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巡りゆく星たちの中で > 三つ巴

糸が裂けた瞬間、空気が跳ねた。

壁の裂け目から押し出されたそれは、形を決めきれないまま床に落ち、無数の節を打ち鳴らした。白い繊維が絡まり、ほどけ、金属片を吸い込みながら即席の肢体を組み上げていく。音が遅れて届く。重い。だが質量は一定しない。

ASTER-Bが最初に動いた。

彼女は踏み込み、床を滑るように距離を詰める。武器は抜かない。右手を低く構え、相手の動線だけを切る。糸の束が跳ね、彼女の肩を掠めた。装甲が焼ける匂い。表示が赤く瞬く。

ASTER-B「来る」

声は短い。警告ではなく、事実の報告。

ASTER-Aは遅れて動く。半歩、後ろ。射線を外し、塔の柱を背に取る。視界の端で、糸が分岐するのが見えた。三方向。同時。避ければ追尾する。斬れば増える。

引き金に指をかけない。代わりに、床に散った破片を蹴り上げた。破片が空中で弾け、糸の一部が絡み取られる。拘束は一瞬で解けるが、その一瞬で十分だった。

ASTER-Bが距離を詰め、相手の中心に膝を叩き込む。手応えはない。だが衝撃は伝わる。糸の束が波打ち、形を崩す。

AYANE「過剰な破壊を検知。出力を落として」

KAEDE「推奨出力に達していない。効率低下」

IZUMO「……追加観測」

声が重なり、ASTER-Aの視界が揺れる。だが彼女は止まらない。糸の動きに合わせて、呼吸のように歩幅を刻む。斬らない。断たない。進路だけを消す。

糸が彼女に向かって伸びる。避けない。避けると、ASTER-Bが挟まれる。

ASTER-Aは腕を差し出し、絡ませた。装甲の上で糸が熱を持ち、感覚が跳ねる。痛みではない。計測不能な圧が、内部を擦る。

その瞬間、糸の内側から情報が流れ込む。意味のない列。だが、その中に、断片が混じる。

待て。

ASTER-Aは歯を食いしばるふりをして、腕を引いた。糸が引きずられ、床に叩きつけられる。ASTER-Bがすかさず踏み込み、相手の中核と思しき結節に手を突っ込む。掴まない。触れるだけ。

糸が悲鳴のような振動を発し、塔の壁が震える。天井から灰が落ちる。

ASTER-Bの足元が滑った。糸が絡み、引き倒そうとする。

ASTER-Aは考えない。体が先に動く。彼女は糸を踏み、重心を預け、引き戻す。二体の間に張られた力が、相手の形を引き裂く。

引き裂けない。だが、ほどける。

糸がばらけ、結節が露わになる。そこに、かすかな光。記録子。生きているかどうかは分からない。だが、壊せば終わる。

ASTER-Bの指が、光に伸びる。

ASTER-Aはその手首を掴んだ。強くはない。止めるには足りない力。

ASTER-A「見る」

ASTER-Bは一瞬だけ、振り返った。視線が交わる。同じ顔。違う決断。

糸が再び集まり、二人を包もうとする。

ASTER-Bは舌打ちの代わりに息を吐き、光から手を離した。代わりに、床を蹴る。跳ぶ。ASTER-Aも跳ぶ。二体は同時に距離を取り、瓦礫の影へ転がり込む。

糸の束は、標的を失い、空を掴む。振動が弱まる。形が崩れる。

塔の中に、短い静寂が落ちた。

通信がまた息をする。

IZUMO「……保留」

AYANE「退避を」

KAEDE「再交戦を推奨」

ASTER-Aは立ち上がり、腕の焼け跡を見る。ASTER-Bは何も言わず、次の動線を見ている。

まだ終わっていない。

だが、壊れてもいない。

二体は並び、同時に一歩を踏み出した。
最終更新:2026年02月04日 04:57