マクベス

登録日:2012/01/25(水) 07:39:27
更新日:2024/08/12 Mon 21:56:29
所要時間:約 9 分で読めます




『マクベス』とは、ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲。
シェイクスピアを代表する”四大悲劇”の一つであり、スコットランド*1に実在した王をモデルにした一種のピカレスクロマン。
氏が作った戯曲の中でもかなり短く、現在知れ渡っているもの自体が短縮版だと分析する専門家も存在する。


【ストーリー】

むかーしむかし、スコットランドにはマクベスという、それはそれはとても強い将軍がいました。
少しばかり気弱ではありましたが、スコットランド王ダンカンからの信頼も厚く、
民や兵士からも「マークーベス! マークーベス! マァァァァックベェェェェス!」と慕われていました。
そんな彼が、コードー領にて謀反を企む反乱軍を鎮圧し、親友である名将バンクォーと共に一足早く帰路についた時のことです。
荒野にさしかかり、馬を休ませようとした2人は3人の魔女に出逢いました。
いきなり彼女たちは『マクベスはやがてコードーの領主、次にスコットランド王となり、バンクォーはその子孫が王になる』という予言をします。
勿論、忠義を尽くす王が健在なのにふざけたことを言われマクベスは怒りました。


好き勝手なことを言い終わると魔女は姿を消しますが、その直後に王より遣わされた使者が現れ、マクベスがコードーの領主に格上げされたことを伝えます。
にわかに魔女の予言が現実味を帯び、マクベスの心に王座への欲望がモリモリと湧き始めるのでした。


マクベス夫人は夫から手紙で魔女の予言を知らされました。
この奥さん、物凄い美人で夫を心から愛し献身的に尽くすタイプしたが、反面とても強欲な野心家だったのです。
夫に力ずくでも王位を手に入れさせられないかと考えている所へ、マクベスの城にダンカンが泊まりがけで宴に来ることが決まりました。

「マッ君、これはチャンスよ? あなたが王になる…ね」

ダンカンの息子であるマルコム太子が次期王位継承者なのはわかりきっています。
夫人は、今こそ国王と太子を暗殺すべきだと夫を煽りました。

そんな恐ろしいことはできないと拒否するマクベスでしたが、恐妻家の彼に本気で逆らう度胸はありません。

大嵐に見舞われた宴の夜、マクベスは人生最後となるパーティーを楽しんで熟睡したダンカンを刺殺します。
そのすぐ後、夫人がマクベスが現場に残してしまった証拠を隠滅して、眠らせていた見張りの兵士に罪をなすりつけるコンビネーションを発揮。
「マクベスは眠りを殺した」という幻聴にビビりまくるマクベスとは対照的に、
夫人は血まみれの手を「洗えば落ちるよ、マッ君♪」と笑うほど肝が据わっていたそうです。
翌朝、王を起こしに行った第一発見者マクダフの大声が聞こえると、2人は何食わぬ顔で騒ぎを聞きつけたフリをして現場に駆けつけました。

父を殺されたマルコムは、昨夜の天候では外部からの侵入は不可能で「犯人はこの中にいる」と推理しました。
王位目的の暗殺なら次のターゲットは自分です。危険を察知し、マルコムは城から抜け出して身を隠します。
こんな状況で姿を消したら、誰だって首謀者だと思います。推理漫画だと、途中で知らない内に殺されていた犠牲者となって出てくるでしょうが。


濡れ衣を着せられたままマルコムは行方を眩まし、マクベスは首尾良く王座に就きました。
ですが、安心はできません。
マクベス夫妻の間に子供はなく、予言通りならいずれバンクォーの子孫に地位を奪われることになります。
今からでも夫人と頑張って子供を作った方が健康的な気もしますが、散歩帰りのバンクォー親子に刺客を差し向けることにしました。
襲われたバンクォーは矢で撃たれても剣で斬られても武蔵坊弁慶状態で反撃を試み、息子だけは逃がすことに成功しましたが、とうとう力尽きて死んでしまいます。


逃がした息子は気がかりですが、父親がいなくなればいつでも始末できると考えたマクベスは上機嫌でした。
(ちなみにこの気がかりは後世現実になり、リアルにシェイクスピアの後半生では「バンクォーの末裔」伝承のあるステュアート家のジェームス6世がスコットランド王を経てブリテン島全土の国王ジェームス1世として君臨しました)
この頃から、次第にマクベスの暴君ぶりが表面化していきます。
無茶苦茶なファシズムが到来し、スコットランドはドンドン荒れていきました。


ですが、ここからが転落劇の始まりです。いや、逆転劇と言った方が正しいでしょうか。
ある宴の席で、いる筈のないバンクォーの幻影を見たマクベスはパニックに陥り激しく取り乱してしまいます。

不安から逃れたい一心でマクベスは3人の魔女のもとを訪れ、また自分の将来を予言して貰うことにしました。

「マクダフなど、薄気味が悪い!」
「我が社としては、バーナムの森が動かない限り安泰ですわ」
「戦っても良いのです。女が産んだ者に、あなたは決して止められません」



予言のバックアップを受けたマクベスは一安心。
警戒すべき相手として、マクベスはさっそくマクダフに軍勢をけしかけました。
魔女がその前女神ヘカテに「あんまりマクベスを持ち上げんじゃねえよ、むしろ落とせ!」と説教されていたことも知らずに…。
この頃になると、夫人すらギョッっとして冷や汗を流すほど狂気の顔をしていたそうです。
しかし、マクダフは既にイングランドへ逃げていたマルコムと現地合流して、マクベス討伐の準備をしていました。
代わりに居城にいたマクダフの一族が皆殺しにされ、それどころか「統括領地に住んでいる」というだけで農民も残らず虐殺されてしまいます。
この凶行は悲しみを怒りに変える結果となり、かえって反抗勢力の打倒マクベスのムードを高める逆効果を生みました。


とても意外ですが、マクベス夫人はこの殺戮にひどいショックを受けたそうです。
悪女な彼女とて人の子でした。

元々「ね…ねぇ、マッ君……さすがに殺すのはマクダフだけでいいんじゃないの…?」と主張しており、度を超した殺戮には抵抗があったのです。
以降、精神の均衡を完全に崩して夢遊病のように城を徘徊し、何度も何度も手を洗う仕草をしていたとか。
さらに、一人でブツブツとマクベスとの会話を再現して、一連の悪事の内容を洗いざらい自白していました。
まあ、今さら真相が判明した所で誰もマクベスには逆らえませんでしたが。
まさしく因果応報ですが、やつれきった末に夫人は死んでしまいます。
自殺か衰弱死かは、いくつかパターンが異なるようです。


殺しすぎて恐怖心を失い「もう何も怖くない、怖くはない」状態だったマクベスも、いくらなんでも妻の死は堪えました。
魔女に関わらなければ、王になろうという欲を出さなければ、尻に敷かれてもそれなりに幸せな家庭を築けていたかも知れません。
周りの人間は続々とマルコム側へ寝返り、従順な者も結局甘い汁を吸いたいだけです。

ここにきて、マクベスは初めて自分の人生の空虚さを悟ります。


もっとも、マクベスほどの大罪人に感傷に浸る時間は許されませんでした。
家来の報告を受け外を見ると、なんとバーナムの森が動いているではありませんか。
予言では、森が動かない限り敗北はありません。そして、普通森は動きません。
だから無敵だと確信していたのですが、逆に言えば森が動けば彼の敗北確定です。
そして、何故こんな怪奇現象が起きたのかというと、マルコム率いる反マクベス軍団が木の枝を身につけ木々に擬態しながら進撃していたのです。
さあ、戦いだ!(CV:政宗一成)


あっさり逃げ出す者、土壇場でマルコム側に寝返る者、そんな兵士ばっかりだったので、マクベス陣営に勝ち目はゼロでした。
ですが、マクベスだって伊達に昔は「軍神」と呼ばれていません。
孤軍奮闘し、向かってくる反乱分子をちぎっては投げちぎっては投げ、次々と蹴散らしていきます。
ケチのつけ始めとなった忌々しいマクダフと対峙し、マクベスは勝ち誇りました。


女性から産まれない人間は存在しません。かのシュワちゃんが出産する映画がありますがそれは未来のお話です。
つまり「女性が産んだ人間にマクベスは倒せない」という予言は、誰もマクベスを倒せないということ。
やはりマクベスは強靱・無敵・最強で、どうしようもないのでしょうか………。











BGMが変わり、マクダフが笑います。
そう! マクダフは母親が自然出産する前に、産道を通らず帝王切開で産まれたのです。すなわち「女"が"産んだ」者ではなかったのです。
マクベスにとってマクダフこそ唯一にして最大の天敵なのでした。


心の弱さによって自ら滅んでいった愚かな元勇者の首を、遂にマクダフの剣がはねました。



国を蝕んだ悪夢は終わり、マルコムが正式にスコットランド王位を継承します。
皆で協力し、本当に平和で素晴らしい国を造ろうと彼らは誓い合ったのでした。
めでたしめでたし。















その頃………。


「いやぁぁぁ~! 私のマクベスが!!」
「みなさん、とっても元気で楽しそうですわ」
「マクベスは、あなたたちのような人を黙らせる為の必要悪だということもわからずに!」




~Fin~



●余談
本作では「マルカムが王になりました」でハッピーエンドだが、実際にはこの後
マクベス夫人の連れ子ルーラッハ「僕が新たな王だ!」→マルカム「よしおまえも倒そう」
という経緯が挟まっており、無事王位についたマルカムも最終的にはイングランドとの戦争で戦死。
結局今度はマルカムの弟や息子達が殺し合う修羅場が繰り広げられたという。





追記・修正は魔女の予言どおりにお願いします。

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最終更新:2024年08月12日 21:56

*1 シェイクスピアの前半生までは彼の住むイングランドとは別の国であり、後半生においてスコットランド王ジェームス6世がイングランド王ジェームス1世も兼任し、以後ブリテン島は彼らスチュアート家の統治下に。そして後の18世紀に完全統合され現在のグレートブリテン王国の基礎となった。