進歩
聖華暦833年 7月16日
僕がこの御屋敷に来て、半年近くになろうとしている。
毎日がほぼ同じ事の繰り返し。それが、僕の日常になりつつあった。
早朝からのトレーニングに始まり、トレーニング、トレーニング、勉強、トレーニング……
ここ二週間は調子が良い。
体力も気力も漲っていると言って良いほどだ。
毎日がほぼ同じ事の繰り返し。それが、僕の日常になりつつあった。
早朝からのトレーニングに始まり、トレーニング、トレーニング、勉強、トレーニング……
ここ二週間は調子が良い。
体力も気力も漲っていると言って良いほどだ。
そして反物質を生み出す訓練も欠かさず行っているけれど、こちらはなかなか上達しない。
暗黒闘気を習得するのにも、少なくとも2年は必要なのだと言う。
それならば、修行を始めて半年そこらの僕なんかがすぐに習得出来るはずも無い。
暗黒闘気を習得するのにも、少なくとも2年は必要なのだと言う。
それならば、修行を始めて半年そこらの僕なんかがすぐに習得出来るはずも無い。
だからその辺はちっとも焦ったりしてないし、師匠からも急かされたりはしていない。
ただ、天才と呼ばれるような人がいるらしく、修行を始めて半年程度で暗黒闘気を習得したそうだ。
ルイーズさん達から聞いたところだと、なんでも暗黒騎士ファリオン卿の御令嬢なのだとか。
ルイーズさん達から聞いたところだと、なんでも暗黒騎士ファリオン卿の御令嬢なのだとか。
ファリオン卿は『神人殺し』の異名を持つ、帝国屈指の暗黒騎士だ。その名は三国に広く知れ渡っている。
『三女神』の使徒である『神人』自体は滅多に人前に現れたりはしないが、現れた場合は大規模な厄災を振り撒くと言われている。
どのような経緯でそんな『神人』と戦って、そして討ち取ったのだろうか。
ともあれ、まさに英雄と呼ぶに相応しい功績だ。
どのような経緯でそんな『神人』と戦って、そして討ち取ったのだろうか。
ともあれ、まさに英雄と呼ぶに相応しい功績だ。
そして父親が凄いとその娘も凄いというか、まあ、僕なんかとは比べ物にならないくらい、才能に恵まれているのだろう。
そもそも、そんな人と比べても仕方ない事だ。
僕は僕が出来る事をコツコツと積み上げていくしかないのだし。
そう思いながら、今も暗黒闘気を身につけようと足掻いている。
僕は僕が出来る事をコツコツと積み上げていくしかないのだし。
そう思いながら、今も暗黒闘気を身につけようと足掻いている。
深呼吸をして気を落ち着かせる。
反物質を体内で練り上げるイメージを強く持つ。
ピリピリと、黒い炎が膨らんでくるのを感じる。
ある一定の大きさに膨らんだ、そう思った瞬間、全身から反物質が噴き出すイメージを強く鮮明に持ち、息を吐いた。
反物質を体内で練り上げるイメージを強く持つ。
ピリピリと、黒い炎が膨らんでくるのを感じる。
ある一定の大きさに膨らんだ、そう思った瞬間、全身から反物質が噴き出すイメージを強く鮮明に持ち、息を吐いた。
何かに全身を包まれる感覚を覚えた。
それはいつか見た、紫がかった黒い炎。
それが、僕の全身から噴き出し、覆われている。
それはいつか見た、紫がかった黒い炎。
それが、僕の全身から噴き出し、覆われている。
「やっ…た、出た……出たぞ!」
喜んだのも束の間、集中の糸がプッツリと切れ、全身を覆っていた暗黒闘気はあっさりと霧散した。
「ああ、しまった。」
一気に脱力し、ぺったりと腰をついてしまった。
足がガクガクと震えて力が入らない。
足がガクガクと震えて力が入らない。
これが暗黒闘気を使う際の代償なのか……
身に纏うほどの反物質を生み出す事は、自分が思っていたよりも消耗が激しく危険なのかもしれない。
身に纏うほどの反物質を生み出す事は、自分が思っていたよりも消耗が激しく危険なのかもしれない。
正規の暗黒騎士はもとより、あのビクトルでさえも平気な顔をして暗黒闘気を行使するのだから、やはり僕の修行はまだまだ足りないのだと痛感した。
けれど、焦りはない。
今出来たのだから、これを安定して出来るようになれば良いんだ。
今出来たのだから、これを安定して出来るようになれば良いんだ。
少しずつでも進歩している事が実感出来ている。
確かな手答えに、僕のやる気はさらに高まっていった。
確かな手答えに、僕のやる気はさらに高まっていった。
*
「ほほぅ、暗黒闘気が出来かけたのか。そりゃ凄いじゃないか。」
ルイーズさんとディックさん、それから幾人かの暗黒騎士見習いと一緒に雑談をしていた。
今は帝国統括騎士會にやって来ている。
今は帝国統括騎士會にやって来ている。
暗黒闘気が出来かかってから3日が過ぎていた。
まだあれから、さして進歩していない。
まだあれから、さして進歩していない。
どうにも上手く反物質が制御出来ていない。
何かコツがあるのだろうけど、それがまだよくわからない。
とはいえ、一朝一夕に出来る事でも無いのは十分に理解している、つもりだ。
何かコツがあるのだろうけど、それがまだよくわからない。
とはいえ、一朝一夕に出来る事でも無いのは十分に理解している、つもりだ。
「おい、ルイーズ!次はお前の番だ、早くしろ!」
「あー、もうかよ。しゃーない、パパっと片付けて来るか。」
そう言ってルイーズさんは訓練用の木剣を掴むと皆の前に進み出た。
今日は暗黒騎士見習い30名が合同で組手を行う事になっている。
暗黒騎士二人が立ち会っているが、見習い達が雑談しているのを止めようとはしていない。
暗黒騎士二人が立ち会っているが、見習い達が雑談しているのを止めようとはしていない。
ここにいる見習いは年齢はほとんど、いや、僕を除いて皆が10代後半だ。
僕が最年少で、一番修行期間が浅い。
この中で僕は若輩者というわけだ。
僕が最年少で、一番修行期間が浅い。
この中で僕は若輩者というわけだ。
まあ、修行期間が長いからといって、それだけ上達しているかと言うと、そうでも無いようだ。
お嬢と呼ばれている女性は見習いになって3年目、暗黒闘気は今年の春にようやく習得したらしい。
ルイーズさんやディックさんでも暗黒闘気の習得には1年9ヶ月かかったそうだ。
お嬢と呼ばれている女性は見習いになって3年目、暗黒闘気は今年の春にようやく習得したらしい。
ルイーズさんやディックさんでも暗黒闘気の習得には1年9ヶ月かかったそうだ。
「はぁ、全く手応えが無かったな。」
「姉さんお疲れ様。」
「え、もう終わったんですか?」
ちょっと考え事をしている間に、ルイーズさんの組手は済んでしまっていた。
「なんだ、全然見てなかったのかよ。」
「それで勝ったんですか?」
ルイーズさんはニヤッと笑って親指を立てて、
「速攻で負けた。」
と言いました。
「勝ち抜けで組手してるのだから、姉さんがここに戻って来たって事を察しろ。」
そういえば組手は勝ち抜けだから、戻って来たのは当然負けたという事か。
「なんか勝って来たような雰囲気でしたけど?」
「気持ちの上では勝ってんだよ。」
「……はぁ。」
なんと返したら良いか解らなくなり、気の抜けた返事しか出来なかった。
「それより、次はお前の番だぜ。」
ルイーズさんは僕にそう言いながら背後を指差しました。
いよいよ僕の番が回って来た。
いよいよ僕の番が回って来た。
これまで師匠以外とは組手をした事がなく、正直、他の暗黒騎士見習いと組手をするのは初めてだ。
当然の事ながら師匠はとても強くて、一度も一本取れた事が無い。
でも、今日の相手は僕よりは修行期間が長いけれど同じ見習いなのだし、ひょっとしたら一回くらいは勝てるかもしれない。
でも、今日の相手は僕よりは修行期間が長いけれど同じ見習いなのだし、ひょっとしたら一回くらいは勝てるかもしれない。
などと不埒な事を考えているようでは、まだまだ未熟な証拠だな。
勝つ事に拘らず、胸を借りるつもりで行こう。
そう思い直して前に進み出た。
勝つ事に拘らず、胸を借りるつもりで行こう。
そう思い直して前に進み出た。
「よろしくお願いします。」
「どっからでもかかって来な!」
相手は僕よりも一回りは体格が良く、木剣を片手で斜めに構えている。
先に4連勝しているので、結構強い筈だ。
先に4連勝しているので、結構強い筈だ。
ここは先手を取って先に仕掛ける事にした。
姿勢を低くして突っ込む。
相手が僕を迎撃する為に木剣を振るう。
姿勢を低くして突っ込む。
相手が僕を迎撃する為に木剣を振るう。
右上から打ち下ろして来るのがすぐに判り、僕は左に躱してガラ空きの脇腹にスッと木剣を刺し入れた。
「ぅはっ!」
僕の一撃は拍子抜けするほど簡単に決まり、僕の勝利が確定した。
「次は俺だな。新入り、覚悟しろ!」
次の相手は木剣を二刀に構えている。
おそらく手数で攻め立てて来る筈だ。
それに左右どちらから打ち込んでも対応されてしまうだろう。
おそらく手数で攻め立てて来る筈だ。
それに左右どちらから打ち込んでも対応されてしまうだろう。
「はっ!」
気合と共に相手が打ち込んで来た。
右の木剣は振りかぶり、左の木剣は横薙ぎに振るってくる。
その剣の軌道も読め、僕は相手の右側から相手の後ろへ抜ける。その際に相手の右太腿を木剣で軽く撫で、背後へ抜けた瞬間に身を翻してその背中を木剣で切り上げた。
右の木剣は振りかぶり、左の木剣は横薙ぎに振るってくる。
その剣の軌道も読め、僕は相手の右側から相手の後ろへ抜ける。その際に相手の右太腿を木剣で軽く撫で、背後へ抜けた瞬間に身を翻してその背中を木剣で切り上げた。
「おわぁっ!」
これで二勝をあげた。
師匠との組手は思いの外レベルが高かったのだろうか?
意外と通用している事に自分でも驚いていた。
師匠との組手は思いの外レベルが高かったのだろうか?
意外と通用している事に自分でも驚いていた。
「よぅし、今度は俺だ。さっきの二人みたいには行かないぜ!」
そう言った相手はというと、一歩も動かないうちに、僕が放った突きを溝落ちに受けて悶絶した。
ひょっとして、僕は結構強いのだろうか?
そんな気になりかけていた。
「あまり調子に乗るなよ、私が相手をしてやる。」
そう言って進み出て来たのは、あまり見たくない嫌な顔。
ビクトル・ライネリオだった。
ビクトル・ライネリオだった。
「格の違いを見せてやるよ。」
「…よろしくお願いします。」
ビクトルは見下すような笑みを浮かべ、木剣を正眼に構える。
次の瞬間には踏み込んで一撃を振り下ろして来た。
僕は咄嗟に木剣で左にいなし、後ろへと下がる。
こちらから打ち込む隙が判らなかったからだ。
僕は咄嗟に木剣で左にいなし、後ろへと下がる。
こちらから打ち込む隙が判らなかったからだ。
強い。
さっきの三人とは雰囲気がまるで違う事は、僕にも判った。
さっきの三人とは雰囲気がまるで違う事は、僕にも判った。
「どうした、逃げるだけか?」
悔しいけれど、その通りだ。
どこにどう打ち込めばいいか判らない。
隙が無い。
どこにどう打ち込めばいいか判らない。
隙が無い。
だけど、彼には負けたくなかった。
だから、こちらから攻める事にした。
僕の持てる限りの力を込めて、出来る限り素早く連続で斬りかかる。
僕の持てる限りの力を込めて、出来る限り素早く連続で斬りかかる。
しかし、ビクトルは涼しい顔で僕の渾身の攻撃を受け止め、いなし、反対に打ち返して来る。
結局、僕は防戦一方にもならず、一撃を肩に受けて、負けた。
「はん、それがお前の実力か。少しはやるようだが、所詮はその程度だ。」
負けた上に鼻で笑われた。
悔しい……。
悔しい、悔しい、悔しい。
悔しい……。
悔しい、悔しい、悔しい。
組手とはいえ、負けた事がここまで悔しいとは思わなかった。
僕は、やはりまだまだ未熟者だ。
もっと、もっと修行をして、強くなる。
強くなりたい。
もっと、もっと修行をして、強くなる。
強くなりたい。