アットウィキロゴ

いちご #16

 
「じゃ、そういうわけで、とりあえず今後使う部屋を決めなきゃならんな」
姫乃という少女はそう言うと、水鳥に対してついて来るように促した。
「ヒメ、それはいいのですけど、この子の名前聞いてないのですよ?」
「あー…うん…そうだな、ってなわけで、名前を教えてくれないか?」
「ヒメ、訊き方が悪いのですよ?」
「うるしゃい…くそう、噛んじゃったじゃないか」
「今のは可愛かったのです」
「あーもう、そういう話はいいから…」
・・・閑話休題・・・
「さて、あらためて名前を教えてもらおうか」
水鳥は戸惑いながらも自分の名前を伝えた。
「ふむ、いい名前だ」
「鳥、小…ではコトリちゃんなのですね」
「待て待て待て、そこでオカ研の流儀を使うなし、というか部員でもないし、そもそも流儀に則ってねえじゃねえか」
「でも、なかなかいい呼び名なのですよ?」
「あながち悪くないってのが微妙に腹たつわー」
なんだかよくわからないので、水鳥はそのことについて尋ねた。
「ああ、これはやや身内の話になるんだが、オカ研内ではあるルールに則って名前を呼んでいてな、それは苗字の最後と名前の最初を使うってことなんだが」
「それで、コトリちゃんの場合は、「鳥」と「小」だったので、コトリちゃんなのです」
「本来逆にしたりしないんだがな」
「あと、ボクの場合は「天使」、ヒメの場合は「歌姫」なのです」
「他には部長、代理、女神がいるな、もっともそんな呼び方使わんけどな」
「顧問のセンセーはまさに「先生」なのです」
「なんでこんなきっかり上手いこと行くんだか…」
「きっと運命なのですよ」
「まあ、そっちの話はいいから、とりあえず部屋行くか」
そんなわけで、水鳥は姫乃に促されて部屋へと向かった。

「で、部屋が2つあるからどっちか選んでもらうわけだが、まずはどんな部屋か見てもらうつもりだ」
そう言って姫乃は水鳥を部屋へ案内した。
「余計な気を使わせないために先に言っておくと、両親は既に事故で他界しててね、この部屋はその母親の部屋だ」
そう言って姫乃は部屋のドアを開けた。
「基本的にはこっちの方がオススメだな、客観的に見て特徴のない部屋だし」
姫乃の言う通り、ベッド、テレビ、タンスはあるが、水鳥が個人的に見ても大きく目立つ物はなかった。
「で、なんで使亜が付いてきてんの?」
「お目付役なのですよ、ちゃんと部屋の案内できてるのですね」
「余計なお世話だ…」
水鳥はこのやり取りを見て少し羨ましいと思った。
自分には、そういったやり取りをできる知り合いなんていないのだ。
「さて、一応もう片方の部屋へ行きますか」
そう言って、姫乃は水鳥を別の部屋へ案内するのだった。

「さて、こっちは父親の部屋兼書斎だったところだが…今は特殊な書庫みたいになってるから、あまりオススメできんが、一応案内しとくから」
そう言って姫乃はドアを開ける。
部屋の中は姫乃が言った通り、本棚が沢山あった。
そして、水鳥は本棚のとある本に目を奪われていた。
「ちょっとした個人的な趣味で、特殊な本もあるんだけど…」
その言葉は、水鳥の耳には届かなかった。
何故なら、水鳥にとっては物凄く見慣れた本があったからだ。
それはTRPGのルールブックだった。
そこには、様々なシステムのルールブックが置かれていた。
それだけでなく、自分のお小遣いでは手の出せないサプリメントもズラリと並んでいた。
「・・・た・で・?・い・・うぶ・のです?」
水鳥は呼びかけにハッと気が付き、そちらの方へ向いた。
そこには心配そうな使亜の姿があった。
「大丈夫なのです?涙が出ているのですよ?」
自分でも気付かないうちに涙を流していたらしい。
姫乃はハンカチを水鳥に渡しながら訊いてきた。
「差し支えなければ、訳を聞きたいところなんだが…今は無理か?」
水鳥は何も言わず、首を縦に振った。
「ま、とりあえずこの部屋のベッドにでも座って落ち着こうか」
姫乃の提案に2人とも頷いて、3人は部屋の中へと入っていった。

「すまん使亜、小夜さんを少しだけ見ててくれん?ココアでも持ってくるわ」
そう言って、姫乃は颯爽と部屋を出た。
少し経って、姫乃は3人分のココアを持って戻ってきた。
「待たせたな、持ってきたぜ」
「というか、ヒメはココアが好きなのですね」
「人の嗜好にケチつけなさんな…で、小夜さんは落ち着いた?」
水鳥は軽く頷く。
何故涙を流したのか…最初は自分でもわからなかった。
でも、落ち着いたことで、その理由は自分の中ではっきりしていた。
そして、だからこそ全て打ち明けられると、そう思った。
「で、訊いても大丈夫なのか?」
再び水鳥は軽く頷く。
そして、水鳥は2人に話した。
TRPGが大好きであること。
そのせいで他人に理解されず、友人がいないこと。
今までシナリオを沢山作ってきたが、それを使うこともなく焼失してしまったこと。
ついでに、今まで出てきた小ネタに気付いていたこと。
「おう…てか、気付いてたんかい、それはそれで小っ恥ずかしいんだが…」
「でも良かったのです、ここには理解者が2人いるのです、運命的なのですよ」
「ま、これがTRPGのシナリオだったら、小夜さんはヒロイン枠だな」
初めて…初めて自分の趣味が合う人物と出会えた、その喜びなのか感動なのか、水鳥の目に涙が溢れてきた。
「さて、折角ならアレやっておきますか」
そして、姫乃は水鳥の目の前に行き、手を差し伸べながらこう言った。
「案内役は小茶歌姫乃が務めさせていただく、新たなる生活、とくとお楽しみあれ」






 

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年02月02日 20:27
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。