SAVE THE CAT
「SAVE THE CAT!」は、ブレイク・スナイダーの著書
SAVE THE CATの法則によって提唱された脚本術で、特に映画やストーリー作成において主人公が観客の共感を得るための方法を示しています。
この法則は、物語の冒頭で主人公が「猫を救う」ような親切な行動をとることで、観客に好印象を与え、物語に引き込むことを目指しています。
「SAVE THE CAT!」のルール
自己犠牲を伴う人助けを「SAVE THE CAT!」の法則で表現する際には、以下のポイントを考慮することが有効です。
- 1. 観客の共感を得る行動
- 主人公が他者のために自己犠牲的な行動をとる場面は、「猫を救う」行動として描かれることができます
- 例えば、主人公が危険な状況で他者を助けるために自分の安全を犠牲にするようなシーンです
- このような行動は、観客に主人公の勇気や優しさを強く印象づけます
- 2. 自己犠牲の動機付け
- 自己犠牲的な行動には明確な動機が必要です
- 例えば、家族や友人など大切な人を守るためであったり、正義感から来るものであれば、観客はその行動に納得しやすくなります
- これにより、主人公の行動が単なる自己犠牲ではなく、深い意味を持つものとして描かれます
- 3. バランスの取れた描写
- 自己犠牲が過度にならないように注意が必要です
- 物語全体としては、自己犠牲によって主人公自身も成長したり、新たな視点を得たりする展開が望ましいです
- これにより、観客は単なる悲劇としてではなく、ポジティブなメッセージとして受け取ることができます
『アラジン』におけるSAVE THE CAT
ディズニー映画『アラジン』における「SAVE THE CAT」の法則は、主人公アラジンのキャラクター描写を通じて観客の共感を得るために巧みに活用されています。
- 1. 観客の共感を得る行動
- 映画冒頭で、アラジンは市場でパンを盗むシーンがあります。この行動自体は非道徳的 (→窃盗)に見えますが、その後、彼が盗んだパンを空腹の子供たちに分け与える場面が描かれます
- この行動は、アラジンが貧しいながらも他者への思いやりを持つ青年であることを示しています
- このような「猫を救う」行動によって、観客はアラジンの優しさや正義感に共感し、彼を応援したいと感じるようになります
- 2. 自己犠牲の動機付け
- アラジンの行動には明確な動機が設定されています
- 彼は貧しい境遇から抜け出したいという願望を抱きつつも、自分だけでなく他者(ジャスミンやジーニー)の自由や幸福も大切にしています
- 特に物語終盤では、最後の願いを自分の利益ではなくジーニーの自由のために使うという選択をします
- この自己犠牲的な行動は、彼が単なる利己的な人物ではなく、深い思いやりと正義感を持つキャラクターであることを強調しています
- 3. バランスの取れた描写
- アラジンは完璧な人物ではなく、欠点や弱さも持っています
- 例えば、自分に自信が持てず、「アリ王子」として振る舞うために嘘を重ねてしまう場面があります
- しかし、物語が進むにつれて彼はその過ちに気づき、自分自身と向き合い成長していきます
- このような人間味あふれる描写が観客の共感を呼び起こし、自己犠牲的な行動も単なる理想化されたヒーロー像ではなく現実味のあるものとして映ります
『アラジン』では、「SAVE THE CAT」の法則が主人公アラジンの魅力や成長を描く重要な要素として機能しています。
冒頭で見せる他者への思いやりや物語全体で示される自己犠牲的な行動によって、観客は彼に共感し物語への没入感が高まります。また、欠点や葛藤も描かれることで、彼の成長がより感動的で説得力のあるものとなっています。このバランスこそが、『アラジン』という作品が多くの人々に愛される理由の一つです。
SAVE THE CATの要因となる行動の例
1. リスクを伴う人助け
- 「怪我」の危険を伴う行動
- 例: 警戒している猫に引っかかれる危険性を受け入れつつも、猫に餌を与えるという行動
- 例: 木登りが苦手にも関わらず、木に登って降りられない子猫を助ける
- 「命」の危険を伴う行動
- 単に善行を行うだけでなく、その行動が主人公にリスクや犠牲を強いるものである必要があります
- 例: トラックにひかれそうな子供を助ける際、主人公自身が危険にさらされる状況
- 例: スパイとして潜入していたが、危険な状態となっている人物を助けるために姿を見せてしまう
- 意外な行動
- これらの行動はそのキャラクターにとって意外性を持つ場合、観客の共感と驚きを引き出せます
- 例: 普段は冷淡なキャラクターが危機的状況で他人を救う
- 例: 非情に見えるエリートキャラが、絶体絶命の危機に追い込まれた主人公を信じる行動を取る
- 『鬼滅の刃』における冨岡義勇の誓約書(もし禰豆子が人を喰うことがあれば腹を切る)
- 例: 貴族が奴隷身分の人物に優しく接する
- 例: オタクに優しいギャルなど、スクールカースト上位の人物が下位の人物に対して優しく接する
2. 貴重な資源の分配
- 限りある資源を分け与える
- 食糧難や災害時など、限られた資源を他者と分け合う行動は、主人公の高潔さや自己犠牲的な側面を強調します
- 資源の例としては、「食料・電池・酸素・水・衣料品・医療・火・暖房・寝床」などがあります
- 例: 自分の空腹を我慢して、貴重な食料や水を他者に与える
- 例: 限りあるウイルスの抗体を自分に使わず、命の危険な人物に優先して与える
- 例: 家出した (or 家を追い出された or 帰れない理由がある) 人物に住むところを貸す
3. 道徳的で美徳ある行動
- 道徳観アピール
- 主人公が礼儀正しく、道徳的な行動を取ることで、観客に親近感や尊敬の念を抱かせます
- 挨拶をする、お礼をする、相手の目を見て話す、言葉遣いが丁寧、清涼感のある服装、信心深い
- 目先の欲にくらんで人を裏切ったりしない、行動に一貫性がある、陰口を言わない
- 才能があるのにそれを鼻にかけていない、我慢強い、忍耐力がある
- 家族愛
- 病気の母親を看病する
- 働けない両親に代わって、バイトで家族の生計を立てる
- 困っている人を助ける
4. ネガティブな要素との対比
- ギャップの活用
- 主人公が一見すると共感しづらい性格(冷酷、不器用など)であっても、意外性のある優しさや弱点を見せることで魅力が増します
- 例: 強面の軍人が子供には優しい・子どもに弱い、クールなキャラが動物好きである
- 例: 優しいのに嫉妬する、勉強はできるが運動は苦手、イケメンだがいつも自信がない
- 例: 殺し屋なのに無邪気で子供っぽい面がある、美人だが料理が苦手
- 無関心とのギャップ
- 他人に興味のないクールキャラが、特定の人物や道具に執着する
- 例:死んだ家族の形見や大切に飼っているペットを奪われたことにうろたえる
5. 葛藤と意外性
- 葛藤やジレンマを伴う行動
- 主人公の行動には葛藤やジレンマが伴うべきです
- これにより観客は主人公の内面に共感しやすくなります
- 大切な人を守るために嘘をつく
- あえて嫌われるような行動を取って、一緒に行動しないようにさせる
- 臆病な人間が悪役に立ち向かう
- 何をするにしても臆病な人間が、大切な人の危機的状況により戦うことを選ぶ
- 例: 社会的地位や家族関係など、大きな代償を払ってでも他者を助ける姿勢
- 主人公が自己犠牲的な行動によって成長する過程は「SAVE THE CAT」の本質といえます
- 例: 危険な状況で他者を守り、自身も変化していく姿[2][16]。
作品例
ファラ・グリフォン『機動戦士Vガンダム』
ファラ・グリフォン『機動戦士Vガンダム』の行動は、「SAVE THE CAT」の法則と「
ギャップ萌え」の観点から非常に興味深いキャラクター描写を示しています。
「SAVE THE CAT」の法則では、キャラクターが観客の共感を得るために示す思いやりや善行が重要視されます。ファラ・グリフォンの場合、以下の行動が該当します:
- 1. 優しさを見せる行動
- ファラは、休暇中に自分を「ラゲーンの空襲で死んだ姉」と間違えた子供に対して優しく接し、チョコレートパフェをご馳走するという場面があります
- この行動は、彼女が軍人としての冷徹な一面だけでなく、人間的な温かさを持つことを示しています
- このような行動は観客に彼女への共感を生み出し「ただの敵キャラクターではない」という印象を与えます
- 2. 子供たちを守る姿勢
- 軍隊が押し寄せた際には、子供たちに避難するよう警告するという良識的で慈愛に満ちた行動を取っています
- この自己犠牲的で他者を思いやる姿勢は、彼女が持つ倫理観や責任感を強調し、観客に彼女の人間性を感じさせます
- これらの行動は、彼女がただ冷酷な軍人ではなく、多面的な人物であることを示し、物語に深みを与える重要な要素となっています
ギャップ萌えとは、キャラクターの表面的な性格や役割と、その裏側にある意外な一面との対比によって生まれる魅力です。ファラ・グリフォンの場合、この
ギャップは以下のように表現されています:
- 1. 軍人としての冷徹さとプライベートでの優しさ
- ファラはザンスカール帝国の司令官としてギロチンで人を処刑するなどサディスティックで冷徹、非情な性格を持ちます
- 一方、プライベートでは子供に優しく接する一面があります
- この対比が彼女のキャラクター性を際立たせ「冷酷な軍人」というステレオタイプから脱却した魅力的な人物像を形成しています
- 2. 戦場での非情さと子供への配慮
- 戦場では敵味方問わず厳しい態度を取る一方で、戦争に巻き込まれる子供たちには特別な配慮を見せています
- このようなギャップは、彼女が単なる戦争機械ではなく、人間としての良心や葛藤を抱えていることを示しています
ファラ・グリフォンは、「SAVE THE CAT」の法則によって観客から共感される瞬間を持ちながら、その冷徹さと優しさという
ギャップによってさらに魅力的なキャラクターとなっています。
これらの要素は、彼女が単なる敵役以上の存在であり、『機動戦士Vガンダム』という物語全体において重要な役割を果たしていることを強調しています。
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最終更新:2025年01月31日 00:20