登録日: 2011/12/08(木) 05:43:53
更新日:2025/03/25 Tue 18:46:32
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要目 |
T-72ウラル1 |
T-72B4 |
配備初年 |
1976年 |
2017年 |
乗員 |
3名 |
全長 |
9.53 m |
車体長 |
6.86 m |
|
全幅 |
3.59 m |
全高 |
2.19 m |
2.22 m |
重量 |
41.5 t |
45.0 t |
最高速度(整地) |
60 km/h |
航続距離(路上) |
460 km |
550 km |
主砲 |
125 mm 滑腔砲 2A46M |
125 mm 滑腔砲 2A46M5 |
車載機銃(同軸) |
7.62 mm 機関銃 PKT |
7.62mm 機関銃 PKTM |
車載機銃(対空) |
12.7mm機関銃NSVT |
T-72とは、ソ連が1973年に正式採用した史上最高の神戦車のことであるオブイェークト!
なぜ神戦車なのかは後述するのであるオブイェークト。
~開発までの経緯~
時は1950年代、ソ連は当時主力だった傑作戦車T-55を使っていたが、そろそろ計画的に更新したいと考え、
ソ「新技術も育ってきたし、凄い戦車作ってよ!」
と、当時開発中だった新世代の戦車砲……滑腔砲とAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を載せたいと戦車技師達に要請。
今現在も一部の途上国で使われているベストセラー戦車T-55を作ったL.N.カルツェフ、
祖国を救った最良戦車
T-34を作ったA.A.モロゾフがそれぞれ担当することになり
カルツェフ「とりあえず積めばいいんですね。やってみましょう」
モロゾフ「うはwwおkwwすげぇのつくってやるよww」
こうして2種類の戦車が生まれることになった。
が……
カルツェフのT-62、モロゾフのT-64にはそれぞれ重大な弱点があった。
T-62はT-55をベースに、砲塔周りは新戦車砲を積むために新規設計され、史上初めて滑腔砲を装備する戦車となった。
車体は被弾率や敵からの発見される確率を低くするために全高を低く抑えた設計とし、更に連射速度の向上のために空薬莢の自動排出装置も搭載。
が、これが大きな問題となった。
当時の排出装置は
撃つ
↓
砲を規定角度に上げる
↓
排出
↓
元の角度に戻す
といった動作をこなさねばならず、かえって連射速度は低下してしまった。
ちなみに「だったら手動でやればよくね?」となりそうだが、前述の車体の低さが災いして居住性は最悪。
とても作業を行えるほどの余裕がなかったのである。
また、俯角(砲を下に傾けること)にも難があり、これは
第四次中東戦争で問題となる。
それに対してT-64は更に先を行き、自動装填装置を搭載。
これにより乗員を少なくすることに成功している。
更に新機軸や複合装甲、最新式の測遠器まで備え、まさに時代の最先端を突っ走る戦車となった。
…そう、突っ走りすぎてしまったのである。
自動排出装置ですら問題が出ていたのに、自動装填装置に至っては砲手の右手を巻き込んで切断するという痛ましい事件まで発生。
西側諸国から「ソ連の新型戦車の自動装填装置は人間を食う」とまで言われる始末。
また、新しく設計した足回りやエンジン、期待の滑腔砲の命中率にまで問題は山積。
そして何より、一番の弱点は高過ぎる価格。
これによりソ連では満足な量の配備が出来ず、
一説には6年間でたった600~1,700両しか生産できなかったと言われている。
T-55やT-62といった補助に回ることになった戦車が年間3,000両作られていたことと比較しても、明らかに少ないことが分かる。
こうして早急に新しい戦車を開発する必要に迫られた結果、
~神戦車T-72~
神戦車T-72はL.N.ヴェネディクトフの元、価格を抑え、堅実な性能になるように設計。
それでいて対戦車ミサイルを発射することが出来る125mm滑腔砲を装備するなど、次世代の戦車としての性能も有している。
では、何故T-72が神戦車と言われているのか。
それは登場した当時の各国の戦車事情がそのまま答えとなっていると言えよう。
この時の各国の主力戦車はまだ第二世代の
アメリカ…M60パットン
西ドイツ…レオパルト1
イギリス…チーフテン
さて、問題の貫通力(運動エネルギー弾)
戦車 |
装甲貫徹力(括弧内は使用砲弾) |
T-72 |
2000mで傾斜角0°の400mm(3VBM7 125mmAPFSDS) |
M60 |
1000mで傾斜角0°の280mm(L52/M728 105mmAPDS) |
レオパルト1 |
800mで傾斜角0°の250mm(L28A1/DM-13 105mmAPDS) |
チーフテン |
1000mで傾斜角0°の355mm(L15 120mmAPDS) |
61式戦車 |
1000mで傾斜角0°の約180~190mm(M318 90mmAP)※推定値 |
対しての装甲(対運動エネルギー弾)
※装甲の厚さ≠実質の防御力
戦車 |
垂直換算の装甲厚 |
砲塔防盾 |
車体正面 |
T-72A |
500mm |
420mm |
M60A1 |
254mm |
257mm |
レオパルト1(※最初期型) |
130mm |
140mm |
チーフテン |
390mm |
388mm |
61式戦車(※推定値) |
114mm |
110mm |
また、重量も他の戦車に比べて軽かったというのも大きな点である。
当時のワルシャワ条約機構下ではT-72の重量を基準に道路や橋を設計したと言われており、自軍の戦車が進行するには有利かつ、他国の戦車の侵攻を阻む地形になっていた。
とはいえT-72の総重量は兵装も含めて41.5tであり、これは確かにアメリカのM1A1エイブラムスの61.5tやイギリスのチェレンジャー1の62tに比べれば確かに軽いが、同じ西側諸国である日本の74式戦車は38tとT-72より軽く、この戦車がすべての西側戦車より軽いというわけではない。
当時の主力戦車及び第2.5世代戦車の重量
T-72ウラル1 |
41.5 t |
M60A3 |
51.98 t |
レオパルト1(最初期型) |
40.0 t |
チーフテンMk.5 |
55.0 t |
96式戦車 |
42.5 t |
61式戦車 |
35.0 t |
74式戦車 |
38.0 t |
K1 |
51.1 t |
ちなみに、120mm以上の砲を持つ第三世代の重量
T-80U |
46 t |
M1A2SEPv3 エイブラムス |
約66.77 t |
チャレンジャー2 |
64.0 t |
レオパルト2A6 |
62.3 t |
99式戦車 |
54.0 t |
90式戦車 |
50.2 t |
K2 黒豹 |
55.0 t |
更に事実上のライバルであり、前述したアメリカのM1A1エイブラムスは確かに強いがその分重量が重くて燃費もものすごく悪い。
と、まさに走・攻・守・安全性の揃った最強の戦車であり、
登場当時は世界中を探してもT-72を撃破しうる戦車は存在しなかったのである。
それでいてお値段もT-64よりも安価。
まさに全てを持ち合わせた最高の神戦車なのであるオブイェークト!
オブイェークト!
~現実~(´・ω・`)
っと、いかにも最強のように書かれてきたが、所詮は兵器。
いくら登場時期に最強であろうとも、時が立てば対抗しうる戦車が登場してくる。
が、T-72はその本領を発揮する前に紙戦車の烙印を押されてしまったのだよオブイェークト……
ソ連はT-72開発後、意図的にスペックをダウンさせた、
いわゆる
モンキーモデル
を各国に輸出するが、その輸出先で様々な戦闘を経験する。
1982年にイスラエルがレバノンへ侵攻した際、イスラエルのメルカバMk.1とシリアのT-72が交戦。
相手は同じ2.5世代であり、モンキーモデルであっても十分な戦闘が行えるハズだった。
結果…
イスラエル側はタングステン合金弾芯を使い、更に戦術的にも圧倒されシリアのT-72は一方的な敗北。
これによりメルカバの評判は一気に高まることとなった。
湾岸戦争でもイラク軍が使用するが、今度の相手はM1A1エイブラムスやチャレンジャー1・2。
しかも相手は強力な劣化ウラン弾を使用し、それを射撃統制装置で正確に撃ち込んでくる。
それに対して前述のようにこちらは未だに鋼鉄やタングステンの弾芯を使い、更に相手は装甲にも劣化ウランを使用。
結果……
特に73イースティングの戦いでは一方的に撃破・破壊されまくるというまさにお 察 し く だ さ い状態。
あまりの一方的な敗北にT-72、そしてソ連製兵器に対するイメージは完全に失墜した。
どれくらいダメージを受けたかというと
戦前までは東側の規格とまで言われたT-72ブランドを本家ソ連ですら回復不可能と判断。
後日発表される予定だった新戦車の名前を急遽T-90に変更までされる始末。
中身はT-72の発展系なのに……(´・ω・`)
そんな感じに落ちぶれたT-72だが、安くてまぁまぁ強い戦車としては認知されているらしく、
途上国には改修型を含めてそこそこの需要はある様子。
そんな波瀾万丈な戦車に何かを見出だした同志達により、T-72は「神戦車」と呼ばれている。
2008年9月、ウクライナからケニア軍向けに海上輸送されていた33輌のT-72(と多数の武器)がケニア沖で
ソマリアの海賊に輸送船ごと強奪され、ニュースになった。
身代金の支払いによって解放されている。
また余談だが、日本のカルト宗教団体
オウム真理教もロシアからT-72を輸入する計画があり、これは結局実現しなかったもののもし実現していれば彼らの国家転覆計画はさらに現実味を帯びる事となり、日本の警察や自衛隊にとってもかなりの脅威になったと考えられる。とはいっても前述の湾岸戦争の時のように自衛隊や海上保安庁、更には在日米軍相手に戦うのは事実上無理とも考えられるためそこまでの脅威ではないかもしれない(でも脅威には変わりないのだが)。
これも余談だが、オブイェークトとはロシア語で「物体」の意味を持つと同時に、試作の戦車を指す際にもつけられる。
同志の間ではT-72について語る際は語尾に「オブイェークト」とつけるのがマナーになっているらしい。
こうしてネタにされているが、陸上自衛隊の戦車部隊が本国仕様のT-72へ対抗できるようになるには冷戦が終結した90年代までは待たねばならなかった。
ほぼ同時期に登場した74式戦車が使用するL28A1
装弾筒付徹甲弾やM735
装弾筒付翼安定徹甲弾は導入当時には陳腐化していて、
105mmライフル砲用の93式装弾筒付翼安定徹甲弾や第三世代型主力戦車の
90式戦車が配備されるまでは苦戦も予想されていた。
現在もロシアで配備されているT-72Bシリーズは複合装甲の材質変更と
爆発反応装甲(ERA)の装着で完璧とまでは言えないものの防御力を強化しており、
複合装甲のみの場合は、車体前面で500mm(対APFSDS)/600mm(対HEAT)、砲塔前面で550mm(対APFSDS)/650mm(対HEAT)、
爆発反応装甲込みだと、車体前面は750mm(対APFSDS)/1100mm(対HEAT)、砲塔前面は800mm(対APFSDS)/1200mm(対HEAT)相当まで向上し、
90式戦車用の120mm装弾筒付翼安定徹甲弾であるDM-33/JM-33よりも強力とされるDM-53及びM829A1すら耐える事が米独印の試験で判明している。
これは旧西側陣営が愛用する51口径105mmライフル砲L7から発射されるL/D比20の装弾筒付翼安定徹甲弾に対する定格防護能力や
44口径120mm滑腔砲Rh-120から発射されるL/D比20の装弾筒付翼安定徹甲弾に対する最大防護能力(限定的な防弾性)を獲得した事を意味している。
少なくとも74式戦車や16式機動戦闘車にとっては侮れない存在である事は確かだろう。
なお近代化改修後も
成形炸薬弾に対する防御力は不足しているとロシア自身も認めているが、
爆発反応装甲を装着した場合ならDM-12/JM-12多目的対戦車榴弾やM830A1 HEAT-MPに耐えられるようである。
発展型のT-90を含むT-72系列における
ロシア連邦軍の評価は不評である。
戦車砲やエンジンの換装、戦車砲弾の更新、砲発射型
ATGMと爆発反応装甲の導入、複合装甲の組成変更、懸架装置の改良、ベトロニクスの整備など、
随時マイナーチェンジとアップデートを繰り返してきたが、財政難の影響で近代化は中途半端にならざるをえず、軍内部で費用対効果も疑問視された程だった。
装甲防御力は爆発反応装甲を装着しても旧西側陣営の戦後第三世代型戦車に劣っており、砲塔の構造的欠陥から被弾時の生存性も低いままに留まっている。
かつては装弾筒付翼安定徹甲弾の侵徹長やベトロニクスの精度も水を開けられていたため、遠距離での交戦時は半ば高額な砲発射型ATGM頼りとなっていた。
原設計が戦後第二世代型戦車の範疇で、能力向上を果たしても旧西側陣営の戦後第三世代型戦車に伍する事は出来ず、性能の改善も限界を迎えつつあったが、
T-14の開発実績を基に改良したT-90Mの登場で一応の解決を見ている(
魔改造の領域に達しつつあるが、最新技術の粋を集めたT-14よりも安価で調達可能)。
2020年以降に本格量産が予定されている戦後第四世代型戦車のT-14はファミリー化による価格低減に努めてもなお高額であるため、
2020年代もT-72Bシリーズは数的補完程度の扱いとはいえロシア機甲戦力の一端を担っていくだろうと見られている。
2022年のウクライナ侵攻後は消耗した戦車を補充するため、T-90Mの追加調達やT-72B4(obr.2022)への改修促進に踏み切っている。
T-72B4は2016年に登場して翌年から配備を開始した改修モデルで、T-72B3MやT-72B3UBKhとも称されていて、T-90MSに準じた戦闘能力を有している。
追記・修正はT-72神に祈りながらお願いします。
- なんで日本は兵器産業になると後進的なんだろ… -- 名無しさん (2013-12-30 08:58:33)
- どこが?けっこうアグレッシブだろ 61式は初の国産ってこともあるし鉄道輸送その他の制約が多かった -- 名無しさん (2014-01-21 00:20:53)
- まあ戦車と砲弾については戦中の遅れもあったしね…今は努力の甲斐あってかなりいいとこにつけてるんじゃない? -- 名無しさん (2014-01-23 03:25:38)
- 決して(開発された時代考えれば)悪い戦車ではないんだが、湾岸でフルボッコにされたのがなぁ(遠い目) まぁあれは単に戦車同士の性能の差だけでもないけど(差がないとは言っていない) -- 名無しさん (2014-04-15 16:05:37)
- まぁモンキーモデルでもクウェートのヴィッカーズMBTには圧勝してるんだよね(錬度の差が大きかったとはいえ) -- 名無しさん (2014-09-04 04:08:18)
- 考えようによっちゃ悪評ゆえに安く仕入れることのできる兵器と考えれば需要はあるだろうな・・・どっかの国みたく戦車の魔改造でとりあえず数をそろえるという手もないわけじゃないし。 -- 名無しさん (2014-10-06 13:26:15)
- つーか、暴落した結果、能力の割に安い戦車となり逆に需要が高くなったとか -- 名無しさん (2014-10-06 13:30:33)
- レオパルト1の装甲は220ミリも無いぞ。最も厚い部分でも70ミリ、見かけ厚を考慮しても140ミリ程度でしかない -- 名無しさん (2015-07-23 20:48:00)
- Tihaya-72かとおもた( ̄▽ ̄;) -- 名無しさん (2015-09-29 02:11:57)
- 今のロシアの最新戦車も、人の腕食べるの?(キョトン -- 名無しさん (2015-09-29 08:24:15)
- 今シリアで大活躍中 -- 名無しさん (2018-08-27 13:11:49)
- 脚注多すぎない? -- 名無しさん (2021-03-19 19:45:26)
- 色々言われてるけど冷戦終結まで陸自が全く太刀打ちできないのはやっぱ格が違うなあ -- 名無しさん (2022-01-21 23:41:03)
- 今回の戦争でもやられ役、本家よりウクライナ軍の方が正しい運用しているのが何とも -- 名無しさん (2022-04-10 06:52:29)
- ウクライナには周辺国家から大量の中古T-72が送られてるけど, -- 名無しさん (2022-04-24 19:59:47)
- すまん、途中で切れた。NATO加盟国のT-72はこれが最後のご奉仕になるかな?後継にはM1だのレオパルト2だのが送られるっぽいし -- 名無しさん (2022-04-24 20:02:31)
- ユーゴ戦とかウクライナとか、敵も味方もT-72という事態を何度も生み出した罪深い車両。実戦経験の豊富さでは皮肉にも世界最強格かもしれない -- 名無しさん (2022-05-05 18:02:20)
- びっくり箱呼ばわりは草 -- 名無しさん (2022-05-05 18:07:47)
- むしろこっちがびっくりだよ・・・ -- 名無しさん (2022-05-08 04:30:47)
- ↑3 まあ元々仲悪いの無理やり纏めてた東側とか紛争だらけの第三世界で活躍した戦車だしなあ……。そういう意味でもT-34の正統後継だわ。 -- 名無しさん (2022-05-08 04:51:38)
最終更新:2025年03月25日 18:46