が飛び出してきた。

『方法なら、ここにあるわ』







 

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最終更新:2019年02月02日 20:50
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