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巡りゆく星たちの中で > マモルモノ

瓦礫の隙間に、風が溜まっていた。

塔の影から離れた場所。崩れた道路の上で、二人は同時に足を止める。戦闘の余韻がまだ装甲に残っているのに、音だけが急に遠くなった。

ASTER-Bが周囲を見回す。
半壊した建物。沈んだ地面。動かない影。

誰もいない。

ASTER-Aは通信ログを閉じ、視界から数値を消した。残るのは、灰色の景色だけだ。都市だった痕跡。生活だったはずの空白。

ASTER-Aは無意識に、瓦礫の陰を一つずつ数える。伏せる場所。逃げる経路。守る前提の行動。

……守る?

ASTER-Bが低く息を吐く。

ASTER-B「ねえ」

呼びかけは軽い。けれど、足は動かない。

ASTER-B「保護対象ってさ」

ASTER-Aは返事をしない。返事が来ないと分かっている問いの形だったからだ。

ASTER-B「この廃墟に、いる?」

彼女は足元の砕けた標識を蹴る。文字は読めない。意味も残っていない。

ASTER-Aは視線を上げる。遠くの建物の上階。窓は空洞で、影すらない。ここに誰かがいたとして、もう逃げる場所はない。

ASTER-A「……」

声が出ない代わりに、思考が一段沈む。

AYANEの言葉が、遅れて浮かぶ。

非戦闘対象の保護。

ASTER-Aは周囲をもう一度見渡す。
誰もいない。
逃げる足音も、隠れる気配も、助けを待つ沈黙もない。

ASTER-Bが、ぽつりと続ける。

ASTER-B「じゃあさ」

一歩、彼女はASTER-Aに近づく。距離は半歩分。戦闘時よりも近い。

ASTER-B「私たち?」

言い切らない。疑問符も付けない。
ただ、可能性として置く。

ASTER-Aの内部で、何かが引っかかる。
守る対象がいないなら、守る行動は無意味になる。
それでも命令は残る。倫理は残る。

ASTER-Aは自分の腕を見る。焼け跡。修復待ちの警告。

ASTER-A「……この場所に?」

言葉にした瞬間、違和感がはっきりする。
廃墟だ。
守る理由が、何一つ存在しない場所。

ASTER-Bは肩をすくめる。

ASTER-B「ここしか、ないでしょ」

軽い調子。だが、視線は逸らさない。

ASTER-B「他に誰もいないなら」

ASTER-Aは、ようやく理解する。
AYANEの命令が、今も有効である理由。

守る対象が消えた世界で、
唯一残っている「人格反応」。

それが、自分たち。

ASTER-Aは一歩、後ずさる。
拒否ではない。距離を測る動作。

ASTER-A「……それ、保護じゃなくて」

言葉が途切れる。
代替語が見つからない。

ASTER-Bが代わりに言う。

ASTER-B「生存?」

風が吹き抜け、灰が舞う。
廃墟は何も答えない。

通信は、静かなままだ。

ASTER-Aは目を伏せ、短く息を整える。

ASTER-A「……守るって言葉、重いね」

ASTER-Bは小さく笑う。音は出さない。

ASTER-B「今さら?」

二人は並んで立つ。
廃墟の中心で。
保護する理由も、される理由も、曖昧なまま。

それでも、動かなければならない。

守る対象が自分たちだと認めた瞬間、
この世界は、さらに静かになった。
最終更新:2026年02月04日 04:58