BigRigs: Over the Road Racing

登録日:2011/07/10 Sun 15:02:55
更新日:2025/04/13 Sun 21:30:23
所要時間:約 5 分で読めます




Big Rigs: Over the Road Racing』とは、2003年に販売されたPC向けカーゲーム断じてレースゲームではない
販売元はCall of Dutyなどの名作を世に送り出したアクティビジョン。
日本では発売されていない。


目次


●概要

トラックを操作して、ライバルのトラックや追ってくるパトカーを振り切って目的地まで荷物を運ぶのが目的。


…と、これだけ聞けばやや変則的な普通のレースゲームだが、実はこのゲームは海外では伝説のクソゲーとして名を馳せている。
以下に理由を述べていく。

設定の破綻

ゲームの目的は概要の通り、チェイスをしながらの荷物運搬なのだが、まずライバルのトラックが一切動かない。いつまでたってもスタート地点で静かに佇んでいるだけである。
更にはパトカーが出てこない。なんならデータすらも用意されていない。
というかそもそも、選んだトラックによってはトラックヘッドのみで走り、運ぶべき荷物が存在しない。

つまりやれることは、動かないライバルを尻目にプレイヤーが孤独にコースを走るだけ。


・操作性が悪い

Windows向けのゲームだが、コントローラーなどの外部入力機器が一切使えない。
つまり操作はキーボードのみ。しかもキーコンフィグもできない。
操作感自体も悪く、劣悪なハンドリング性能のせいで非常に運転がしにくい。後述の問題点のせいで大した問題ではなくなったのが皮肉な話である


・明らかなプログラムミス

  • タイトルロゴが右肩下がりに傾いている。
  • Tabキーを押すと、例の動かない敵車に操作が切り替わる。デバッグ用の機能を消し忘れたのだろうか?
    • ちなみに、その状態でもう一度Tabキーを押すとゲームがクラッシュする。
  • 重力や摩擦がおかしく、どんな急坂でも垂直な崖でも地形に沿って平然と突っ走る。なんなら登り坂で加速する
    • そのため、マップ端の崖を乗り越えてマップ外の何もない空間を突っ走ることもできる。
  • コース内には建物などのオブジェクトが存在するが、その全てに当たり判定がない。
    • 建物はすり抜け、橋からも落ちる。でも何故か墜落したヘリにはちょっとだけ引っかかる(見た目のみ)。
  • ライバルトラックにも判定がない。なのでその気になればライバルトラックに完全に重なることも可能。
  • オブジェクトの縮尺もおかしい。民家のドアの幅が大型トラックの幅と同じくらいある。
  • 橋の支柱が地面から浮いている。
  • バックに速度制限がないらしく、バックし続けるとあっという間に音速をも突破する。しまいには光速すらも平然と突破。*1
    • ただしブレーキを押したりバック走ボタンから手を離した瞬間にピタッと止まる。プログラマーは慣性の法則を知らなかったのか?
  • フリー対戦モードでステージを選ぶ際にステージの画像が表示されないことがある。
  • 特定のステージを選ぶとゲームがクラッシュ。ちなみにそのステージはテクスチャすらも用意されていない。
    • 1個目の修正パッチで修正(実際には他のコースをコピペしただけ)……されたかと思いきや、今度は別のステージでクラッシュが発生するように。移植版では修正されたが、今度は選んだステージに関係なく確率でクラッシュする。
  • フリーズも頻発する。
  • ハイスコアの項目があるが、スコアが記録されないので全く意味がない。
  • 荷物を運ぶことが目的なのに、周回(スタート地点とゴール地点が同じ)のコースしかない。
    • これが原因で2レース目以降、スタートした瞬間ゴールする。
  • レース中、画面左上のUIから文字が当たり前のようにはみ出している。

・音が鳴らない

BGMはおろかSEもない。無音の中をひたすら走る。

・初歩的な文法ミス

  • 英語では車(car)の中にトラックは含まれないのに、車両選択画面で「SELECT CAR」と出てくる
  • 勝った時の表記が「YOU'RE WINNER!」。
    • 英語に慣れていないとつい見過ごしがちだが、正しくは「YOU'RE THE WINNER!」。日本語でこのニュアンスを表現するなら、「あんた勝者!」のような「明らかに何か抜けてる」感じになる、と例えればわかりやすいか。本国では本作を象徴する迷言としてひたすらネタにされている。


…などなど、挙げればキリがないほどに問題点が多い。
こんな出来なのにロードは長く、メモリもやたら食う。しかもゲームを止めてもしばらく止まらない。
ゲーム終了後に、なんか挙動がおかしいと思ったら裏でメモリとCPUを食っていたなんてこともザラ。


●評価

このような出来のため様々なレビューサイトで余裕の最低点を叩き出し、あるサイトではレビュアーが呆れのあまりプレイ後建物の外に出て地面に大の字になって寝転がり、あるサイトでは「0点を付けるのも嫌だ」として採点を放棄する事態に。
一部では「最早ゲームとして成立していない以上、クソゲーと呼ぶべきではない」という評価まである始末。

一方、そのあまりに低い完成度からネタ方面での知名度は高く、RTA大会なんかが開催されたこともある。

日本では長らく未発売だったが、あまりの酷さから日本でもネット上ではかなり知られており、動画サイトには日本人による実況プレイ動画なんかが存在する。
気になった方は見てみるのもいいだろう。


●修正パッチ

後にパッチが配布され、最初からこれを適用した修正版も発売されたが、その内容が
  • SEが鳴るようになる。
  • スコアが記録されるようになる。
  • ライバルトラックが動くようになる。
  • 「YOU'RE WINNER!」が「YOU WIN!」になる

……というほぼ無意味な内容。
ライバルが動くのでレースにはなったが、相手がゴール直前で動かなくなるなど意味不明な状況が頻発して結局意味なし。
パトカーに至ってはまだ出てこない。しかも有志がソフトを解析したところ、没になったと思われるスポーツカーのデータはあるのにパトカーはデータすらないことまで判明した。*2
ここまで来ると、開発途中のプログラムが何かの間違いで市場に出てしまったと言われた方が納得できる。

●会社の発売意図?

こんな出来なので当然、会社にはクレームが殺到し、返金騒動にまで発展したそうな。
とはいえ最初から10~20ドル前後の低価格帯シリーズ作品の1つとして発売しているので、金銭的なダメージはそこまで重くはない(あくまで出た当時の話だが)。
だが、低価格なら苦情も少ないだろうという魂胆のもと、最初から騙す気満々で販売していると邪推した説もある。それが本当なら立派な詐欺罪だが、真偽は不明。

ちなみに、販売はアクティビジョンだが、開発元は「Stellar Stone」という会社である。
この会社、共同オーナーであり本ゲームのプロデューサーであるセルゲイ・ティトフ共々問題ありの会社で、2006年に解散している。

●AVGN

あのAVGNでも紹介されたことがある。
基本的にレトロゲームを紹介することの多いAVGNで、2003年発売の、しかもPCのこのゲームが紹介されることは異例である。どうやら多くのリクエストが届いていた模様。
品質管理の存在する21世紀のゲームということで甘く見ていたようだが、プレイするやあまりのひどさに怒りを通り越し呆れ果て、終始苦笑いでプレイ。
総括は「『ジーキル博士の逢魔ヶ刻(AVGNが嫌いだと公言して憚らないゲーム)』ほどのイライラ感は無いが、ゲームとして成立しているかという点でこれに劣るゲームは無い」。
更に、「このゲームをTVCMで宣伝するとしたらこういう風になる」を表現した自主製作のCMまでも制作した。

●今から遊ぶなら

先述した通り定価は安いが、元々の流通量が少なかったのか、現在では定価とは裏腹なプレミア価格で取引されており、おいそれと手に入る代物ではない。出来の悪さを思うとボッタクリなんてレベルじゃない
特に日本で手に入れようと思うと輸入の必要があるため、更に値段が跳ね上がる。

…が、発売から20年以上が経過した2025年4月8日、唐突にSteamで移植された。告知されたのは4月1日だったが、エイプリルフールの嘘ではなく、本当に移植されたむしろ嘘であって欲しかった
これに合わせてトレーラーも新規制作され、障害物すり抜けなどの問題点は巧みに誤魔化しつつ締めは「YOU'RE WINNER!」。

内容はパッチ適用後の最後発版がベースであり、SEは鳴るし敵トラックも動く。ただし「YOU'RE WINNER!」だけはそのまま

これだけでも冗談のような話だが、起動するとわざわざ当時のセットアップウィザードを再現したランチャーが表示され、テキストは好きなように書き換えられる
実績は無駄に51個も用意されているが、ランチャーさえ起動すれば時間経過で全て取得出来るのでトロコン勢にも安心である。

更に、サウンドトラックまで発売された。元からデータだけはあったのか、移植にあたって新規作曲したのかは不明。
一応曲自体はどれも中々良質だが、ゲーム中ではランチャー起動時に順番に流れるのみ。ただのバックグラウンド再生である。

そして、まさかまさかのDLCまで登場
こちらは没データのレーシングカーやバイクで遊ぶことが出来、障害物へのやたら雑な当たり判定追加、前に走っている時に限り坂道での加速廃止など、少しだけマトモなレースゲームに近づいた
…かと思いきや、相変わらず敵はゴール直前で停止する上、こちらはゴールしても「YOU'RE WINNER!」すら出ずにそのまま続行。勝つことしかできないゲームから勝つことすら出来ないゲームになり、ますますゲームらしさが薄れる羽目に
お察しの通りパトカーも出てこない

…とまぁ、色々と斜め上の方向に気合が入ったバカゲーであり、パブリッシャーの本気度を感じられる仕上がりになった。
Steamのレビューでは「伝説のクソゲーが22年越しに移植された」というインパクトもあって「やや好評」の評価を獲得し、タグも「精神的恐怖」「変態」「物理」「ミーム」などカオスを極めている。


追記・修正はこのゲームを楽しめた方にお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • BigRigs
  • アクティビジョン
  • ゲーム
  • クソゲー
  • 採点放棄
  • AVGN
  • 無敵
  • 量子位相分子機構搭載エンジン
  • 超光速ワープ逆回転タイヤ
  • YOU'RE WINNER!!
  • ×レースゲーム ○カーゲーム
  • トラック
  • ゲームのような何か
  • 安かろう悪かろう
  • Steam
  • なぜ売った
  • なぜベストを尽くしたのか
  • なぜ移植した
  • バカゲー
  • なぜDLCを作った
  • ネットミーム
  • 精神的恐怖
最終更新:2025年04月13日 21:30

*1 約1.23×10の37乗mph(約1.97×10の37乗km/h)に達したところで「YOU’RE WINNER!」と表示されるためこの速度が実質的な上限。ちなみにこれは光速(約10億8000万km/h)の約1.82×10の28乗倍、マッハ約1.61×10の34乗

*2 ソフトを持っている人であれば、CarZ.resを7-Zip等の解凍ソフトウェアで開くことで、テクスチャ画像などを確認できる。