「なぜなら、おまえもまた“神祖”――九条榛士なのだから」
ついに明かされる最大最悪の真実。 ラグナ・ニーズホッグの正体。それは旧西暦の星辰体研究者、第二太陽の一部と化した九条榛士をオリジナルとして発生した同一存在であるということ。
そして同じく、グレンファルトもまた九条榛士の一部から派生した起源を同じくする同一存在であったのだ。
九条榛士の肉体は目玉が一つと頭蓋の一部、そこにこびりついた少々の脳漿、全体の五分にも満たない肉片しか地に残されていなかった。
しかし直後、その肉片から瞬時に肉体は再生する。爆心地に近い場所で 大破壊を向かえた結果、維持性の限界突破を果たし、不死身の肉体を獲得するに至ったのだ。
これが九条榛士より派生した別御霊、神祖グレンファルト・フォン・ヴェラチュールが新西暦に誕生した瞬間であった。
九条榛士を構成する肉体の九割五分を妹の九条御先や一億数千万の日本国民と共に、第二太陽の構造物と化したままで。
そして、今から9年前の新西暦1027年。
神世界創生のため、 第二太陽への干渉実験を試みていたグレンファルトは奇しくも 第二太陽の構造物と化した 九条榛士との間に微細な共鳴反応を引き起こしたその時に、 まったく別の運命と奇跡的に重なった。
その過程にて 愛しい片割れの 逆襲劇を嗅ぎつけた 死想恋歌と名付けられた 星辰体干渉特化型 人造惑星が不完全ながら起動し、 第二太陽へと干渉したのだ。
干渉自体は不発に終わったものの、さらに同時刻に起きた偶然へとその影響は飛び火した。
そのタイミングに、先の二つの出来事が重なった結果、 生体端末の転送過程にエラーが生じ、本来地球へ訪れるべき二人に代わって別の存在が三次元に顕現した。
本人そのものというべき、どこまでも純粋な別御霊、九条榛士と九条御先が新西暦に舞い降りたのだ。
故に、それがラグナ・ニーズホッグが不可能を可能にしてきた全ての理由だった。
―――九条榛士の別御霊故に、オリジナルの知識と第二太陽に送られた同一存在であるグレンファルトの千年の経験値を参照できるから
―――九条榛士の別御霊故に、オリジナルを通して第二太陽との繋がりから無限の力を引き出せるから
―――九条榛士の別御霊故に、同一規格の星辰体結晶化能力を発現でき、不滅の肉体を破壊可能な性能を宿すことができるから
そう、己も神祖であるが故に、神祖を殺すことができる。単純にして明快な答え、しかしそれは同時に避けられない真実を突き付けていた。
互いに別御霊という関係上、グレンファルトとラグナはお互いの覚醒に引きずられる相互作用を強いられている。
しかし、それは互角の関係ではなく本来の肉体から直接派生したグレンファルトは、 生体端末の転写エラーから派生したラグナよりも 九条榛士と強固なつながりを持つ。
その結果、親機と子機という関係を生みだし、ラグナはグレンファルトと違い、神祖としての特性は不完全なものになっている。
特に肉体の再生能力は明らかに劣等であり、瞬時に再生する性能のないラグナは首を断つなどの致命傷を負っても死なないだけの不完全な不死身でしかない。
そして、この親機と子機という関係は、親機側のグレンファルトを殺せば九条榛士も連鎖的に死に、子機でしかないラグナも連鎖的に死亡するという最悪の事実を示していた。
加えて九条御先が 神世界創生の片割れとなったことから、九条御先とミサキ・クジョウにも 親機と 子機という関係は適応され、神殺しを成すことは自身と片割れの死を招くことになった。
よって神託は最悪の形で告げられる。
おまえは、別れた我らが再会するための“運命”である。
おまえは、人間の世を終わらせるための“終焉”である。
おまえは、全ての人間が神となるための“希望”である。
「なぜなら、おまえは“神祖”――九条榛士なのだから」
これにより二人の終焉は運命づけられた。願い求めた希望は訪れず、未熟な神祖は新たな宇宙の誕生に潰えるはずだったが。
大切な絆達に託された星の結晶が道を照らし、その果てに二人は真なる己を掴み取る――
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ミサキ、俺に神託を授けてくれ |
「おまえは、“運命”であらねばならない」
「おまえは、“終焉”であらねばならない」
「おまえは、“希望”であらねばならない」
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なぜなら、おまえは―― |
「あんたは、ラグナ・スカイフィールド。 私に笑顔を与えてくれた一人の"人間"なんだから」
それは神祖である自分自身と決別し、新西暦を生きる一人の“人間”であることを宣する誓いの言葉。
百の繁栄を生むために、 一の犠牲が容認されるというのなら。
千なら、万なら尚のこと。必要な贄として歓迎されるというのなら。
まして、それが 神祖ならば─── 地獄をこの世に生み出しても、許されるというのだろうか?
明日を掴むために進み続けた自分たちは間違いなく数多の祈りを轢殺する運命の車輪、疑いようもなく神祖の同一存在だ。一層のこと、諸共滅ぶが救いかもしれない。
だけど、そんな自分たちを信じて託してくれる人たちがいた。大切なのだと、守りたいのだと、大丈夫だと言ってくれた絆があった。
償いきれない過ちもあったけれど、あの絶望を前に抱いた想いは今も胸に在り続けている。
新たに掴み取る未来が、悲劇であってはならないように。地獄の先で笑顔の花を咲かせるために。
だからこそ、今この時吼えるのだ。──ふざけるな。認められるか。そんな神祖は糞喰らえだ。
絶望を穿て、噛み砕け。此処は人界。天地の狭間。人間が生きるこの新西暦に神の秩序は必要ない。
猛る宣誓に応えるかの如く、星の結晶が二人の道を照らす。託された祈りに導かれ、ついに全ての神祖は滅び去る。
棄却される神性、その身に宿すのは人の叡智が紡いだ希望。
二人だけでは決して辿り着けなかった星の頂きで、二人は真なる己を掴み取った。
大切な皆の生きる、新西暦の明日を守り抜くために。
すべてを見てきたであろう永劫の旅人と交差する視線。初対面の知らない相手に、神々は初めて答えを求めて問いかけた。
「「おまえ達は、いったい誰だ?」」
――決まっている。何度だって答えよう。
おまえは、託された思いを未来へ繋ぐための“運命”である。
おまえは、全ての神祖を終わらせるための“終焉”である。
おまえは、全ての人間がいつか青空の下で笑顔を咲かせるための“希望”である。
なぜなら、―――
「「 皆と何も変わらない、誰かを愛する“人間”だ! 」」
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