失敗国家

登録日:2011/10/06 Thu 10:27:01
更新日:2021/04/17 Sat 20:05:49
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失敗国家とは、文字通り政府が国家の運営に失敗し、その責務を果たせなくなってしまった国家のことである。


◆失敗国家とは

別名「破綻国家」「崩壊国家」「脆弱国家」
我らが日本にも深刻な社会問題は数多く存在するが、本項で取り上げる失敗国家にはとても敵わない。失敗国家は国が国として機能しなくなっているのである。
この「国として機能しない」という言葉の意味するところは、政治家同士の争いで政治が進まないなんて生易しいレベルではなく、
「国に頼るより俺自身でやった方が早いぜヒャッハー!」という価値観が国民全体に染み込んでいるレベルを指す。

そもそも(まともな)国家というものは、権力を持っている政府が国家の構造*1を制御し、政府が果たすべき基本的な責務、
例えば正常な法体系の維持や国民への公共サービスの提供などを果たしているものである。
これによって国家の三要素と言われる「領域」「人民」「権力」を維持していることで国家として認められるのである*2

失敗国家には統治機構なんてものはない
仮にあっても首都近辺にしか影響力がなく、独断で行動する地域の有力者、すなわち軍閥の方が実質格上になっていて警察を送ることすらできない。
そもそも
  • 肝心要の統治機構は賄賂や私腹を肥やす者ばかりで機能していない
  • 徴税権はあっても名目だけで、徴税しようにも徴税する官吏に力がなく「払わない」の一言で徴税を断念するしかない
  • 財源なんてものはなくせいぜいODA(先進国からの貸付)や資源収入がある程度なので、国が行うべき公共サービスを提供できるわけもない
  • 外交をしようにも国家代表を送れない、あるいは国家代表の代わりに複数の「自称国家代表」が現れる
  • なぜ国が消滅しないのかといえば、国際的に国家主体として認められているからにすぎない*3ため
そんなレベルの国家が本項目の失敗国家なのである。


◆失敗国家ランキング

失敗国家の指標として失敗国家ランキング*4が存在してしまっている。
これはアメリカの平和基金会(FFP)が2006年から毎年発表しているもので各国の状況を数値化してランキングしたもの。
ちなみに、ソマリアは失敗国家ランキングで6年連続1位に輝いている。
「あの」ソマリアですら6年連続程度なのかよと突っ込んではいけない。その後も3位以下になってないし。

なお、実際は危険すぎて割に合わないなどの理由でジャーナリスト等の専門家ですらあまり立ち入らず、
そのため情報が乏しくて全貌がハッキリしないという地域も割とあるため、仮にこれの上位に書かれていなくても、まだまだ危ないところが存在する。
あと国際的に国家承認されてないとかで、そもそも載ることができない国というか「自称国家」も存在する。
その他にもいくつかの条件があるため載ってない国家がある。コソボとか台湾とか西サハラとか。

日本は178か国中158位*5。2006年がピークで、その後の東日本震災やリーマン・ショックの影響などで評価は少し落ち気味になっているが、失敗国家と言えるような状態では全くない。
アメリカ149位、イギリス149位、ドイツ166位、フランス160位と、欧米の先進諸国とさほどの差はないのである*6
栄えある最下位はここ9年はフィンランド。
ノルウェーも最下位経験があり、隣のスウェーデンも含めて北欧三か国は順位が低い。

ちなみに上記の失敗国家ランキングは、12の項目を10点満点*7、合計120点満点で見るものである。点が高いほど危なくなる。
なので1項目だけ10点近いものがあっても他の項目が低ければ、合計点は低くなり失敗国家ではなくなる。意外と忘れやすい点なので注意。
例えば2020年の日本は「人口構成圧力の増大」が5.7点と高めだが、他の項目が平均2.2点と低いため合計32.3点となっている。

逆から言えばこのランキングの上位に存在する国家、すなわち失敗国家というものは、大半の項目において失敗している国家だと言える。
ちなみに2019年第1位のイエメンは120点満点中113.5。10点の項目が3つ、9点台の項目が7つ。一番低いのが7.3点。
もはややばくない項目が存在しない
まあトップランカーはだいたい全部の項目がやばいのだが。トップ20は当たり前のように8点台、9点台が存在し、点数の低い項目でも5点を下回ることは滅多にない。

我々にとって比較的身近なヤバい独裁政治の国、北朝鮮ですら2020年現在で30位(90.2点)。
「国家の正当性」が10.0点を取るなど確かに国家としてかなりやばい状態ではあるが
  • 国内の不満分子がそこまで強くない
  • 育った人材が海外に逃げていない
  • 難民による社会不安が起きていない
などという点でトップランカーからは一段落ちる評価をされている*8



◆失敗国家の指標

上記の失敗国家ランキングの指標として掲げられているのは以下の12項目。

➀安全保障装置の状態

軍や警察といった安全保障のための組織がしっかり機能しているか?汚職はないか?

日本は1.9点。
全国各地に警察署や交番が存在し、自衛隊も強力である。

②利己的(派閥的)なエリートの台頭

私利私欲や偏った政治思想を満たすためだけの政治家や官僚が力をもっていないか?
また、権力闘争や政治的な争いが起きていないか?

日本は2.6点。日本の政治家も多々批判されているが、利己的なエリートとはみなされていない。
訳の分からないことを言って選挙に出る人たちもいて、そういった人々が当選することもなくはない。
それでも、国会で有力な勢力を取ったりはしていない。

③不満分子の存在

選挙などで選ばれておらず正当性を持たないテロリストや革命組織が力を持っていないか?

日本は2.8点。日本では野党の議員も選挙で選ばれているし、選挙で負ければ与党もちゃんと政権を明け渡す。
オウム真理教や革マルの様な選挙に基づかない過激派組織自体はなくもないが、力を持っているとまでは言えない。
ここ5年近く点数が下がり続けている。

④経済状況の悪化と貧困

貧困にあえぐ者が増えていないか?

日本は3.3点。
さまざまな貧困は日本国内でもかなり問題になっているが、それでも国家が責務を果たしていないというほどの状態ではない。

⑤不均一な経済発展

国民全体が経済発展の恩恵にあずかれているか?一部の権力者や都市部の住民にばかり富が集中していないか?

日本は1.4点。日本全国物価はさほど変わらないし、どこに行っても公的サービスが受けられる。
均一性はかなり高いと言えるだろう。

⑥人材及び頭脳流出

国内で育った人材が海外に逃げていないか?

日本は3.1点。
現段階ではどうという訳ではない。島国・日本語が日本国内でしか通じないという点もあるだろう。
ただ、近年は大学などの研究者や優れた人材が安い賃金に耐えかねて逃げているという指摘が多くなってきておりじわじわとポイントが上がってきている。

⑦国家の正当性

現在の権力者は国家の正当な代表者と言えるか?
政権が政治プロセスを透明にし、国民の支持を受けているか?*9

日本は0.6点。皇室も幅広く支持されているし、選挙はさほどの混乱なく適正に行われ、そのような選挙で与党は国民的支持を受けている。
日本の指標で最も点数が低い。

⑧公共サービス

医療・教育・水と公衆衛生・輸送インフラ・電気などといった国民にとって不可欠な公共サービスが整っているか?

日本は1.3点。人が住んでいればどこの地域にも学校や病院、水道局などの公共設備がしっかりある。
抜けがない訳ではないが、それでもかなり整っている部類だ。
東日本震災直後は5.0点まで急上昇したがその後しっかり点数を落とした。

⑨人権及び法の支配

国民に表現の自由や信仰の自由、裁判を受ける権利などの基本的人権が法律で保障されているか?
国内のどこに行ってもそれらの保障がきちんと機能しているか?

日本は3.2点。男女平等・労働者・難民に代表される外国人の権利保障など、国際的に十分でないとみなされている権利保障も少なくない。
それでも、裁判は誰でも訴えられ、裁判なく刑罰に処されることはないし、生存権や表現の自由など、幅広い権利が実効的に保障されている部類である。
良くも悪くも安定していて15年間点数の上下0.5点に収まっている。

⑩人口構成圧力の増大

人口が多すぎたり、人口構成が高齢者や未成熟者ばかりで労働人口や社会保障が持たなかったりしていないか?
また、国民が平等に食料品を手に入れられ、安全な水にアクセスできているか?
病気が蔓延していたり、自然災害に対して脆弱になっていないか?

日本は5.7点。唯一まずいことになっている。主な原因はいわゆる少子高齢化。
なお震災直後は8.3点と本項目の失敗国家とタメをはれる状態にまでなっていた。

⑪難民および国内避難民の大量移動

戦乱や大災害などで難民がキャパシティを越えてやってきたり、避難民が国内を移動し、不安定になっていないか?

日本は3.5点。当初は1.0前後だったが、東日本大震災で4.0点になって以降3.5点を切っていない。
震災そのものより原発問題が大きいのだろう。

⑫他の国家又は外部の主体の介入

外国から侵略や深刻な政治的圧力を受けていないか?また、国連や他の国からの支援に依存していないか?

日本は2.9点。島国である日本は外部からの圧力にはかなり強いし、震災直後を除けば国際的な支援も特に必要とはしていない。
在日米軍との関係も一部軋轢があるものの基本的には良好であるし、かといって完全に依存している状態ではない。

2019年は4,5,6には10点の国家は存在しない。

これらの点数が
  • 90点~120点だと「警報」
  • 60点~89.9点だと「要注意」
  • 30点~59.9点だと「安定」
  • それ以下だと「持続可能」
と評価される。
日本は最盛期は持続可能の域に入っていたこともあったが、現在は「安定」ランクである。

◆失敗国家と普通の国家の違い


指標だけ見せられてもイメージがわきにくいかもしれないので、もう少し一般に見やすい基準を考えてみよう。
分かりやすい失敗国家と普通の国家の違いとしては
  • 警官と軍人に給料が払えている
  • 教師に給料が払えている
この二つが大きなポイントであるらしい*10

警官と軍人は国家権力の象徴にして国の統治の手足となるものであり、
末期のカダフィ政権のように「逆らう市民をカラシニコフで掃討するだけの簡単なお仕事です。日給一万円」とか募集しているようでは、国がマズいというのは簡単に想像がつく。
警官も軍人も武器を所持している。給料を遅配すれば簡単に反乱を起こされたり、無法者に武器を与えただけという結末になってしまう。
失敗国家にありがちな「軍部・軍隊出身者のクーデター」からもそれがわかるだろう。
さらに警察も軍人も、法や政府に従い命令を遂行するためにはそれなりの頭脳がいる。
専門家である民間軍事会社ならまだしも、そこらの市民をろくに教育もせず警官や軍人にするのは人に困っている証拠なのだ。
そして国家にとって「暴力の独占*11」というのは非常に重要な要素である。
暴力を独占できていないということは政府以外に武力・暴力を持つ勢力がいるということで、その勢力が国家権力に成り代わりうるということだからだ。
そんな状況では治安維持もできないので、自警団や民兵が出現し更に悪化していく。行き着くところは軍閥による群雄割拠である。

もう片方の教師については、旧西側諸国は北欧諸国や東欧諸国に比べて教師の社会的地位が低いため分かりづらいが、
教師というのは教育によって国の方針を子どもに伝える存在であり、また人材育成の点からも極めて重要な存在である。
というか、教師に給料を払えている=学校が維持できているということであり、それはすなわち国内各地にある学校の維持管理ができているということになる。
国内各地にしっかりとした学校があるということは、統一された政府がきちんとした統治を行っているという証拠にもなるのだ。
教育施設というのは割と切り捨てられやすい部門なので、そこがしっかりしているということは政府が安定しているということの証明になる。


政治家が多少駄目でも、それを支える各種の専門知識を持つ官僚組織がしっかりしていれば安定した国になる。
失敗国家の多くは、「官僚組織?何それ美味しいの?」レベルの国であることは忘れてはならない。
そういう国家では国内にまともな産業がないことが多く、国家組織=国内最高の就職先であり、支持者に職を与えるために官僚の地位をばらまいていることすら多い。
そうして官僚になった者に力量など望めないため、情実による気まぐれ政治や賄賂が横行することになる。

なお、例外はあるものの、強権的な独裁政治体制をとる国家の場合、深刻な経済破綻でもやらかさない限り失敗国家ランキングの上位に食い込むことは少ない。
独裁政治の場合、国民の自由は保障されない代わりに強力な統治が敷きやすくなり、ある程度政治は安定するためだと思われる。
北朝鮮が一線を越えないで済んでいるのもこれが理由であろう。
ルーマニアでは独裁政権がルーマニア革命によって倒れた後、一時的とはいえ国民生活は逆に苦しくなったとも言われている。

とはいえそういう国は、ひとたび独裁政権が瓦解すると急激に世情不安に陥る傾向がある。
独裁だから失敗国家になるのではなく、元々失敗国家を何とか運営するとなれば強烈な独裁にでも頼るしかない場合も多い。
その独裁制が誰にもバトンタッチされずに瓦解するということは、なんとか枠にはめていたものが外れるということであり、そのまま失敗国家一直線ということなのだ。
例としては、現在は失敗国家ではないものの、チトー死後のユーゴスラビアがわかりやすいだろうか。民族紛争の火種があるとこうなりやすい。


◆代表的な失敗国家

ソマリア

スコア:112.3点
失敗国家ランキング6年連続1位
その後も2位と1位を行ったり来たりしている絶対強者
リアルGTAカオスモードマニアック。権力の及ぶ範囲が首都を中心として半径数百メートルなんてこともあった。
あの最強国・アメリカ合衆国が諦めた国でもある。
詳しくは項目で。


○コートジボワール

スコア:92.1点
昔は独裁者の下で発展を続けており、西アフリカでも安定した国だったが、独裁者が死んでから迷走開始。
クーデターと内戦をやった挙げ句、失敗国家ランキングが始まった2005年度では1位を獲得。つまり失敗国家ランキング初代チャンピオン
2010年の前大統領と現大統領との内戦というどっかのRPGのような展開があったが、前大統領の失脚・拘束で収束した後は順調に順位を落としていき、2016年には上位20位から消えた。
なお、これらの情勢の推移には同国のサッカー代表選手・ディディエ・ドログバ*12の尽力に寄るものも大きな要因となっている。


○中央アフリカ共和国

スコア:108.9点
20世紀の袁術、皇帝ボカサ1世を産んだ国。
元々クーデターや宗教対立で治安がよくなかったが、2013年に国内のゴタゴタにより一時期無政府状態に陥ってしまい経済もガタガタに。
2014年から17年まで4年連続失敗国家ランキング第3位を堅持し続け、その後も5位6位と上位の一角。
国民の約9割が1日2ドル未満で暮らさなければならないと言えばヤバさが分かるだろう。
この「1日2ドル未満」というのは「世界貧困線」という、最低限の生活を行えるか否かのボーダーラインである。


○ジンバブエ

スコア:99.5点
旧ローデシア時代*13「南アフリカ以上」とも呼ばれたアパルトヘイトと白人による土地寡占で悪名を馳せていたが、黒人反政府ゲリラとの内戦の末に改名・独立し、黒人への参政権付与後は融和路線に成功。
農業に有利な国土に支えられたローデシア経済*14もあってアフリカでも屈指の安定した国を実現した。
……そのはずだったが2000年代あたりからムガベ長期政権のひずみが見え始め、第二次コンゴ内戦への介入や白人地主の土地強制徴用などやらかした末にハイパーインフレを起こす。
何度通貨切り下げをやってもインフレが止まらず、2009年には100兆ジンバブエ・ドルなんて紙幣が出る始末。
もはや外貨でないと商取引が成立せず、国民からもいらねえと言われ、イグ・ノーベル賞のネタにもされた末に2015年6月11日についにジンバブエ・ドルは廃止された。
ジンバブエ・ドルの暴落っぷりをネタにした話がゴルゴ13に存在する。

しかしムガベは政権に居座り続け、「いつまでやるんだ、てかいい加減寿命が近いだろう」と誰もが思っていた2017年に後継争いからクーデターが発生。93歳の老独裁者はようやく政権から追放された。
そして、2019年の9月6日にシンガポールの病院で死去。享年95歳。
その豹変っぷりと寿命の長さから「本人は既に暗殺されていて、替え玉がやっていたのでは?」などとも言われた。


コンゴ民主共和国

スコア:110.2点
かつてのザイール。
レオポルド二世の私有地のなれの果て。やっぱり内戦の繰り返し。
こと1998年から2003年の第二次コンゴ内戦は「アフリカ大戦」の異名を持つ、周辺諸国が派兵と介入と諸勢力支援を繰り広げた大戦争だった。
2018年にようやく選挙で決着がついた…か?けど19年のランキングは中央アフリカを抜き去り5位に
なんもかんも宗主国のベルギーが悪いといえば悪いが、独立から内乱まで1週間も持たなかったあたり、独立を性急に行ってしまったことも原因かもしれない。


チャド

スコア:108.5点
リビアの南、スーダンの西隣。
例によってトップの政権基盤偏重による国内対立が起こり、カダフィが油を注いで独立後5年で内戦突入。
それ以来大統領が変わるときは毎回クーデターという惨状で、現大統領も名目上は選挙で選出されるも不正選挙の批判が恒常的な世界の独裁者ランキング上位。
でもって反政府勢力はまだまだ絶賛活動中。
霊圧が消える人ではないが、テロと地雷で霊圧(命)が消えかねない。
近くに死神がたくさんいそうである。友達になりたくねえな!
地味に失敗国家ランキングで2桁になったことがないというありがたくない実績がある。


南スーダン

スコア:112.2点
2011年に住民投票によりスーダンから独立。
建国から現在まで内戦・紛争、ハイパーインフレ等政経共に数多くの問題を抱えている、近年における失敗国家の代表格
登場直後に失敗国家ランキング4位に入ると、ソマリアのランキング1位の連続記録を2014年に止めた挙げ句、2015、2017、2018年も1位になってしまった。
2019年にはイエメンが1位になったが、情勢が大きく変わったわけではない。2020年まで続けて3位だし。


スーダン

スコア:108点
エジプトの南隣、南スーダンの北側。
2006年、2007年失敗国家ランキング1位。その後ずっと3位だったが、最近は徐々に落ちてきている。
しかしダルフール紛争が長期化しているうえに南部で採掘していた石油が南スーダンの独立によってなくなりどう考えても紛争フラグが立っている
というか上記の南スーダンと一緒に、内戦と国境紛争の真っ最中である


○イエメン

スコア:113.5点
インド洋と紅海を繋ぐバル・エル・マンデブ海峡の東側でアラビア半島の端っこにある国。2019年・2020年失敗国家ランキング1位
その立地から古代ローマ時代より海上交易の中心地、物資集散地として大いに栄え、また香料の産地でもあったことからローマからは「幸福のアラビア(Arabia Felix)」とまで呼ばれ、その取引での資金流出がローマ衰退の原因になったとすら。

だが裏を返すと大国の勢力争いに巻き込まれやすく、名目上の宗主国だったオスマン帝国の統治も次第に行き届かなくなった結果イエメン王家その他の土着勢力が小競り合いを重ねていた。
そこへ19世紀からオスマン帝国とエジプト(ムハンマド・アリー朝)、イギリスによる勢力争いも重なった結果南北分断に陥り、その後も冷戦構造に組み込まれて1990年代に入りようやく悲願の統一。
しかし内情は北イエメン軍出身の大統領サーレハによる独裁体制がイエメン全土に拡大しただけで、なおかつ土着勢力が相変わらず実権を持つ部族主義的社会に宗教対立も抱えた国情にお決まりの国内格差で内部の不満は拡大。
そこに「アラブの春」の影響でサーレハは退陣。南部出身のハーディ副大統領が暫定大統領になるも、復権を狙うサーレハはあろうことかかつては迫害した反政府勢力のフーシ派*15と接近した。
軍や政界の支持・影響力の強いサーレハが味方になったことで勢いづいたフーシ派は2015年にクーデターを起こし、同時にアル・カイーダやISILといったイスラム過激派も勢力を拡大させ内戦に至る。

一時はボートで脱出する羽目に陥ったハーディ暫定大統領がスンナ派アラブ諸国の軍事支援によりなんとか挽回したり、そのハーディー政権寄りだった南部暫定評議会が独自路線を打ち立てたり、スンニ派諸国の動きが面白くないイランがフーシ派を支援したり、和平を仄めかしたサーレハ前大統領をフーシ派が暗殺したり……と平和的解決の目が見えぬまま紛争は続き、
2019年現在は
  • ハーディ政権派・有志連合
  • フーシ派
  • AQAPやISILなどのイスラム過激派
  • 南部再独立派の南部暫定評議会
による4勢力入り乱れるこれまでで最悪の状況となっている。


○アフガニスタン

スコア:105点
20世紀に入りイギリスから独立、王政を敷くも内情は部族主義的で、急進的改革派によるクーデターが起きてからは一気に政情不安定化。
親ソ派が政権を得るも内部対立が絶えず、見限ったソ連は1979年に侵攻・直接介入し支配を行うも、各地で反ソ連を掲げる勢力がゲリラ戦を展開していた。
1989年にソ連がアフガニスタンから撤退すると、その直後から各勢力が戦後の主導権を握ろうと国内で紛争が多発するようになる。
イスラム神学校出身者による非軍閥のタリバン政権が一時はアフガニスタンの九割を掌握したものの、スーダンを放逐された札付きの反米テロ組織アル・カイーダを匿い続けたのが運の尽き。
2001年にアル・カイーダによる同時多発テロでブチ切れたアメリカがアフガニスタンに侵攻しタリバン政権は崩壊。
アメリカはハーミド・カルザイを首班とするカルザイ暫定政権を成立させるも、タリバンを始めとする反政府勢力はカルザイ暫定政権をアメリカの傀儡政権と見做して従わず、また暫定政権自身も汚職の横行などで国民の支持を得られず各地でテロを繰り返される。
結果的に国内の治安は急速に悪化し、首都カブールの周辺以外はカルザイ政権の支配が及ばず無政府状態に陥った。
一応2019年9月にアメリカとタリバンが和平基本合意をした。ただこのまま落ち着くとは誰も思っていない


○シリア

スコア:111.5点
地中海東岸の一角にあり、かつては「肥沃な三日月地帯」とも呼ばれる古代オリエントの中心地帯の一角で、かつ地中海交易やシルクロード交易の要衝だった。
なのでオリエントの覇権を握らんとする国家が太古よりぶつかり合い、加えて途中からエルサレムとかいう係争地が南に出来る始末。
それでもオスマン帝国が中東一帯の覇権国家として君臨していた時期は良かったが、第一次大戦で帝国が崩壊すると雲行きが怪しくなる。

イギリスやハシーム家との紆余曲折の末に地中海東岸を勢力圏とするフランスの委任統治領(という名の植民地)となるが、多彩な宗教や部族民族を利用した分割統治を敷いたものだから社会的な亀裂が発生。
でもってフランスへの反発心は収まらなかったので戦間期から独立が取りざたされており、1946年にフランスから独立。
しかし独立直後から7回もクーデターや反乱が発生し、非常にゴタゴタしていた。
1963年3月8日に革命によりバアス党が政権を握るが、握った後も党内でも対立が発生し1966年と1970年にクーデターが発生。ハーフィズ・アル=アサドが大統領となるもその後も虐殺が発生した。
そのハーフィズ・アル=アサドは2000年に死去し、後を継いだ息子のバッシャール・アル=アサドは最初は民主化を進めていたが、アメリカのフセイン政権打倒を受けて独裁政治に転身して、言論統制や権力強化してしまう。
2011年にアラブの春が起きると政府に対する不満によって内戦が勃発。ISILによって国の一部を支配されてしまう。これによって大量の難民が発生しトルコなどに流れ込んだ。
ロシアやイランによる援助でISILは壊滅し、国土を奪い返したものの、未だに北部が激戦区になっており、解決の目処は立っていない。


○イラク

スコア:99.1点
チグリス・ユーフラテスという大河に恵まれた「肥沃な三日月地帯」の一角でメソポタミア文明発祥の地。
とはいえオリエントの諸勢力が切り取り、ぶつかり合う場所なのはシリアと大差ない。

第一次大戦で宗主国だったオスマン帝国の崩壊後、委任統治を任されたイギリスは、アラブの名族ハシーム家のファイサルを王位につけイラク王国を樹立させる。
が、元々スンニ派、シーア派、クルド人を内包した立地*16に加えて親英反英勢力の対立があり、第二次大戦頃にはクルド人反乱や反英クーデターが起きたりしていた。
そして第二次大戦後に「反英・汎アラブ」なナセル率いるエジプトと「中東の狂犬」イスラエルがブイブイ言わせ始めるとクーデター(7月14日革命)により王国は崩壊。
その後もクーデターが4回も発生する不安定さで、クルド人との戦争で功を挙げたバアス党員で軍部のフセインが実権を握る。

そのフセイン政権もイラン・イラク戦争辺りから狂い始め、湾岸戦争でアメリカから危険視された末に2003年のイラク戦争で政権崩壊。
2004年にイラク暫定政権が成立したものの、フセイン政権で主流派だったスンニ派はこれに反発。
隣国シリアからイスラム国家樹立運動が起こると旧フセイン政権の残党がこの運動に合流。イラク、シリア両国の国境付近を武力制圧して「国家」樹立を宣言した。
このISIL*17は一時は両国のかなりの部分を制圧したものの、アメリカ主導で有志連合からの集中攻撃を受け消滅した。


○ハイチ

スコア:99.3点
失敗国家中南米代表のような国。
アメリカ合衆国に次いで南北アメリカ大陸で独立を達成し、「世界初の黒人による共和制国家」という輝かしい肩書を持つ。

コロンブススペインによってイスパニョーラ島が「発見」されると、元々住んでいた人たちが文字通り「絶滅」させられたのが受難の始まり。
でもって17世紀に入ると絶賛衰退中のスペインは大同盟戦争で占領された本土やネーデルランドの代わりにハイチを割譲し、フランスの植民地になる。
その後フランス革命の機運に乗って独立する(ハイチ革命)……が、この時すでに深刻な人種間地域間対立を抱えており、ナポレオンにより一度鎮圧されたり、独立達成後も内紛に突入したり、スペイン系住民の手でイスパニョーラ島の東側が分離独立、ドミニカ共和国を建国したりとちっとも安定しない。
加えて革命時に旧体制回帰防止と往時の報復として奴隷解放や統治層であった白人の処刑や農地を接収したのが見事に裏目に出て、独立承認と引き換えにフランスから巨額の賠償金を課せられ、重くのしかかる返済負担が不幸を決定づける。
更にドイツ帝国がちょっかいかけるわ、それを警戒したアメリカに1915年に占領されるわと大国に振り回され続けている。
おまけにそのアメリカが首都への権力と産業の集中や軍部の強化*18と失敗国家フラグを一通り立てた結果、
安定した政権が少なく、独裁政権すら続くことが難しい有様で、建国以来混乱が200年ほど続いている状態に近い。
1958年から1986年の間のデュヴァリエ父子による独裁は、当時「北半球最悪」とも謳われた。
それも軍事クーデターによって倒されるものの、その後も軍事クーデターと反政府組織の武装蜂起が度々起こっている。
そしてそのほとんどにアメリカの関与が判明、もしくは疑われている。本当にこの国は…
2010年地震と津波に襲われたがそれらが首都直撃した上に、救助隊がコレラを持ち込み大流行。そのまま国全体が機能停止した。

ちなみに上述したドミニカ共和国は失敗国家ランキングでは108位(66.2点)。つまり、問題点はそれなりにあるものの国家運営としては成功している部類。
こっちも米軍占領や軍部独裁、内戦と波乱に満ちた歴史ではあるが……。


ナウル

詳しくは個別項目参照。
1990年代前半までは、島から算出するリン鉱石の輸出で世界有数の富める国であり、国民は無税・医療と教育無料、更には全年齢に年金支給…と
政治家と公務員と医療関係者以外働く必要がなく(公務員ですら、外国人が3割ほどいたり…)、
毎日の食事に至るまでその辺の外国人経営の飯屋で適当に済ます、国民総ニート状態の国家であった。

しかし、1990年代後半にその事態は一変する。
リン輸出産業の衰退により経済崩壊、財政破綻、インフラ崩壊と外国からの援助がなければ明日の食事にも事欠きかねない状態へと突入。
さらには1世紀近くまともに働いたことがない国民が大半なため(国内の労働者はほぼ中国を中心とする出稼ぎ労働者が担っていた)、そもそも「労働意欲の以前に働くって何?」状態。
政府が小学校の高学年で働き方を教える授業を行い、将来の国を担う子供たちの労働意欲を与えようという対策がなされていた。
しかし、労働意欲を育んだところで国内には働く場所がない。リン産業に頼り切っていたため大きな職場などなく、国内失業率も2011年で90%
更には
  • マネーロンダリングで儲けようとしてアメリカから怒られる
  • 突如連絡が取れなくなり「太平洋の島国が消失不明」「クーデターが起こったか?!」などと情報が錯綜するも、情報インフラの維持費が払えずに死んでいただけだった
  • 中国と台湾に国家承認と断交とを繰り返して手玉に取り援助を引き出す
  • ナウル共和国政府観光局日本事務所のTwitter公式アカウントのフォロワーが人口より1桁多い
と、話題に事欠かない国家である。

そして失敗国家的にこの国最大の特徴と言えるのは、あまりに情報がないために失敗国家ランキングに載ってすらいないということだろう*19
既に挙がっている国々と異なり、戦争や暴動、外圧と言った物騒な方面の問題は特に生じておらず、「深刻な経済破綻」とそれによる影響だけならば40位前後と予想はされるが。

元はと言えばオーストラリアとかがリン鉱石の無計画な採掘を行ったのが原因なので、オーストラリア政府は支援を続けている。
リン鉱石の無計画な採掘のせいで土壌の大半が石灰岩で覆われているのも発展を阻害しているし。
なお、リン鉱石の更なる採掘のおかげで現在の経済はある程度回復基調にあるが、こちらも尽きるのは時間の問題と見られ予断を許さない。

◆余談

チャベス政権末期から大統領死去後にかけて政治の混乱と常軌を逸した貧富の格差とインフラ崩壊が取り沙汰され、
地元の犯罪集団ですら「必要な備品を確保できない」「あまりにも物がなく、何をやっても何も盗めないため、強盗をする意味が無くなってしまった」「というか、強盗に必要な弾丸などの支出と強盗によって得られる物の収入のバランス的に、強盗をするだけ赤字になる」
コメントするまでに荒れまくった近年話題のベネズエラであるが、2020年現在トップ20には入っていない。
ただし順調にポイントは上がっているので予断を許さない。28位(91.2点)だし。


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最終更新:2021年04月17日 20:05

*1 主権国家体制という

*2 これに加えて「他国と関係を取り結ぶ能力」、すなわち外交能力も含んだ4つとも言われる

*3 第一次世界大戦前後より前ならばともかく、現代において「独立国家」の重みはものすごく重い。政治体制に問題があるから国家として認めないなどということはできないのである。そして一度独立国家になれば、政権を倒した後の新政権も「独立国家としての地位」を使いたいので独立国家を名乗るようになり、簡単に消えない

*4 2014年からは脆弱国家ランキングに名称変更

*5 2020年

*6 フランスは黄色いベスト運動とその影響が評価範囲に入っていないことに注意

*7 小数点1桁までつけるので実質100点満点

*8 前半2つが独裁政治によるものであるのがアレであるが

*9 アイコンに票と投票箱がある通り民主制であることが基本だが、民主制でなくとも政権が国民の支持を受けていれば高得点にはなりにくい

*10 あくまで簡易的な見分け方であることに注意

*11 一定の領域内において武力の使用を国家が独占すること

*12 折しもランキング1位となった2005年にW杯本選へコートジボワールが初出場を決める事となった当時28歳の立役者であり、今なお国民的英雄と讃えられている

*13 旧ローデシアの内、北はザンビア、南はジンバブエとして独立した

*14 長期間に渡る世界中からの全面経済制裁や反政府ゲリラとの内戦にしばらくは耐えられる程度の経済力はあった。南アフリカ共和国とポルトガル領モザンビークの支援もあったが

*15 北部の国境地帯から起こったシーア派ザイド派系宗教運動組織。大体反アメリカ、反イスラエル、反スンニ派

*16 イギリスの名誉のために付け加えると、シーア派はともかくクルド人までもを纏め上げる事を危惧する声もあったのだが、親スンニ派の専門家に押し切られた

*17 イラクとレバントのイスラム国。別名ISIS。いわゆるイスラム国だが誤解の原因となるためこのように表記する。

*18 現在まで続く地方の衰退や、後の軍事独裁政権成立は大体このせい

*19 ナウルだけではなく、国家規模の非常に小さいミニ国家15カ国は情報が足りないため上記の通り評価対象外