一難去って
「聞いたぞリコス、お手柄だったそうじゃないか。」
開口一番、ルイースさんの一言目はそれだった。
「ただの災難ですよ。」
あれから一週間。
街はすっかり平穏を取り戻した。
街はすっかり平穏を取り戻した。
その代わり、僕はまぁ、ちょっとした有名人になっていた。
第一特務からは感謝(と謝罪)をされ、他の弟子達からも噂され、色々と聞かれたりしている。
第一特務からは感謝(と謝罪)をされ、他の弟子達からも噂され、色々と聞かれたりしている。
「薬キメたジャンキーがトチ狂って連続殺人ってのは、ゾッとしないねぇ。」
この件に、魔族が関わっている事や、警邏の軍人が犯人であった事は伏せられている。
どちらの情報も臣民に不安を与えるだけ、という判断らしい。
事情を知る僕も守秘義務というものが発生していて、みだりな真相を喋ってはいけないとキツく言い含められた。
どちらの情報も臣民に不安を与えるだけ、という判断らしい。
事情を知る僕も守秘義務というものが発生していて、みだりな真相を喋ってはいけないとキツく言い含められた。
「おい、貴様。少々手柄を立てたくらいで良い気になってないだろうな?」
ビクトル(嫌な奴)が来た。
どうにもいちいち絡んで来るのはなんなのだろう。
どうにもいちいち絡んで来るのはなんなのだろう。
「手柄だなんて。捕らえられなかった自分の未熟を痛感しているところです。」
「そうだ、貴様が未熟だったばかりに生かして捕らえられなかったんだ。それを弁えているのは褒めてやる。」
未熟なのは事実としても、本当に何様なんだろう。
いちいち癪に触る物言いしか出来ないのだろうか。
いちいち癪に触る物言いしか出来ないのだろうか。
「精々、精進する事だな。」
それだけ言うと、ビクトルは僕達への興味を無くしたようにさっさと行ってしまった。
「ホント、いちいち嫌味な奴だぜ。」
ルイースさんが吐き捨てるように呟く。
「いやしかし、犯人は警邏になりすましてたってのは、なかなか見つからないはずだな。」
「帝都の警邏は優秀だ、って言ったのはどこの誰だっかなぁ?」
ディックさんにルイースさんが絡む。
ディックさんはプイッと明後日の方向を向いてしまった。
ディックさんはプイッと明後日の方向を向いてしまった。
「皆さん、ご機嫌よう。」
ビクトルと入れ替わるように、今度はリューディアさんがやって来た。
「お聞き致しましたわ。リコスさん、大活躍だったそうですわね。」
「あぁ、どうも。」
段々と返答が面倒くさくなって来ていた為、適当に返してしまった。
「その様子では辟易なさってる様ですわね。まぁ無理もありませんわ、代表達に顛末の報告をした後に入れ替わり立ち替わりで来られたのでは、私だって嫌になりますもの。」
「おま、それ解ってて来たのか?良い根性してるぜ。」
「古来より『人の不幸は蜜の味』と言いますでしょう?」
解ってやって来たリューディアさんも、そう言うルイースさんも、なぜかどこか楽しそうだ。
……オモチャにされてるな、僕。
「それはそうと、貴女達はお聞きになりましたかしら? まだ噂ではあるのですけれど。」
リューディアさんはやや神妙な面持ちとなって、本題を切り出して来た。
「噂?」
「ええ、噂。あくまでも噂の域を出ていませんの。ですが、割と広まっていますから、あながちデタラメでも無いのかもしれません。」
「もったいつけるなよ。その噂ってのは何だよ。」
「ルイースさん、せっかちなのは良くありませんわよ。……自由都市同盟で、大規模な戦乱が発生しているようなのです。」
戦乱……、予想よりも物騒な話が出て来たので少し驚いた。
自由都市同盟はアルカディア帝国よりも南方の大国だ。
自由都市同盟はアルカディア帝国よりも南方の大国だ。
「内乱という事ですか? それとも聖王国と?」
「詳しくは……。ですが、外への侵攻では無い様ですし、内乱とも少し違う様ですわね。」
「何だよ、ハッキリしねぇなぁ。」
「ですから、噂、なのですわ。いずれ今の段階では詮索しても詮無い事ですわ。何か有れば、私達にも出撃する命が下る事になるでしょうから。」
戦乱に対しての出撃命令……、それはつまり、『人殺しをして来い』という事に他ならない。
改めて、先日の殺人鬼との戦い、その結末を思い返す。
人殺し……。
「では私はこれで。皆さまご機嫌よう。」
リューディアさんが去った後も、この先起こり得る戦乱と、人を殺すという事が、頭の中でぐるぐると回って落ち着かなかった。