airain は青銅のこと。現代フランス語辞典にも(時には古風な語として)その意味で載っているものがある。
DMF にも Bronze (青銅)とある。arain はその綴りの揺れ。
17世紀初頭の DFE では Brasse と英訳されているが、現代の Oxford-Hachette French Dictionary (4th ed.) では Bronze と英訳されている。
brasse というのはもちろん現代英語の brass (黄銅、真鍮)だが、『ジーニアス英和大辞典』によれば、英語の bronze は18世紀にフランス語から流入したものであり、それ以前の bronze は brass に含まれていたという。
だから、DFEに brasse とあるからといって、airainが黄銅(真鍮)を意味したと考えるのは早計だろう。
「青銅」は銅と錫の合金、「黄銅」(真鍮)は銅と亜鉛の合金である。
なお、少なくとも現代フランス語では、d'airain というと字義通り「青銅の」という意味のほか、「非情な」「堅固な」という意味も持つ。日本語でいう「鉄面皮」に当たるフランス語は front d'airain である。
また、日本語の場合、「青銅色」というと字面から緑青などを想起しかねないが、英語やフランス語で青銅の色といえば、それは赤褐色などを指す。
オリンピックの「銅メダル」が英語で Bronze medal と呼ばれていることを想起すれば、そのあたりは分かりやすいだろう。
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【画像】 ソチオリンピック銅メダル(レプリカ)
ノストラダムス関連
初期の版本では ærain と綴られることが多いが、古語辞典の類ではこの綴りの揺れは見当たらない。
それでも、airainと同じであることには異論がない。
airain の語源は俗ラテン語の aeramen なので、aerain という揺れは十分に想定内だろう。実際、
マリニー・ローズはラテン語 aeramen から説明している。
詩百篇集には arain が使用された例もあるが、上掲の通り、それは辞書類でも綴りの揺れとして掲載されている。
しかしながら、日本では
大乗訳でも
山根訳でも「真鍮」(一部で「銅」)が使われている。
大乗訳の場合、元になった
ヘンリー・C・ロバーツの英訳で brass が使われているせいだろう。
ロバーツは
テオフィル・ド・ガランシエール訳(1672年)をしばしば安易に引き写しているので、これもそうした事情によると思われる(大乗訳で「銅」となっている
詩百篇第5巻19番ではロバーツの英訳で copper が使われている)。
上述の通り、英語では18世紀まで bronze が存在しなかったので、ガランシエール訳で brass (あるいは brazen)が使われているのは何もおかしくはない。
しかし、それを20世紀になってもそのまま brass としてしまうのは問題がある。
山根訳の場合も元になった
エリカ・チータムの英訳で brass が使われていることに影響されたのだろう。
チータムはしばしばレオニの英訳や語注を安易に引き写しているので、これもそうした例と考えることができる。
レオニがどういう判断で brass と英訳したのかは分からない。しかし、どのような理由であれ、すでに現在では支持できないものといえるだろう。
なお、「真鍮」(黄銅)はフランス語で laiton という。
『予言集』では laiton の使用例はないようだが、彼が口述した
遺言補足書には、真鍮を意味すると思われる leton が登場する。
登場箇所
aerain, airain
arain
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最終更新:2015年10月06日 01:47