イングリッシュ・エレクトリック ライトニング

登録日:2014/12/28 Sun 21:42:00
更新日:2022/02/06 Sun 15:04:11
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イングリッシュ・エレクトリック ライトニング(E.Eライトニングともいう)は、イギリス空軍の主力戦闘機である。
ライトニングとは「稲妻」という意味だが、こういった名前の機体は割と多い。
が、制作した会社は幾度となく買収されBACやBAeシステムと名を何回か改めている。なので非常にややこしい。
そして2020年時点ではイギリス単独で開発された最後の戦闘機でもある。

性能諸元

乗員:1名
全長:16.84 m
全高:5.97 m
翼幅:10.61 m
翼面積:44.1 m2
空虚重量:12,719 kg
最大離陸重量:18,915 kg
動力:ロールス・ロイス エイヴォン 301R ターボジェットエンジン ドライ推力:58.86 kN × 2
アフターバーナー使用時推力:72.77 kN×2
最大速度:マッハ 2.27
戦闘行動半径:1,287 km
フェリー飛行時航続距離:2,500 km
武装 ADEN 30mm機関砲 2門 ファイアストリーク赤外線誘導対空ミサイル 2発 レッドトップ赤外線誘導対空ミサイル 2発など

開発経緯

第2次世界大戦中、イギリスは初めてジェットエンジンで飛行する戦闘機であるグロスター ミーティアを初飛行させ、大きな喝采を浴びた。
その後ジェットエンジン搭載機はデ・ハビランド バンパイア、ホーカー ハンター、グロスター ジャベリンと続くことになる。
しかし、ある問題が浮上していた。
同じくイギリスの航空機メーカーであるイングリッシュ・エレクトリック社が戦力化したジェット爆撃機であるイングリッシュ・エレクトリック キャンベラは双発爆撃機の部類では成功を収めた。
高速で飛行し爆弾を投下していくというスタンスを決めたのである。ところが、開発・戦力化されてからまもなく社内ではこんな意見が飛び交ったという。

社員A「この爆撃機ならどこの国の戦闘機も迎撃できないだろう。」

社員B「あ、しかし我が国にも存在しませんよ。そのキャンベラを迎撃できる戦闘機。」


というわけで、同国にはこのキャンベラを迎撃できる戦闘機が存在しないことに気づいたのである。
慌てたイングリッシュ・エレクトリック社は直ちに、この爆撃機をも迎撃できる性能を有する超音速戦闘機の開発に追われたのである。
日本で例えるなら、自動車会社が先に作った車より速い車を作れと言うようなものである。
当時、実験機という名目上ライトニングは作られていたのだが、大幅に改良を加えて戦えるようにした。
こうして原型機「P.1」が57年4月4日に初飛行。晴れてイングリッシュ・エレクトリック ライトニングは「ライトニングF.1」の生産型名称を貰って戦力化されたのである。
そして、高性能なエンジンと高価なミサイルを装備したライトニングはイギリスの守りにつくことになった。

が、悲しいお知らせである。この直後、同年に発表された国防白書には『今後はミサイルを主体とする体制を作り、よって航空機開発は停止する』という明記がされていた。
これによりライトニングで一度航空機開発は止まってしまうことに。この際、ライトニングに行われる予定だった様々な改良・装置の追加が行われず凡作になってしまったのだ。
とはいえ、すぐにこの白書は撤回され当たり前のようにライトニングはいろいろな装置が付加されていったのである。


特徴

さて、これだけ見てみるとどこにでもあるような戦闘機だと思いがちだが、ある意味その特徴がイギリスらしさを感じさせる。よく性能を追求して変な形に仕上げるという英国面の表れだ。

  • 縦置き型双発エンジン
さて、双発戦闘機のエンジン配置といえば、基本横になるべく重ならないようにエンジンとそのノズルを配置するだろうが、イギリスは違った。
エンジンが縦に2基くっついているのである。つまりは後ろから見るとノズルが縦に2つ重ねられていて異様な外観を見せているのだ。この部分は他国には見られない特異的なスタイルだった。
なぜこんなスタイルになったのかというとエンジンを縦に搭載すれば胴体を細くできる上、空気抵抗の低減につながるというものだった。
このエンジン配置を採用した機体は限られたものだった。

  • 胴体
そのエンジン配置というだけでも大きな特徴であるが、なんといっても注目するのは胴体である。
その胴体は、機首に巨大なショックコーンを付けているというソ連のMiG-21かSu-17に酷似しており、それの下腹を膨らませたような外観である。
これは燃料タンクと同時に機関砲を搭載するための処置であった。その外観から金魚または柳葉魚にしかみえないのである。なお、試作機は量産型と基本構造は一緒だが外観はほぼ別物。

  • 増槽
戦闘機の増槽と言えば翼端か翼下、胴体下に付けるのが基本だが、このライトニングは違う。それはずばり翼の上につけているのだ。
本来なら翼の下であろうが、降着装置の収納スペースの関係で翼の下につけられず、やむを得ず翼の上に付けたのである。
ただ、仮に投棄する場合は尾翼に当たらないように細心の注意が払われている。

  • 武装
本来は機関砲とミサイルの装備だが、その後流行ったミサイルキャリアーになった。が、ミサイルだけで戦闘機は強くならないと分かったため腹部に機関砲を取り付けるようになった。
更に、汎用性を高めるためにロケット弾発射機も機体下部に埋め込み式で装備されるようになる。
このミサイルの中にはミサイル自体の性能は微妙だがライトニングに搭載すると空力特性が改善されるという理由でライトニング退役まで現役だったものも存在する。

実戦

そんな期待感を背負われたライトニングであったが、主に防空任務について接近してくるソ連機を監視するといった程度であり、本格的にソ連の戦闘機や爆撃機と戦うことはなかった。
輸出されたクウェートとサウジアラビアではある程度戦闘に使われたという。
ただハンターやジャベリンといった機体が諸外国で大いに売れたのにも関わらずライトニングはこの2ヶ国しか輸出されなかった。
西ドイツではイギリス政府の支援を得られなかったことでF-104に取られてしまった。
一応日本にも輸出されるかも的な空気が漂ったが、資料が配られただけで日本政府も本機で採用しようとは思わなかったらしい。
そもそも日本で検討された時は同じ第2世代のF-104が配備済み、その後継機選定であり当て馬にすらなっていなかったが…


問題点

さて、こんなライトニングであるが問題点を抱えている。英国面の宿命か。

1つめはその独特な縦置きのエンジンである。このエンジンノズルは構造上2基くっついているため温度の高いものが重なることから非常に熱くなる。
もし油が漏れていれば即座に燃えてしまうというのである。俗に言うところこの問題は「ライトニング火災兆候症」と呼ばれた。
結局どうしたかというと、ライトニング火災対策プログラムが設立されたのである。

2つめは降着装置である。主脚は普通であるが前脚にはステアリング装置が付けられていない。どうするかというと、主車輪のブレーキングで向きを変えるしかない。
なお、車輪は高圧であり離着陸に3回しか使えなかったのである。それ以上やるとバーストして胴着する羽目になってしまうのだ。

3つめは操縦席である。射出座席がついているあたりから既におかしいが(本来ならパラシュートで外に飛び降りるはず)、問題はエンジンのスターターである。
このスイッチを2秒以上押しっぱなしにすると大変なことになるのだ。なにかというと、スターターが吹っ飛んで機首を突き破る


現在

20年以上英国で飛び続けたが70年代からF-4やトーネードに置き換わっていき1988年には引退となった。
輸出された国々も産油国であるためタイフーンなど最新鋭機の機材更新は余裕なためあまり長くは使われなかった。
一応英国では空軍から退役したアブロ バルカンなどのように動態保管されているようだが飛行可能な状態ではないもよう。
そのバルカンも軍から退役後もしばらく展示飛行をしていたが部品枯渇などを理由に2015年を最後に引退し博物館展示になった。
南アフリカでは複座機を観光用に飛ばしている機体もあるとの噂だが今でも現役かは不明。


創作物

イギリス最後の独自開発戦闘機という触れ込みはあるものの日本での知名度もあまり高くないことからか創作物での出番も少ない。
かのエリア88では同じ年代の米軍機は主要人物が乗り、ソ連機は敵方が使っているのに対し、ライトニングはアスラン空軍から派遣された
エスケープキラーの機体として出ただけで彼らもすぐに退場したため端役もいいところであった。


余談

まあこんな欠点を抱えてはいるが、それまでのハンターやジャベリンといった機体より高速であり機動性も良かったのである。
ただ、偵察行動を取るソ連機に近づくというと緊張感が漂うイメージがあるが、中には相手から手を振られたというパイロットも多くいる。
その後、イングリッシュ・エレクトリック社は幾度となく買収の憂き目に遭いBACと名称を変えたのは前述の通り。
しかし、その時に新たなる機体であるBAC TSR-2という機体を作ったのだから凄い。

また、このライトニングは一度消滅しかけたことがあった。57年の国防白書により軍用機からミサイルに置き換えるというミサイル万能論が広まったためだ。
よって、ライトニングの発展型は中止になりかけたが、やがてイギリス全土をミサイルで防衛するという構想は実現できないことが分かり、
(詳細は不明だが、ベトナム戦争でのミサイルの信頼性といちいち地下を掘り起こすだけで巨費がかかるからだと推測される)
無事に全ては再開されることになった。中止になっていたらいろいろ危なかったのである。
なお逆にこのあおりで開発自体は順調だったものの予算超過になっていたTSR-2は中止されてしまった。



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最終更新:2022年02月06日 15:04