黄錦龍

登録日:2015/04/28 (火) 04:05:09
更新日:2024/03/23 Sat 19:58:40
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※この項目は『相州戦神館學園万仙陣』のネタバレ項目です※



























「お前が思うのならそうなのだろうよ。おまえの中ではな。それが全てだ」


(ファン) 錦龍(ジンロン)とは相州戦神館學園万仙陣の登場人物
cv.梅咲チャーリー


■概要


甘粕正彦柊四四八、クリームヒルト・レーベンシュタインに続く第四の盧生
しかしその存在はどこにも記録されておらず、あらゆる史料と記憶を抹消され、普遍無意識たる阿頼耶識から葬られかけた謎の男。

その正体は、近代中華の秘密結社『青幇』の首領、黄金栄を義父に持つ大正・昭和期の人間。
怪しく輝く赤の瞳に常に薄ら笑いを浮かべ、ぼさぼさの白髪を適当に束ねた黒衣を纏う痩身の男。

盧生としての夢の形は『夢を見たい』という最も普遍的なもの。
すべての人間が必ず所持する感情であるがために、他の盧生ですら嵌りうるという阿頼耶識に対して最高の適性を持つ。



■来歴


物心つく前から上海の阿片窟で生まれ育ち、生まれてこのかた素面だったことがないという生粋の阿片中毒者。
しかしその環境に適応した結果、阿片によって身体を壊すことがない特異体質の持ち主。

当時の中華は騒乱の只中にあり、ゆえに絶望を紛らわすため阿片に縋る人々は大勢いた。
桃色の靄に霞む阿片窟は、蠅に対して弁舌を振るい、糞尿を不老不死の薬と思い込み食するような中毒者がそれこそ無数にいた。
錦龍の母も同類であり、時に人形や死骸を彼と勘違いすることはあれど、息子に溢れんばかりの愛を注いでいた。
そして錦龍もまた、母や周りのジャンキーたちが阿片に酔い、自分の形に閉じた世界の中で痴れているのをとても幸せな桃源郷だと考えていた。

ある日、錦龍の阿片窟が火災に遭い、彼以外のその場にいた者が焼死する事件があった。
自分が燃えていることも知らず夢に酔う母に守られ無傷で生還した錦龍は、ゲンを担いだ黄金栄に息子として迎えられた。
だがそこで彼が見たのは、阿片窟とはかけ離れた地獄のような『正しい世界』だった。

金だの肩書きだの権益だのに必死になり、間断なく怒り、悲しみ、苦しむ『可哀想』な人々。錦龍が外界に対して抱いたのは憐憫の感情だった。
なぜこの人たちはわざわざつらい思いをするのだろう。阿片に酔って笑っているのが当たり前の人間の姿だろうに、と。

その後彼は阿片の取引で類稀な才能を発揮し、青幇における地位を本人の自覚なく打ち立てていく。
その過程でいつも怒って可哀想な父やその他の多くの人々を幸せな夢の世界――すなわち阿片漬け――に沈めていった。

上海を阿片で染め、満州で動乱の気配を嗅ぎ付け、不幸な人々を救わなければと思い立った時、自分と同じく救済を掲げる一人の男の存在を知る。
柊四四八、仁義八行を掲げる第二盧生。錦龍にとって最初で最後の興味を持った他人。
しかし同じ人類の救済を掲げる者同士であってもその方法論の違いは大きい。

片や、己を誇り、人の輝きを見習って立ち上がる勇気を説く英雄。
片や、酩酊の中自分の形に閉じた世界で夢を描けと説くギャングスター。

互いの信念を受け入れられず、四四八を天敵視した錦龍は雲隠れを決意。
しかし、第三盧生であるクリームヒルトと四四八が同盟を結び、己を捜索しているという情報を得る。

ほぼ同時、クリームヒルトから眷属の繋がりを切られ瀕死だった緋衣征志郎の提案で邯鄲に入ることとなる。




先述の通り、普遍的すぎる夢の形ゆえに彼の眷属を取り込むスペックは常軌を逸し、三百万という信奉者を眷属として邯鄲に挑戦。
その結果、四四八の一週間というレコードを塗り替えわずか数時間、たった一週で第八層まで到達。
しかし膨大な眷属という裏技でショートカットした結果、阿頼耶識の試練として『柊四四八に勝利せよ』という無理難題をふっかけられ、盧生の力を十全に発揮できる状態の四四八に敗北。
普遍無意識の海に消滅し、彼の眷属も緋衣征志郎と娘である雪麗(シュエリー)を除き全滅という結果となった。

しかし、阿頼耶識は絶対に不可能な試練を与えはしない。
『緋衣征志郎を知らなかった』という僅かな亀裂によって前作の八層での試練を完全には終わらせられていなかった四四八は盧生として不完全であり、ゆえに錦龍も完全には消滅してはいなかった。


百年の時を越えて2015年、かつての甘粕事件でシミュレートされた現代を朔とし、四四八と錦龍、ふたりの盧生の試練がやりなおしとなった。
そして生まれながらに錦龍の眷属である緋衣南天の暗躍によって第八等廃神・玻璃爛宮が顕象。
四四八の敗北によって、現代にて完全復活を遂げたのだった。



■性格


盧生であるため人間愛に満ちた博愛精神の持ち主。少なくともこれは間違いない。
しかし『輝きを絶やさぬ苦難』『輝きを繋いでいく仁義八行』『死の安息を想い築く輝ける生』と先代の盧生たちが輝くために努力せよと説いていたのに対し、錦龍は真逆の愛を説く。

それはすなわち『自分が輝ける夢を描き、その中に永劫閉じこもる』

「お前が思うのならそうなのだろうよ。おまえの中ではな。それが全てだ」とどこかで聞いたようなフレーズを以て、黄錦龍はあらゆる夢を「愛い、愛い」と肯定する。
それはまさしく阿片中毒。盲目白痴で夢に痴れろ、それこそ至上の幸福だろうと彼は心の底から考えている。
間違いなく人倫から逸脱した狂人であるものの、苦しむ者を救済してやりたいというその聖人の域にある想いもまた間違いなく本物であり、それは同格である盧生にすら向けられる。

そして、永遠に醒めない阿片の酩酊にあることもあって痛覚や触覚を含む感覚機能が麻痺しているうえ、他人の言動を自分に都合のいいように曲解する才能に特化している。
たとえどれだけ罵声を浴びようと、暴力を振るわれようと「愛い、愛い。おまえは俺に救われたいのだな。善哉善哉」と思い込み自己完結する。
これは盧生になる前からであり、肉体も精神も痛みというものを知らないその姿に不死身の怪人と恐れられていた。
錦龍を相手にはどんな行為もパントマイム、一人芝居をしているのと同じことで、芯にはまったく届かない。

性格柄攻撃的な夢を使う能力に乏しく戦闘能力は歴代最弱と言われている。
というよりまともに五常楽の行使をしたことがないうえ戦闘経験も皆無なので、タイマンでは夢を封印した四四八にも劣る。
能力適性は解法、創法に長じているがその他の適性は0。他人を認識することで0から1になる。
他人を見ず、決してぶれないその性質と適応する人間が多すぎることから『無敵の盧生』と称される。


わかりやすく喩えると、どこぞのウンコマンどこぞの抱きしめたがりといったところ。









■能力



因果?知らんよどうでもいい。

理屈?よせよせ興が削げる。

人格?関係ないだろうそんなもの。

善悪?それを決めるのは(おまえ)だけだ。

おまえの世界はおまえの形に閉じている。

ならば己が真のみを求めて痴れろよ。悦楽の(ウタ)を紡いでくれ。


万仙陣(ばんせんじん)

ゲームのタイトルを冠した黄錦龍の五常・急ノ段。
協力強制に同意した人間を夢の世界に閉じ込める邯鄲の夢。
詳細は個別項目参照。





人皆七竅有(ひとみなしちきょうあ)りて、(もっ)視聴食息(しちょうしょくそく)す。()(ひと)り有ること無し」

太極(たいきょく)より両儀(りょうぎ)に別れ、四象(ししょう)に広がれ万仙(ばんせん)の陣」

――終段顕象――

「四凶渾沌――鴻・鈞・道・人ィィン」


四凶渾沌(しきょうこんとん)鴻鈞道人(こんきんどうじん)

彼の通称『鴻鈞道人』を冠する黄錦龍の五常・終ノ段

神話に登場する四凶の一、カオスを司る渾沌を後代の創作『封神演義』内で擬人化した存在。
正統にはない二次創作、架空でありながら信仰を集めた在りえべからざる異形の神格である。

万仙陣の崑崙が変貌したものでその姿は原典通り、目鼻耳口といった七竅がなく、翼を持ち常に己の尾を追いかける白痴の魔獣。
しかしその身体は阿片の香を纏い、幾億の触手で編み上げられたという汚怪なるもの。
正視し同調すれば正気どころか体構造すら異次元のそれに置き換わり、阿頼耶識すらその名を呼ぶのを憚るモノ。
また、錦龍の万仙陣における原風景である彼が敬愛する母としての要素も含んでいる。

これが顕現した瞬間、万仙陣は爆発的に伝播し、秒とかからず東・東南アジアを覆い、三十億という規格外の眷属を召し上げるに至る。
盧生同士の勝負はいわば選挙。魅せることで奪うことができるがこれだけの量となると削りきるのに年単位の時間が必要となる。

ただし一切の暴性を持たないため破壊活動を進んで行うことはなく、無限に等しい廃神を越え接近さえすれば生身でも戦いうる。





人として歪でありながら最も人の普遍に近いという矛盾した存在であり、まさしく無敵の存在であった錦龍だが、そんな彼にも弱点が存在した。
錦龍の娘、後に雪子と名を改めた女性、雪麗。
彼女の曾孫であり、四四八に憧れ彼の眷属で孝の犬士となった、神祇省の四代目迦楼羅面、石神静乃

彼女たちの存在が降魔の剣となり、錦龍の盲目なる仙境を完全には閉じさせなかったこと。
そう思うならそうなのだろう、と常のように静乃の『仲間と共にある夢を捨てる』という決断を許容することができず、干渉してしまったこと。
それによって錦龍の酔いを覚ますことに特化した静乃の急段を受け、初めて素面で痛みを味わうことになってしまった。


そして、万仙陣の性質を逆手に取り、錦龍を討つために時空を越え集った3人の盧生と邂逅。
相も変わらず自分に救いを求めてきたのだと自己完結した解釈をするものの、すでに亀裂は刻まれた後。
初めて苦痛を経験した錦龍は、それまでの自然体を捨て攻撃に対し楯法を使うようになっていた。
それは夢を封印した四四八の生身の拳すら恐れるほどに。

雪子に刻まれた傷と、四四八という理解できない他者、すなわち外部に向かう感情の発露。
万仙陣と対極の思想を説き、殴り合いという苦しみを肯定する、己にとって最大級の埒外、度し難い悪性存在たる柊四四八に対する排斥の感情。

誰が――苦しみながら進む道で幸せになれると言う!

絆だと?しょせんは我欲の押し付け合い、他者に望まぬことをやらせるため、創りあげた体のいい方便だろうが!

嫌ならやらねばいいだけのこと、その自由すら奪い取るのが曰く絆、曰く正義

ただの同調圧力に過ぎん!痴れているのはどちらだという!


貴様のような者がいるから、人は嘆き悲しむのだろうがァッ!


焦りから自分の本質と乖離した神格を呼び、それが最後の引き金となった。
「渾沌に目口を空ける」その故事の通り、道理を無視し万仙陣という己の夢から離反した錦龍は、その核たる鴻鈞道人に取り込まれ。
外界に対し、生の意味、救いとは何ぞやと考えながら、盲目の仙王黄錦龍は死後も彼のために祈り続けた娘と二人、新たな理を学ぶため封神台へと消えて行った。


■余談


養父である黄金栄は実在の人物だが、黄錦龍なる人物は存在しない。
しかしモデルがいないわけではなく、おそらくは金栄と並び青幇の首領として君臨した杜月笙。
阿片運送で巨利を上げた伝説的ギャングスターで、誘拐された黄金栄を救出して義兄弟の契りを結び、上流階級の名士として相談役など慈善事業も行っていた、など錦龍に近い部分が見受けられる。

盧生は両親から善性と悪性を受け取ることで生じる。
だが彼の場合、母から『阿片窟という桃源郷(善)』、養父から『現実という苦界(悪)』と一般的な価値観と善悪が逆転している。

自分の殻に閉じることを幸せと定義してる錦龍が他人を幸せにしたいと考え実行することは矛盾ではないか(理屈に則れば錦龍が他人を幸せにする夢を彼の中で見ればそれで済む)とも言われるが、
彼の愛の原点になったのは母親が自己の殻に閉じこもりながらも自分に注いでくれた白痴の愛である。彼は母の愛の形を再現しているのだ(ゆえに万仙陣の性質は母性のイメージが強い)。


操る神格は中国由来の鴻鈞道人だがモチーフにはクトゥルフ神話アザトースが多分に入っている。
  • 『盲目白痴』
  • 『太鼓とフルートの音を聴いて微睡む』
  • 『沸騰する渾沌』
  • 『触手めいた眷属』
  • 『万象こいつが見る夢』
  • 『見れば正気を保てない』
  • 『後世に創作された存在しない神格』
といった要素がそれにあたる。


実は正田作品で初の『満足できなかった』ラスボス。
ぼっちにしろニートにしろヒッキーにしろバカにしろ何らかの形で本懐は遂げているのだが、彼にはそれがない。

しかし錦龍は死んだのではなく人界とも仙界とも異なる修行の場、封神台の送られただけなので、今後また登場し満足していく可能性は充分にある。







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最終更新:2024年03月23日 19:58