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海賊(現代)

登録日:2012/07/24 Tue 21:13:16
更新日:2026/10/28 Wed 23:19:44
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※ 追記・修正の際は海賊が犯罪組織であることを常に念頭に置き、
実在する具体的な組織、人物、および事件等についての記載は
慎重に行ってください。




皆さんは海賊と言うと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。

大抵の人は、大きな船に大勢の荒くれ者が乗り込み、その象徴である海賊旗をマストに掲げ、財宝を求めて大海原を駆け巡る……そんな勇壮な光景を思い浮かべるかもしれない。

しかし、これはあくまでも創作作品によって形作られたイメージである。

現実世界における海賊とは、船舶を襲撃して乗員を脅し、貨物や金品を奪い、時には乗員を人質にして身代金を要求する犯罪者を指す。
人々の生命を脅かし、国際物流にも損害を与える、冒険やロマンなどとは程遠い海上犯罪の実行犯である。

そもそも海賊は、古くから海上交易を脅かしてきた存在だった。海運は大量の物資を運ぶための重要な手段であり、船が襲撃されれば、船員だけでなく船主、荷主、保険会社、さらには物資を待つ消費者にまで被害が及ぶ。
「宝探しをするトレジャーハンター」のような感覚で海賊を見ているようでは、アニメと現実の区別くらいつけろと鼻で笑われても仕方ない。

では、法律上の海賊行為とは、具体的にどのようなものなのだろうか。

日本には海賊行為を処罰するための法律、通称「海賊対処法」が存在する。
同法では、暴行や脅迫などによって船舶を乗っ取ったり、船舶内の財物を奪ったり、乗員を人質にして身代金などを要求したりする行為を、一定の要件の下で海賊行為として処罰する。
また、海賊行為は船舶の乗っ取りや強盗だけに限られない。政治的要求を実現する目的で人質を取るような行為も、法律上の要件を満たせば海賊行為とみなされる。
むろん、船に近づいただけで直ちに海賊行為が成立するわけではないし、凶器を所持して船を出したというだけで、世界中どこでも自動的に海賊と認定されるわけでもない。
具体的な行為が海賊対処法の定める要件を満たしているかどうかが重要なのだ。

国際法上も同様である。国連海洋法条約第101条では、公海などで私的目的のために行われる違法な暴力行為、拘束、略奪などを海賊行為と定義している。
さらに「海賊やったろうぜ!!」と扇動したり、意図的に助けたりする行為も対象に含まれる。
海賊による被害があまりにも酷いため、海賊行為を行う者は人類共通の敵とみなされ、ハイジャック同様の国際犯罪として情け無用の厳罰にされる。
つまり、「あんな国の連中は気に入らねえ!あの国の船を見つけたら乗っ取ってやろうぜ!」と扇動するだけですら、厳罰にされても仕方ないのだ。

海外では、『ONE PIECE』のように海賊を主人公とする作品について、犯罪を肯定的に描いているのではないかという議論が起こることもある。
海賊を題材にした作品が存在するというだけでその国が海賊犯罪を容認していることにはならないし、作品を見た人が必ず犯罪に走るというものでもないが、現実に海賊被害を受けている地域や船員の生命を危険にさらされている人々にとって、海賊を冒険者として描く物語が素直に受け入れられない場合があることは理解しておくべきだろう。
まぁ、『ONE PIECE』に登場する海賊も、麦わらの一味や白ひげ海賊団以外は大概ろくでもない奴らばかりだし、麦わらの一味にしたって世界政府の大監獄や裁判所を襲撃するなど、法秩序に照らし合わせればとんでもないテロリスト集団ではあるのだが

今も昔も、世界規模の物流を支えているのは船舶である。一度に大量の貨物を輸送できる船は、石油、天然ガス、鉱物資源、食料、工業製品など、さまざまな物資の輸送に欠かせない。
それを海賊が襲撃すれば、貨物や船舶が失われるだけでなく、航路の変更、保険料や警備費用の増加、輸送の遅延などを招きかねない。そして、その費用が、最終的には商品の価格や企業活動にも悪影響を与えるのだ。
海賊の脅威が日本にとっても無関係ではないと、ここまでで理解していただけただろうか。

もちろん、日本としても海上交通路の安全を確保するために対策を講じている。その一例が、海上自衛隊によるソマリア沖・アデン湾での海賊対処活動である。
日本は自国の船舶だけでなく、国際社会の海上交通の安全を確保するため、護衛活動や警戒監視などに取り組んできた。
また、自衛隊嫌いで有名なピースボートも、ソマリア沖・アデン湾を航行する際に海上自衛隊の護衛を受けた事例がある。実際に危険な海域を航行する場合には、政治的な立場とは別に安全確保のための現実的な手段が必要になるということだ。

「いまどき海賊なんているわけがない。漫画の中だけの話だ」と考える人がいたとすれば、それは明らかな誤解である。
海賊は歴史上の存在ではなく、現在も世界各地で発生している海上犯罪なのだ。

なお、日本では2013年に「海賊多発海域における日本船舶の警備に関する特別措置法」が成立し、同年11月に施行された。
この法律は、海賊被害が多発する海域を航行する一定の日本船舶について、国の確認を受けた民間武装警備員による警備を可能にするためのものである。
銃器の所持や使用が厳しく規制されている日本においても、海賊被害から船員や船舶を守るため、条件付きとはいえ武装を認める制度が整備されたのだ。
それほどまでに、海賊対策は現実的かつ深刻な問題なのである。

◇解説

ニュースなどで海賊の話題を耳にしたことがある人なら、現代の海賊として、ソマリア沖や東南アジアのマラッカ海峡周辺を思い浮かべるかもしれない。
これらの海域では、地理的条件や海上交通の集中、沿岸地域の経済事情など、さまざまな要因が海賊行為や船舶に対する強盗の発生に関係してきた。
各国の海上法執行機関による協力や監視、情報共有などが進められているものの、被害が完全になくなったわけではない。

特にソマリアでは、2000年代後半から2010年代初頭にかけて、商船を乗っ取り、乗員を人質にして高額な身代金を要求する海賊行為が深刻化した。
その後、各国の海軍による警戒・護衛活動、船舶側の防護対策、民間武装警備員の活用などが進み、被害は大幅に減少したものの、海賊行為の根本的な原因がすべて解消されたわけではない。
事実、2023年以降にはソマリア沖で再び襲撃事件が報告され、2024年から2025年にかけても再燃への懸念が示されている。

そして、ソマリアの海賊問題を考えるなら、なぜ彼らが海賊行為に手を染めるようになったのかという背景にも目を向ける必要がある。

ソマリアでは、長年にわたる内戦や政情不安、統治機能の弱体化などによって、沿岸の監視や漁業管理が十分に行われない状況が続いた。
そのような環境の下で、外国船による違法・無報告・無規制漁業、いわゆるIUU漁業が地元漁業者の生活を脅かしていた。
あちこちの国からやって来た密漁者の横行を許すわ、しまいにゃ大切な漁場に放射性物質を含んだ産業廃棄物を捨てられるわと地元漁業者はフルボッコに。

本来ならば、沿岸国の政府や関係機関が漁場を管理し、違法操業を取り締まらなければならない。しかし、国家の統治能力が弱まればそれも難しくなる。
漁場を利用する地元住民にとっては、生活の糧を奪われても、それを止めるための有効な手段が乏しいという状況が生まれる。
結果、キレた漁業者が武装して漁場の自警を始め、その内に一部のDQNが近辺を航行する船を襲い始めて味を占めたせいで、それが(悪い意味で)世界に名だたるソマリアの海賊、現代の海賊の模範となっていったのである。

それだけでなく、武器の流通、犯罪組織の形成、身代金を得られるという経済的な誘因、統治機能の弱体化など、海賊行為の拡大には複数の要因が絡み合っている。
地元住民が受けた被害や不満には目を向けるべきだが、それを理由に商船の乗員を襲撃し、人質にして身代金を要求する行為が正当化されるわけでもない。

海賊行為が生まれた背景を理解することと、海賊行為を正当化することは別である。

◇手段

昔の海賊と現代の海賊では、船舶や武器、航海技術などが大きく異なる。

今の世の中で大型船を保有して堂々と海賊行為を行えば、衛星通信やレーダー、各国の海上監視体制などによって発見されてしまう。
そこで、海賊は小型船や漁船などを利用して商船に接近し、乗り込んで襲撃する手段を用いる。
ソマリア沖で活動していた海賊の場合、小型の高速船に加え、航続距離を伸ばすための母船を利用し、海岸から遠く離れた海域まで進出する手法が知られている。

襲撃に際しては、おなじみAK-47やRPG-7などで武装して乗員を威嚇し、抵抗を封じた上で船舶を制圧。場合によっては、乗員を人質に取って身代金を要求する。
どこからそんな武器を調達してきたのかと言いたくなるが、武器の流通が不安定な地域では、紛争や密輸などを通じて武器が犯罪組織に渡ることもある。
一方、東南アジアの一部で報告される船舶への侵入や窃盗などは、ソマリア沖で見られた大規模な乗っ取り・身代金要求型の海賊行為とは様相が異なる。

では、なぜ少人数の海賊が大型商船を襲撃できるのだろうか。
理由の一つは、商船が必ずしも多数の乗員を必要としないことである。
現代の船舶では、機関や航海設備の自動化が進んでおり、大型商船であっても軍艦のように多数の武装要員を乗せているわけではない。
当然ながら、商船の乗員は荷物を安全に運び、船舶を運航するための人員であり、武装した襲撃者との戦闘を前提に配置されているわけではない。
そのため、武器を持った襲撃者が船内に侵入してしまったら、セガールでもいなきゃ対処しきれない可能性が高いのだ。

主な標的となるのは貨物船やタンカーなどだが、船舶の種類や状況によっては、漁船やその他の商船が襲われることもある。
ただ、武装警備員を乗せている船舶や、防護対策を徹底している船舶を襲うことは、海賊側にとっても危険が大きい。
船舶の警備が強化され、海軍や沿岸警備機関の巡回・監視が充実すれば、襲撃の成功率を下げられる可能性がある。
とはいえ、それで当の海賊の生計手段を解決することにはならないので、また別のどこかで新たに海賊や犯罪が生まれたりするのではあるが。

海賊が使う船舶は、見た目には普通の漁船や小型ボートに見えることもある。
これは、漁船などが本来の用途で使われている場合もあれば、犯罪組織がそれらを利用して襲撃を行う場合もあるためだ。
船が船なのを良い事に、拿捕されても乗ってる連中が「俺達は漁師だ(ドヤァ)」等とほざく場合もあるから始末が悪い。

ちなみに、海賊が船舶を乗っ取り、人質を取った場合、その扱いは事件や組織によって異なる。
身代金要求型の海賊では、人質の生命や健康を維持し、身代金交渉を成立させることが犯罪組織にとって利益につながるため、人質を一定の範囲で生存させておこうとする動機が働くことがある。
身代金を得るための人質を殺害してしまえば、交渉の成立が難しくなり、将来の誘拐ビジネスにも悪影響を及ぼしかねないからだ。

しかし、これは人質が安全であることを意味しない。拘束中の人質は、食料や水、衛生環境、医療へのアクセスなどに問題を抱えることがある。
暴行や脅迫を受ける危険もあり、状況が悪化すれば殺害される可能性も否定できない。
犯罪組織が人質を生かしておくことには、身代金を得るための合理的な理由がある場合もあるが、それは人道的な善意とは限らないのである。
人質を取られた船主や企業などは、状況に応じて政府、専門の交渉担当者、保険会社などと連携し、対応を検討することになる。

一方で、身代金を支払うことには難しい問題もある。
人質の生命を救うために支払いを検討する場合がある一方、身代金が犯罪組織の資金源となり、将来の誘拐や襲撃を助長する可能性もある。そのため、支払いの是非は人命、安全保障、法令、外交、犯罪組織への資金供給など、複数の観点から慎重に判断される。
「身代金を払えば必ず人質が無事に解放される」という保証はないし、「絶対に払わなければよい」と単純に割り切れる問題でもない。
いずれにせよ、海賊による人質事件は、単なる金品の窃盗よりもはるかに複雑で深刻な犯罪なのである。

中には、本来ならば海賊を取り締まる立場にあるはずの地方権力者や武装勢力が、海賊と癒着しているなんて場合もある。
統治機能が弱い地域では、警察や沿岸警備機関などが十分に機能しなかったり、取り締まりを行うための資金や人員が不足していたりすることがある。その上さらに腐敗や利権が絡めば、犯罪組織を取り締まるはずの側が利益を貪るという更なる地獄が生まれるのだ。

また、日本史において「海賊」と呼ばれた集団の中には、武装して船舶を襲撃する者だけでなく、地域の海上交通を支配したり、警固や水先案内などを担ったりする集団も存在した(『忍たま乱太郎』に出てくる兵庫水軍はこのタイプ)。
時代や地域によっては、権力者と結びつき、軍事的な役割を果たした者もいる。

つまり、海賊という言葉が指す存在は、歴史的にも必ずしも一様ではなかったのである。

◇対策

海賊被害を防ぐための基本は、危険性の高い海域や状況を把握し、適切な警戒と防護を行うことである。
船舶の運航者は、航路や航行時期を検討する際に、海賊行為や船舶に対する武装強盗の発生状況、各国当局の警告、航行上の危険情報などを確認する必要がある。
日本では、海上保安庁が航行警報などの情報を提供している。また、国際海事機関(IMO)や各国の海事当局、地域の情報共有機関なども、海賊被害に関する情報を発信している。

ただし、航行警報は海賊の出現を完全に予測できるものではない。過去に被害が少なかった海域であっても、状況の変化によって危険性が高まることがあるため、最新の情報を確認することが重要となる。
また、海賊被害の危険性が高い海域を航行する場合には、船舶の防護設備を整え、乗員に必要な訓練を行い、状況に応じて護衛や武装警備を利用するなどの対策が取られる。

日本を含む各国も、海賊対処のための海上警備活動や国際協力を進めてきた。
しかし、どれほど警備を強化しても、あらゆる襲撃を完全に防げるとは限らない。海賊対策は、船舶側の防護、情報共有、海上での取り締まり、犯罪組織への資金対策などを組み合わせて行う必要がある。

では、実際に海賊に襲撃された場合はどうすればよいのか。
まず、船舶の運航者や乗員は、会社や船舶の安全管理計画、当局の指示、訓練で定められた手順に従い、乗員の生命を守ることが最優先事項となる。
襲撃者に対して不用意に抵抗すれば、かえって生命を危険にさらしかねない。現場の状況によっては、抵抗を避け、安全確保を優先することが合理的な場合もある。

最悪の場合は「運が無かった」と諦めて大人しく従おう。
下手こいて殺されるよりは遥かにマシだし、しばし南国でバカンスとでも考えよう。命あっての物種だ。

◇余談

近年、回転寿司チェーン「すしざんまい」の運営企業を率いる木村清社長が、ソマリアの海賊を減少させたという話が広く知られるようになった。
この話は、社長が自ら現地に乗り込み、海賊をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……という武勇伝ではない。

広く紹介されたエピソードでは、漁業に関する技術や事業を通じて現地の人々に収入源を提供し、海賊行為以外の生計手段を確保することで、海賊問題の解決を目指したという筋書きになっている。

確かに、漁業や水産物の加工・流通などを通じて、地域の人々が合法的に収入を得られるようにすることは、犯罪に依存しない経済を育てるという意味で重要である。
しかし、「すしざんまいの社長が現地で漁業を支援したため、ソマリアの海賊が激減した」と、そのまま因果関係を断定するのは適切ではない。
ソマリア沖の海賊行為が減少した背景には、各国の海軍による対処活動、商船側の防護対策、民間武装警備員の活用など、さまざまな要因があった。
日本のイチ企業による漁業支援や地域経済への働きかけが、どの程度海賊行為の減少に寄与したのかについては、個別の事業の実績と、海賊行為全体の推移を区別して考える必要がある。

とはいえ、このエピソードが示している問題意識そのものは重要だろう。
人々が合法的に生計を立てられる環境を整えることは、犯罪の発生を抑えるための手段の一つとなり得る。もちろん、仕事を用意すれば犯罪が必ずなくなるわけではないが、犯罪以外の選択肢を増やすことには意味がある。

海賊を取り締まることと、海賊行為に依存しなくても生活できる環境を作ることは、対立するものではない。
前者は、現在進行している犯罪から船員や船舶を守るために必要である。後者は、犯罪が繰り返される背景に働きかけ、長期的な再発防止を目指すものである。

海上での警備や取り締まりだけで海賊問題のすべてを解決できるわけではない一方、貧困や社会問題を理由に、目の前の犯罪を放置することもできない。
「自衛隊は自衛隊として海賊を抑える。民間は経済活動を通して内側からなくす。両輪としてどちらも必要なこと」という木村社長の言葉は非常に重い。

海賊という存在を、単なる冒険物語の主人公として見るだけでは、現実に起きている問題の全体像は見えてこない。
船員の生命を守り、国際物流の安全を確保し、犯罪が繰り返される背景にも対処する。そのためには、海上での警備、国際協力、法執行、地域経済への支援など、さまざまな取り組みが必要となる。

フィクションの海賊に夢を見ることは、もちろん自由である。
しかし、現実の海賊犯罪によって苦しむ人々がいることも、忘れてはならないのだ。


追記・修正は海賊に襲われて南国でバカンスを楽しんでから。

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最終更新:2026年10月28日 23:19